66話 討論会 後 挿絵あり
「やはり、官民一体構想は捨てられませんか?」
「ライセンス所有者を給料を出さない予備役ないし、準公務員とするのはいいですよ?ただ、ライセンス受け付けは免許証習得並みで、回収品の権利は発見者。これだけは譲れませんね。現状そうなので、そのまま行けるでしょう?」
政府としては嫌だろうな。ゲートから出る価値不明な物も、買い取らなければならない可能性もある。それだけでは無く、現状もそうだが、市民が武装する事になる。そうなってしまえば、誰かが武装決起する可能性は0ではない。法で縛ろうともその可能性がある以上、政府にしろ警察にしろいい顔はしない。
「警官や自衛官だけでは対処しきれないと?」
「死ぬリスクがあるのに、わざわざ安い給料で死ににいけと?それに、公務員に限定すれば、それになろうとする人間も先細りでしょう?」
継続的な掃除を望むなら、やはりそれでは駄目なのだ。一攫千金の夢だろうと、不老不死や若返りの夢だろうと、希望を持たせないと誰も死地へは赴かない。今はいい。先の話、ゲートと付き合っていくなら何処かで公務員限定システムは崩壊する。それこそ、兵役でも課さない限り無理だ。仮に兵役を課せば、それは官民一体と何も変わらない。
それどころか、スタンピードが発生した際に無理やり徴兵すればさらなる反発が起こり、武装決起への片道切符を買う事になる。なら、最初から民間を取り込んで1つの業種と位置付けた方が、後からシコリを生む事なく話が進められる。
「・・・、はっきり言って指輪に武器や設計図を収納されれば、現状で確認する手立てがない。民間を入れれば不特定多数にそれをばら撒くことになる。この国は外国より安全です。しかし、それは国民が武器を持たないからと言う面もある。それを知った上で民間を入れると?」
痛い所を突いてくる。縮退炉の話を知っている以上、無視できないリスクだが、それを天秤に乗せてまで民間を入れるのかと。しかし、それは・・・。
「警官、自衛官とて人でしょう?誰も彼もが高潔な訳では無い。現に今ゲートに入った人間の、指輪の中身は誰も知らない。私の指輪の中身とてそうだ。それに、こうして警官と自衛隊のトップを集めて話している以上、その辺りの法整備も進めているのでしょう?大きな話をすれば、核ミサイルが飛んでくるかもしれないからと、保有国を攻撃はしない。それと一緒です。」
「それはあまりにも極端すぎる・・・。我々が恐れるのは、知らぬ所で発生する取り返しの付かない事態だ!近代兵器はまだ、国が管理している、それを個人に任せる事態が怖いと言っているのです。」
ふむ、大局を見ている。しかし、それを見るには遅すぎる。この問題は日本だけでどうにか出来るものではない。既にゲートは開通し、知らぬ所では知らぬモノが日夜持ち出されている。責任の所在を自国外にしたいのは分かるが、そうした所で禍から逃れるすべはない。それこそ、ゲート内に移住でもして、危ない階層から逃げでもしない限り・・・。
「なるほど、交渉権を欲しがる理由はそこですか。人類では扱いに困る兵器設計図の消去ないし、スィーパーの武器や能力に対する制限。」
ゲームではないが、フレンドリーファイアが無いだけでモンスター討伐はしやすくなる。世にいう『俺ごとモンスターを殺れ!』で攻撃しても、人は残ってモンスターにはダメージが入る。それができれば、日常での犯罪はかなり限定的なものになるが・・・。
『賢者、それって可能なの?』
『無理。設計図とかは多分、これから先なら出来るけど、職への介入は出来ないよ。』
うぅむ、やはり職業システムへの介入は無理・・・。最初の交渉でも職変えてが駄目だったから、無理だろうとは思っていたが、無理と言い切る以上駄目なのだろう。
「可能であれば我々はそれを願いたい。設計図や武器へ制限だけでもいい、最悪の事態だけは避けなければならないのです。」
「武器や設計図については可能でしょう。しかし、職については無理です。それに、今ここでその話をしても、交渉の席の場所が分からない。自衛隊がゲート内に駐留施設を作ってくれるなら、私としては是非とも協力していきたい。」
実際住んでいる人もいるし、大井の話ではソレの構想も既にあるのだろう。なら、ここでその施設に1つ噛ませてもらう。奥に進んで退出ゲートがあれば帰って来れるが、それでもゲート内で補給出来るならしたい。薬を切らした時に治療できる施設ならなおよし。装飾師の固定で建材は箱以外でもどうにかなるようなので、建設も進むだろう。自衛隊の施設科ならその辺りはお茶の子さいさいである。
