706話 手がかり
「正攻法で攻めて攻略されたらお手上げと言うか再構築ですね。メタバースと言うかマルチバースも膨れて行ってると聞くので、ネットの裏路地は更に混沌としそうだ。」
「R・U・Rの秘匿回線を更に簡易化して大衆向けにってやつですね。確かにPCもどんどん性能上がって来ていてスパコンとまでは言いませんけど、かなり高性能なモノが増えたとか。」
「昔で言えばゲーミングPCとかはかなり高額だったけど、半導体にしろそれを製造する機械にしろ素材はウハウハでどんどん作れるからね。春休みのソフィアとフェリエットの宿題はかなり焦った。」
「なんか変な宿題とかありましたっけ?」
「人間観察とか学術論文や漫画やらアニメを見たり読むのも増えてたし、何か個人で興味のあるテーマを探して調べるってのもあった。でもそれよりも工作系がねぇ・・・。」
「今は夏休みだけじゃなくて春休みも工作作るんですね。懐かしいなぁ〜、割り箸でゴム鉄砲作ったり貯金箱作ったりとか。神志那さんはなにか作りました?」
「ミョウバン結晶作ったかにぁ?クロにゃんは浮く椅子作ったんだっけ?」
「私の子供の頃じゃなくて子供達の工作手伝ってテンセグリティ構造の椅子やら模型を作っただけですよ。私自身は押し花とかの楽な物ですね。ただソフィア達の物は工作キット使って作ってるんですけど、プラグラミングしたら動いて戦うロボット的な物を・・・。タブレット学習なんで家にPCなくても困らないからいいんですけどね。」
税収ウハウハの政府が行った次の一手は16歳未満に対する本格的な教育改革である。国の運営は兎に角金がかかり、何かをしようとするなら先ずは予算から捻出しなければならない。しかし、スィーパーが増えて経済が高速で回って、おまけに円は基軸通貨なので金貨との交換も出来てと貿易にしろ技術開発にしろかなり強い。
そんな中で企業投資と公共事業への割当金を多少削ってその分を教育や育児、家庭等に回して国民の安定と流出防止を図ると共に、次世代スィーパーになるであろう子供達に今のスィーパーが模索したノウハウを還元している。なのでかなり高そうな工作キッドも無償ならタブレットやらも無償、電信柱なんかにも無料のWi-Fiスポットが付けられて何処でもネットに繋がる等、かなり近未来チックな事が辺鄙な所でも起こっている。
まぁ、集団疎開時に16歳未満でスィーパーになった子供もいるので、その辺りの優秀な人材もざっくりと育てつつ住みやすいから他へ行かない様にと言う囲い込みかな?なんにせよ日本に注目している国は多いので、政府は自国をモデルケースとして技術を売り込んだりするのに使えるし、企業は新たな技術を公に配置して需要も見込めるし、一般人は便利な事が増えて助かると言う好循環が出来ている。
まぁ、それでもキャンプ行って弓ぎり式火起こしして楽しむ人もいれば、テントではなくゲート内簡易拠点のデモストがてらに数日滞在するチームなんかもある。風の噂では佐沼の所がスマートグラス超えてスマートコンタクト作ったとか言ってたな。
台湾との合作だそうだが、網膜投影と眼球運動及び脳波判定によりスマホ的な事が出来るのだとか。元々トレースシステムとかダイブシステム作ってたしある意味時間の問題だったんだろう。これが埋め込み式なら使えないが、コンタクトならどうにかなるのだろうか?今度試してみよう。
「面白そうな工作ですね。学校で戦わせたり?」
「するみたいだよ?プログラム次第では側転して回避とかも組めるし、上手ければリアルタイムプログラミングで更に熱いバトルしたり出来るんだってさ。まぁ、思考訓練の一環で遊びながら学ぶと考えたら結構いいのかも。」
「日本の学校は落第ない代わりに平均に持ってこうとするかんね。わかんなくても中学まで行った後にスィーパーになれば暗記系はどうにかなるし・・・、教育改革提案した人は頑張った!とまぁ、私はこれから襲撃者としての準備に入るぜ!」
「了解です。なら私も多少のテコ入れでも考えましょうかねぇ。」
