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4月19日 その④

 

『パートナーガター』の開始まで、10分をきった。いや、実際にはもう開始されているのであろうが、鬼が開放されていないからまだ余裕としてはある。


「稜、指は大丈夫?」

「確実に折られてはいるけど...大丈夫。()()()()()痛みならへっちゃらだよ」

「じゃあ、急いで保健室に行かないと...」

「え、大丈夫だって。話聞いてた?」

「聞いてたからだよ。稜は自分に無理強いをしすぎる。だから、保健室に行かないと」

「でも...」

「稜が危険に晒されるって事は、俺も危険に晒されるってことだからな」

「───それは...」

 稜が、少し口ごもる。この数週間で、稜の性格もわかってきたような気がする。


 稜は、自己犠牲精神が旺盛───いや、旺盛と言っていいのかはわからないが、自己犠牲をしようとする。

 誰かに迷惑をかけないためだろうか、誰かが傷つくのを見たくないからだろうか。きっと、その両方であろう。稜はそんな理由から、自己犠牲を行使するので、誰かが傷付くと言えば稜はその行動をやめる。


「稜、とりあえずまずは保健室に行こう。公園にワープしてしまってあるかはわからないけど...きっとある」

「わかった」

 稜は、折られた自らの右手の中指を見る。今も、やはり変な方向に曲がっている。激痛が走っているはずなのに、騒ぎ立てない稜に少し驚きを感じている。


 まだ、体が麻痺していて痛みをほとんど感じていないのだろうか。事故が起こった後、興奮して体が痛みを受け付けていない時と同じで、稜も痛みを感じていないのだろうか。


「栄、早く行こう」

「あぁ、うん」

 俺は、稜に急かされて遊具のある方向───遊具ゾーンへと向かう。


 遊具ゾーンには、建物があったのでもしかしたら保健室があるかもしれないと考えたのだ。建物があるなら、事務室や救護室はあるかもしれない。


 開始までの猶予は10分。俺達は、遊具ゾーンの奥にあるコンクリートでできた建物の中に入る。そこは、俺の読み通り公園の管理をしている事務所のようだった。トイレや電気供給室などがあった。


「救護室は...」

 俺と稜は救護室を探す。


「あった!」

 稜が、救護室を見つける。俺と稜は、その中に入っていった。


「おっと、山田稜君ですか。指ですね?」

 救護室にいたのは、マスコット先生。風船で空に打ち上げられていたはずだが、こんなところにいる。


「マスコット先生?どうしてここに...」

「養護教諭です。マスコット先生とは別ですよ。デス以外の怪我は治せるのデス。デスだけに」

「俺、凍傷になった気がする...」

「奇遇だな、栄。俺もだ...」

 寒いダジャレを言う養護教諭に、若干の呆れを見せつつも、稜は指を見てもらう。


「あぁー、しっかり折られてしまってますね。可哀想に...」

「それで、固定してもらえると嬉しいんですけど...」

「わかってますよ。少し待っていてくださいね」

 稜は、養護教諭に治療を受ける。見ていて痛そうだったので、俺は目を瞑っていた。時々、稜があげるうめき声を聞いて俺は嫌な妄想をしてしまった。


「ふぅ、これでよし」

 養護教諭がそう言うと同時に「ジリジリジリジリ」と目覚ましのような巨大な音がなる。


「おっと、鬼が解放されたみたいね。まぁ、死なないように頑張ってね」

「「ありがとうございます!」」

 俺と稜は、養護教諭に感謝をして救護室を出ていく。


 ***


「捕まったら死亡」というルールではなく、「時間内に捕まっていたら死亡」というルールである。故に、最初の方はまだ緊迫感はない───




 ───はずだった。


 まさか、臨時教師が己の欲望のためにあのような作戦を取るとは思っていなかったからだ。

 これは()()()()()。忘れていけないのは、命を()()()()()()()()の勝負なのだ。



 パートナー同士で動く者、散り散りになって逃げる者。捕まってもまだ大丈夫と考え、活発にフィールドを移動する者。捕まることを恐れどこかに隠れる者。


「私達、まとまってるけど大丈夫なのかな?」

「人数が多いほうが、鬼が近付いているかどうかわかりやすいしいいんじゃない?」

「でも、見つかりやすくなるわね」

 チームFの4人───菊池梨央・奥田美緒・斉藤紬・村田智恵の4人はまとまって、森林ゾーンで身を潜めていた。


「大丈夫かな...ワタシ、鬼役の先生に目をつけられてるみたいだけど...」

「大丈夫よ。もし、梨央が捕まっても私が助けてあげるから」

「美緒、ありがとう」

 梨央は、臨時教師に「手が綺麗だ」という理由で狙われている。臨時教師が、一番に捕まえたい獲物は今回は梨央だろう。


 どんな作戦を取ってくるのかわからないが、捕まらないに越したことはなかった。


「おっと、君たち。こんなところで出会うとは。ご機嫌麗しゅう、マドモアゼル」

 梨央達は、一斉に声のした方を向く。声のした方向にいたのは、杉田雷人(すぎたらいと)結城奏汰(ゆうきそうた)の2人であった。


 黒髪だが、キラキラと輝いて見える雷人と茶髪だが、落ち着きの感じられる奏汰のペア。


「鬼はさっき、パルクールゾーンに進んでいった。こことは丁度反対側だから、少しは安全だと思うよ」

 結城奏汰はそう伝える。


「よかった、ワタシ一人狙いって言う風にはならなくて...そんなに体力は無いから、一人狙いをされたら大変だった───」

「梨央、後ろ!」

 梨央が、言葉を言い終える前に紬が大声を出す。


 梨央が、声に驚き一瞬で振り返ると───、


「「「なっ...」」」




 ───そこにいたのは、パルクールゾーンに行ったはずの「鬼」の臨時教師であった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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