この話に先に戦線離脱した大井も頷く。さて、両方にいい顔出来たが最後の松田か。交渉権の話はそりゃあ出来るならしたいが、かなり先の話になるだろうな・・・。権利自体も今の所譲る気はないので、そろそろ落とし所を探りたい。多分、国外からも寄越せと打診されているだろうし。
「交渉する前から無理と言われては立つ瀬がない。貴女は不死であると聞いています。しかし、何時までも権利を1人で持ち、安寧のない生活もつらいでしょう?早期に席を発見し、交渉人を増やす事は出来ないのですか?」
「それも無理ですね。相手は時間の浪費を嫌った。今以上に交渉人を増やす事に是とは言わないでしょう。権利の譲渡についても、あまり求め過ぎても今度は材料が無くなる。そもそも、交渉材料がないのですから。」
「交渉材料・・・、例えば、私の寿命はどうです?」
松田が無表情にその言葉を言い放ち、聞いていた2人が固まる。不死である事は2人とも知っていたようだが、交渉材料までは聞き及んでいなかったようだ。
「待て松田さん、それが材料になり得ると?」
「そうだ、それは余りにも酷い取引では?」
大井と黒岩が声を上げる。話だけ聞けば酷い交渉だろうが、千代田から情報を得ていての発言なら、彼の言い分も分かる。試してはいないが、確かに俺は時間を捧げた。しかし、それと交渉材料がイコールとも限らないのが現状で・・・。仮にそれで交渉出来たとして、俺と同じ結果になるとは限らない。俺はあくまで職業に就く為に捧げて、超過分で色々交渉したのだから。
「それを彼等が是とするかは分かりませんよ?誰も・・・、私でさえ再交渉していない。その中で、その選択肢を出すのは軽率でしょう?先ずは会って話す所から。そうでもしないと相手を探る事も出来ない。」
「しかし、可能性はあるのでしょう?貴女が未来を見るように、我々も未来を見ている。その為の交渉であり、交渉材料です。仮に欲しい物があれば、出せるものは出しましょう。政府はそこまで本気でいる事を分かっていただきたい。」
松田が静かに見つめる。松田が捧げる訳でもないが、本気の度合いは分かる。それこそ死刑囚の寿命を交渉材料に使うなり、人そのものを差し出すなり、やりようはいくらでもある。ただ、これを容認すれば、引き返す道はなくなるのではないか・・・。いや、既に大勢を巻き込んで事を起こしているのだ、今更か・・・。
知らない人の命の価値は?・・・、残念ながら言葉1つ分しかない。それ即ち『お悔やみ申し上げます。』だ。俺の中には観測出来なくなるものが入っているらしいが、観測出来ないなら無いも一緒。海外で誰かが死のうが、どこかの戦場で兵士が空を見上げようが、俺には対応出来ない。その対応出来ない部分を松田はやると言っている。
「そこまでするなら、私も政府の一組織の人間として動きましょう。特別特定害獣対策本部は政府公認の準政府機関。立ち位置的には警察と自衛隊の中間組織で、対モンスター及びスィーパーの犯罪に対抗する組織。本部長も職員も官民問わない。ただし、腕っぷしは考慮するものとする。本部長が間違いを犯した場合は・・・、他の本部長が力尽くで叩き潰す。その他の草案は既に政府にあるのでしょ?」
そこまで言うと、松田は1つ頷き資料を取り出した。結構分厚い紙の束だが、付箋があちらこちらに貼ってある。草案といったが、かなり深いところまで作り込みは進んでいるようだ。まぁ、それもなければ根拠なく逮捕することになるしな。ゲートの武器なんかは銃刀法で取り締まるには、ちょっと形状が特殊過ぎる。
「大まかなところで言えば、公の場での武器使用及び、取り出しの禁止。スィーパー以外の人間に対する能力使用禁止等があります。刑罰としては、ゲート下層への幽閉刑から軽いものではユニークモンスターのクリスタル回収まで様々。
今、講習会で教育されているモノも盛り込まれています。ほか様々な意見が有りますが、早期に妥結させ新たな法として整備しましょう。黒岩さん、大井さん。こちらは両組織にも関わる部分があるので、人員の教育はお願いします。特別特定害獣対策本部、通称ギルドに付いては内容施設の話し合いが有りますので、クロエさんから意見を頂きたい。これについては交渉を千代田君に一任しています。そちらの方が話しやすいでしょう。」
