4月22日 その③
しばらくは学校の視点が続きます。
主人公・栄の活躍はしばしお待ちを。
「出口」が現れてから、早くも数時間───
「真の鬼ごっこ」などと『3-Α』の白板に豪語したように書かれていていたが、鬼が現れるようなことはなかった。
「今か今かと待っているんやが、鬼とやらはやってこうへんみたいやな」
「鬼は来ないほうがいいんだけれど、それはそうだね。俺達の中にいるのなら、全員がいるこの状態じゃ行動しずらいみたいだね。それこそ、自分一人だけが教室を出ていって代わりに鬼が現れたら犯人はその人になるだろうし」
そう言うと、康太は3個縦に点を打った。間隔は10cmほどであった。
「鬼のパターンとしては、今からあげる3つがある。先に言っておくと、これは本当に鬼がいるって場合を考えているから。白板に書かれていた内容が真っ赤な嘘の場合は換算しないことにするよ。それこそ、鬼がいないって言い切ってしまえばその時が皆の命の終わりだと思うしね」
康太はそう言うと、打った3つの点の横に何やら文字を書き出した。
・鬼が臨時教師のような感じで、マスコット先生に任命された場合
・鬼は生徒の中にいて、なおかつこの教室にいる場合
・鬼は生徒の中にいて、この教室にはいない場合
「この3つに分けられると思うんだ」
康太は、黒いペンをホワイトボードの粉受に置くと教室の机に座っている皆にそう声をかける。
「生徒全員が集まっている今、行動が起きてないことを鑑みるに一番大きな案は真ん中の{鬼は生徒の中にいて、なおかつこの教室にいる場合}だと思っているんだ。怪しいのは一番最初に来た人だけど、最初に来た人が怪しまれるのは定石だからその人は逆に違うと否定できる。それに、出口が出てくる前にマスコット先生だったり補助教師だったりが準備していたというのなら議論は無駄になる。だから、容疑者的には絞れないんだ」
康太は、長々と皆のことを見回しながら話す。その視線は、「皆のことを信じている」と言っているようにも「皆のことを疑っている」と言っているようにも捉えられた。
「生徒がやっているなら、愉快犯ではなく生徒会の線が大きいだろうな」
「俺もそうは思っているよ。一人で立案してこんなことを行うには準備する時間がかかりすぎる。それに、『3-A』───いや、『3-Α』だっけか?にあったのは確実に人間の血だった。地面に落ちていた肉塊は少し腐りかけていたしね」
「あの肉塊は、平塚ここあのものだ」
「「───ッ!」」
全員の視線が、唐突に口を開いたと思いきやそんな衝撃的なことを言った森宮皇斗の方へ向く。
「見ればわかるだろう?あそこにばら撒かれていたのは唯一発見されなかった平塚ここあの股間の辺りであった」
「───ど、どうしてそんなことがわかるんだ?」
平塚ここあの死が発覚したのは4月3日のことであった。そこから、約20日ほどが過ぎているが今までずっっと股間の部位は見つかっていなかった。
「だから、見ればわかるだろう?肉塊を見るに随分と背の小さい女性の股関であった。もちろん、性器を見たわけではない骨盤で判断したんだ。小さいながらも成長を終えた骨盤。大きさから考えるに平塚ここあのものだろう」
森宮皇斗はそうまくしたてる。
「骨盤見るだけで誰かわかるとか怖すぎ。失礼かもしれないけど、尊敬はできないわ」
「こちらも尊敬なんかしてもらわなくて結構だ」
皇斗の異常すぎる観察眼に、秋元梨花が少々の恐怖を感じている。
「あの肉塊が平塚ここあのものだろするならば、平塚ここあを殺した人物と今回の鬼は同じと言うことか?」
「多分、そうなるだろうね。そして、今回の鬼は生徒会の可能性が高いのなら平塚ここあを殺したのも自ずと生徒会ってことになる」
康太の疑問に答えたのは、拓人であった。
「栄に言わせると、第2ゲームの裏でも暗躍しようとしてたし充分に有り得そうだな」
健吾もそう口を挟む。
「ほんなら、今回の鬼が誰かわかれば生徒会も誰かわかるってことか?」
「まぁ、そう言うことになりそうだね」
「生徒会を誰か勘繰るために動くよりも、今は保身の方が大切だ。だから、この部屋からできる限り出ないようにした方がいいし、トイレに行くにしても男女共に行動するように───」
直後、『3-Α』の隣の空き教室にいた健吾達15人はそれぞバラバラの場所に移動した。
瞬間移動───と言うよりは、ワープが正しいだろうか。
生徒会が部屋から生徒会室に移動したような感じで、それぞれが学校の至る部屋に移動させられた。
「───ッ!」
強制的に行われたワープに、健吾は驚きが隠せない。いや、誰もこのワープなど予知できなかっただろう。
───だが、行われたワープにより数人の生徒は気付いた。
───マスコット先生は、ゲームが膠着していて鬼ごっこを見るのを楽しめていないことを。
その真実に気付いた一人である純介はこんなことに呟く。
「どこまで自分本位なんだよ、マスコット先生...」
純介はそう呟くとともに、ワープしてきた先の教室───どこに位置しているかわからない空き教室を出る。すると───
「───ッ!」
A棟とB棟を繋ぐ廊下の方からやってきたのは、マスコット先生と同じ被り物をした───否、顔に「生徒会」と縦に書かれた被り物をしている片手に包丁を持った人物───「真の鬼ごっこ」の鬼であった。