4月10日 その⑰
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スクールダウトが終わり、ベッドで深い深い眠りにつく。
夢が拒まれるほどの、強い疲労感が体を支配していた。
意識を路傍に捨て、体が凍結したかのように動かない。
スクールダウトは、体を全くと言っていいほどに動かさなかった。だから、肉体的な疲労はたまらないはずだ。
だが、精神的苦痛のシャワーを浴びせられて心としては衰弱しきっていた。それこそ、何かの支えが無ければ崩れ落ちてしまうほどに。
一睡したところで、全ての疲労感とおさらばできるわけではないが、それでも疲労感との癒着は剥がすことができる。
そして、俺は数時間を一瞬にで乗り越えた。
「───んん」
そんな、うめき声をあげながら俺はベッドから立ち上がる。起きたばかりで目がショボショボするし、若干腰が痛い。
「───って、マジか...」
4月10日の時刻17時。眠っていた時間は、約15時間だった。
そんなに長く眠りに堕ちていたのは初めてだったので、少し驚いてしまう。
「本当に、疲れてたんだな...」
そんなことを呟いては、俺は欠伸をして部屋を出る。そして、1階のリビングに向かった。
「あ、おはよう───って、17時だからおはようなのか?」
「こんばんは?こんにちは?おはよう?どれが正しいんだ?」
「起きたばかりだから、おはようでいいんじゃないか?」
稜と健吾がリビングにいた。俺は、寝起き早々そんなどうでもいい議論を繰り広げた。
「んで、随分と眠ってたな」
「自分でも驚いたよ」
「はは、まぁ昨日から今日の夜にかけて栄はずっと大変だったもんな」
「うん、そうだね」
どこか、よそよそしいような感じがする。皆、何か俺に思うところがあるのだろうか。
「何かあったのか?」
「いや、別に...」
「見るからによそよそしいだろ。もしかして、『スクールダウト』の情報が関係あるのか?」
「非リアを裏切ったから...」
「なんだ、そんな理由か」
「そんな理由ってなんだよ!早速、彼女を作りやがって!末永く爆発しろ!」
俺は、稜に祝福されているのか褒められているのかわからない言葉を投げかけられる。
「はぁぁ...栄───いや、池本君...いや、池本さん。あなたは幸せ者で良さそうですね。羨ましい限りです」
「なんで、敬語になるんだよ。いつも通りタメ口にしてくれ」
「ははは、ご冗談を。池本さん。いつも敬語だったじゃないですか」
健吾は、敬語で話してくる。
「本当に、疎外感が凄いからやめてくれ!どうすればタメ口に戻るの!別れればいい?ねぇ、別れればいい?」
「冗談だよ、ちょっとからかっただけだよ」
健吾の口調が元に戻る。俺も「別れる」なんて、思ってもいないし有り得ないであろうことを口に出した。
もちろん、俺もジョークだ。
「んで、付き合い始めたばっかりだけど今日明日は祝日だし会いに行かない限りは会えないだろうな。会いに行くのか?」
「流石に智恵も疲れてるでしょ。行くとしても明日だよ」
「───その決断が、栄の首を絞めることになるのであった」
「稜、やめてくれ。そんな不安になるような事を言わないでくれ」
そんな他愛もない会話を繰り広げた。きっと、ここだけを切り取ったならばデスゲームが行われているとは思わないであろう。
俺は、昨日浴びていなかったシャワー浴びる。すごく、サッパリした。
なんだか、単調なコメントになってしまい自分の語彙力の無さを痛感する。
こんな「サッパリした」という感想しか出ないのであれば、急に意見を求められた時に臨機応変に答えられないような気がしている。もっとも、ラノベみたいに饒舌な感想を述べても小賢しく感じるだけな気もするが。
俺は風呂から出て、食事を摂る。デスゲーム参加中ということを除けば何一つとして普通の生活と変わりはないだろう。
「なんだか、第2ゲームが終わったらいつも通りに戻った気がするなぁ...」
途端に平々凡々とした生活になってしまい、そんな感想を口に出す。
「僕達は第2ゲームにすぐ脱落したから、そんないつもと変わらないけど栄にとっては忙しい毎日だっただろうね」
ソファに座って高級アイスを食べている純介は俺の言葉を拾って、そう返事をくれた。
「まだ10日なのか...」
「そうだね、まだ10日だね」
一年の学校生活をする中で、まだ10日しか経っていない。デスゲームからの開放───卒業までは、まだまだ時間がかかる。
「転校は、できるらしいけど望み薄だしなぁ...」
それに、智恵をこの学校にほっぽり出して転校なんかできない。2人共転校できればいいのだが、どちらか片方が───智恵だけが、転校できなかった場合は悲劇としか言えないだろう。
それに、智恵の過去の片鱗のことを考えるに、母校に戻るのだって大変そうだった。
───そんな事を思いながら、俺は食事を摂り終えた。
なんだか、食事の味は薄かったような気がする。きっと、食事に集中できていなかったのだろう。
───そんなこんなで、10日・11日とデスゲームの最中とは思えないような日常を取り戻して学校生活に再度、身を委ねた。
───4月12日月曜日。午前8時に俺は教室の座席に着いた。