71話 会食 挿絵あり
ホテルへ帰って一服。互いにファーストインプレッションは悪くなかったと思う。米国の方はスィーパーの個人管理、職に付いての情報収集があまり出来ていないようなので、その辺りの情報共有から始めるとしよう。日本の方は開通当初から警察と自衛隊が頑張ったおかげで、それなりに情報があるし、ビッグデータプロジェクトもそれなりに、形になりつつあるので、必要な情報はある程度個人でも拾える。
問題があるとすれば狩人と言う職だが、メンバーにいないし今日は武器も見ていないので、ほぼ手探りから始める事になる。手っ取り早く鑑定師に武器を鑑定してもらおうか?それができれば、扱い方も分かってくる所がある。ゲートに入った状況次第では適正武器を持っていない可能性もあるのが歯がゆい所、彼女曰く程度のいいガンナーなら、黒棒だけを持っている事も踏まえて橘要請案件になる事も視野に入れよう。
そんな事を考えながらプカリと2本目、ホテルについて分かれる前に、エマから定期連絡と国へ物を送っていいかと聞かれたが、両方ともokが出た。ゲート出土品は検閲する事になるが、それ以外の販売品を購入したものは、通常の検閲でいい事になっている。まぁ、武器なんかはNGなので、送るにしても今日何足か買った靴かあのポスターとか?世界に広めないで欲しいが、ポスター売り場でポケ〜っとポスターを見ていた辺り、親しい友人にでも送るのだろう。発送元はホテルからに限定している。
ポスターはいいとして、靴はいい額になったな・・・。顔を引きつらせていたが、技術料と刻印まで行ったので、額的には納得出来る。一応、お抱え鍛冶師も要請で付きはしたが、靴については辰樹に一日の長があるし、刻印に付いては遥は防御面に付いてのものが扱いやすく、芽衣はアシスト系が得意らしい。普段もお互いに連絡を取り合って色々試している様で、2人の腕前はどんどん上がっているようだ。特に遥はインナーの整備もしているので、防具や人に刻印すると言う経験では芽衣より先にいるかもしれない。
そして、俺がロビーの喫煙室でタバコをプカプカ吸っているのは、エマとの待ち合わせの為。大きな歓迎会は本人の意向で開かない事になったので、なら『部屋で軽く飲まないか?』と誘ったら悲壮な顔をしながら『行きます。』と回答した。ドナドナされる子牛の様だったが、酒は苦手なのだろうか?軍人のイメージだとテキーラをショットで飲んだり、ビール片手に騒いでるイメージがあるが・・・。部屋で飲む旨を2人に伝えた所、遥はバイクでツーリングに行くといい、望田は残ると言った。望田は英語も堪能らしいので、話していて分からなくなったら通訳してもらおう。
ここでタバコを吸っていると、たまに週刊誌の記者らしき人から写真撮影やら取材を受ける事があるが、当たり障りのない受け答えで済まし、写真に付いては適当に撮ってもらっている。高級ホテルなので、ある程度相手も節度を持って取材したりしているのでいいのだが、たまにゴシップ記事で遥が来た当初は『ファースト深夜の密会!ただれた私生活!』なんて記事もあったようだ。この件は発刊される前に千代田が潰して回ったとか・・・。
その事で千代田にお小言を言われたが、流石に記事の内容までは預かり知らないといい、折衷案で喫煙室が外から見えづらい所に移された。まぁ、それでもホテルなので他の客人に混じって写真を撮っていく者もいる。妻の方に突撃されたら、流石に猛抗議するが俺の写真くらいなら別にね。
「・・・、待たせタ。」
他の客と他愛も無い話をして、3本目を吸い終わろうかと言う所で、喫煙室にエマが現れた。しかし、宅飲み・・・、いや、この場合部屋飲みなのだが、何でまたそんな格好なのだろう?俺の方はと言えば、適当にホットパンツとTシャツである。ホテルのロビーでどっちの格好が場に合うかといえばエマの方だが、部屋飲みにしては気合い入れ過ぎでは?来日時の様なラフな格好でいいのだが、何でまた赤いドレスをチョイスしたんだろう?
