閑話 136 魔法少女市井ちゃん9話 挿絵あり
「怪人だ!」
「キャー!!」
「街のみんなが危ない!行くよ!」
「楽しいお祭りだったのに!」
「仕方ないですわね。」
なんか魔法少女達が怪人を倒しに変身して駆けて行った。アレだけキラキラ光って変身しているのに誰か分からないとか・・・、周りの大人の目は節穴か?唐揚げを口に頬張りつつお約束やら大人の事情と言うメタな発言を控えて魔法だからとしておく。そもそもなんで地方都市の、しかもこんな小さな祭りに怪人が現れるの?
そのくせしてビックマウスに『我々は世界を征服する宇宙人ゲータリアン!』とか高らかに名乗って屋台にちょっかいをかけている。ショボい・・・、圧倒的にショボい・・・。怪人作れるだけの技術があるならもっとこう・・・、独占技術による格差を見せつけ経済から支配した方が確実じゃない?
「市井ちゃん・・・、そろそろ変身しない?」
「マスコットとしての語尾がないからやりなおし。」
「市井ちゃん変身するグルメポ!・・・、地球人的に見れば僕の中身は成人した男って分かってるよね?」
「今は縫いぐるみ的な何か・・・、魔法生物だった。ゲータリアンに負けて人の星に来て、代わりに戦えとか言う鬼畜外道だった!」
「ちっ、違う!負けて技術を盗まれたのは本当だけど、戦えだなんて!」
「変身=最前線な魔法少女に戦うなと申すか?良かろう、唐揚げを1つくれてやる。それで取引成立だ。ざわ・・・、ざわ・・・。」
人が抱き枕にしていたシャチの縫いぐるみが喋ったと思ったら変身して戦えと言い出した。仲間もいるし君は1人じゃないとか言うけど、私は1人でひっそりとある野に咲く名も無い花でありたい。そもそも抱き枕におっさんが入り込んで魔法少女だ〜とか、戦ってくれ〜とか、言い出したら警察に突き出すのが普通だよね?
一度ハサミで切り裂いて中にマイクや盗聴器がないか調べたけど綿ばかりでなにもないし、もう一度縫うのも面倒だからそのままでいいよね?って聞いたら泣きながら自分で自分の腹を縫い出した。その根性だけは評価しよう。他は変態と言う区分にあるけど。
一応元の姿はカッコいいらしいけど、人の部屋に勝手に上がり込む奴は不審者か泥棒。良くてぬらりひょんとか?唐揚げ食べながら魔法少女達のバトルを観戦するけどなんと言うかムズムズする。
「来たな魔法少女ども!愉快な祭りを絶望の海に沈めてくれる!」
「そんな事させない!みんなの笑顔が一番大事だから!」
「そうよ!今日を楽しみに待ち望んでいた人がこんなにいるんだから、私達は負ける訳にはいかない!」
「みなさん!ここは危険です私達が戦うから早く避難を!」
避難しろと言われマスコットも戦いを強要しないのでそそくさと離れ別の屋台へ。マスコットがうだうだ言ってるけど、お前をここに連れて来るのにどれだけの労力が必要だったと思う?元々お前は抱き枕だぞ?
アホみたいにデカいお前を人が密集するお祭りに待ってくるとかどれだけマナーの悪い子と思われたか・・・。私の繊細なガラスのハートがギザギザハートになちゃう・・・。
「労力って糸を巻き付けただけ・・・。」
「人の脳内を読まずにフワフワ風船みたいに飛ぶ。おじさん唐揚げカップ下さい。」
「あいよ。お嬢ちゃん向こうでなにか騒ぎかい?こっちに人が流れてきたけど。」
「ヒーローショーみたいですよ?怪人と魔法少女が戦ってるみたいです。多分ぬるい戦いでお客さんが引いてるんだと思います。」
「暑い中でやってるのになぁ・・・。情報くれたから綺麗なお嬢ちゃんには唐揚げ1個サービスしとくよ。」
「貴方は神か!最上級の感謝を貴方に。」
多少冷えて油っぽくても唐揚げに罪はない。仮に罪があるとするならそれは出来たてを食べなかった人間にある。どうしてモノ言えぬ唐揚げを責める事ができようか!私は慈しみこの冷えた唐揚げを食すとしよう。
「市井ちゃん・・・、そろそろ。」
「警察呼ぶ?流石に自衛隊の番号は知らないけど、良い子の私は警察の番号を覚えてるよ!110番、不審者や泥棒、事故を見かけたら直ぐに電話を!」
「いや、変身して怪人と・・・。」
「怪人って怪しい人って書くから警察案件だよ。いい一般市民は警察に頼って邪魔をしない。事故とかで野次馬したら邪魔になっちゃうよ。」
「くっ!怪人めーー!!とうっ!!」
「援護するわ!マジックアロー!!」
「これでも喰らえ!サンダーストーム!!」
遠くでバチバチ放電したりなんか不可視の矢が飛んだりしてるけど周りの被害って考えてるのかな?発電機に電撃当たったら爆発して大火傷の被害がでちゃうよ・・・。私があの魔法少女達と絡みたくないのはそんな所もある。
そもそも彼女達とは同じクラスだけど話した事もなければ趣味も合わないから遠巻きに見る程度だし、どうも彼女達のノリについて行けない。それなのに魔法少女として変身してでていくと、さも当然の様に指示して来るし周りの被害を考え怪人を人のいない方に誘導したり拘束しようとしたりすると卑怯っぽいとか言い出す。
