4月10日 その⑧
100話突破しました!ありがとうございます!
100話もやっているのに、まだ10日しか進んでいない...
そして、10000PVにも感謝を!
ルーレットは回る。智恵の心を置き去りにして。
智恵は、恐れていたのだ。絶対にあり得ないが「情報②村田智恵に恋している」に「嘘」と出るのが怖かったのだ。もちろん、俺は智恵のことを愛しているしこの言葉に嘘はない。
だが、智恵は4月7日に、「俺と歌穂と付き合っている」という嘘を目の当たりにしてしまったのだ。
会話の文脈を聞けば、すぐに嘘だと捉えられたのかもしれない。でも、智恵が見たのは俺が「歌穂と付き合ったことを発表する」その部分だけだったのだ。
智恵が悪いだろうか。答えは否。決してそのようなことはない。
智恵が見てしまったのは、いわばニュースの情報操作と全く同じ。都合の悪い部分だけを切り取り、そこだけを報じる趣味の悪いニュースと全く同じなのだ。智恵は、俺が「歌穂と付き合っている」という情報だけを受け取ってしまったのだ。
最初に見たものが「嘘」だと割り切るには時間がかかる。だから、確実に信じてもらうのは難しいのだ。
それこそ、『スクールダウト』でマスコット先生から「嘘」と断定してもらうのが一番納得できる方法になるのだ。
「───結果は、②!」
公開される情報は②となる。智恵が恐れていた事態になってしまった。
「では、真偽を発表します!でけでけでけでけでけ...」
もしこれが何かの間違いで「嘘」だと発表されたならば、智恵はもう立ち直れないし俺は智恵に距離を取られてしまうだろう。
マスコット先生が何かのの間違いを犯すとは思わなかったが、裏で何かが暗躍しているなら話は別だった。
そんな事を考えていると、結果が発表される。
「───情報②村田智恵に恋しているはリアル!」
俺の、「なにかの間違い」という想像は杞憂に終わった。俺は「村田智恵に恋している」と公表されたのだ。
これが、もし普通のテンションでやるとしたら「やめろよー」だとか「えー、智恵ちゃんのこと好きなんだー」とか言う和気藹々とした雰囲気になっていただろう。
───だが、今回は違う。
智恵は、情報②が「嘘」かもしれないと危惧していて、一歩でも間違えると壊れてしまうような、地雷原の真ん中に何も持たずに立たされているような、そんな状態だった。
だが、そんな地雷原から解放された智恵。身を支配していた恐怖が、フッと抜けさりやってくるのは安堵であった。
「栄...」
智恵の目から、涙が溢れる。大粒の、真珠のような涙が目から流れ出てくる。
「本当に...本当に私に恋してくれているの?」
「あぁ、もちろんだ!俺は、本当にお前が好きだ!」
相手の手を握れるし、体同士を近づけさせれば耳打ちできるようなそんな至近距離。だが、相手と抱擁を交わし、その愛を確認することはできないようなそんな遠い距離。
一種の矛盾をも感じさせるような、そんな物理的な距離感が俺と智恵の間にはあった。だが───
「栄...私...私も好き!」
涙で、顔をクシャクシャにしながらも、智恵は俺にそう言ってくれる。智恵は、俺の手を強く握りしめた。
「私...バカだし、あんまし運動でもできない!取り柄もなにもないし、足手まといかもしれない!でも...それでも!」
智恵は、声を振り絞る。きっと、智恵も辛いのだろう。これまでの人生で嫌なことは大量にあったのだろう。
彼女の手が震えている。本当に、魂を剤って俺に述べてくれている。
「それでも!私の隣りにいてくれますか!私が辛いときは...抱きしめてくれますか!」
智恵の告白。本当は、俺が告白するのが正しかったのだろう。
だからと言って、「本来、俺が言うはずだったよな」と言うのは智恵の覚悟を侮辱してしまう。だから、返事はただ一つ。
「ありがとう」
そう言って、俺は微笑みかける。
「俺も足りないところがあるかもしれない。きっと、俺は皆を守ることはできない。でも!」
俺も男だ。覚悟を決めよう。
───そう、1人の女性を愛する覚悟を。
「君だけは、死んでも───いや、必ず2人とも生きて守るよ。君を1人になんか、させない」
きっと、俺が死ねば智恵が悲しむだろう。なら、死んでなんかいられない。
死なないし、死なせない。これは、俺が決めた覚悟。
「智恵、俺と付き合ってくれ」
「私でよければ!」
今ここに、一組のカップルが誕生した。
出会ってから9日。だが、短期間でもお互いを想い付き合うまでに至った。
「イチャつきやがって...殺しますよ?」
マスコット先生の理不尽な言葉が投げかけられる。
「んな、嫉妬しないでくださいよ」
「もちろん、ジョークですよ。私、既婚者ですし」
「「「は?!?!?!」」」
マスコット先生の口から出る、驚きの真実。
「なんですか?失礼ですね...あ!もしかして、皆さん私のことが好きでショックなんですか?大丈夫ですよ、皆さんのことは我が子のように愛しています」
先生は、そう述べる。
「結婚してたのか...」
俺は、驚いてしまった。告白なんかよりも、マスコット先生のそちらに話を持っていかれたような気がしている。
「まぁ、私の話なんかいいんですよ。池本栄君。私の生徒として───いや、一人の人間として大切なことを伝えます」
「はい」
マスコット先生は小さく空気を吸ってから、こう述べた。
「まずは、おめでとうございます。そして、手にした幸せを手放さないように日々精進してくださいね。私は妬みも励みもしませんので。ゲーム上は安心してください」
マスコット先生はそう述べた。
「そして、村田智恵さん。あなたにも一人の人間としてアドバイスを」
「はい」
智恵の頬には、涙の跡があった。智恵は、それを拭うとマスコット先生と目を合わせる。
「おめでとうございます。手にした幸せを零さないように気をつけてくださいね。本当に、命は軽く脆いものなのですから」
マスコット先生は、そう語りかける。デスゲームの運営なのにも関わらず、そんな優しい言葉をかけてくれた。
そして───
「はい、では2人の話は終了です!さて、6人目の村田智恵さんの情報を公開していきますよ!」
マスコット先生の声と共に、ゲームに引き戻される。
「情報①───」
俺の周りに渦巻いていた問題の一部は解決し、よりいい方向に進んでいった。
これからも、俺は頑張らないければならないだろう。自分自身、そして智恵のために。
「───自殺しようとしたが、失敗した」
まだまだ、ゲームは続く。