「ええと、お似合いですね赤が良く映える。窮屈で無ければ行きましょうか?」
「覚悟完了していル・・・。部屋に行こウ。」
何やら覚悟がすすんでらっしゃる。強化外骨格とかないよな?鉄球も見えないし。部屋飲みとは伝えているし、他にも人がいると言ったので、何かを取り違える事はないと思う。・・・、他に人がいるといったから、パーティーだと思われた?まさかね。まぁ、エマも部屋に行こうと言うし、窮屈ではなさそうなのでいいのだろう。お酒が苦手ならソフトドリンクでもいいし、あまり気にしなくてもいいと思うが、慣れない異国の地で一人飯と言うのも寂しいものだ。
「分かりました、来日したばかりです。自分のペースで飲んでください。お酒が苦手ならソフトドリンクと食事でいいですよ。」
そんな話をしながら部屋へ。部屋では望田が料理をテーブルの上に準備してくれていた。まぁ、ルームサービスなので置いてもらう所を指示するだけなのだが。
「戻ったよ〜。そろそろ支払いしないといけない気がするんだけど、適当にフロントに払えばいいのかな?」
「気にしなくていいんじゃないですかね?ホテル代払うと、次は出張費とか単身赴任費用が出る事になりますよ?と、お初にお目にかかります。香織 望田です。エマ=ニコルソンさんですよね・・・?クロエ、なんか若くないですか?話ではもっと年上だった様な・・・。」
「千代田さんが確認したから間違いないよ。多分若返りの薬かな?」
そう言ってエマを見ると、両手を上げて返した。御名答ということだろう。いくらするかは知らないが、寿命10年で10億ドル不死で1億ドル。さて、若返りでおいくらドルだろうか?しかし、不死1億ドルは安かったのだろうか?用途も効果も分からないので、売れるなら売ってしまっていいのだが・・・。
「10年と少々の薬を飲みましタ。エマ=ニコルソンで間違いないデス。望田はSP?あと1人いると聞いてマス。」
望田と握手しながら薬と遥の事を聞いてくる。彼女がこの部屋に入り浸るかは知らないが、来た際に鉢合わせして知らんヤツがいると拘束しても事だ。顔合わせ自体は明日できるのでいいのだが、一応話しておくか。
「あと1人は遥という20代の女性。うちの装飾師でインナー、少佐に送った服のメンテナンスや防御刻印を施してくれる。刻印や服で困ったら頼るといい。今はバイクで走りに行ってるから、顔合わせは明日になると思う。さて、立ち話もなんだ食事をしよう。」
「了解シタ。」
3人で席に付いて食事開始。エマと望田はビール、俺はハイボールで乾杯して、喉を潤してから料理攻略に取り掛かる。ここで変に食べないとエマにいらん気を使わせるので、よく食べよく飲み、嚥下してから口を開いて喋る。
「少佐、米国の方では中位はまだいないんですよね?Sとかは結構いるんですか?」
「ワタシの知る限りではいまセン。Sはいマスが、数は未知数デス。我が国は当初ゲートに関わらず、個人責任デ民間に任せまシタ。なので、個人レベルでは把握してマセン。ワタシの知るSは鑑定師とイ、イモシ?デス。」
「鑑定師と鋳物師ですか、防人はいないんですかね?いるならあってみたかったんですけどね。」
「サキモリ?それもSデスか?会った事はないデス。どんな職デスか?」
「漢字で書くとこの文字です。どんな職かと言われると・・・、音楽家?まぁ、私が防人なんですけどね。」
「音楽家?ミュージシャン?陽気な職デスね・・・。」
エマと望田が話しているが、ゲート内は全て日本語。つまり、この職なんて読むの問題が浮かび出た。最悪スマホで検索でもかければいいんだろうが、最初に入った組は地獄だろうな・・・。賢者ではないが、最初の言葉。職業選択画面は日本語だ。その始まりから躓いたらかなり尾を引く。現にエマは狩人の職が上手く使えないようだし。
「陽気・・・、そうですね。私の音が聞こえる間はみんな笑ってられますよ!何なら、20階層で寝ても大丈夫です。」
「20階層でネル?永眠カ・・・。送りの曲は国家で頼の厶・・・。豪華な食事・・・、最後の晩餐・・・、シッド・・・、明日は墓の下カ・・・。」
「いやいや、死なせませんから!防人は防衛職です!貴女は死なないわ私が守るもの!」
望田のコミュ力が爆発しているが、その横でエマが項垂れている。米国でいったい何を経験して吹き込まれてきたんだ?20階層まで無傷死亡者0と言うのは考えづらいが、講習に来ているのに何でいきなり死を覚悟しているのやら・・・。職も強いし、本人も鍛えているだろうし、早々に死ぬ事はないと思うが・・・。まぁ、悪いイメージは払拭してもらおう。
