725話 なぜ鍛えるのか?
「しかシ、サイラス長官。私にはこの動きは早すぎるとも見えるのだガ、そこまでして貴重な職に就けた獣人をゲートに入れなければならないのカ?」
エヴァとモンスターを倒していたエマが帰って来て開口一番にそんな質問を投げかけた。割と踏み込んだ質問で仲のいい両国でも答えてくれるかは微妙な質問だな。まぁ、確かに獣人がスィーパーとなりゲートに入れるからと言って、奥にまで進ませるのか、それとも指輪の中が見えると言う点に重点を置いて外で仕事させるのか?
結構人間でも意見が割れる部分でもあるし、獣人としてはモンスターを倒したいと言う気持ちもある。う〜ん・・・、結構デリケートなんだよね、人間側としては。
危ないゲートに人だけ入って獣人は入れないと言う話に反発する人もいるし、治安維持なんかに獣人を当てて連携しながら犯罪抑止に努めたいと言う人もいる。何気に今の世の中殺人なんかより魔が差しての窃盗の方が多い。
しかし、一定数の獣人がスーパーなんかをうろついていると、それが抑止になって窃盗やら万引き被害が低下すると言う話もあるし。
「ふむ・・・、ゴーレム達はそのまま獣人達のフォローを。さてその質問には答えるとしましょう。私と言うより英国として、ですが。」
「政治が絡んでるんですか?まぁ、スィーパー獣人集めて運用するなら切り離せませんけど。」
「ええ。大前提として英国は日本と同じ島国である、これは大丈夫ですね?」
「あア、流石にそれを知らぬ程ではなイ。」
「よろしい、メシマズな我が国は女王陛下が魔法立国として歩むと宣言し、戴冠式でもそれを見せた。つまり、魔法と言う分野に置いて他国よりも智を欲する。コレが政治です。特にフランス、ベルギー、ドイツとは地続きではないにしても近い。」
「確かに近いですね。あぁ、協定拡大の煽りもあります?」
「ええ。スィーパーにとって海は必ずしも阻む壁ではなく、技量を試す場でもあります。特にスィーパーが誕生し、自国に不満のある者はさっさと海や国境を越えようとした。それが船ならまだ拿捕も可能でしょうが、広い海上で個人を見つけるのは難しい。故に我が国や隣国は協定拡大に舵を切る。幸いと言うか、無頼者が来ても国としてはスィーパーとして働き、金貨で支払うならレートも換金も関係ない。無論、犯罪を犯せば捕まえますが。」
「ふ厶・・・、それが獣人スィーパー育成と必ずしもリンクはしないだろウ?確かに犯罪者を捕まえるのにハ・・・、指輪の中を探ろうとするなら獣人スィーパーは必要不可欠だガ、それはスィーパーであれば済む話ダ。それニ、今は表よりもゲート内で何かやらかす方が多イ・・・。ゲート見張り要員カ?」
「それもありますよ。近代兵器は近代が取れて兵器となった。しかし、それが兵器である事に変わりはない。例えばゲート内で調合師と鍛冶師が集まり、そこに高純度セシウムやプルトニウムがあったとして、何を連想します?」
「核ですね。」
「核爆弾だナ。不思議と今までゲート内でそれを製造したと言う話は聞かないガ、米国上層部でもその議論は毎回あル。特に中国が核融合炉を作ろうとしているなんて話モ・・・。」
なんか知らんがチャン、話が漏れてるぞ〜。俺はノータッチだし本当に大っぴらにやったのか?国際原子力委員会とかに話して?流石に本気で作り上げるかは知らないが、作ってどうする?と言う代物でもある。一応連鎖反応ではないから爆発しないらしいし、不安定になったら自然に止まる様に設計されるらしいが、下手するとその設計の部分を力技でやりかねないのがあの国だしなぁ・・・。
しかし、クリスタルと言うかゲート非搭載型コロニーを考えた時に継続的に使えるエネルギー装置として作ろうとしている?なら、ラボにある塗料で賄えるから、作らせろダメなら代替案寄越せに真っ向から立ち向かえる。
「中国の話は初耳ですけど!?やめてください、ここでそんな事を私に話されると後が怖い。」
