閑話 138 作成群体@4
愚物・・・、その言葉にじっとりしたものを感じる。リンク内ではそれこそ総てがひっくり返った様に止めどない会話が・・・、会話と呼べるかも怪しい叫びが流れる。何を差し出すのか?それには回答した、全てと。それは愚かしい事なのだろうか?長らくあった願いを叶えるのに差し出せと言われ、全霊をかけて叶えてもらうと言う事が・・・。
「・・・、愚物とは?」
姿は消えたがその言葉がこびり付く。総員で精神クリーニングと船のシステムクリーニングを行うが、どれほど効果があるか・・・。我々が出会ってきた精神体よりも遥かに高次元、そこにあるだけで狂う程の精神体であり構造体とは想定外だ。
しかし、それだからこそ我々の望みは叶うのではないか?今の者を外的要因と言うなら、それは苦しみの中にある新たな息吹とも言える。
「総てと言うならアナタはアナタじゃなくてもいい。蒙昧になって消えるだけ。その滅びを願うのは愚物でしょう?先に進めば進むほど、身を捨てるなら中身ほど、何をどうしたいか思い描けないなら消えるだけ。精神体に成りたいと言う思いが叶った後には何も残らない。」
「先・・・、成った後に考える事も出来るのだろう?」
「さぁ?精神体に至る為に総てを捧げた後に思考できるほどなにか残るかしら?その思考さえも捧げているのにねぇ。」
虚空が嘲り笑った様な気がする。こうして話していても姿は見えず先ほどの美しさも頭から離れないが、それでも私は総主として考えをまとめなければならない。相手は『暇』と言う1言を送る為だけに我々では解析不能な道のエネルギー物質をばら撒きより寄せる様な存在で、根本的に身のあるなしがある時点で考えも違う。
先程の話を警告と受け取るならまだ話は通じるのか?総てを捧げるといい、了承されれば我々はそのまま消えて行ってしまっていたのか?それとも・・・、このやり取りさえ暇潰しなのだろうか?
精神洗浄により同胞もいくらか落ち着きを取り戻してきている。冷静に考えれば先程の姿を見せるだけで我々は種としての終わりさえ迎えかねなかった。しかし、終わりは訪れず我々はまだここにある。
「全員で話し合う。我々はこの取引を受け入れるべきなのか?既に結果として精神体となった環境破壊者を我々は検知している。」
「・・・、この先我々だけで精神体となれるのか?」
「他を探すと言う手は?」
「長くを模索する時間に当て他の星や種族とも邂逅しましたが、見つからなかった道が見つかったので願うべきだと考えます。」
「精神洗浄を実行中。交渉により差し出すものを考えてから釣り合わずに拒む事も可能性だと愚考します。」
「暇と言うならそこにあり続けるのではないか?時が流れ様と精神体は基本的にその時間と言うモノを気にせず縛られない。我々で今一度道を探す事も可能なのではないか?」
「しかし、アレは我々が差し出すと予見していた。」
「その予見がどこまで正確なのか?でまかせと言う線もあるのではないか?」
「私達の作った未来統計システムの結果、我々だけで精神体となるのは困難であり、成功した場合も滅びるとでました。数多の再検証をしましたが、結果は変わりません。」
「先程の外的要因は加味されていますか?再検証を要請します。」
「結果は変わりません。精神的要因と身体的な要因は別です。」
「総主の意見はどうなのか?思考放棄ではないが結果は選ぶか選ばないかの2つしかない。既に精神体として成り立った者を見れば選ぶのは1つしかないと考える。」
種として先へ進むのか、それともこのままであり続けるのか?観測出来ないもののまだ見られている様な気はする。ならば問は可能だろう。回答がなければまた議論すればいい。ただ全員での議論は時間がかかり相手がいなくならなければいいのだが・・・。
仮にここで逃せば次の邂逅の時はいつになる?結論は早期に出す、議論したはまま答えを得ずに滅びに進む星もあった。我々はそうはならないと考え結論を急ぐが、それでも種としての先がかかっている。
「問う。差し出すモノはなんとする?」
「精神体に成りたければ意味以外は剥奪ね。まぁ、意味次第では暇な同族が多少は手を貸してあげるわ。それに、私達も悠長な暇潰しは飽きたから能動的な暇潰しを考えたの。それに協力してくれればいい。」
「協力・・・、我々に道化を演じろと?」
「まさか。次に会う気もない愚物だもの。ゴミ箱だったかしら?アレの入口に勝手に細工するだけよ。どうせ中に興味のないアナタ達は他に押し付けて持て余してるのでしょう?いつも通り知性ある者達の所へ運びなさい?それだけでいいわ。」
「暇潰しはいいとして意味以外の剥奪・・・。」
精神体は何かに執着する。それは観測であったり、本人達の考える実験であったり、他種族との交流に括るものもある。それが本人達の意味とするなら我々の意味とは作る事だろう。それは過去より今に至るまで脈々と行われ続け、今も尚作り続けている。それを体現する精神体ならば我々としては望むところだ。
「意味は作る事。それは我々の総意である。ただ、手を貸すの部分を確約してもらいたい。精神体となって総てを十全にこなせるとは考えていない。」
「そう・・・。その楽しみも差し出すなら・・・、誰が名乗りを上げなさい。」
「なら僕が視ようかな?運び手なら多少は視ておきたい。」
「貴方が来るなんて珍しい。お遊びはもういいの?」
「いいさ。知を分けて価値を貰おうにもその価値がなんだか分からなくなって暇だからね。それで?」
「これから作り変える。意味は作る事。」
「ふ~ん・・・。」
姿はやはり観測出来ない。ただそこにあると言う感覚なんて言う曖昧なものだけが新たな存在が来たのを知らせる。我々の技術や経験は何だったのだろうか?確かに広い闇の中には我々が夢想する以上に高等なモノはいる。
「さぁ・・・、意味以外を炉に焚べて、灰に変わって作り変え、境界も曖昧になれば、意味を求めて縋り付く・・・。」
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その取り引きを経て我々は精神体となった。手を貸していた者に教えを請いつつも、自らの作る事への際限ない執着により何度も失敗を繰り返した。そうして手を貸した者も離れた頃、最悪の失敗をした。ゴミ箱の底にある者・・・、かの者達が『暇』とメッセージを書き込み放出したプレートを使い作った者。
あのプレートは彼等が身を捨てた際に残った抜け殻の一部だ・・・。本来は無害だが、我々はアレを使った。アレだけはどうあっても始末してもらわなければならない。