「カオリ、グラス投げるから守って。見れば分かるでしょ?今なら口笛とかでいける?」
「いけますけど、サラリと難しいお題を出しますね・・・。まぁ、音ならなんでもいいのでいいですよ。」
「了解、少佐見てて。・・・、そいっ!」
手近にあったワイングラスを、コンコンとエマに叩いて見せた後に壁に向かって投げつける。当たる直前に望田が口笛をピーッと吹くとコップは当たる直前に止まり、床に落ちる前にもう一度口笛を吹いて割れる事なく床に転がった。口笛の音は警笛かな?多分、勢いを止める為にその音をチョイスしたのだろう。出来れば、壁に当たっても大丈夫を見せたかったが、まぁ、これでも大丈夫だろう。
グラスを広いテーブルに載せて、再度叩いて無事である事を示す。そのグラスを手にとって色々見ているが、ヒビもキズも付いていない。望田はだいぶ腕が上がったな、1人でウロウロする事もあるし助言ではないが、色々話すので吸収する事があるのだろう。本当に戦場の楽士になってくれそうだ。
「何で割れてナイ?マジック?音だけで何でこれが出来ル?」
「防人は防衛出来る。今口笛でグラスの勢いを止めたから、壁には当たってないし、床には精々グラスを倒したくらいの衝撃しか起こってない。なら、グラスが壊れる訳はない。」
「本当は笛があると跳ね返せたりも出来るんですけど、口笛ならこれくらいですね。」
「笛?望田のウエポンは笛?分からなイ、ウエポンは何であんな形なノカ・・・。ファースト、ウエポンは指定したカ?」
「いや全く。あれは設置者達が勝手に作って送り付けたモノだから、私になにか言われても困るよ。交渉出来たら武器を分かりやすいモノにしてもらおうか・・・。」
「それだと1からやり直しじゃないですか・・・、このままでいいですよ。」
「ストップ!ファースト・・・、今は交渉する事は何時でも出来る?出来るならモンスターを減ラセ!アレは危険ダ!」
エマがいきり立っているが、それは無理な話だ。そもそもそういうモノを作って捨てているのがゲートなので、減らすのも攻撃性を無くすのも多分無理。勝手に外に出た時の安全装置は、コードを書き換えたので今はもう無い。しかし、多分こっちが彼女の素なのだろう。冷静な面と激情家な面が半々くらい。人一人を知ろうとするなら、多面的に見ないといけないしどんなに温厚な人物とて、残虐な面もあれば激怒する場面もある。
これが職に直結するかは分からないが、イメージを増幅させるのに感情は重要だ。別に表に出さず、宮藤の様にうちに秘めたる炎が轟々と燃え盛っていてもいいが、指導する側としては分かりやすい方がいい。
「交渉権はあるけど、交渉の場が分からない。そもそも交渉材料が分からない。更に言えばモンスターについては無理だろう。ゲートの設置条件がモンスター退治だ。嫌ならゲートを他国に売り渡すといい。」
ゲート開通以降、ゲートそのモノの価値は国によってマチマチ。大半の国は欲しがっているようだが、国民決議で他国に売り渡した国もある。総数の多い国は管理が面倒と、一箇所にまとめたりもしているので、そのうち総数も判明するだろう。因みに、売り渡した国は買い戻そうと躍起になっているようだが、買った国は売る気がないようで馬鹿げた金額を提示されたそうな・・・。買った国の国家予算50年分とか、売る気ないだろ・・・。
「交渉前から何故諦めル!?ネバーギブアップ!コレは子供のお遊びじゃなイ!」
言った後にエマがハッとした顔になるが、別に怒るような事も言っていないのでどうでもいい。しかし、諦めるな、か・・・。ん〜、泣き落としが通じるかは知らないが、及第点である事は本人達から聞いている。なら、ちょびっとなら減らせる?いや、戦う事で選ばれたので、それもまた厳しいような・・・。
「ソーリー、貴女を子供と言った事を謝罪しマス。私より若い貴女はどうしても・・・、そう見えル。」
「いや、いいですよ。見た目は変えようがないですから。カオリ、歳ってバラしていいと思う?」
「ん〜、海外へは殆ど情報封鎖してますが、歳くらいなら大丈夫ですよ。職に付いては千代田さん達と、打ち合わせ通りにお願いします。」
「わかった。少佐、私は43歳です。変に子供に気を使うように話さなくてもいいし、そこまで気が短い方じゃない。明日からの事もあるんです、リラックスしていきましょう。」
歳の話でエマがポカンとしているが、こればかりは事実なので仕方がない。卓達もそうだが、見た目的には無理のある歳だ。しかしまぁ、本人も薬で若くなったのだが、他にそんな人物がいてもいいだろう?
