724話 英国式ブラックユーモ
サイラスから呼ばれているが、それが本当にサイラスの意思なのかマイロの誘導なのか分からない。ただ、コレが仮にマイロの誘導とするなら称賛すると同時に悪手だ。人の世をどれだけ理解しているか分からないが、権力と言うものはまだ人の手にあり獣人は獣人憲章に縛られる。
いや、理解しているなら獣人にとって今の世は1番過ごしやすいだろう。獣人の視点ではなく人の視点となるが、少なくとも人は獣人を奴隷労働力としていない。衣食住を差し出しその地位も理解している。そして、大多数の獣人に報酬も支払い同等と扱っている。まぁ、コレは俺が報告として知っている限りなので獣人か独立戦線を敷くと言うならこの限りではない。
しかし、是正すべき点は是正するにしても知らない点はどうする事も出来ない。仮に是正するとするならソレは、声を上げた獣人の声を汲んだ時。つまり、正規の手続き以外はどんなに多くの声が集まっていようとも押し潰すと言う話がまかり通る。
「お疲れ様ですサイラス長官。私と共に後2人、エマとフェリエットが来ましたよ。」
「お疲れ様だなぁ〜。フィンはどこかなぁ〜?弟子だけどあれは未熟者だなぁ〜。」
「獣人の海外の現状を知りたく来タ。今更歴史を持ち出すなと言われるかもしれないガ、英国と米国の歴史を勉強すれば私がいるのも批判は出来ないだろウ?」
「批判するなんてとんでもない。それこそ歴史を知れば今更でしょう?英国、魔法省長官のサイラスにその弟子のエヴァ。パートナーのマイロにフェリエットさんの弟子と言う形のフィンにアカデミーにいる獣人達です。今回は来ていただきありがとうございます。本来ならレディクロエにフェリエットさんのみ歓迎する所ですけどね。」
「ブラックユーモは控えて下さいよ長官。私はその辺りに疎いと言う話でやり過ごせる。でも、エマ相手にそれは通用しない。釘は刺しますしそれが本当に釘なのか、それとも心臓刺すナイフなのかは私が判断するところでは無いですよ? 」
「なニ、蚊の1刺しに目くじらを立てるゾウはいないサ。ゲート内と言う事を考えても私が不快を感じても米国は関係ないと宣言しよウ。」
「これは恐ろしいですね主様。戯れにも虎は牙を向くそうですよ?」
「辞めとけよマイロ〜。危ない火遊びは危ないウチが華で、匙加減を間違えば華は散って花弁は燃える。ファーストさんがまだ宥めてるけど、それもあくまで個人的な関係からだろうさ。」
「分かりましたよエヴァ。大人しくお茶の用意でもしましょう。」
「昆布茶を寄越すなぁ〜脳足りん。」
「私が脳足りんですかフェリエット嬢?」
「さぁ~なぁ〜。そう感じるなら足りんと自覚してるなぁ〜。でも、不快とも感じないならただの嫌味を言われたバカだなぁ〜。お前が主人を立てると思うならバカはいらないよなぁ〜?」
フェリエットがニヤニヤ笑いながらマイロを見ているが、あの顔って多分猫が獲物をいたぶる時の顔だよな?猫は犬とは違いただ飯万歳、ニート万歳の精神で生きているが犬の場合、それはストレスになる。なまじサイラスが優秀な分どうやって主人を立てようか模索してるんだろう。
なんにせよ獣人になってその辺りの機微に鋭いと言うか野生の勘なのか、人が敢えて無視する所を拾う獣人も多い。そんなサイラス達との打ち合わせでは、このまま統合基地を出発して15階層で全体レベルを見てから先に進むか判断するそうだ。
英国の魔法学校は近隣国やそれ以外から結構注目されていて、特に獣人に魔術を教えてもらいたい所は入学させたいらしい。メアリーが魔法立国を宣言したインパクトも凄いし、教育機関の長が中位の魔術師と言うのもいい。まぁ、英国の魔法省なので英国民を優先するし、本質は国の機関なのでどこまで受け入れるかは国次第かな。
そんな事を考えながら15階層へ。サイラスが選んで連れてきたと言うだけあって動きは悪くない。しかし、積極的に魔法を使うよりも格闘戦を挑む獣人が多い。別に使ってない訳じゃないが、こう・・・、考えるよりも先に手が出るとか?