あのチームにブレーンはいないのか!少なくともテストで0点取る様な人はい・・・、リーダーっぽい奴はこの前0点取ってた!舌出して笑ってたけど笑えないよ!こんな所で戦ったりお祭り楽しんでる場合じゃないよ!まぁ、他人事なんだけどね。余計にあの輪の中に入るのが躊躇われる事態になったよ・・・。
「ハズレた魔法をさっさと食べる。マスコットにはそれくらいしか取り柄がないんだから。」
「僕にはヤクポって名前があるんだけど!?」
「ヤクポでもダメポでもいいけど、語尾忘れてるのカウントしてるからね?やる気ゲージがどんどんなくなってくよ。」
「僕が魔法を食い止めるでグルメポ!」
「おぉ、ヤケクソヤケクソ。なら唐揚げ食べながら観戦しておきますね。」
「君には正義の心がないメポか!大人な僕でも心にグサグサ来るグルメポ!?」
「公平であろうとするなら数少ない怪人に味方した方が人数的なバランスは取れるよ?それに征服されたら何が変わるの?現代社会において常に政治家は政治家であり続け、資産は減らないし減らない様な法律を作ってる。それに引き換えこんなチャチなお祭りて世界征服を叫ぶなんて・・・、ちょっと和まない?」
「和むなメポ!征服されたら自由も笑顔もなくなるグルメポ。」
「それは貴方の意見ですよね?征服されなくてもブラック企業に笑顔はないって聞くよ?はっ!よくよく考えればヤクポからお給料貰ってないし、児童労働は犯罪ってこの前授業で習った。」
「現代社会の教育が憎い!純粋な魔法少女はどこ・・・?」
「今の時代・・・、子供でさえ純粋ではいられないのさ。汚れつちまつた悲しみに、なすところもなく日は暮れる・・・。真面目な話私の治療費とか死亡保険とかどうなってるの?子供だから個人加入出来ないんだけど?」
「唐揚げ頬張りながら重い話をするならグルメポ。怪我は・・・、ほら魔法で回復してるから・・・。」
「怪我したっていう事実は忘れないよ!無給で肉体労働を強制された恨みも忘れないよ!あれ?やっぱりゲータリアンに組みして魔法少女の情報流した方が安全に稼げる?別に私が手を下す訳じゃないし、眼の前には甘言もよこさないダメポしかいないし・・・。」
「ダメポじゃなくてヤクポ!みんな笑顔の一番大事グルメポ!」
「話がループしてるよ。私の笑顔は戦場にないし、戦は女の人の顔をしてないんだよ?なら私の笑顔は誰が守ってくれるの?私はおまけで貰った唐揚げを食べる方が戦うよりも笑顔になれる。」
パクパクと食べていた唐揚げも最後の1つ。何事にも終わりがあって、そこには静けさと物悲しさが残る。確かにちょっと冷えてて油が回って上げ過ぎだったかもしれない。でも暑い中で唐揚げを上げるおいちゃんに悪気はないし、それを手に取った私もまた慧眼が足りなかったわけではなく、祭りという熱に浮かされた一人の少女でしかなかった。
そう。なんか近くで魔法少女達の声が聞こえる様な気がするけど、それはきっと遠くで祭り囃子が聞こえる様なモノで、最後の1つと言う事実が聞かせる慟哭なのかもしれないね・・・。
「そんな唐揚げ見つめてどうしたグルメポ?」
「私は唐揚げを食べる時だけは常に真摯であろうと思ってるの。その唐揚げがどれだけ漬け込まれ、どの様な分量で味を決められ、どの様な油の海を渡って来て、ここでは出会う事のなかった薬味を使えば更に昇華できたのではないかと夢想し、その高みに至れない現実と向き合う。唐揚げを食べると言うのは孤独な互いが出会い、それぞれで葛藤し、納得の行く結果を模索する作業なんだよ・・・。」
「・・・、唐揚げの何が君をそこまで駆り立てるのか・・・、グルメポ・・・。」
「そこの貴女危ない!」
「はーっはっはっはっ!!!口の中が唾液で満たされるほどの超強力レモンスプラッシュ!!酸味の海に溺れるがいい!!」
それはあまりにも突然の事だった・・・。爪楊枝に刺さった唐揚げは押し寄せる黄色い液体になすすべもなく飲まれ、多少硬くなった衣は多量の水分を含みふやけ、かろうじて爪楊枝から離脱はしなかったものの滴る水滴が私の指を伝う・・・。
「あ・・・、あぁっ・・・!」
現実が受け入れられなくって両膝から崩れ落ちる。頭を垂れ声にならない叫びが口から漏れ、心の中でお前はそうじゃない!レモンじゃなくて・・・、酸味じゃなくて必要なのは塩だと言う思いが溢れる。夏の祭りで汗ばんだ私の身体は酸味による癒やしじゃなくて、塩による塩分補給が必要だったんだ・・・。
溢れた感情が涙となって伝い忘れ得ぬ悲しみか胸を支配する。しかし、唐揚げに罪はなくレモンにも罪はない。コレは好みの問題だよ。そう・・・、濃い味が好きな人もサッパリと味が好きな人もいていいんだ・・・。でもな?
