閑話 135 英国にて 挿絵あり
魔法立国を目指すとして、さて何からすればいいんじゃろうか?絵本に描いた様な魔法。例えばカボチャを馬車には出来んが鉄の馬車に鉄の馬は作れる。それを召喚魔法と名付ければ召喚魔法なんじゃろうが、事はそう簡単でもない。
どう動かすと言うのも考えにゃならんしゴムやらサスペンション、スプリングなんて物をイメージせんと尻が痛くてかなわん。杖を貰い色々イメージしたり考えたり試してみたりしたが、イメージの具現化まではいいとしてその先がのぉ・・・。
「金の皿も銀の皿も土器でも銅でもいいんだけどよ、もちっとこう・・・、色合いって言うか絵柄とか入らねぇの?」
「お前な、皿を作るのはいい。なら顔料やら湯薬は何だ?陶器に青を入れるなら酸化コバルトの絵の具を使うんじゃろうが、ワシとしては宝石でデコった方がはるかに楽じゃ。」
「でも寝ながら魔法使うのはどうにかなりそうなんだろ?」
「寝ながら気を張ると言う常時戦場ならの。それでも堕ちる時は堕ちる。ジャスパーが王立協会の奴を連れてきて科学的な魔法の研究と発展と言いおったが魔法も科学も同じ穴のムジナじゃろ?」
「?、違うんじゃねぇの?」
「どうぞ旦那様、ブランデー入りの紅茶です。」
「ありがとうマイロ。お主が職に就いてくれて本当に助かった。」
「いえいえ、立派な主には立派な猟犬が必要でしょ?猫は家に犬は人に、なら猫人は奔放に家を渡り歩き犬人はコレと定めたら見据える。不甲斐なき事のない様お願いします。」
気質と言うかなんと言うか・・・、優しかったマイロが優しいながらもワシを見る目が値踏みしている様で怖い!クロエの話では隣人として優しいはずなんじゃが、元が元だけにそう言う性格なのかの?紅茶を置いて言うだけ言って返事を聞いたら晩飯の準備に行ったが・・・。
「う、む。それはさておき科学と魔術の違いはなんじゃ?言っておくが創作ではなく現実としてじゃ。」
「そりゃぁ・・・、なんもない所から火が出せるとか?自力で空飛べるとか後は師匠のテレポートもだろ?今の科学でやれって言われても出来ないだろ?機械とか使えば何とかなるかもしんねぇけど。」
「そうじゃな、まだ出来ん。しかし、ほんの3年前は魔術なんて言えば空想の産物で実現で出来んかった。それより前なら科学は証明出来んで魔女も信じられておった。結局片方が立てば片方が消えてを繰り返しとるだけじゃよ。それが今はどうじゃ?両方這い出てきて表舞台に立っとる。なら相反する必要もなく仲良くすればいい。」
「仲良くったってなぁ・・・。爺さんが作る鉄馬車とか泥馬車は乗り心地悪ぃし、テレポートは楽だけど空飛ぶのは慣れもいるし。マイロ的にはどうよ?」
「私的には修行中ですから。だいそれた事は言いませんよお嬢様。ただ泥だらけにした後の処理さえ徹底していただければですが。この前作ったモンスタープラント除去の杖、根切りの為に地中を耕して最後に噴出・・・。」
「目標は達成したし土も戻したわい。ただ、予想よりも範囲が広かっただけじゃ。それにクズは食える。」
イタドリやらクズやら外来植物を駆除する物が欲しいと言われて作ったが甘かったのぉ・・・。根切りして引っこ抜く、それだけの作業をイメージして杖として成立させたが、結果は地中が耕されてぬかるみ切った根っ子は地上にバンバン噴射されて泥をまき散らす。まぉ、上の葉は取りやすなったから五分じゃな。
「馬味調味料かけたら大概は食えるよ師匠。ゲロマズな英国料理の最終ネックは見た目だけって言われ出したしな。てか、なに読んでんだ?」
「優しいプログラミングと言う本じゃよ。なにをイメージするかは別として、素早くイメージを引き出すと言う事は、無駄を省き簡略化しつつも結果を出すと言う事じゃ。ならば記憶にどうアプローチをかけるのか?それこそコンピューターの方が数段速いじゃろ?」
確かにスィーパーは記憶力も上がっとるし、中位として言うならイメージ構築速度もなんもかんも上がっとると思う。しかし、それにかまけておる訳にもいかん。何が出来ないかじゃなくて何が出来るのか?どうしたらそれが実行出来るのか?出来ない理由はどうすれば回避出来て進めるのか?
