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4月22日 その④

 

「みーつけた」

「───ひ」

 顔に「生徒会」と書かれた被り物をしている人物。その腕に見えるのは、ギラリと光る包丁であった。

 彼か彼女かは判断できないが、これが白板に血で書かれていた「真の鬼ごっこ」の鬼であることは明白であった。

 鬼の「みーつけた」と放つ声は人間味が感じられなかった。ボイスチェンジャーが使われて音質の悪い声が廊下の静寂の中を突き進んでいって純介の耳に届いた。


 純介は、直様身の危険を感じて図書館の階段へ向かって走り出す。純介は、4月2日の学校体験の日の記憶を思い出し、ここがB棟の3階だということを理解した。


 純介は思案する。ここで、4階と2階のどちらに逃げるのが得策か。

 4階に逃げたら、あるのは生徒会室とトイレだけだ。2階には売店とトイレ。


「逃げるなら───」

 純介は、図書室に入り2階へと下る。後ろからは、鬼が走ってきているのを感じた。

 2階に到着して、純介は気付く。


「んな...」

 図書室の2階からは、外に出られない。出入り口があるのは1階と3階だけであることを知った。


 4階に逃げていたら袋の鼠であったことを知り、一瞬安堵をする。そして、2択を間違えなかったことの僥倖を感じた。


「───急がねば」

 そう言うと同時に、純介は1階まで一気に駆け下りる。ほとんど落下に近かったものの、命の危機が迫っているのでしょうがないだろう。


「逃さないよ」

 鬼はそんな事を呟いた。ボイスチェンジャーで声が変わっているからか余計に怖く感じる。


 純介は必死に逃げているかつ怖くて振り向くことはできていなかったが、鬼とは階段半周分ほど離れていた。

 純介が2階にいる時、鬼は2階と3階の間の折り返し地点───要するに踊り場にいるような感じだろう。


 本来なら、2階で図書室から脱出できないことを知って立ち止まる人も出てくるだろうに純介はほとんどノンステップで1階にまで向かった。これは、彼が取捨選択ができる性格だからだろう。


 ───そして、純介は1階に到着して体育館の方へ移動する。


 ここで、そのままグラウンドに出てもよかったがグラウンドに逃げると鬼からも他の逃げる人物からも目立ってしまう。もしかしたら、鬼は一人だけじゃないかもしれないと言う仮定をしていた為の判断であった。


 純介が少しの渡り廊下を通って体育館の中に入る。そこにいたのは2人の男女であった。

「あ、誰か入ってきた」

「お、西森君」


 体育館の中にいたのは、秋元梨花と西村誠であった。体育館は広く、純介が入ってきた入口の50m以上奥にステージがあり、そこに秋元梨花が座っていた。西村誠は、体育館の真ん中らへんで棒立ちであった。


「鬼が...鬼が来るッ!」

「えぇ?」

「そうか、なら逃げねばな」

 純介の報告に驚きの声をあげる秋元梨花。表情1つ変えずに逃亡の選択を直様したのは誠であった。


「とりあえず、体育館の外に出よう」

 誠が、秋元梨花の方を向いてそう言う。その反対側に登場したのは一人の人物───そう、ご察しの通りの鬼だ。


「みーつけた」

「うわ、キモ!」

 秋元梨花が思わず、そんなことを呟いてしまう。確かに、キモいと言われればキモいだろう。


 ───いや、ダサいの方が正しいのかもしれない。


 実際「生徒会」とだけ書かれた被り物をしていたらかなりダサいだろう。多分、中の人もいやいや被っているはずだ。

「西森君、秋元君。こっちに来い」

「う、うん!」

「え、あぁ、わかった!」

 誠を先頭に、純介と秋元梨花は体育館の扉の内の1つからグラウンドに出て走り始めた。


 純介は、鬼は一人ではないかもしれないと危惧していたが、追われる自分は一人なのに数人の鬼から狙われるのを恐れただけだ。

 今なら、純介以外にも秋元梨花に誠がいるから問題はない。


「あの鬼は俺が引き受ける...と言いたいところだがそれも難しそうだな。誰を狙っているのかが被り物のせいでわからない」

「アタシ狙いだったら、アンタ達二人よりかは体力が無いと思うから嫌なんですけど!」

「ぼ...僕ももう体力は残ってないよ...」

「そうか...鬼の足止めはどうしたって必要なのだな...」


 誠はそう言うと、足を止める。

「2人は先に行ってくれ。池本君の真似事ではないが、俺も2人を救おうと思う」

「あ、ありがとう!」

「アタシ達は急いで逃げましょ!」


 誠は、一人鬼と対面している。鬼の手に光っているのは包丁であった。

「包丁を持っていると言うことは、直接殺すタイプだろう。触れられたらすぐに死ぬ───なんてことではなさそうだ。やはり、生徒会が鬼をやっているからマスコット先生並の権力は持てていないということの現れだろう」


 誠は、走り去っていく2人を尻目にそう言い放った。

「できれば危険を冒したくは無いのだが...なんだかな。ここで、2人を助けるのが結果的に俺が生き残る道のような気がして」

 誠は、誰に聞かせるでもなくただ声に出す。


「お前を倒す───までとはいかないが、足止め程度はさせてもらうよ」

 鬼は、もう誠から5mほどの距離まで来ていた。鬼は、包丁を振り上げて今にも誠を刺そうとしていた。


 が───


「こっちだな」


 ”ビュンッ”


 包丁が空気を切る音が聞こえる。誠は、包丁を避けていた。

「───ッ!」

 鬼は驚いたように、避けた誠の方を見る。だが、硬直をすぐに解き再度、誠に襲いかかった。


「こっち。こっち。こっち」

 だが、誠に鬼の猛攻は一つとして当たらない。しかも、誠は焦ったような表情もしていない。


「俺の勝ちだな」

 そう言うと、誠は鬼から包丁を奪い取る。鬼は、誠よりも15cmほど小さい小柄な体型だった為に隙さえあればすぐに奪えた。


「流石に身長からじゃ誰かわからんが...女ってところだろう。共に行動していた秋元は違うだろうから...候補としては残り4人だな」

 その4人というのは、佐倉美沙・園田茉裕・細田歌穂・綿野沙紀であった。


「まぁ、これ以上口に出して詮索しておくのはやめておこう」

 誠はそう言う。その表情はずっと変わらず無であった。まるで、感情なんかどこかに置いてきたと言うように。


「どうして...包丁が怖くない?」

 鬼が、ボイスチェンジャーごしに質問をする。


「弟達のご飯を作るのはいつも俺だったからだな」

 誠はそう言うと、包丁を持ってどこかに走っていく。


「返してほしければ、俺を追いかけてこい」

「残念だが、奪われることなど承知の上だ」

 そう言うと、鬼は自らの懐から()()()の包丁を取り出した。


「全く、何度奪っても無駄なようだな。俺は一先ず退散するよ」

 そう言うと、誠はその場に包丁を置いて走って逃げていった。



 ───鬼を撒くことに成功した。これで、少しの安泰がやってくるようになる。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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