「・・・、43、歳上?日本では確か歳上は敬ウ?失礼な事をシタ。ワタシの事は呼び捨てで構わないデス。ファースト・・・、さん?」
「好きに呼ぶといい。さて、明日の事もあるし今日はこれくらいで切り上げましょうか?同じホテルなので、明日は一緒にいきましょう。」
食事の量も減り、お酒も少なくなった。切り上げて明日に備えるなら、ちょうどいい頃合いだろう。後片付けはホテルなので、しなくていいし、エマはビールをそれなりに飲んだので、フライトの疲れもボチボチ出てくるかもしれない。
「了解シタ、07:00にここにクル。必要な装備品はあるマスか?」
「ありますか、ね。動ける服装でいいですよ。明日は話した通りランニングと説明くらいです。あぁ、お風呂道具があるといいですね。」
「クロエ、米国の人は大浴場に、抵抗があるんじゃないですかね?」
そう言えば向こうはシャワーで、温泉とか入るなら水着だったか。最悪隊舎のシャワーでも借りて入ってもらえばいいか。その辺りは本人に委ねて、シャワーなら夏目達にでもお願いすればいい。俺が連れて行くともみくちゃにされそうで怖いし、習慣でワック隊舎には近付きたくない。
「戦地を転々とした、今更裸くらい大丈夫ダ。気遣いムヨウ。」
「分かりました、ではまた明日の朝来てください…その時には遥もいます。」
そう話を締めくくると。エマは退出し望田と交代でシャワーを浴びる。遥は結局日付が変わる前くらいに帰ってきたが、食事もシャワーも済ませていた様なので、そのままベッドへ潜り込んだ。精力的に服や刻印を扱い、気晴らしにツーリングする。休学中だけど千代田あたりが手を回して、学校卒業させそうだな・・・。既に遥はいてもらわないと困るポジションでもあるし、実地研修扱いで単位にするとか?
実際、卓と雄二は講習会を大学側が単位と認めた為、卒業となった。遥の所もそうしてくれると助かるが、技術を学ぶという面では・・・、これだけインナーやら刻印を扱ってれば技術も付くか。一応、民間の魔術師でも糸を出せる人がチラホラ出だしたので、これから先はどうしてもファッションデザインだけでは、厳しくなって来るだろう。
そんな事を考えながら眠りにつき、次の日の朝エマは本人の言った時間通りに現れ、遥を紹介して駐屯地へ。後ろに遥とエマが乗ったが、ファッションの話で意外と盛り上がっていた。しかし、コチラに毎回ファッションの話を振るのはやめてくれないかエマさん?日本ではこんな化粧品が流行ってるんじゃないかとか、どんな服が好みなのかと聞かれても当たり障りのないことしか言えんよ。
寧ろ、何でそんなに10代20代のファッションに詳しいの?俺とか下火になって漸く、タピオカミルクティーとか飲んだのに・・・。そんなこんなで駐屯地に着いてメンバーと顔合わせ。中位と話がしたいというので、兵藤に残ってもらい他のメンバーはゲートへ。エマは何やら悲痛な面持ちで出発するメンバーを見送っていたが、なにかあるのだろうか?