神志那が嵐の様に帰ったがテコ入れどうしようかな。神志那の最も不利な点は1人しかいないと言う点だが、その神志那が馬鹿正直に1人で襲撃してくるとは考えづらい。手駒となるプログラムは作るだろうし自己を守る防壁も作る。何より彼女は引き篭もりでPCの中の世界で生活していた。なら、闇雲に高速でデータ改ざんやら偽装プログラムを走らせるよりは、別のイメージで挑んでくるかもしれないな。
「さてと、そう言えばエマはまだ帰ってないんでしょう?青山もいるから大丈夫だとは思うけど・・・。」
「今日明日には帰ると連絡が来てましたね。ゲート内で米国側に素材を引き渡してからと言う話もしてましたけど。」
「米国もバンバン飛行ユニット作ってるみたいだからね。回復薬管理から離れた山口さん筆頭に・・・、そう言えば山口さんと斎藤さんも中位に至ったんだった。高槻社長からその話が来て政府には内密にとは言われたけど・・・。」
「下手に中位囲ってるとまたラボがって話になりますからね。与太話的な陰謀論だと技術と武力を合わせ持って世界を牛耳ろうとしてるとか。」
「本当に陰謀論だね、それ。今更世界征服とかして何になるんだって話だよ。今だと国同士でも小競り合いさえ嫌がるのに。」
備えは大事だとして日米中露がまとまりを見せる中で代理戦争なんて話はかなり薄い。そもそも小競り合いをするだけでも飛び火すればスィーパーの力が入り乱れた異次元戦争の引き金になるし、何よりゲート内と言う場所があって表でする意味は、よほど政府に物申したい以外にはない。
そのゲート内も連れて行かれたギルティタウンはある程度穏やかだったし、千代田から取り寄せたデータやら情報を見ると『そもそも罪なき場所では罪が産まれない。』の一文に集約されてしまう。
確かに自己責任を念頭に動くなら排他的なのは仕方ないにしても、先に手を出した時点で最大限のリスクを背負う事になる。だってそうだろう?下手に悪口を言って、それが相手の琴線に触れたなら最悪殺されるかもしれないし、今度は殺してしまえば仲間に報復されるかもしれない。
結局の所人を縛るのは理性であり知識であり思考である。旗に悪さするなと魔法を込めてばら撒いたが、割と効果はあったのだろう。少なくも本能的に美しいと思うならそれを見るはずだし。
思考は逸れたが山口の第2職は鍛冶師である。念願かなって出た職なのでこねくり回して変な物作りそうだな。那由多もギルドで働く傍らによく変なモノを作ってるし。なんでフェリエットが丸まって寝る用のハンモックお願いしたら天蓋付きベッドみたいなハンモックになるかな?流石に雨の日に外で寝ないとは思うが・・・。
斎藤は鍛冶師から開発者となった。語感的にも合っていたし、元々色々作っていたので間違いないだろう。第2職として選んだのは高槻同様付与師。色々と夢を持って考えていた様だが鑑定師は出ずになら、性能を飛躍出来るのでは?と選んだそうだ。
武器に色々付与出来るかは分からないが、装飾師が魔法の玉で武器を飾ったりしているので多分出来るだろう。武器としたはなんか灰色の粉が出たとか。フェリエットのマニキュア同様体内取り込み式らしいが、振りかけて武器を打ったりすれば練り込めるのでは?と試しつつS・Y・Sが光った時の映像やら宇外宙へ行った時の映像を見返しているらしい。
S・Y・S2号機の建造も急かされているのに休めるのだろうか?いや、外側は色々な所へ依頼すればいいし藤にも付喪としての能力があるから分担は出来るのか。
「今帰っタ・・・。」
「おかえりなさいエマ。シャワー後ですか?」
「いヤ、雨に打たれてナ。統合基地で風呂には入ったガ、外の雨で濡れネズミだ。」
やれやれと言った感じでエマが髪を掻き上げる。見た感じ怪我はないがゲート内で何があったかは分からない。ただ1つ言えるのはボロボロのまま出て来るほど追い込まれはしなかったと言う事。しかし、エマがいて青山がいないと言うのもなんだか不気味だな。