日々新しい法案がバンバン出ていたが、漸く大綱が出来るのか。まぁギルドが何処にどう組織化されるか分からなかった所が大きかったのかもしれない。しかし、約2ヶ月でここまでくれば上々だろう。
「私は本部が地元にできたら帰る。その件は了承済みですよね?他の講習会メンバーは本部長候補、私はそのつもりで助言役として行動してますが、そこは明確にして欲しい。」
これは必ずハッキリさせなければならない事。のらりくらりと躱されて、そんな事言ったっけ?とでも言われたらたまったものではない。特に再三帰るとは言っているが、講習会メンバーがそのまま本部長になれるかは、個人的な考えで確約は確かなかった。
しかし、各都道府県に本部を設置させるなら、そこに長は必要で、更に言えば今のメンバー以外を更に鍛えろと言われても、地元で片手間ならいいがここに腰を据えて、ガッツリやれと言われればそもそも帰るという話が無くなる。
永遠のうちの数十年くらい、いいじゃないかって?バカを言え。俺は歳を取らなくとも周りは老いて行くんだよ・・・。薬で若返ったり不死になったり、寿命を買った所で、家族と過ごす今という時間は戻らない。なので、この辺りはハッキリさせる。
「その話は大丈夫ですよ。再三言われていますから、そうなるように話を進めています。本部長については・・・、明言出来ませんが、少なくとも中位の方達は長になると思ってもらって構いません。職に区別がある以上、みだりに講習会メンバーだからと下位職の方を本部長とするのは難色を示す方もいる。」
「中位を本部長確定基準にすると?」
「うちからは兵藤と小田か。」
「うちは橘と赤峰、橘を手放すのは無理があるな・・・。講習会メンバーで無いにしろ、Sの中位。警察の切り札だ。」
大井は考え込み、黒岩は頭を抱える。両組織ともやっと手に入れた切り札を出せと言われたのだ、その気持ちも分からないではない。しかし、松田の話は分からない話ではないが、それでも空席が出るような・・・。至る至らないは明確なプロセスがあるわけではない。赤峰と兵藤と小田が至った姿はビデオで残っているが、検証材料にしては少なすぎる。
職の能力を高めるなら気付かせていけば、ドンドン強化出来る。現に小田は空を歩き、夏目はモンスターを制御し、ほかのメンバーもインスピレーションが湧けば試し、新たな力をつけている。
しかし、それが中位に直結するかは別。ただただ強くなればなれるのなら、ひたすら対人戦をしていても至れる。それで至れない事はないだろうが、それよりも重要なのは感情の爆発だと思う。卓や宮藤が至る姿を見て、赤峰達の話を聞けば自身で道を決める時には、何かしらの感情爆発がある。
そして、その爆発が第2職を生むのではなかろうか?元から適正のあったものに加え、更に追加される1つ。それを選ぶ選ばないは別として、中位に至る為には自身に足りないモノをどうしても補いたいと願い、その上で先に進むという決意。そんなものが必要だと思う。
「言いたい事は分かりますが、誰も彼もがすぐさま至れるわけではない。それで納得しないなら、漫画よろしく天下一武道会でも開くしかないですね。」
まぁ、開いたら良くて再起不能下手すれば死人続出、右は強き敗者、左は弱き敗者。真の勝者は元締めであり、観客しかいない。それでも強行すると言うのなら正気を疑う。しかし、松田はこの話にニャリと、笑って返した。何かしらの代案がある?
「貴女が地元へ帰ってから持って来たお土産品、中々面白いモノの様ですよ。どうしてもそこに住む人間は、自分の周りしか見なくなってしまいますが、貴女のおかげで地方に目を向ける、いいきっかけになりました。おかげで各閣僚も地元に帰って出土品の傾向や精査に大忙しです。」
「何が言いたいんです?」
「ゲートの武器は鍛冶師が改造できる。なら、装置関連もそうでしょう?とある企業が、出土品に地球規格のハブを取り付ける事に成功しました。まぁ、まだ調整段階ですが・・・。何しろ処理速度が違いすぎて、富岳が子供の玩具に見えるそうです。」
タバコをプカリ。富岳って確か京の次に出た現時点で世界最高のスパコンだよな?アレが玩具かぁ、口ぶりからするとPS5と、おはじきくらい差があるんだろうかなぁ。寧ろ、それで足りれば御の字とか?