「彼等は皆、生きて帰って来れるのだろうカ・・・。20階層は過酷ダ。おいそれと行っていい場所じゃナイ・・・。」
「いや、エマ少佐?アレは日常訓練で、最近は20階層以降を皆ウロウロしてますが・・・。」
「兵藤さん、何やら米国とウチでは・・・、いや各国ではかなり認識の違いがあるようです。そもそも、米国はスィーパーから職の聞き取りや、扱いに対して個人任せにしているフシがある。」
「そんなものですか、まぁ、どの国も日本語覚える所から始めないといけないですからね・・・。そう考えると、俺達は恵まれている。と、エマ少佐は何が聞きたいんです?クロエさんがいるのに俺が話す事は、あんまりないかもしれませんが。」
場所は教場に戻って3人で机を囲む。兵藤は昼から自衛隊関連で駆り出されるらしいが、彼も30階層手前まで来ているので、遅れを取る事もないだろう。脱出アイテム様々である。コレのおかげで途中退出ができるので、ある程度の安全が担保出来る。
「聞きたいのはどうやって中位に成ったかダ。我々米軍も訓練はしていル。しかし、誰もならない日本だけの特権ではナイよな?」
気にしているのはそこかぁ。そんな特権はない。コレばかりは断言できる。ソーツはアナタ達と言ったのだ。ならば、そんな特権を作るのは馬鹿げている。掃除を依頼しているのにわざわざ個別に能力上限指定しては意味がない。仮にそれをするのなら、スタートは全員上位じゃないと無意味だろう。
「少佐、先ず初めに言葉の訂正から。成じゃなくて至るです。中位にどうやって至ったか・・・、強いて言えば、俺は俺の歩む道を決めたからですかね?人生をかけて進みたい道、たどり着きたい場所、或いは切なる願い。覚悟ですよ、覚悟。」
「そんなものでいいノカ?そんなモノで中位にな・・・、至れるノカ?なら、死んだ者達は願わなかったというノカ!?ワタシは・・・、多くの部下を看取っタ。彼等とて、死にたくはなく、生きたいと願ったはずダ!」
言い分は分かるが、それとコレとは別だろう。生きているのは、死にたくないのは前提条件だ。問題は生きた先にどうなりたいかであって、死ぬ間際に生きたいと願う事と、道を歩む事は別だ。そもそもの目的が違うのだから、たどり着く場所も違う。なら、その結果もまた違う。
「エマ、貴女は何故狩人を選ぶ・・・、いえ、何故狩人が職の一覧に出たんだと思いますか?」
「知らなイ。3つのうちSがあったから選んだに過ぎナイ。」
「職とは適正です。それが出る以上、何かを切望したはずです。兵藤さんは何でその職を選んだか言えますよね?」
「中位に至ってそれが言えなかったら降格モノですよ。他の中位もそう、選んだ理由も、その他に出た職の理由も、大なり小なり全部言える。職という型にはまってますが、結局は自分の中から生まれたモノ。理解すれば意味が分かってきます。」
兵藤がそう話を締めくくりエマを見る。彼女は困惑しているが、答えは彼女の中にしかない。しかし、他の職を覚えているかもあやふやな中で、職から背景を推測していくのは中々に骨が折れるな。狩人というからには、獲物を狩りたかった、或いは狩った?いや、狩ったなら手元に獲物はあるので、多分狩りたかったのだろう。Sが出るほどに切望し、それでも何かを仕留め切れなかった?うーむ、推測の域を出ないので何とも言えないが、あまり職を選んだ理由を聞くと、本人の脆い部分や話したくない部分に踏み込む事になる。
「・・・、訓練を始めてくれないカ?至る話は何となく理解シタ。コレは本国に連絡しても大丈夫カ?」
「いいですよ。最終的には本人の問題ですし。」
「感謝スル。ヒョウドウも話し感謝スル。」
「まぁ、難しい話なんでリラックスして腰を据えてやってください。きっかけは多分、自分にしか掴めなくてクロエさんはたまに背中を押すか蹴っ飛ばすか、見てるくらいしかしてくれませんからね。」
首を竦めながら兵藤が話すが、蹴っ飛ばしたのは卓だけ。他の人は優しく話している。まぁ、蹴って欲しいなら蹴っ飛ばすのも吝かではないが・・・。本人が訓練を希望するので、兵藤と共に駐屯地を案内がてら軽くランニング。大井にお願いしたので、今の目黒駐屯地には戦車やらヘリコプターやらが多く置いてある。
まぁ、コレを運用するのはウチばかりではないので、ゲート近郊の駐屯地には、参加者以外が使う多数の近代兵器が運び込まれている。ゲート内を戦車が突っ走る日も近いな。エネルギーはクリスタル流用を念頭に置いて実験しているので、ガソリンの心配も少なくていい。
「エマ走るのも、ただ走っちゃ駄目ですよ?」
「そうそう、赤兎馬の様に何処までも走れるようにならないと、ゲートでは体力持ちませんよ?最初の時はコツを掴むまで苦労したな・・・。」
「今は水で楽してますからね、ちゃんと強化も使って下さいよ?じゃないととっさのイメージだと崩れる。」
「分かってますよ。」
「ふ、2人は身体能力が高くなる職なのか?」
「いいえ?2人共魔法職です。イメージしてください。早く長く走れるモノを。先程の赤兎馬とは千里・・・3900km走る馬です。馬が走れるのなら、職に就いた人間が走れるのは当然でしょう?」
兵藤含めて昼まで2時間位速度を変えながら走る。エマは息は荒いものの付いてきたので大丈夫だろう。職的に身体能力強化も入っているようで、今の兵藤についてこれるなら十分だ。後はゲート内をウロウロしていれば、嫌でも体力は付く。昼を食べてエマの能力検証へ。さて、武器はどんなものだろう?