「なニ、ゲート内の戯言ダ。その警備要員として獣人スィーパーの力が必要だから鍛えていル。そう言う話なのだナ?」
「それだけではないですけど・・・、政治と言う建前を外した時、獣人そのモノが人のボディーガードとなり得る。この話は分かりますか?」
「分かりますね。人は人の血を流し過ぎた。そして、仮に獣人スィーパーと人のスィーパー、どちらに我が子を預けてゲートに行かせるかと聞かれれば一定数獣人と答える人もいる。」
「人が人を信用しない時が来るト?」
「そこまで行くわけじゃないけど・・・、例えば人は宗教的な動物である。だから信じたモノの為ならどこまでも残酷になれるし、その後は信じた何かが許してくれるから気にも止めない。でも、獣人はそうじゃない。あくまで報酬で動き、報酬がなければ動こうとしない。つまり、傭兵であり契約者。まぁ、命の危機には逃げもするけど、それでもかなり助けてくれるらしいよ?」
「世界における犯罪統計、これを見た時に人はまだ人を殺している。しかし、獣人による殺人と言うものはない。だからこそ隣人として力を渡し、その使える力の危険性を教える。傲慢かもしれませんが、仮に獣人が殺人を犯した時に裁くのは人ではなく獣人だと私は考えています。」
「ここにいるのはその時の執行者であるト?」
「違うよエマ。ここにいる獣人達は模範だよ模範。忘れた?獣人は強いスィーパーには好意的、そして獣人スィーパーにもやっぱり好意的。今は中位や私にべったりしてくるけど、そこで獣人スィーパーの中位が出てきた時、馬鹿ではないだろうけど何を考えて至ったかは分からない。特に獣人は全員今は妖怪しか出ないし、それしかないから探りようもないしねぇ。」
人の語感から職名付けてるにしてはかなり皮肉めいてるな。座敷童なら幸福を、餓鬼なら空腹を、塗り壁なら通せんぼして、河童なら相撲をとる。人が空想した存在なだけあってよくも悪くも様変わりする。
ただ1つ言えるのは、プロメテウスとして俺はフェリエットに魔法と言う火を渡した。そして、その火は消えずにフィンに渡り広がって他の獣人スィーパーも手に入れた。とまぁ、そうは言っても獣人達が今の関係性を崩しにかかるかと言われると多分ないな。
獣人達、最大の問題点で人の最大のアドバンテージは旨い飯が作れる所。確かにフェリエットやらは簡単な料理は作れるが、それは馬味調味料をぶっ掛けて目玉焼き焼いたりするくらい。
それが料理の始まりと言えばそうなんだろうけど、獣人としては人にもらうモノと自分で作るものはなにか違うらしい。その点に置いて人と獣人の関係は持ちつ持たれつに落ち着くだろうし、仮にどこかの獣人が反乱と叫んでもその後どうする?で躓く。
仮に反乱成功とするなら・・・、S料理人拉致って料理作らせ続けるとか?う〜ん、そう考えると既に半田は籠絡されてるな。ラボで獣人に料理振る舞いまくってるし、新作出来たら食わせているらしい。
そうなると力関係は半田が上になるし、嫌われた獣人はご馳走にありつけない。人と人は暴力で全てを解決出来るかもしれないが、獣人相手なら旨い飯で解決出来る。それこそこの前、青山や獣人達と騒いだ時は酒よりも多く飯が出たが、その飯を取り合う事もなかった。
まぁ、どれだけ頑張ったかのアピール合戦はあったけど、おひねりとしてビーフジャーキーやらチータラを胸の谷間に挟むのはどうなんだろうか・・・。まぁ、金貨よりも食い気だしなぁ・・・。
「その点で聞きたいガ、獣人は妖怪以外も出ると思うカ?」
「それはどれくらい先の話?」
「どれくらイ・・・、例えば2世代先ハ?獣人は頭もいイ。」
「それは今の獣人であって、その次の世代がどうかは分からないよ。今の獣人はソーツの薬の効果がある。でも、その子供達は純粋な獣人として産まれている。なら、先ずは職に就けるかから考えないと。」




