4月19日 その⑫
森の中での男女4人の密会───雷人・奏汰・真紀・愛香は話を続ける。
もっとも、愛香は木の上でうたた寝をしていたのだが。
「───それで、このゲームの必勝法はなにかあるの?」
「私が制作した時にはあったんだけど、今はもう無くなってる」
「そうなの?」
「うん、最初私は学校で行うものだと思っていたから。鬼以外の全員が体育館倉庫の中に入って内側からバリケードを張って耐え忍ぶ───って言う作戦を考えていたよ。鬼以外の全員じゃ、バリケードが突破された際に乱獲される可能性があったからもしかしたら、潜伏場所を数個に分けていたかもだけれど...」
真紀は、2人に長々と説明をしてくれる。
真紀は、デスゲームが始まった日によくわからぬ言語で自己紹介をしたのだが、人が変わったように真紀は2人に情報を与えている。もちろん、人が変わったと言うのは例えで、別人になったわけでもオルターエゴが現れているorいた訳でもない。
2人が、この3週間足らずで積み上げてきた実績であった。
「だけど、今回は見知らぬ場所に移動させられたから...私も必勝法はわからない。ごめんね」
真紀は、自分の胸の前で小さく手を合わせて片目を瞑って謝罪した。
「まぁ、必勝法は興味本位で聞いただけだから。僕達が本当に知りたいのは、鬼の倒し方だしね」
「鬼も人間だから、殺すことは可能だと思う。初日で、マスコット先生は首を斬られて死んだし」
「───そうか...」
「殺せるのなら、失神もできそうだね。これで、智恵さん達の願いも叶えられる」
「私が話せるのはこの程度...かな?ゲームのことはある程度話したつもりだし」
「わかった、協力ありがとう!」
そう言うと、男衆2人は皆のいるところに戻っていった。
***
───俺達「捕虜救出隊」のメンバーは先程までいた森林ゾーンで再集合する。
「おぉ、栄!」
「あ、栄」
俺と稜、そして真胡の3人は合流する。
「真胡は協力してくれるんだな」
「うん」
「真胡{は}と言うことは...皇斗の方は駄目だったんだな?」
「うん、駄目だった...協力する意味が無いって...」
「そうか...残念だったな。皇斗なら、協力してくれるかと思っていたのに...」
稜が少し落胆したようなことを言っている。
「しょうがないよ、皇斗にも皇斗なりの考えがあるんだから」
「そうだよなぁ...しょうがない、他の人達はどうかな?」
そう思っていると、森林ゾーンの奥深くから雷人と奏汰が。遊具ゾーンの方から、智恵・紬・美緒、そして安土鈴華がやってきた。
「───これで、全員かい?」
雷人の声に、皆が頷く。
「そうかい、まずはマドモアゼルにムッシュ。ご協力してくれて感謝を申すよ」
「んなのはどうでもいい。オレは早く喧嘩がしてぇんだ」
「ハハハ、随分とやんちゃなお嬢さんだね。でも、もう少し待ってくれ。一先ず、それぞれが報告しよう」
俺達は手に入れた情報などを説明してまとめる。それぞれの報告を聞いて手に入れた情報をまとめた。
今回のゲームを作った真紀の話も、しっかり聞いた。
「それで、作戦の決行日は鬼が目を覚ましたときのことも考えてゲームの最終日である23日がいいと思うんだが...どう思う?」
「目を覚ましたら、また失神させればいいだろ?」
安土鈴華が少し危険な意見を述べる。鬼も、一度やられたならそれなりの対策はしてくるだろう。
「いやいや、それは無理だ。鬼だって、やり返そうとしてくるだろう。マスコット先生は、ゲーム内以外での教師から生徒への暴力を許さなかった。だから、ゲームを終わるまで失神させるほうが得策だし、鬼を倒すのだって一苦労だろう。何度も何度も戦う体力は多分、僕達には無いよ」
安土鈴華の質問に、奏汰が丁寧に答えた。
「なら、殺せばいいだろう?」
「そ、それは駄目...可哀想だよ!」
智恵が「殺す」と言う意見に反対した。皆、このデスゲームの中で命の価値というものが狂ってしまっている。
自分を害するものなら殺したって構わない───そんな、思考に至ってしまっているのだ。
だが、智恵はまだ違う。そこまで、汚れていなかった。まだ、クラスメートにも運営側にも死亡者が出ないように願っていた。
「───ッチ、面倒だな....しょうがねぇ。決行日は好きに決めろ。オレは喧嘩ができるなら文句はねぇ!」
安土鈴華はそう無愛想に答えた。
「それじゃ、決行は23日にしよう。良いのか悪いのかはわからないが、鬼は牢屋から動かないだろうし」
「梨央のことは心配だけど...耐えるしかなさそうね」
美緒がそういった。
「そうだな、最終日まで不安にさせちゃうけど...」
「走れメロスみたいにギリギリだね」
稜と紬もそんな言葉を残す。
「まぁ、そこまでギリギリに結構しようとは思っていない。だから、大丈夫だよ」
奏汰は、心配している皆を安心させるようにそう言った。
「一先ず、23日までは鬼に作戦を悟られないように美緒には牢屋に定期的に近付いて貰いたい。いいね?」
「えぇ、わかったわ」
「それじゃ、鬼を倒すまでは緻密に作戦を練ることに───」
「その話、聞かせてもらったわ!」
突如、そんな声が聞こえる。その場にいた全員が一斉に、声の聞こえた方を見る。
「ワタシにも協力させなさい!」
そこにいたのは、黒髪ロングで大きな二重の目を持った少女───竹原美玲であった。
作戦会議回が長引く...
鬼ごっこのデスゲームなのに、鬼ごっこをしない。これも、この物語ならでは。