「松田さん、うちらがその情報を持ってないのはいい。しかし、政府は何を考えている?」
「黒岩さん、やる気なんじゃないですか?警察には柔道剣道の有段者多数。自衛隊には徒手格闘に銃剣道、そしてお互いに射撃。民間含めての本当のガチンコ対決。」
おっさん2人が嬉しそうに話している。そうか、歳的にはプロレス世代だもんなぁ。電流爆破マッチとか好きなんだろうなぁ・・・。いや、政府トチ狂った?使えないコンピューターを使えるようにした、よし対戦しようじゃないんだよ!なんでそこで戦闘民族出しちゃうの?そりゃあ、狭い島国で近代まで延々切った張ったして世界一の大国にも噛み付いたけどさぁ!
「官民一体を推し進めるなら、貴女の言う腕っぷしを大々的に見せる必要性がある。この大会の上位者を本部長候補として擁立するのが、分かりやすいでしょう?無論、審査は厳しい上、構想段階ですが。」
審査と言うからには人格とか経歴とかだよな?流石に某ガンダムよろしく、何人以上倒して本戦参加でゲートがリングだとか言わないよな?寧ろ、そんな構想潰れてしまえ!息子が空手出来なくて可哀想だなからのお土産品だったのに、どうしてこうなった?絶対ARとVRの機械が1枚噛んでるよな?
「クロエさん。美しい顔が歪んでいますが、先の話ですよ、先のね。」
「そうですね、先の話ですね・・・。参加資格を作るなら30階層到達者とかにしてください。元締めは・・・、うちがしましょう。」
知らん間に話を進められて、気がついた時に投げて来られても困る。糠だろうがなんだろうが、釘は刺すよ。それに絶対何か良からぬこと考えている。ただ、見方を変えるとこれ程分かりやすい犯罪抑止もないんだよな・・・。仮に、ただの老人と亀仙人どちらに守られて教育されたいかと言われれば100%亀仙人だろう。
なら、大会優勝者がその都道府県の、ギルドマスターだとしたら?スィーパー云々ではなく、スタンピードの際の安心感が違う。特に東京に住む人なら、あの恐怖は忘れられないだろう・・・。怒声と罵声に銃弾の音、落ちる飛行機に人の焼ける匂い・・・。ギルド運営資金用にクジでも売るか・・・、収益はかなり出そうだし。松田は若干苦い顔をしているが、政府が元締めをする算段だったのだろう。面倒だが、エキシビションマッチで出場しろと言われても嫌だ。
「準備期間と取って、早期に動きますかな。」
「うちも武道経験者枠を拡大しましょう。」
黒岩と大井は既にやる気で先を見ている。仮にうちが出すなら雄二かなぁ。中位出していいなら出すけど、そもそも2人は話によると、本部長の席に既に座っているようなものである。どうやるにしても、SやEXどうするの問題が出そうだが、さてはて言うからには政府に原案があるのたろうし、うちは指示通り動くか多少手を加えるくらいだろう。
そう言えば、他のEXに会った事はないが早々出るものではないのだろうな。ソーツの話でも上位の先かそれしか適性のない人と言っていたし。仮にいるならあって話してみたいが、ややこしくなりそうで嫌な面もあるな。
「そう言えば、全体でどれくらいSがいてEXはそもそもいるんですか?」
いい機会なので聞いてみよう。知り合いでは2人、鑑定課の人間を含めると5人、帰った時に商店街にいた人と、会えなかった鋳物師を含めると7人は確定でいる。望田の様に防人が量産されているなら、かなりゲートの掃除は捗るのだが・・・。
「警察が把握しているだけでスィーパー全体の約5%程度。多くはないですが、それでも少なくはない。」
「自衛隊内では約2%くらいだったか?スィーパーでない者もいるので、確定ではない。」
総人口1.257億人として約6百万人はSの可能性がある。確かに、これは多いか少ないか分からないな。それに16歳からしか入れないので、実数は更に下がる。インドとかなら更にSがいる可能性があるが、こればかりは適正が物を言うので理想数である。因みに、インドゲートの1つはガンジス川の辺りにあるそうな。
「そう言えば、クロエさんはEX職だと。政府としても貴女以外未確認ですが、なれるものなのですか?」
松田が興味深そうに俺の方を見る。他の2人も俺を見るが成れるかと言われれば、無理ではないとしか返せないんだよな。
