693話 一旦ブレイク
「分からないからそう聞かれているのですよ。最初にゲートに潜った時の配信も魔女の様な感じだったでしょう?」
「あくまでアレは演技です。そもそもですね、私だってモンスターと戦うのは怖かったし殻でも被ってないとやってられない。でも、怖がってばかりで立ち止まっていては被害も広がる。それを乗り越えるのが・・・。」
「高飛車な少女の仮面ですか。確かに職名はクロエの語感から来ていると言う話もありますし、魔女と聞いてそう考えてもおかしくない・・・、おかしくないんですかね?」
「そもそも魔女を選んだ理由はサポート用ですよ?薬学知識とかあるなら薬とか作れるし、占いとか出来るなら確率問題にもなんとなく対抗出来るかと。」
「ん?薬は作れないのかね?」
「残念な事にバリバリの戦闘系でしたね。」
薬は作れないけどそれ以上が出来る。中間地点をすっ飛ばしていると言うか、蘇生風味な再誕やら作り替えに行き着いている。まぁ、人の回復は出来ない事もないがイメージ的には治癒師の方に分があるな。
自分を回復しなくていいと言うか、勝手に巻き戻るので昔ながらの薬やらを使った治癒のイメージはあるにしても増殖やらをしようとすると増え過ぎるかもしれないし、そのイメージだと癌細胞をイメージしてしまう。
緊急でやるなら後から薬飲めでいいが、戦闘が長引けばどうなるやら・・・。生物実験は怖いので生肉増えろとかやっているが流石に効率も悪い。
「一旦今日は解散としませんか皆さん。コアの行き先に対して話しを詰める必要もありますし、先ほどのゲートの話で考える事もあるでしょう。異議がなければどうです?」
松田がそう言い他のメンバーから異議は上がらなかった。まともに帰れればいいが松田からは明日も会談があるかもしれないから残って欲しいと言われ、既にホテルも取ってあると告げられれば帰るわけにもいかない。
「お疲れ様ですクロエ。」
「千代田さんこそお疲れ様です。もしかしてここで待ってました?」
「そう言う仕事ですので。」
「言いにくいんですが・・・、口元にチョコが・・・。」
指摘していいか分からないが唇の脇に茶色い物が・・・。流石にあんこはではないと思う。まぁ、長時間待っているなら腹もすくし、離れるわけにもいかないしでここで食うしか無かったのだろう。ただ、指摘に慌てたのか急いで強く口を拭ったので今度は口紅が伸びている。
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ?」
「いえ、焦っては・・・。」
「その・・・、鏡見た方が・・・。」
「・・・、すいません。」
キリッとして涼しい目元の人なのだが大丈夫だろうか?まぁ、愛嬌があるとしておこう。なんだかんだで増田の時も拉致られたりパンツ泥棒にしたりして遊んでいたし。
メイク直しも終わり来た道をぐにゃぐにゃ帰りたい、外に出たら千代田が車を出してホテルへ向かうのかと思ったら何処か寄りたいところはないかと聞かれたので、適当なコンビニで小物を買い込みつつ妻やギルドへ連絡。コンビニの中にもついてきたが、そんなに背後にピッタリとついてこなくてもいい。新しく任命されたから気合が入っているのだろうか?