「お疲れ様です、コーヒーどうぞ。どこまで行きました?それと青山は?」
「ありがとうカオリ。青山は臭いまま外に出テ、このままではクロエに会えないと風呂ダ。行ったのは60階層までだガ・・・、あのワラワラ集まる感じはかなり面倒だナ。チームとしても個としても試されル。おかげでトラップの火力は飛躍したガ、手持ちの薬はかなりストックが厳しイ。高槻の所から買うのもいいがそれ以上を狙って箱開けしないといけないナ。」
「薬はいいとして無事でなによりですよ。躊躇って使わずに死んでしまったら元も子もない。」
「だナ。流石に足を撃ち抜かれた時は大急ぎでかなり高い薬も使ったシ、身を隠そうと洞窟に入ったら中から小型ミサイルが飛んできてまた追いかけっコ。身体を鍛えるやら走るイメージがなければ今頃消えていタ。それに青山にも助けられたナ。クロエが絡まない限りアイツはまともダ。」
「私の前でもまともでいいんですけどねぇ・・・。泉に突き落としたら綺麗な青山とか出てこないかな?」
彼奴等不思議と精神をどうこうすると言う前提の物はくれないんだよなぁ・・・。本人達が精神体で向けられるとヤバいから作らないのか、それとも魔女達が娯楽として成立しなくなるから作らせないのか?
なんにせよここでマインドコントロール的な何かをする機械とかが出た来ても困る。いや、そもそも魔女達が見てるのにソーツの作るマインドコントローラーが勝てる気がしない。
「綺麗な青山・・・。駄目だ、うざい王子様系の何かしか想像出来ない。」
「奇遇だなカオリ。私もそれだと思ウ。そう言えば収穫があったゾ?」
「収穫?綺麗にクリスタル抜いたモンスターが山程手に入ったとか?米国はそれで喜びそうだけど。」
「素材を取りに来たウィルソンが満面の笑みで気持ち悪かったガ、収穫と言うのはそれじゃなイ。打ち捨てられたゲートがいくつかあったのは覚えているナ?」
「ええ。多くはなかったけど確かにあった。次に行けると思って何度糠喜びさせられたか・・・。」
何度ソーツを罵倒したか。確かにゴミ箱ならゴミがあって当然なのだが、だからと言ってゲートと似たような物を置くなよ!観察する暇もなければ壊れて爆発でもしたらどうすると結構怖いんだぞ?まぁ、ゴミとして入れてある以上、爆発はないと思いたいが・・・。
「でもそれがどうしたんですか?資料映像やらを見る限り使えない物だと思いますけど。」
「深くは調べられていないシ、そこまで連れていける研究者もいないから青山の知見と私の対応に依る部分が大きいのだガ・・・、アレはゲートではなく祭壇への道を作った際の残骸じゃないかと思ってナ。」
「祭壇への道の残骸?なんでまた残骸・・・。いや・・・、でも・・・。」
祭壇とは何か?前にも考えたが要は何かを祀る場所である。ならソーツはそこでふんぞり返って待っているのかと言われればそんな事はなく忙しそうにしている。なら、祭壇を作ったのではなく祭壇へ・・・、交渉の場へ進む道を作ったとしたならどうだろう?
仮に建物として祭壇が何処かにあればモンスターに壊されるかも知れないが。それはソーツとしても俺としても許せない事で、互いに報酬を渡した渡さないと言う話になってくる。なら、セーフスペースにででんと建てたとしたならば、不特定多数が訪れる事も考えられる。まぁ、訪れたとしても来ないのだろうが、そこで祭壇を壊されてもまた面倒になる。
「いくつかの打ち捨てられたゲートの内側を確認してきたガ、この写真を見て欲しイ。我々の中でゲートを真下から見上げた者は少なく開通後は皆無だガ、クロエは見た事があるんじゃないカ?」
見せられた写真は荒いがそれはどうでもいい。確かにそこには不鮮明ながらもあの日真下から見たモノとは違う細工がされている様な気がする。そうなると・・・。
「警視庁か高槻先生に電話しないと。」
「何かあるのカ?」
「写真だよ。あの日あの時私はゲートの真下をウロウロしながら写真を撮った。これが通常ゲートと違うなら本当に祭壇への手がかりになるかも。」




