4月16日 その①
4月16日金曜日。
今週一週間は、特に何事も無く平和であった。いや、デスゲームに参加してしまっている時点で平和と言えるかはいささか怪しいが。
そんな事より、今日大切なのはミニテストを兼用して「クイズ大会」があることだ。マスコット先生が、田口真紀に提案された『パートナーガター』と言うゲームを運用するための準備に1週間の期間を所望した。
もちろん、デスゲームを多く行いたいような輩はいないため───いや、いるかもしれないが悪目立ちしないためにそんな声をあげるものはいなかった。
”ガラガラガラ”
マスコット先生が、いつものように教室のドアを開けて入ってくる。
「おはようございます!本日は、待ちに待ったミニテストですね!優勝者には、5万コインと自分以外の誰か一人禁止行為を知る権利が授けられます!」
「───ッ!」
初耳。5万コインを貰えることは知っていた。だが、自分以外の禁止行為を知る権利が授けられることは知らなかった。
「なんのジョークですか?禁止行為を知るって!」
「ジョークではありません。自分以外の誰か一人の禁止行為を知る権利が授けられます!友達の禁止行為を知り、友達が死なないように助けたり。嫌いな奴の禁止行為を知って犯すように仕向けたり。取引として利用したり。お好きなように利用してください!」
5万コインを手に入れるだけの緩いクイズ大会が、酷く集中したものに変貌する。
この学校を生活していくに、禁止行為を知ると言うことは「生」を得るのと同じだ。
───だが、知ることができるのは自分以外の誰か。
ならば、優勝するのは自分では駄目。自分と親しい誰かを一位にしなければならない。
これもまた、心理戦。誰かを助けるために自分が優勝するか、自分を助けるために誰かを優勝させるか。
どちらを取るか。自分か、誰かか。きっと、俺なら智恵の禁止行為を聞くだろう。
───皆を見て決めればいいだろう。
「では、早速始めましょうか?」
マスコット先生の提案に、皆は頷く。すると、唐突に机の上にタブレットが現れた。
「紙のテストでいいと思ったのですが...一問間違えたらもうアウトのデスゲーム方式でしようかなと思ったので...まぁ、実際には死なないんですけどね?サバイバル方式?バトル・ロワイアル方式?と言えばいいのでしょうか?まぁ、デスゲームに詳しくないのでよくわからないんですけど...」
デスゲームの運営を行っている人物が何を言っているんだと、そう思いつつ俺はタブレットを自らの前に持ってくる。
「シンギングタイムは30秒で、その間に答えを記述してください。タッチペンは、タブレットの側部に付属していますのでそれを使用してくださいね!タイプ方式では無く、書き込み方式ですので!」
マスコット先生はそう言った。
「では、第1問!」
マスコット先生の声と共に、タブレットに問題が現れる。
Q1.「物の構成要素すべてを一つ残らず新しい部品へ置き換えた場合、それは以前のものと同一物といえるだろうか、あるいは全くの別物というべきだろうか」というパラドックスをギリシア神話の神の名を取って何のパラドックスと言うか。
この答えのは、皆お馴染みのテセウスのパラドックスだ。世間一般では、テセウスの船という名称で広がっているだろう。
とりあえず、俺は第1問はとりあえず正解を勝ち取ることにした。
「テセウスのパラドックス」
と答えを記載する。そして十数秒経つと───、
「はい、ここで第1問の回答を締め切らせていただきます!」
マスコット先生がそう言うと、白板に俺らの回答を映し出される。
「それでは、正解不正解を公開します!」
画面が、一斉に赤色に染まる。青く染まったところは2つだけであった。
「おっと、不正解者が2人いますね...えっと、三橋明里さんと山本慶太君は不正解!って、山本慶太君は眠ってるじゃないですか...解く気が無かったんですね...」
この問題で、実質的に知識がなかったのは三橋明里だけであった。
「それでは、第2問!」
Q2. 「マスコット先生は、マスコット先生である」や「大豆は、大豆である」など同語を繰り返すことをなんと言うか。
この問題、答えは「トートロジー」であろう。
もちろん、俺はそう書いて放置をする。この程度の簡単な問題ならば無限に続くだろう。
「はい、では第2問の回答も終了させていただきます!」
再度、白板に俺らの回答が映し出される。
「正解不正解の発表です!」
画面の多数は、赤になるがところどころ青にも変わる。
「正解はトートロジーですね。不正解者は...8人。不正解で多かった答えは小泉構文ですか...正しいっちゃ正しいですけど...小泉構文にはA=Aだけでなく、A=Bなどという亜種も存在しますし不正解ですね」
以外にも、ネットスラングに詳しいマスコット先生。
俺は、そんなくだらない事に驚きつつ第3問に挑む。どうやら、皆は割と真面目に取り組むようだった。
「では、第3問!」
Q3. あなたが所属しているクラスは3年何組?ひらがなで答えろ。
ここに来て、こんなに馬鹿にした問題が出てきた。答えは、簡単「えー」だ。
まぁ、ここで終わらせるんだから正解なわけ無いよね。