「人の唐揚げにレモンかけるとか、なんだァ?てめェ・・・。」
「!?」
「お前は今私の笑顔を奪った!今私の笑顔はお前に奪われた!!今、私の、笑顔は、お前によって、明確に、奪われた!!!」
「だからなんだ小娘!我々は世界征服を・・・。」
「黙れレモン。ヤクポ、マジックゲート開門!」
「了解グルメポ!この地と彼の地を繋ぐ扉よ!来まここに顕現せり!」
「マジックパワーフルトランス!」
ヤクポが扉を呼び出し魔法少女共々戦える異世界に吸い込まれる。門を通過しながら魔法の言葉を紡ぎ私は魔法少女として彼の地に降り立つ。
「報告にあったはぐれ魔法少女か!」
「君と約束した真摯な思いは踏みにじられた・・・、君のいないこの地は私には寂しすぎるよ・・・。」
「貴女はあの時の!」
「遅れてお出ましとかもうね、はよ来いよ!」
「口が悪いですわよ?でも、もう少し早く来てくだされば・・・。」
「黙れ周りの被害も考えないボンクラども!そして怪人、お前は私を最高に怒らせた。殲滅する!」
「やれるものならやって・・・、ブフェ!」
「魔法の力は思いの力!有象無象の笑顔なんて私にはどうでもいいけど、この思いだけは誰にも奪わせない!」
一歩踏み込み地を砕きながら渾身のストレート。魔法少女の力は強過ぎるからこう言った特殊空間でしか全力で戦えない。他の魔法少女は魔力が低いからこの空間を限定的にしか出せずに必殺技?を使う時にだけ展開するみたい。多分何か1つを思い望む事がないから魔力が低いのかな?
「ここなら私達も全力で戦える!みんな行くよ!」
「邪魔だから引っ込んでろ!コイツは私の獲物だよ!
正しきを紡ぐ言葉は力となりて
誘惑に打ち勝つ願い星となる
清らかで静寂な願いは穢れを知らず
輝く原石として聖らに燃ゆる。」
レモンが嫌いなんじゃない!ただあの時あの場ではレモンじゃなくて塩だった!私が望んで・・・、でも手に入らなくて、それでも真摯に向き合った唐揚げに必要だったのは塩だったんだよ!殴り飛ばした怪人が大勢を立て直すけどもう遅い。
「おのれ魔法少女!」
「いつから通常攻撃が必殺技足り得ないと錯覚していた?」
光り輝く拳を放ち怪人の胸を貫きその手には核となったレモンが・・・。多分私は今涙してると思う。このレモンに罪はない、ただ巡り合わせが悪くて今じゃないだけだったんだから・・・。
「ヤクポ・・・、マジックゲート閉門。」
「了解グルメポ!」
「待って!貴女は・・・、何時も助けてくれる貴女は一体だれ?」
「・・・、真摯な思いで動く者。」
異世界が閉じると同時に誰よりも先に駆け出す。こんな所でモタモタしている暇なんてない。今の私にはなによりも優先するべき願いがあるんだから!
「ほ、他の魔法少女との掛け合いは!?」
「そんなくだらない事どうでもいいよ!今はこの大きくて水々しくてお日様の匂いがしそうなレモンにも合う唐揚げを作らなくっちゃ!」




