75話 暗示 挿絵あり
忙しくて短いです(泣)
重複投稿したようなのでなおしました、すいません
「クロエ最近私の扱いが雑じゃないですか?」
「親しさと親愛による弄りですよ。ロボット刑事。或いは雷電?」
二足歩行でも核は搭載してないし、戦車でもないので多分雷電だろう。まぁ、アーマード・コアのほうが似ている気はする。特に兜?ヘッドバイザー?とか。しかし、なんでサイバーアクションはフルフェイスのヘルメットを被るのだろう?電子コンタクトをとかでもいいような気がする。しかし、防御面を考えるとヘルメット?
まぁ、考えた所でデザインなので仕方ない。格好いいから良しとする。俺にもくれないかなあのヘッドバイザー。飛ぶのは自分で出来るから、装備品だけでも・・・。
『可愛くないから却下ね。』
どうやらヘッドバイザーも魔女は許してくれないらしい。しかし、そろそろ百面相しているエマを止めないと、冗談を真に受けてしまいそうだ。受けた所で困りはしないが、内輪じゃなくて海外でも橘がロボコップ呼ばわりされたら可哀そうである。
「エマ、さっきのはリラックスさせる為の冗談。橘さんはニンゲンですよ?」
「含みのあるいい方をしない。それと私はただの警官で人間です。しかし、罠が貧弱ですね。クロエ、なにか指導してないんですか?」
空気を鑑定しない鑑定師がズバリと言う。言われたエマはガックリと肩を落としているが、真実ではあるんだよな・・・。しかし、対モンスター用の罠か・・・。いや、そもそも罠単体で扱わせるからイメージが弱くなる?
「エマ、狩人って待ち伏せと追い込み猟どっちだと思う?」
「狩猟なら待ち伏せではないカ?追い込むにしてもトラップのある所に誘導しないといけなイ。ならそれは、トラップが待ち伏せているのと一緒だダ。」
「ふむ、ならその方向でやってみましょう。橘さんは罠っぽい装備あります?」
やって出来ない事はないが、エマには物理的に出来るイメージを与えたい。俺がやるとどうしても煙なり魔法なりになる。エマの職的には魔法と近接の中間の様な職だが、先に罠の数とイメージを固めてもらおう。橘が何も持ってないなら煙対応でいいか。
「罠ですか・・・、少ないですがありますよ。と、言うか私がそれを使いましょう。その方が分かりやすいでしょうし、喫茶店のお詫びにもなる。」
そう言うと、橘がハサミを収納して手袋を嵌めた。流石、鑑定しまくってるだけの事はある。言えばほとんどの武器を実演して見せてくれるんじゃなかろうか?流石便利屋。イメージを固めるにはありがたい。
「そノ、ファースト。私はこれを見ても大丈夫なのだろうカ?別のイメージに塗りつぶされる事はないのカ?」
割と可愛い事を言っているが、見たモノ全てを真似るわけでもない。取っ掛かりからの応用でいいので、特に問題はないだろう。別にエマが橘と同じ事をする必要性はないし、誰か同じ職の人を見たようなもの。
「余程強い衝撃でも受けない限り大丈夫ですよ。エマが橘さんを見て生涯の目標にするなら別ですけど。」
「それは・・・、大丈夫だろウ。」
「そろそろ始めますよ。」
鎧を解除し、片手に手袋をした手で触れた弾倉を込めた拳銃を持ち悠然と先頭を歩く。感知に優れているのでなんの気負いもないのだろう。
「弾丸は9発、一応覚えておいて下さい。それと、私は狩人ではないので、そこまで自由に罠を使えません。あくまで武器を使いこなせるだけなので。」
そう話して走り出した橘だが、身体能力は高くないので先程の鎧装備よりはかなり遅く、常人の範囲の速度しか出せない。パンパンッと軽い銃声が2つ。放たれた銃弾は飛来したモンスターに着弾する前に丸鋸へと姿を換えて上下へ切断し、背後にいたモンスターに突き刺さる。鋸の突き刺さった勢いで後退したモンスターが足元にめり込んだ弾丸を踏むと、その弾丸は爆発し踏んだモンスターをクリスタルへ変換する。
「先ずは2体。サクサク行きましょう。」
撃ち出された弾丸は3発。斬りかかってきたモンスターに至近距離で着弾した弾丸はワイヤーの様に広がり、続けざまに着弾した弾丸は捕縛したモンスターを、大槌で打ち付けたかの様に後退させ、3発目の弾丸が着弾すると大爆発を起こし周囲のモンスターを巻き込んでクリスタルへと変えていく。5発の弾丸で10体近くのモンスターを処理したが、残りの4発。
さて、空にも地上にもまだモンスターは多いがどう処理するのか?横で見ているエマは、橘の動きを見逃さないように見つめている。そんな視線を気にする事なく、橘はモンスターの中に声を上げながら突っ込んでいった。
「ほら、こちらですよ?まだ遅い、ほら当たらない。おっと危ない危ない。」
