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4月22日 その⑤

 

「追うだけ無駄だろうな」

 鬼である人物───正体不明の少女はそう呟いた。誠は、律儀に包丁を置いていったので「包丁を持って歩いていた」と情報を流すこともできない。


 誠は、自分が包丁を持って歩いていたら鬼だと疑われることを考えた上で置いていったのだろう。

「抜かりない奴」

 そう呟いて、鬼はグラウンドを後にした。


「追う人を考えないと、返り討ちにされちゃうかもしれないわね」

 少なくとも、凶暴な性格な人物は駄目だろう。包丁にビビってくれる人ならばいいが、誠のように臆さず向かってくる人物なら対処は不可能だ。


「───ったく、私が鬼をやるのはだから嫌だったのに」

 第3ゲーム開始前の作戦会議では鬼が暴れる混乱に乗じてペアとなっている2人を殺す作戦だったが、鬼が場を荒らさず牢屋の前で座り込んでしまったので、それもできなかった。


 だから「出口」で出ていった人たちを巻き込んで「真の鬼ごっこ」を開始したのだが、生徒会の紅一点が鬼役を任せられた為に鬼の強さは半減してしまっていたのだ。


「そもそも、『パートナーガター』の鬼も臨時教師だからこそ成り立っているというのに...」

 鬼の言う「成り立っている」は、鬼として役に立っているか否かではない。ゲームとして機能するか否かであった。


『パートナーガター』で鬼をやっている臨時教師───廣井(ひろい)大和は、第3回目のデスゲームにて生徒会に属した人物であった。彼には、デスゲームを生き残った経験が、策謀が、知識が、狡猾さがあった。

 だが、学校で行われている「真の鬼ごっこ」の鬼は、経験が致命的に足りていない。


「しょうがない、私も鬼ってバレないように少しだけ偽装工作するか...」

 そう言うと、鬼をしている彼女はどこかの教室で被り物を外しそれをバレないようにこっそりとしまった。


 ***


「───こ...ここまで逃げれば大丈夫でしょ...」

「ちょっとぉ、それ大丈夫じゃない時に言う台詞じゃない?」

 純介と秋元梨花はグラウンドを抜けて学校の外に出てチームABCの寮の後ろに隠れていた。寮と反対側数メートルは絶景が広がっている。


 そう、世界の切れ端で奈落になっているのだ。

「ここ、どこなんだろうねぇ」

 秋元梨花が純介にそう問いかける。いや、聞いたって答えを知っている訳ないだろう。秋元梨花も純介もデスゲームに巻き込まれた被害者なのだから。


 なお、寮の中に入ろうとしたがどの寮も鍵がかかっていて開くことはなかった。故に、寮の中に入ることは不可能であった。生憎、スマホの充電はどういうわけか減らないのでご飯を食べる時などは困らなかったのだが。


「ぼ、僕に聞かれてもわからないよ...」

「どうしたぁ?走ってた時はちゃんと話せてたのに?」

「ぼ...僕、陰キャだからさ...ほら、あの...えっと、話すのが苦手で...特に女子とは...」

「あー、アタシのこと怖い女子だと思っているのかぁ」

「い、いや...怖いとは思ってないけど...」

「まぁ、怖がらそうとは思っていないけど、アタシはオタクに優しい女子って訳でもないと思うよ」

 秋元梨花は、奈落の方を見ながらそう答える。どこか、悲しげな目をしていた。


「そ...そんなことないと思うよ...ぼ、僕と話してくれているし...」

「ハハハ、まぁ...話すしかないよねって感じだし。こんな状況(デスゲーム)なっちゃった(巻き込まれた)んだし、今更友好関係を広げる...なんてのも意味はないのかもしれないんだけどね...」

「そうなんだ...」

 秋元梨花はそう言うと、目を細めてニコリと笑う。


「でも、良いこともあったんだ」

「な...何?」

「この人と結婚したいなぁ───って人と出会えたんだ」

 秋元梨花の目が、少しうっとりしたような感じになる。遠くにある太陽が、奈落の下の方に沈んでいき直に光が届かなくなるであろう時間になってきている。







「───って、なんで沈黙するのよぉ!」

「え...あぁ...ごめん。僕のことじゃなさそうだし...誰かって聞いた方がよかった?」

「まぁ、アナタで無いことは合ってるし、聞いて欲しかったってのもあるけど...」

「なら、聞くよ。誰なの?その、結婚したいって人」

「聞くのが遅いわ。もう答えない!」

「ハハハ...なんだよ、それ」

 こうして、2人は笑いあった。鬼から逃げ延びて安心していたのだ。「ここまで逃げれば大丈夫」と言ったフラグは回収されることがなかった。


 ***


 ───数時間が経った。


 誠が鬼の足止めをした以降、鬼の目撃情報は無くなった。鬼は、生徒に紛れて学校を徘徊しているのかもしれない。

 どこかに全員で待ち合わせしよう───と、連絡しようにも鬼が紛れているようならそこで全員が殺されてしまうかもしれない。


 それは避けたかったので、皆に安易に連絡することはできなかった。

 故、学校中に散らばった少年少女達が再度全員集合することはなかった。


「あ、いたいたー。拓人くーん」

 拓人と一人の少女───佐倉美沙は学校のA棟4階で邂逅する。


「お、佐倉さん。こんなところでどうしたんだ?」

「ねぇねぇ、こっちに来て欲しいんだけどー」

「え、あ、あぁ」

 拓人は、佐倉美沙に呼ばれて近付く。


「ミサとー、楽しいこと、しよ?」

 そう言って、佐倉美沙は拓人の腕を自分の胸に当てた。


「佐倉さん...」

「ね、楽しいことしよー?」

「でも...」


「大丈夫だよー、バレないバレない。問題ないしー責任は取らせないからさー」

「───」


 佐倉美沙が拓人を引っ張るようにして入ったところは美術室であった。

「それじゃ、今夜は楽しもうね」



 ───まだまだ彼女たちの夜は始まったばかりであった。

裏話 共に行動したら、たまたま拓人達を見かけた2人

森宮皇斗「これもまた、1つの青春の形だな...」

安倍健吾「青春と言うより、売春じゃね?」

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初の方の鬼の怖さは本物だが、 キモいだの、包丁取られたりして一気に 小物感が出たけど、二本目を取り出すとは(苦笑) >安倍健吾「青春と言うより、売春じゃね?」 まんまそうで吹きました…
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