67話 防具進展 挿絵あり
挿絵を修整しました。
間違い絵とともに、活動報告に載せています
おっさん達と料亭で騒いで遊んでリフレッシュ!まぁ、足元も固まったし、本部長候補の話もあるので、明日の講習会で話そう。帰りのタクシー代は松田が出すの一点張りで全員分出したので、ここで借りを作った事にはならないだろう。部屋に帰り着くと中には遥しかおらず、望田は何処かへ行っているようだ。
今日は平日で他のメンバーはゲートに入っているので、後追い出来ないにしても、どこかの階層でモンスター相手にして新しい音を試しているのかも知れない。S防人は防衛職のはずなのに攻撃的過ぎる職なので、日々望田は進化している。それこそ、スピーカーが増えたせいで、防壁を張りながら攻撃なんて事も出来る。本人曰く単音から演奏に変われば、メロディに乗せて防衛しながらの単体攻撃までイケそう!との事。
「ただいま、遥はまた靴イジってるのか?」
「お帰り、講習会の人から色々素材貰って試してるの。・・・、やっぱり鍛冶師がいるね。装飾師の作成だと小物類を作る事は出来ても、物全体は厳しいよ。ダンゴムシ?の殻とか歯が立たない。オームの目玉かよ!」
遥がそう言いながら殻を武器で叩くがビクともしない。寧ろ、反動で手が痛かったのか、叩いた手を振っている。辰樹の所に持ち込めば何とかしてくれるだろうが、あそこも以前とは打って変わって大賑わい。靴もポスターも馬鹿売れなので、あまり頼むと辰樹と芽衣が過労死する。風の噂では本社から従業員回されて、芽衣も最近は店に出ていないそうな・・・。
商売繁盛はいい事だが、効果がありすぎるのも考えもの。魔女としても悪気があった訳ではないので、何も言えないしここまで効果があるとは俺も思っていなかった。しかし、斎藤に続き辰樹まで駄目になると、本格的に鍛冶師を誰か回してもらった方がいいな。野良鍛冶師・・・、生産職に就く人間が増えればいいのだが、鍛冶師で戦闘のイメージだとドワーフが斧とかハンマーで殴ってる感じだよな?
実際なると、多分鑑定師の様な戦闘スタイルだろうが、改造で好き勝手武器を弄り回せるので、ある意味鑑定師より厄介になりそうだ。因みに、鍛冶師はタフネスが上がるそうだ。最初辰樹とあった時疲れている様だったが、話を聞いたら回復薬無しで5日ほど休まず靴を作っていたそうな・・・。これで薬があれば、無限のタフネスだろう。
ソーツめ!いくら掃除させたいからって、人をサイボーグの様に不眠不休で活動出来る様にするなよ。皆の行動がバブル期のサラリーマンみたいになってるじゃないか。24時間どころか、活動時間は伸びてるし・・・。
「お父さんはこれ加工できない?出来ればボタンサイズとか。」
遥に手渡されたのは1m四方くらいの殻。元々ダンゴムシはサイズはバラバラだが結構大きいので、これくらいの大きさも全然ありである。しかしボタンサイズか、面取りとかしなくていいなら、多分出来るがそれで良いのだろうか?とりあえず、キセルをプカリ。煙で殻を覆い隠して縁日の型抜きをイメージしながら、均等に丸く抜いていく。ふむ、どうにか出来そうだ。元が大きいのでボタンもたくさん作れる。
「サイズの指定がなかったから、Yシャツのボタンくらいの大きさにしてるが良かったか?」
「いいよ、小さいものに刻印して効果を試したかったし。その大きさに刻印して十分な効果があるなら、ファション性のあるゲート衣装ができるかも。と、そう言えば斎藤って人から手紙来てたよ。」
そう言った遥から大きい茶封筒が渡される。開けて中身を確認すると前に渡した素材の事が書いてあった。魔法糸、これについては様々な検証の結果強度としてはやはり、高槻産の糸には及ばない。ただ織り込んで布にすれば、その糸も取り込んで修復するので強度は増すそうだ。
素材が20階層以降なので、ボチボチ攻略しながら探すとしよう。他の素材ではダンゴムシの殻の強度が判明した。グラフェン、斎藤の研究分野であるカーボン、つまりは炭素である。蜂の巣状に結合した炭素原子の構造体なのだが、まずその密度がおかしいらしい。資料には専門用語が多数あってスマホ片手に読み解いたが、素粒子レベルでこの構造をしているらしい。