話す言葉とは裏腹に、橘はモンスターの攻撃をヒラリヒラリと躱していく。鑑定して動きが丸分かりなのだろう、どの攻撃も紙一重で、しかし、どのモンスターも常に視界の端に収めるような動き。まるで詰将棋の様だ。惜しむのは身体能力が常人のソレなので、服の端々がビームの余波や乱数的な衝撃で破ける事。それがなければ、更にスタイリッシュだっただろうな。
「この辺りでいいでしょう。」
橘がつぶやき地面と空に一発づつ。橘ではなく、俺達の方に来るモンスターは煙で巻いて対処しているが、ああもあからさまに囮になれば、無言のモンスター達もそちらに目が行く。のらりくらりと攻撃を躱し、モンスターに手袋で触れながら群れの中を突っ切った橘が罠を発動。大きな落とし穴が出現し、地上のモンスター達は穴に落ち更に、空に撃ち出した弾丸が蓋となって、空のモンスター達を押し潰しながら降ってくる。
「さて、仕上げです。」
蓋が締まり切る前に弾丸2発を穴に撃ち込み、閉まった後には爆発と無数の反響音。中は確認出来ていないが、多分全てクリスタルになっているだろう。回収できるのかなコレ?出来ればクリスタルは残しておきたくないのだが・・・。
「爆発とスリングで中はクリスタルのみ。罠だけだやりましたが、どうも待ち伏せとはちょっと違いましたね。」
事もなげに話しながら、橘が歩いて帰ってくる。確かに待ち伏せとは違うが、罠を使うという面では設置式にしろ時限式にしろ、或いは任意発動にしろ全部見せてくれたとは思う。無言で見つめていたエマは、最後の方など見入っていたし。それに、初っ端の丸鋸でのモンスター切断は、罠で確実にモンスターを倒せるといういいイメージになっただろう。
「今見たものはワタシにも出来るのカ?」
何やらエマが見当違いな事を聞いてくる。橘も微妙な顔でエマを見るが、当の本人はなぜそのような顔で見られているのか分からない様で、あたふたと手を振って言葉を続ける。やはり、職への理解が足りないようだ。
「いや、私は鑑定術師ではなイ。あのように自在に使いこなせる事はないだろウ。・・・、失言だっタ。」
「はいストップ。エマ、間違えています。橘さんもなんか言ってやってください。」
「そうですね・・・、私はあくまで手袋を、狩人の武器を使いこなしたに過ぎませんよ?」
「そうカ・・・、ワタシの能力ではさっきの様な事は出来な・・・。」
何でそこでマイナス方向に走るかな・・・。イメージで事を成すなら、少なくともマイナス方向に行くのは駄目だ。そちらに行けば行くほど、能力は凝り固まって出来る事も出来なくなる。
「エマ、はっきりいいます。貴女の能力は橘さんよりもより自在に罠を扱えるんですよ?あれはあくまで武器の力を使ったに過ぎません。貴女はもっと自在に罠を使いモンスターを狩れる。今見たでしょう?丸鋸でモンスターが切断されてクリスタルに成る様を。必要なのはそこです。罠だけでもモンスターは仕留められる。今の貴女に足りないのは・・・、モンスターを狩るイメージです。」
「そうは言ってモ、昨日の今日ダ。そんなに簡単にイメージが増幅されるものなのカ?」
ん〜、そう言われるとどうなのだろう?しかし、俺は職も無しにモンスターを殴り殺したし、職に就いたら就いたで常に最前線・・・。どうしてだろう・・・、悲しくもないのに泣きたくなってきた。いつの間に俺はスパルタ人になったのだろう・・・。
「クロエのように自己暗示はどうですか?」
横で話を聞いていた橘が提案してくる。自己暗示か悪い手ではないが、どうなのだろう?確かに自己暗示はする。人前は苦手なので高精度のモノを。しかし、コレはスポーツ選手のルーティーンの様なもの・・・、なら効果はあるのか?確かにエマは催眠状態でトラップの使い方を習得した。なら、やって見る価値はある?
「自己暗示?ファーストはそんな事をしているのカ?」
「ええ、元々クロエは人前は苦手なので、配信の時は殻を被るように自己暗示してましたよ?」
「ほウ、配信と実際の差異があると悩んでいたがそういう事カ。なラ、それは有効なのだろウ。ものは試しダ、やろウ。・・・、どうやってかけル?」
「心の中で自己肯定の言葉を復唱するとか、言葉に出して思い込ませるとかですね。更に強力にするなら、鏡を使った方法もあります。まぁ、コレは強力過ぎるのであまりおすすめはしませんが。」
「なるほド、私が最初にトラップを出した時は暗示をかけられた状態だったのカ。なら、効果は実証できているナ。」
そう言ってエマはブツブツつぶやき出したが、英語なので何を言っているか分からない。多分マイナスのイメージではないと思う。クイーンとか聞こえるし。しかし、罠とクイーンって合うの?橘が爆発させてたからキラーでクイーンなあれとか?
