4月19日 その⑨
───俺達は、美緒に現状を聞く。
美緒曰く、鬼である臨時教師は「牢屋」の前で待機してこの5日間を耐え伸びるつもりらしい。
5日間耐え抜かれてしまったら、梨央は死ぬ。だから、それまでに助けなければならない。
他に、牢屋にいたのは2人。三橋明里と成瀬蓮也だ。助けるならば、この2人も救ったほうがいいだろう。
俺達は「梨央救出隊」から「捕虜救出隊」に変わった。厳密に言えば、捕虜ではないのかもしれないが、文字数的にも「捕虜」が最適だった。捕縛者救出隊とか、名前長いしね。
「行動するには人物は少ないほうがいいかもだけど、相手を撹乱するには人数は多いほうがいいかしらね?」
「撹乱も何も、鬼を殺せばいいじゃない」
「「───ッ!」」
そんな意見を持ち出してくるのは、奏汰であった。彼は、ニコニコと笑顔を崩さずにそんなことを述べる
「鬼を...殺す?」
「鬼は牢屋の中にいるんでしょ?それに目的が梨央さんなら、ほとんど逃げはしない。殺しにかかればいいじゃない」
「できなくはないだろ、でも...」
「でも?もしかして、鬼の命まで心配しているの?」
俺の思考は読まれていた。できれば、鬼の臨時教師も殺したくはなかった。やっていることは、非人道的な行為だが、彼も人なのだ。俺の心の中に、少し戸惑いがあったのだ。
「うーん、栄...勘違いをしていないか?これはデスゲームだ。平等なデスゲーム。殺すか殺されるか。奪うか奪われるかなんだ。僕達の敵は鬼だ。鬼は、僕達の死を望んでる。なら、逆に僕達が鬼を殺してしまえばいい。殺せば、捕まえる者もいないから助けるのだって自由だ」
「───そうだけど...」
「なら、殺そうよ」
迫られる決断。俺は、正直迷っていた。俺は、甘いのかもしれない。鬼にまで慈愛を振りまいてしまう俺は甘々なのかもしれない。
「皆は...どうなの?」
俺は、他の皆に答えを任せる。皆は一様に下を向いていた。誰も声を出すことはせずに、沈黙を貫いていた。
───結果的に、俺の一声で鬼を殺すために作戦を組むか決定してしまう。
「僕は殺すべきだと思う。君達が皆、附和雷同して白黒つけないのならば賛成1・反対0で鬼を殺すという目的で作戦を立てるよ。10秒待つ、それで反論が無ければ作戦を立て始めるよ」
1秒。2秒。3秒。
どんどん、時間は過ぎていく。誰も何も声をあげないまま。
「───10秒経ったね。じゃあ」
「私は梨央を助けたいけど、鬼も殺したくはない」
「「「───ッ!」」」
そう声を出すのは、俺の彼女である智恵だ。皆が、智恵の方を向く。
「誰も死なないために頑張るんでしょ?じゃあ、鬼だって殺したくない!」
「───」
再度、やってくるのは沈黙。
「それも、そうだね」
奏汰は真顔になって智恵の意見を肯定する。
「───だけど、殺すのと殺さないのじゃ任務達成の差はかなり大きいよ?何せ、僕達は鬼に触れられないんだ。殺すなら、急所に一刺ししてしまえば問題はない。だけど、生かしておくなら脱走しても危険は続く。本当に、それでもいいのかい?僕は殺すのが一番の最善策だと思うのだけれど」
「───そうかも...しれない。でも、殺しちゃったらもう生き返らないんだよ?それに、もう後戻りはできない...私が、私じゃなくなっちゃう気がする!」
「そうか...わかった。なら、できるだけ殺さないようにしよう。だけど、できるだけだ。善処するだけであって、確実にと言う証拠はない。それでもいいか?」
俺達は皆、頷く。殺すか殺さないかなら、殺さない方がいいに決まっている。
「鬼を牢屋から逃さなければ、問題はない。それに、鬼は僕達の背丈とほとんど大差無いから僕の柔道で落とせそうだしね」
放つオーラで、大きく見えてたが臨時教師だって人間。俺らより、少し大きい程度だ。2mも身長はないのだ。
「───じゃあ、殺さないという算段で行こう。何はともあれ、人数は多いほうがいい。話が通じる人に限るけどね。それで、仲間にして有用な人物はもう見立てがある」
「本当か?」
仕事が早い奏汰に俺は驚く。
「救出隊に誘おうと思っている人物は合計5人。捕まっているらしい明里さんと蓮也君のパートナーである鈴華さんと真胡君。そして、頭脳明晰な皇斗君に愛香さん」
「後1人は?」
名前を出されたのは、安土鈴華に東堂真胡・森宮皇斗に森愛香であった。気になるのは、残りの1人であった。
「───『パートナーガター』の考案者である真紀だ」
最後に名前を出されたのは、田口真紀であった。『パートナーガター』をマスコット先生に提案した張本人。
「真紀ならきっと、『パートナーガター』の抜け穴も知っている。だから、仲間に引き込むのにマイナス点はない」
「真紀のパートナーは、愛香さんだしね」
奏汰の言葉に雷人は同意する。
「それじゃ、その5人を仲間に引き込む。異論はないな?質問はあるか?一言も喋らなかった紬さんや稜は言っておきたいことはあったりするか?」
「つむは特に無いよ。つむが話したら、なんか話し合いを混乱させちゃわないかなって思ったから静かにしてただけ」
「俺も紬にほとんど同意だ。梨央を助けられるなら、俺はなんだってする」
「んじゃ、決定だな。それぞれがほぼ個人で説得しに行くと思うのだが...誰が誰を担当したいとかあるか?」
「俺と稜は、真胡と面識があるから快諾してくれると思うよ」
俺は、皆にそう伝える。
「じゃあ、僕達は同じチームの真紀のところに行くのがいいかな?そこでついでに愛香さんも説得してしまおう。なんだかんだで、協力してくれそうだしね」
「うん、そうだね」
奏汰と雷人はそう言う。
「じゃあ、つむ達は鈴華ちゃんを説得にしに行くね!」
「となると...人員が割けてないのは皇斗か...」
「真胡は俺一人でも説得できそうだし、栄。頼めるか?」
「わかった、じゃあ変更だな」
こうして、誰が誰のところに行くか決定した。梨央達を救うために、頑張らなければ。
栄→森宮皇斗
稜→東堂真胡
智恵・紬・美緒→安土鈴華
雷人・奏汰→森愛香・田口真紀