その上で、グラフェンは構造状垂直衝撃に弱かったが、素粒子レベルで作られたダンゴムシはどの方向からも衝撃に強く、モンスターのビームに対しても、持ち前の熱伝導率の高さから当たった面から、電気の様に表面だけを熱が伝い抜けていくそうだ。なんでそこまで分かったかというと、斎藤がダンゴムシの殻を半紙程度まで意地でスライスして、それを豚肉のブロックに巻き付けて砲撃型にゲート内でビームを撃たせたらしい。その結果、豚肉は新鮮で素材は無事という結果が出たと書いてある。
この結果から考えるとゴテゴテの鎧ではなく、軽装で十分に行けそうだ。最悪、夏目の様にマントスタイルでも構わない。何ならインナーに内張りか外張りしてもいい。無論、重ねれば重ねただけ強度は上がるので・・・、ゴスロリドレスはありなのか・・・。あれだけ布を重ねた服、それをダンゴムシ素材で作ればさぞ強度はあるだろう。
ただまぁ、職に就いていなかったら、人類はダンゴムシさえ狩れなかっただろうな・・・。まぁ、腐っても20階層以降に出るモンスター、下手に体当たりでもされればコチラが負ける。嫌だなぁ、ダンゴムシに蹂躙される人類とか・・・。
「百面相しながら読んでるけど、それ面白い?」
「遥、SFパニック映画のモンスターがダンゴムシだったらどう思う?」
「とりあえず、丸めてボーリングみたいに転がすかな。」
呆れ顔で話すが、なるほどその手があったか。ダイヤモンドは硬い。しかし、ハンマーで叩くと割と簡単に砕ける。仮にダンゴムシを砲弾にすれば速度の勝る方が勝つ。つまりは、ダンゴムシはダンゴムシで倒せる。
いくら硬かろうが、元は同じ素材なのだからやってやれない事はない。なら、ダイヤモンドカッターよろしくダンゴムシカッターを作れば既存の工業製品でダンゴムシが加工できる。これは斎藤も気付いているだろうが、一応連絡してみるか。
「もしもし、斎藤さん?クロエです。データ受け取りました。その事でお話したい事が。」
「もしもし、お久しぶりですクロエさん。斎藤です、話したい事とは?」
「ダンゴムシについてです。グラフェンはセロテープで採取できましたよね?確かそれでノーベル賞取りましたから。ダンゴムシもそれでいけないかなと。」
鉛筆とセロテープでノーベル賞。前に世間を賑わせたから覚えていたが、それで採取出来るなら粉にするのがかなり楽になる。それが駄目なら代案として赤峰に、衝撃使って殴ってもらい粉砕するくらい?
「流石にそれは、駄目ですね。採取して何がしたいんですか?アレの加工は鍛冶師でも難儀するんですよ、構造を理解している分、相当硬いって事が分かっちゃうんで。」
「娘と話していて、あれを粉にしてダイヤモンドカッター的なものが作れないかと。モンスターとして動いている分には難しいですが、素材としての殻なら一般工具でもイケるんじゃないかと・・・。」
そこまで話したが斎藤から返事がない。流石に無理か、斎藤はその分野の専門博士。素人の思いつきそうな事は斎藤も思いついてるだろうし、既に試しているかもしれない。構造が分かって衝撃実験もしてるんだし。
「矛盾ですね、娘さんは天才ですよ。私達は構造や成分に目が行って次は職による加工ばかり話してました。なるほど、同成分を含む刃なら切れない事はない・・・、摩耗もするでしょうが装飾師の固定を使えばそれも回避できる・・・、いや、そもそも固定は職の能力であるからして、殻よりも強度が上がる?まてまて、そもそも切るのではなく、表面材として改造すると考えれば・・・。」
斎藤がブツブツ考え込み出してしまった。その分野の専門なので、インスピレーションからの発展は早いのかもしれない。当分帰ってこなさそうなので電話を切るか。また何かあれば連絡か封書をくれるだろうし。
「お邪魔な様なので切りますね?また何かあれば・・・。」