「何か必要なものとかあります?」
「特に欲しいものはありません。この後はホテルでの警護もありますので必要ならルームサービスを頼みます。」
『今季夏アニメ、魔法少女市位ちゃん2ndシーズン!ファーストさんからの応援メッセージを店内放送・・・。』
映画もやった市位ちゃんは2ndシーズンか。確かに応援メッセージくれと言われたので送ったな。渡りに船と最後に犯罪、ダメ絶対と入れているので聞けば多少は犯罪抑止になるかな?ただ千代田が送ったメッセージの部分にピクリと反応したんだが・・・。
「好きなんですか?アニメとか。」
「嗜む程度には。寧ろ今の世の中アニメ、ゲーム、ライトノベル、その他職に対するインスピレーションを得られる物ならすべからく読む事が推奨されています。」
その返しは嗜む以上と言っているのでは?まぁ、テレビでも実験系の特番が増えて食べ歩きは減ったし、19時からのアニメタイムは復活した。古き良きと言っていいかは分からないが、家族で食卓囲んでテレビ見ながら何か話すという家族の時間も増えたと言う。
これもまたスィーパーが増えてゲートに入るからだな。昨日話した父親が次の日にはいない、そんな現実も確かにある。思春期で親と接しづらかった子供としても共通の話題と言う意味ではサブカルで話も合うし、スィーパーになろうとするなら身近な大人に話を聞くのも吝かではない。寧ろ聞かないと死ぬし。
そう言えばソフィアも学校でオタクがヤンキーっぽい奴ととよく話していると言っていたな。毎日ケンカに明け暮れるなんて話は今どきないが、なら実戦出来ない部分を補うなら空想しかない。僕の考えた最強の格闘技が最強なわけはないが、脳内シミュレーションする事は出来るしR・U・Rなんて言う疑似体験装置もある。
「東京の治安って良くなってます?海外に比べればそこまで悪くなかったと思いますけど。」
「統計的な話をするなら悪くありません。歌舞伎町も東横も新宿に原宿、渋谷・・・、若い人や成人した人含め迷惑行為はあるにしても犯罪と断定するような物は減っていますよ。」
「どれが原因でしょうね?警察が本当に優秀で犯罪行為が馬鹿らしい事だと気づいたのか、或いは犯罪をしても問われない場所があるからそこでする事にしたのか。」
「そう言えばクロエはギルティタウンには行っていないんですか?」
「行く暇が無いと言うか点在し過ぎてどこがいいというのか・・・。ネットニュースで見ましたけどギルティタウンは総称であって特定の街を指す言葉ではないでしょう?そうなるとある程度土地勘のある人に案内してもらう方がいいんでしょうけど、知り合いと言えば先を目指す人が多いですからね。」
宮藤は先を目指して暇な本部長達と60階層辺りを旅してるし、そうでなくともセーフスペースに魅力を感じるのは企業人やら15階層までを根城にしたスィーパーが多い。稼ぎと言う話なら先を目指した方がいいのだろうが10階層分のモンスター素材と言うのはなんだかんだで魅力がある。
浮遊するパチンコ玉もいるし防具やらパワードスーツに使えるダンゴムシもいる。準備階層と取るか或いは慣れろと言われているのか?上が様変わりすれば下も変わってくるので未だにパチンコ玉が飛んでいるかは分からない。ただ妻と潜った時にいた首狩りする様な奴は下にもいると話は出ていた。
ゲームで言えば速攻攻略がモンスターが弱く、後になるに連れモンスターが強くなるパターンなんだろううが下にいる者も分かったし速攻しても倒せないだろうな・・・。アブザと言う子供の事を知っていたとしてもそれがどうやって成立しているのかなんて分からないし・・・。
「その・・・、時間があれば案内しましょうか?」
「千代田さんが?言い方は悪いですけど分かるんですか?点在位置やらタウンの内情やら。」
「ギルドの国際警察化の話は当然ご存じだと思いますが、それの骨子としての内々の話ですが動くのは千代田です。これはゲート内のとこで海外組織と繋がりテロ等の思想を植え付けられるか分からないた為の動きで協力者を作り国内を守ると言う目として動きでもあります。」
「なるほど、ゲート内を旅してギルティタウンを探るのも仕事のうちですか。それならお願いしましょうか、私が東京にいるのもそんなに長くはない。お近づきの印に1杯どうです?ホテルでのルームサービスですけど。」
「宜しいんですか?」
「古い人間なので取り敢えず飲むと言うのはコミュニケーションの1つだと考えています。ただ断ると言う判断で気分を損なう事はありません。日本人は下戸も多いし酒を好まない人もいる。実際、私もウイスキー瓶を何本空けても酔わないのでマイペースで飲んてくれと言ってますし。」
焼酎瓶もラッパで飲めればウイスキーもウォッカも・・・、喉越しと味を楽しんで一瞬の酒精を楽しむだけで水と変わらない。この身体なんてと言えば酔わない事だろうか?下手に俺のペースに合わせると間違いなく二日酔いで回復薬コースとなる。前に講習会メンバーが飲み比べしよう言ってきたが、全員潰れてしまったしな・・・。
「付き合いましょう。これでも酒には強い方です。」
「自信は分かりますがマイペースでお願いします。」