『可愛い子が頑張るのなら、少しは力を、お貸しなさい?』
『ん?煙でいいのか?』
『違うわよ?獲物を狩る狩人なら、仲間の1つも作らなきゃ。犬でいいわ。』
ふむ、猟犬を貸してやれと言う事か。確かにいれば待ち伏せも追い込みも猟はしやすいし、本人に代わって獲物を仕留めたか判定もしてくれる。相手がゲートのモンスターなので、エマに何かしらの相棒が作れるかは分からないが、魔女が貸してやれの言うなら貸してやるか。
「ほら、狩人の旦那。猟犬を貸してやろう。こいバイト、今この時だけ仮初の主人に従え。」
呼ぶと犬は指輪から這いずり出てきた。鳴き声も舌も出さない漆黒の犬。大型犬なので威圧感はバッチリ。何だ、橘は犬嫌いか?コイツを観るなり構え出してフル武装するとかどんだけ嫌いなんだよ。
「クロエ!なにを呼んだ!」
「ん?飼い犬ですよ?名はバイト。指示に従うし、ほっといても勝手についてくるんで放置でいいですよ。」
喜ぶかは知らないが、顎の下と頭をワシャワシャと撫でる。相変わらず変化に乏しいやつである。撫でようが、たまに餌をやろうが、何なら背中に乗って走ってもらおうが尻尾も振らない。唯一喜ぶとすれば、煙を得てゲート内を走り回る時くらい。
「それが飼い犬?貴女は大概な人だと思っていましたが・・・、そんな貴女がソレを犬と呼ぶんですね。確認しますが脅威は?」
「無いですよ。少なくともゲート内でコレは、講習者と共にモンスターを狩っています。首輪は付けました。もしもの時は責任を持って首をはねましょう。」
どうやら橘は犬が何か見えたらしい。ありがたい情報で、中位の橘は中層のモンスターを視る事ができた。1つ不安事項が減ったな。勝てる勝てないは別として、橘が犬を鑑定出来ないのなら、モンスターと中位との間に更に差がある事になる。努力で埋められる差なら、喜んで鍛えもするし助言もする。しかし、中位でも倒せないようなモノが中層にいるのなら、話が変わってくる。
秋葉原で魔女は言った。中位にも至れていないものは足手まといの無駄死にだと。不安は無かったといえば嘘になる。中位になっても中層で通用しないのではないかと。いくらメンバーの強さを見ても、拭いきれない理不尽な暴力の前での敗北の文字。しかし、橘は中層のモンスターであったバイトを鑑定してみせた。なら、憂いはない。
「橘は、コレが何か分かるのね?」
「そのうち貴女は本当にペテン師と呼ばれますよ?」
「フフフ・・・、いい、お答えね?狩人がいるなら、守る赤ずきんは必要でしょ?ナイトの貴方は控えなさい?」
「仰せのままに。赤ずきん。」
「えぇえぇ、それでいいわ。さて、新米狩人下手っぴ狩人、アナタは姿が見えすぎる。だから貸してあげましょう。」
ーside 橘ー
いつか見た黒江はクロエになった。配信と同様、どこか人を惑わせる言動で言葉を紡ぐ。前もそうだったが、今は更にいやらしいほどに人を惹きつける。私もそれなりに整った顔立ちをしているので、様々な女性と駆け引きした事かあるが、彼?彼女はダメだ。いくらこちらが尽くそうとも、不要と判断すればどれほど親しかろうが切って捨てる。
しかし、それをされてさえも少い希望を持って少しでも振り向いてもらいたいそんな破滅的な女性。これ程魔性の女という表現に合う人物も珍しい。更に質が悪いのはその人物が、何一つ瑕疵のない美しさを持つという事だ。
大切なら箱にしまって閉じ込めておけ。そういうセリフがあるが、それはあくまで自身が相手よりも、優れていると宣言している人間の言葉。それはあまりにも薄っぺらい。彼女を閉じ込めるなんてとんでもない、彼女に願われれば一切の妥協なく許さなければならないのだ・・・。
「緑は死の色、森の色、魔物蠢く、新緑に獲物求めて分け入って、掠めとった領土なら、それはアナタの空間よ?破れかぶれの女王に成れなかった、悲しい人。街を追放されて行き場をなくした人、優しい私が、心付けに、ほんの少しの領土をあげる。」
紡がれた言葉に煙は姿を変え、深い森を思わせる様となる。全く見覚えのない木が鬱蒼と茂り、ゲート内でありながら、ここだけが中世の森を思わせる。私も多くの魔術師を見てきた。しかし、彼女のように魔法を使う者は、やはり知らない。EXTRA職賢者。本当に彼女はそれだけしか就いていないのだろうか?