「1つは上位の先に到達する。これによりEXになれる可能性が有ります。但し、これには職の組み合わせが必要らしいので、至れるかは分かりません。もう1つはそれしか適正の無い人です。松田さんは私がEXになった経緯を?」
「千代田の方から情報として上がっています。その過程で、貴女が不死になったとも。千代田は貴女が不死であると一点張りでしたが、これは我々の推測ですけどね。」
ふむ、推測されたなら仕方ない。千代田も色々シガラミがあるようなので、あまり辛く当たっても仕方ない。まぁ、その推測がどこまで正確かは別として、死ぬから交渉権利を寄越せと言わない辺り、不死である事は政府内では共通認識なのだろう。
交渉権の話の時引き下がりが早かったが、不死であると確定認識があるなら無理に奪わなくても、俺を手懐けて手元に置いておけばいい。
「出る確率は不明で、しかし、出れば強力。至るプロセスがある以上、無視はできない問題ですね。」
そう言って松田が考え込む。確かに天然物のEXより至った先の方がなれる確率が上だ。ただ、問題は組み合わせであり、下位にして何個あるか分からない。職業一覧は見たが、S等の表記はなかったし・・・。
「感覚的には誰かEXまで至れそうですか?」
「現時点ではなんとも・・・。EX以外には3つの段階がある。その中で、例えば片方が上位で片方が下位でEXになれるのか、はたまた両方上位じゃないと至れないのかは分かりません。たった2回の権利、その中で特定の組み合わせを探すのは至難の技ですよ。」
更に言えば出る出ないまで関わってくる。調べて過程を記録しようにも、莫大な時間と労力が必要で、その人物が上位まで行けるとも限らない。そうなってくると更に時間がかかる。不死の薬を使えば気にしなくてもいいかもしれないが、情熱とは本当に熱量で何処かで『もういいかなと?』と思い出すと、たちまち冷めてしまう。
人生を捧げて研究した!しかし、人生に終わりがなかったら?答えは怠けるだ。今日しなくても明日がある、明日があるならその次がある。永遠とは暇になるか、怠けるかしかない。そう考えると、魔女がモンスター退治を娯楽と考えさせてくれるのはありがたい。暇をせずに済む。
「なるほど・・・、おおよそ分かりました。現時点でEXについては考慮しなくていいと。私の方はこれ以上ありませんが、お2人は何かありますか?」
そう言って松田が大井と黒岩の方を見る。2人とも特に今の時点ではないようで首を振る。疲れた・・・、朝から始まってぶっ続けで約7時間。途中軽食を摘んだりもしたが、それでもかなり疲れた。しかし、これで足場は固まった。準政府機関、コレにする事で完全に国の言いなりにならなくて済むし、立場上協力者としてスィーパーを送り込める。
海外派遣要請も準機関を盾にすればどうにか躱せるだろうし、別に俺が毎回行く必要もない。手広く人を呼び込めれば、確かに管理は大変だがそれによる多様性も生まれる。なら、書類仕事はマンパワーでどうにかなるのだよ・・・。
「ないようでしたら解散としましょう。」
「そうですね、では赤坂の料亭で一献。打ち上げと行きましょうか松田さん、大井さん。」
「ええ、いいですね黒岩さん。店はいつもの所で?」
「黒岩さん行きつけなら菊乃花、あそこは魚が上手い。では行きましょうか、クロエさん。美しい華を眺めがら1杯。男冥利に尽きる。」
あっ・・・、コレ逃げれんやつだ。グルではないと思いたいが、店が既に予約されている辺り確定事項なやつだ。まぁ、華は別として、久々におっさんと飲むか・・・。変に説教とかされないといいけど、酔っぱらいは最強。中国の古い諺にもある『一時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。』と。最終的には釣りを覚えるのだが、まぁ、たまには飲みニケーションと行こう。
そんなこんなで料亭でどんちゃん騒ぎをした訳だが、息子や娘、或いは孫の為にとサイン書かされたり、一緒にスマホで写真取ったりと、ガチで仕事の話抜きで楽しめた。相手がおっさんなので気を使わなくていいね、酌はするけど。