「待ってください!そもそも何で殻を殻で加工すると考えたんですか?雑談の経緯を教えてください。」
「SF映画のモンスターがダンゴムシならどうする?と聞いたら丸めて転がすと答えたので、そこからですね。」
「なるほど、なるほど!加速度とぶつかりによる衝撃、更に高熱伝導率な為に当たってもその部分に発生した熱は瞬時に霧散する。なら、ダイヤモンドカッターが行ける?それで加工できるなら、大量生産ラインも可能で!ありがとうございます!また何かあったら連絡します!」
そう言って斎藤は電話を切った。・・・、明日からは素材採取でダンゴムシ狩るか。狩ると言っても生息地なんて便利な言葉はゲートに無いので、探して回るしかない。一応、空を飛んでいるので見つけられない事もないのだが、あれ自体が硬い上に余り攻撃してこないので放置気味である。しかし、斎藤は大量生産とか言ってたし、集められるだけ集めておこう。
「なんか凄い人だったみたいだね・・・。」
「自分の研究分野が進むかもしれないから、嬉しいんじゃないか?カーボンナノチューブならグラフェンと同じ炭素だし。」
しかし、そう考えると今年からのノーベル賞は荒れるな。どの分野もゲート出土品を取り入れた研究をしているだろうし、そうでなくとも何世代も先の技術を見ながらモノ創りが出来るのだ、躍進しない方がおかしい。
「ただいま戻りました!いやぁ、途中で警備交代があって暇なんで千代田さんに言ってゲート入ってたら、こんな時間になっちゃいましたよ。」
ドアを開けて望田が帰ってきた。駐屯地には寄らずにこちらに直帰したのだろう、服はキレイだが髪などにホコリがついている。
「お帰り〜、シャワー空いてるよ。」
「お帰りなさい、なにかいいもの取れました?」
「最近思うんですよね・・・、私って実はハーレム系主人公何じゃないかって。美しい師匠にかわいいルームメイト1つ屋根の下、両手に花じゃないですか?」
望田が疲れて壊れたらしい。なんだろう、この痛い感じ。本人がそれでいいならいいのだが、できる感じの残念キャリアウーマン化が止まらない。まぁTPOは守るし安心感と信頼感はあるので、二枚目半辺りだろうか?
「その華は元おっさんだ。忘れていると絶望が追いついてくるぞ?」
「戻る宛が無いなら華で確定で〜す!」
望田が声を残しシャワー室へ消えていく。まぁ、宛がないのでこの姿は自分で言ったが永遠である。周りは色々思う所もあるだろうが、本人としては割と気にしていない。何なら食ちゃ寝しても太らないし健康以外有りえない身体なので、それほど不便はしていない。まぁ、後は気の持ちようかな?
「その・・・、お父さんはどうなりたい?」
「中身は変わらんから、性別は些事かな。遥の娘か息子が出来たら、若いお婆ちゃんが名乗れる。」
ガチの美魔女!若いお父さんが有りなら、若いお婆ちゃんやお祖父ちゃんのもありなはず!そもそも薬がある以上、外見に意味はなくなる。まぁ、性転換の薬があるかは知らないが、整形とかでなりたい人はなるだろう。
「いや、若すぎだから。私よりよっぽど少女してるから!」
そう言って遥は前に街で撮った写真を見せてくる。今の若者は写真の時どんなポーズを取るのだろう?昭和生まれだと、大体ピースサインである。しかしまぁ、これでお婆ちゃんは確かに混乱するな。
「ふむ、その際はお姉さんを名乗ろう。その方が混乱しないだろう。」
「いやいや!余計わからんくなる!お父さんがお姉さんでお婆ちゃんでお祖父ちゃんとか、どれだけ属性盛るの!?渋滞しすぎて訳がわからないよ!」
会わせないと言わない辺り優しい子だ。しかし、自分で言ってなんだが、確かに要素が多すぎて訳が分かわからんな。まぁ、戸籍が女になったので、名乗るならお婆ちゃんだよな?外見は若返りの薬でOK。他は?似てないとか?こればっかりは仕方ないな。世代を重ねていけば袂を分かつ時も来そうだし。どこまでも見守るつもりは多分無い。してもひ孫くらいまでかな。あまり構いすぎても老害になるだろうし、その頃には悠々自適な生活を送れているはず!
