4月1日 その⑪
クエスチョンジェンガとは。
ジェンガに質問を書いて、ブロックタワーから抜き取ったブロックに書かれた質問に正直に答えるというもの。
「「「クエスチョンジェンガ?」」」
数人の、驚きの声が聞こえる。マスコット先生が行ったタイトルコールの反芻だ。
「ですが、これはれっきとしたデスゲーム!やはり、死と隣合わせであるゲームでないとつまらない!」
先生は、ジェンガの1つのブロック───赤く塗られた直方体のブロックを手に持った。
「この、赤いジェンガを抜き取った人は、死ぬ!!」
「死ぬんですか?」
「えぇ、死にます!ですから、これは運ゲーではありません、心理戦です!」
他のジェンガは、色が塗られておらず木目が浮き出ている。だが、そのジェンガ一つだけが赤く塗られているのだ。
「ジェンガのルール、知らないとは言わせません!ですが、このクエスチョンジェンガは少し特殊。ですので、ルールの説明を行います」
1.ブロックタワーの中から、ブロックを抜き取る。
2.抜き取ったブロックは、手元に残しておく。
3.倒さずにブロックが抜き取れなくなるまで(パーフェクトジェンガ)になったら、終了。
4.質問に嘘で答えて死亡したら負け。
5.赤いジェンガを抜き取って死亡しても負け。
6.一人、負けが決まったらゲームは終了する。
7.参加拒否及び、パスすることは不可能。
「それじゃ、一人は死ぬ...のか?」
「はい、そうですね。ですが、赤いジェンガを抜かなければ負けることはございません!他人を叩き落とすか、協力してパーフェクトジェンガを目指すか。お好きな方を選んでください。再三再四言っておきますが、心理戦です。敵を、見誤らないでくださいね?」
そう言って、マスコット先生はウインクする。被り物の目が動いた。
「おい、マスコット。それは、傲慢ではないか?」
声をあげたのは、森愛香であった。
「と、言いますと?」
「妾が命を賭けて戦っているのに、お前は傍観者だ。安全なところから、火祭りを見ているようなもの。それは、ちとばかし不公平だ」
「では、どうしましょう?」
「妾達がパーフェクトジェンガを達成したら、妾が貴様の首を斬る」
「ほう、面白い...」
ニヤリと、マスコット先生が笑ったような気がした。
「では、いいでしょう。もし、森愛香のチームHがパーフェクトゲームをしたのならば、首を斬られてあげてもいいでしょう」
「これで、平等だな」
そう言うと、森愛香は自らの椅子に腰掛けた。
「では、4人班で初めてください。ジェンガは今から配ります」
袋に入ったジェンガが配られる。
「配られたジェンガには、触らないでください。自動で、組み上がりますので」
ジェンガは自動で組み上がる。3つで1段が、15段。合計で、45段のジェンガブロックだ。
「自分の席から、椅子を持ってきてテーブルを囲んでくださいねぇー!」
俺は、ジェンガが積まれている健吾の席に椅子を持ってきて着席する。
「はい、おまたせ」
稜が椅子を持ってきて座る。純介はもう、用意できていた。
「では、各々ゲームを始めてくださいねー!遅延行為を行った人には電撃が流れますので!」
アイスブレイクでハートをブレイクしてしまう人はいるのだろうか。
「んじゃ、始めるか」
「誰からにする?」
「じゃんけんだろ」
目の前には、純介が。左には、健吾。右には稜が座っている。
「勝った人から時計回りで」
「オーケー!じゃあ、行こうぜ!最初はグー、ジャンケンポン!」
健吾の掛け声と共に、皆手を出す。
俺は、パー。健吾はチョキ。純介はパー。稜はチョキ。
「お、俺と健吾の一騎打ちだな」
「そうだな、最初はグー、じゃんけんぽん!」
両者、パーを出す。
「あいこでしょ!」
健吾がグー、稜がチョキを出した。
「クソッ!負けたか!」
稜がそう悔しがった。こうして、順番が健吾・純介・稜・俺の順番に決まった。
「んじゃ、デスゲームの始まりだな...」
「赤いジェンガを引いたら、死ぬんだろ?」
「そう...だな」
お互いが、お互いの顔を見回す。
「ぼ、僕は死にたくないからね!成り行きで、チームに入ったからって、死ぬとか言う優しさはないから!」
「わかってるよ、純介。焦るな。純介を殺そうだなんて思わない」
赤いジェンガがあるのは、下から5段目の右側。
「だから、それを証明するために俺はここを引くよ」
健吾が引いたのは、下から5段目の真ん中だった。
「これで、赤を引いたやつがタワーを倒しちまうからどちらにせよ引くことができなくなったな」
「で、質問はなんだったの?」
「えっと...マスコット先生のこと、どう思う?だって...」
「健吾、答えてくれよ」
「うーん...デスゲームの運営側だし、あんまり良くは思わないよ。でも、嫌でも1年間一緒にいなきゃならないんでしょ?だから、できるだけ良好な関係を気付いていければいいかなって思うな」
「そっか、じゃあ次だな」
「ちょっと、なんで興味なさげなのよ」
「なんか、それっぽいこと言ってるなぁ...って」
「んなッ!オレは真剣に答えたってのに!」
「はいはい、すまんすまん」
「ちょっと〜」
興味無さげな稜とそれに驚きが隠せない健吾の2人が進む中、純介がどこを引くか迷っている。
俺のターンは最後だし、まだどこを引くか考えなくてもいいだろう。
「え、えっと...僕のターンだよね?」
「あぁ、そうだよ」
そう言うと、純介は6段目の右側を抜いた。
「えっと...将来の夢は何?だって」
「お、なになに?」
「うーん...大学教師...かなぁ?」
「どうして?」
「得意なのが...勉強しかないから...かな?でも、ここの皆は勉強できるみたいだし...どうだろう...」
なんて言う、純介の将来の夢を聞いた。
───現在は、質問を行っていて和やかだ。
───が、クエスチョンジェンガの恐怖は、まだ始まってすらいなかった。