「土塊よ!押し潰しなさい!」
「バチバチ放電してるからよく爪で切れるなぁ〜。」
「飛び出ると同時に切り上げ!」
フェリエットの最近のお気に入りは雷なのか放電しながらモンスターを切り裂き、フィンは穴を掘って地面から飛び出つつ切り裂き、逆にマイロはサイラスの真似なのか魔法で攻めている。ただイメージ不足なのか魔法だけでは倒し切れていない。
「マイロの稽古はサイラスさんが?」
「ええ。本人が魔術を優先したいと言うので教えましたが、どうも人より攻撃力が低い。何が考えられます?」
「単純に慣れていなと言えばそれまでですが、それだけではなくイメージが足りないとも言える。相変わらずPCは?」
「そちらはジャスパーに任せました。まぁ、家で動画を見る分にはエヴァもいるので問題ないですし、仕事で使う分程度には慣れましたよ。」
「なら大規模な魔術を見せるのは?」
「ふむ・・・、こうして連れてきても私は見守る側で先に動くのはエヴァですね。あの子は勘がいい。」
「それはそれで勿体ないナ。大規模な魔術を見るのも為になると私は感じル。長官はなにか見せないのカ?」
「座学として教える事は多いですがゲート外で大規模なモノは使いづらい。風の魔術でビルとは言わずとも小さな小屋を風化させたり土を動かし彫像を作る程度は見せますが・・・、そう言った教育も含めてのゲート内ですよレディエマ。」
「ならなにか見せるといいですよ。それこそド派手で想像力を掻き立てる様なモノを。」
「レディクロエはフェリエットさんになにか見せたと?」
「浮いて寝て見せたり、寝たままモノを動かして楽してみせたりはしましたね。猫って基本寝てるじゃないですか、そんな猫人のイメージを膨らませるなら楽して見せる。アプローチはそれぞれで、しかしそれを推して何かをさせるなら夢を見せる。フェリエットの魔術は自分が如何に楽をするかで成り立ってますからね。」
「楽をする・・・、効率的重視ですか。」
「ええ。時間が余れば思考時間も増えるし、思考時間が増えればより楽する道を考える。肉体労働を嫌うなら頭脳労働するしかないですからね。フェリエット的には身体を動かすのは趣味でモンスターを倒すのは邪魔者排除、イメージ作るのは遊びです。必ず何かをしないといけないと言う義務意識もないですからね。」
「う〜む・・・、学校とされたからどうしてもカリキュラムとして考えてしまいますね。」
「学校カ、ハイスクールは窮屈だったナ。もっと遊べば良かっタ。」
「窮屈って何してたの?」
「殆どは仕事と勉強ダ。過ぎた事だから別にいいガ、アイスクリームでも食べながらクラブで踊るのには多少憧れタ。・・・、私も少し狩って来ル!」
「おっ!エマさんも参戦か?狩りすぎないでくれよ?私の取り分も参加者の取り分も減っちまう。」
「足りなくなったらモンスターを連れてくるサ。ここで死ぬほどやわじゃなイ。」
「さて、レディエマも行きましたが我々はどうします?」
「先に進むならなにか大きなモノを見せるのがやはりいいでしょうね。マイロの事を考えるなら長官に譲りますよ。」
威厳やらマイロの事を考えると、ここはサイラスになにかしてもらいたい。多分それがマイロの自尊心を宥めるのにも手助けになるだろうし、自らの主が素晴らしいと知らしめる事にもなるだろう。青山と関わっておいてよかった、マイロはどこか青山ににているのかもそれない。
「なら私が見せるとしましょう。獣人諸君!校長として、中位として魔術と言う物を見せてしんぜよう!」
サイラスがそう叫び無数のゴーレムを作り出し・・・、風で浮かせているから浮遊型だな。効率的に倒すと言うならゴーレムはいらないのかもしれないが、見せつけると考えるなら多分正解だ。