「とりあえず、お婆ちゃんでいいよ。戸籍も女性になったし。難しいなら名前でもいい。」
「まぁ・・・、お父さんがそれでいいならいいけど、あんまり無理はしないでね。」
「周りが思うほど本人は気にしてない、何なら肩コリと疲れが消失したから割と快適だよ?」
「もう・・・、お母さんにあんまり心配かけないように。」
年々遥が莉菜に似てきた。成人もしてるのだ、それだけ人生経験を積んで理想の大人像が出来ている。多分遥は妻の様な女性に憧れているのだろう。それなら、妻は子供達に素敵な大人として見られているはずだ。
「上がりましたよ〜、次どうぞ〜。」
望田がシャワーから上がり俺も遥もシャワーを浴びて、ルームサービスを頼んで乾杯!料亭でもどんちゃん騒ぎしたが、気心の知れた仲で飲むのは別です。そうして過ごした明くる日、講習会メンバーに本部長についての話と、ギルドの立ち位置に付いて情報共有を図る。反応は様々、宮藤は職員枠なので辞退したいと言うし、卓は更に精進すると意気込む。兵藤と小田は互いに考え込んでいるが、多分自衛隊のしがらみだろう。赤峰は泰然としながらも井口の方をチラチラ見ている。恋仲なのだ、離れたくは無いのだろう。
「はい、各道府県に設置するにしても、人が足りない分はどうするんですか?」
忘れたい事を雄二が聞いてくる。まぁ、先の話だよ。松田がそう言ったし、これが直近で行われたらガチギレしてビルをボッシュートしまくるぞ。せめて、35階層到達までは様子をみてくれると願いたい。そもそも、元締めはうちなのでいつ開催するかの権利は持っているのだよ、ふははは・・・。
「政府は天下一武道会の様なモノを考えています。参加資格、参加条件は不明。ただ、口振りからすると最初は下位で有る事が参加条件になりそうです。因みに、警察、自衛隊、民間の三つ巴なので手を抜くとここのメンバーでも、ボコボコにされる可能性があります。」
その話を聞いた赤峰があからさまに落胆した。モンスターを倒すのと同じくらい模擬戦好きだもんな。そんなに落胆するなら、エキシビジョンやる時は赤峰にお願いしよう。
「さて、これからゲートでの訓練になりますが、20階層以降に行く際は積極的に素材を集めてください。コレの集まり方次第でみなさんの防具ないし衣類の質が変わります。ボディラインに自信のない人は居ないと思いますが、それでも私達や後進の生存率に関わるのでお願いします。」
そう話を締めくくって教室から移動してゲートへ。20階層に全員到達したので、今は基礎固めと先へ行きたい人は、少人数でもいいのでパーティーを組んで行かせている。やはり積極的に先へ行くのは中位と向上心の強い人間。その為の20階層に残るメンバーはかなり限定的で、残る理由も先で試すと危ないイメージのある技や、1人で20階層のモンスターを楽に狩れる様になりたいからなど、それぞれが目的を持っている。
「お、いたいた。クロエさんちょっとばかしいいか?」
「いいですよ赤峰さん。何がありました?」
黒いタンクトップ姿の赤峰がこちらにノシノシ歩いてくる。模擬戦の申し込みかな?何にしても彼がここに残っているのはままある光景だ。井口と仲良くモンスター討伐デートをしている。まぁ、至った経緯が経緯がなので特に何も言わない。兵藤が悪鬼羅刹の様な顔で見ている事もあるが、スルーするのが大人の対応・・・。前に慰めに一緒に飲みに行ったら、相当愚痴ってらっしゃった。
「俺じゃねぇんだが、橘さんがよ。そろそろ20階層まで来たいって叫んでるらしいんだわ。仕事も忙しいんで5階層以降に来ようにも時間がねぇし、脱出アイテム渡しても護衛されてじゃ、な。なんでクロエさん、キャリーだっけか?あれをお願い出来なぇかとな。」
おめでとう、橘缶詰はシュールストレミングに進化した!その心は?爆発するのさ。まぁ、職場の環境改善は図れても仕事量は多いし、昨日の話を考えると、黒岩から身体を鍛えろとでも言われたのだろう。現状、中位で20階層へ来てないのは橘だけ。他の県は知らないので、もしかすればいるかもしれないが、それでも15階層くらいは行っているだろう。
「いいですよ。多分、武道会の話で動きがあったんでしょう。橘さんも鑑定ばかりで飽きてきたんでしょうし、遊び場を提供するとしましょう。まぁ、先ずは15階層までですけど。」
「ありがとな、クロエさんやっぱ飛べる飛ばせるってのはいいな。お礼に俺と井口タッグと模擬戦でも?」
「やりたいだけでしょう、橘さんの予定とかってわかります?」
「今日も缶詰、別に環境が悪いんじゃなくて、鑑定品が橘さんの精神に来るんだとよ。まぁ、鑑定師は鑑定したら使えちまうからな・・・。」
理性的な人間ほど確かに来るだろうな。王様の耳はロバの耳の童話ではないが、鑑定品の中味がコチラが予想した以上のモノという可能性・・・、いや、政府が設計図をなくせというくらいなのだから、完成品もそれ相応だろう。そう考えると、1品鑑定する度にSANチェックどころか、ダイスロール無しに確定で減らされてる?それを考えると、きついだろうなぁ。
中位になったので5階層程度では遊びどころか、攻略本見ながらRPGをやるようなもの。しかもつよくてニューゲーム状態。スクリプターを習得したので、更にダンジョンは単純化される。やはり15階層か20階層まで連れてこないと、気晴らしにもならない。
「分かりました、私は一度は退出して橘さんと連絡を取ります。」
「おう!頼んます!」