木の根の様に思考を巡らせ正解に進む一本を引き当てる。別に正解が1つとは限らず複数の正解があるかもしん。マルチタスクと言うモノを考えた時、人は同時にいくつも考えながら作業を出来るのじゃろうが精度を高めるなら集中力もいる。
まぁ、それでジャンクPCやらHDDを買ってきてはスクラップにすると言う何とも言えん作業をもしたが・・・。割とHDDと言うよりシリコンはよかったのぉ。石の記憶を見ると言うかメモ帳代わりに色物書き込んでみるとか。秘密のメモ帳代わりにはうってつけで石板と言えん事もない。
「どうなんだろうな?私は剣士で動きを考えると言うより考えたら行動してないと死ぬし。モンスター相手にチマチマこれからナマス斬りにするって考えるより、切りかかってる時にはこのままナマス斬りにしようだしな。・・・、あれだ。ゲームでコンボってあるだろう師匠。弱パンチが当たったらコマンド入力してつなげるやつ。当たる当たらない、受け止められる掴まれるなんて選択肢もあるけど要は行動しないと何も始まらない。」
「そりゃぁそうなんじゃろうが・・・、例えば先に攻撃されたらどうする?モンスターはどんどん集まってくるし、一対一の場面は少ないじゃろ?乱戦モンスターの同士討ち、空からの強襲と必ず先制出来る事なんて少ないないじゃろ?」
「そりゃあゲートに入った時点で常時戦場だ。師匠だってそうだろう?ある程度考えまとめてストックと言うか・・・、自己プログラミング?」
「そんなもんじゃよ。魔術にはプロセスがありそれを経て事を起こす。それを短縮するならパッケージ化でもしておく。何にせよ一度成功させればイメージは爆発的に構築出来るが、それを弄くるのはまた難しいし人は忘れる生き物じゃ。あんまり使わんと微妙に忘れる。」
魔術師が難しいとか物理職が簡単とか言う話はこの辺りからじゃろうな。剣を振れば目に見えて分かる、だから成功すれば何度でも斬ればええし自分で動いて結果を出せばそれが成功体験になる。しかし、魔術は成功してもなんも残らん。だからこうして形あるものやら記憶のパッケージ化やらを考えとる。
「そう言えば女王陛下からテレポートの杖は待ったがかかったんだろ?」
「当然じゃろ。個人としての技能なら警戒する対象は個人。じゃが広まれば無限にその対象を広げる事になる。それに航空会社も軍もええ顔はせんし、いくら杖があってテレポートが出来ても戦闘に組み込むにはかなりの練習がいる。」
「でもビーム撃ち返しやら完全回避やらは出来るだろう?この前ゲートで片腕持ってかれた時は心底安全に逃げる手段が欲しくなった。」
「あれはお前が調子に乗って深追いするからじゃ。頭ふっ飛ばされる前に埋めて逃がしてやったが、他のメンバーと連係しておったら腕が持っていかれる事もワシがお前を地面に埋める事もなかった。まぁ、学生のバカが群れにパニクっておったから仕方ないと言えば仕方ないがの。と、言うかインナーを全身タイプに変えたり肉壁スーツを着たらどうじゃ?それだけでも腕は無事じゃろ?」
「それこそイメージの問題だよ師匠。確かにインナーやら肉壁スーツはビームやらダメージを防いでくれるけど、全身タイツみたいなインナーだとトイレも不便なら関節まで覆うと動きを少し阻害してくるし、肉壁スーツもトイレ問題がなぁ。知ってるだろ?盛大にちびったヤツが中でチャポチャポ水遊びしてるの。」
「あれは武士の情けだ、言ってやるな。それに、エヴァもトイレに行かなくていいイメージを固めろ。それが出来るだけでかなり戦闘は変わる。」
「知ってるけど探索者に水分として抜き取ってもらったりするのが楽なんだよなぁ・・・。寧ろ、剣士でどうやってトイレしないイメージ作るんだよ。それなら師匠にトイレ行かなくていい杖を作ってもらう。」
トイレに行かなくてもいい様にする杖・・・、ビジネスチャンス?確かにトイレ問題は未だにある。パワードスーツ組なら導尿やらもっと格安なら安全かは別として膀胱に針刺して抜き取るなんて言う方法もある。しかし、それに魔法でアプローチをかけて売り物とすれば売れる?
確かに生理現象で男女共に話しづらい話でもあるし、大も小も漏らして最後に新しい物に着えて汚れ物は捨てるやら、早着替えで指輪に収納して後から廃棄なんて奴も。そもそも極限の緊張状態で漏らした事に気づいてない奴もおる。
それは珍しい事じゃない。長官となってゲートに潜ってとしておるうちにそう言った資料も読む様になった。割とこの問題は根が深いんじゃよな・・・。誰も彼もそれは仕方ないと見て見ぬふりをするが、自分自身が自分をビビりと思い出すとイメージにも不安が乗る。
「その杖ないし装備は作ってやる。その代わりお前は実験台じゃぞ?」
「OK、うら若い乙女の下の話だ。下手に他人に任せるよりも身内の方がいい。しっかし月のモノは回復薬で気持ち悪くなる事もないし、悪阻も大丈夫になったが最後がトイレとはなぁ・・・。」
「どこでも同じじゃよ。三大欲求で睡眠欲は崩されたが残り2つは残っとるし、その2つのうち性欲が消えれば人は滅ぶ。じゃからそっち方面の店は増えたし、信頼出来る番を見つけようと身持ちは固くなる。」
「矛盾してんだけどなぁ〜。まぁ、ゲートから出ると気が高ぶる奴は多いけど。師匠は?若返ってあっちも元気だろ?」
「声がかかる事は多いがそこまでじゃの。それよりお前さんはボーイフレンドの1人や2人おらんのか?ゲートなんて物に挑むならコイツと言う奴もおるじゃろ?」
「う〜ん・・・、顔は獣人がハンサムだろ?ちっこい獣人もいるし可愛げもある。人間となると背中を預けるわけだろ?外で仕事しててもいいけどずっと帰りを待たせるのも悪い。そもそも男がいいのか女がいいのかも・・・。」
「えっ!?ワシって下手したら孫の顔見れない?」
「それは爺さんが再婚して実子儲ければいいだろ?枯れても若返って新芽になれば子供が作れる。この前パン屋のおばさんと話してたら60超えてたけど若返って旦那との子宝に恵まれたってさ。」
「ワシも人の事言えんが女王陛下も若返って今風のファッションなんかを楽しんでおるし・・・、童話の苦役を終えたようじゃの。」
馬と犬と猿からじゃったか?寿命をもらったのは。その苦役を終えて再度人として過ごす。まぁ、そこまで行って残されたのは若い身体と稼いだ財産に戦う事。そう考えると人は寝ても覚めても戦わにゃならんらしい。
「さて、明日もあるし杖の話もある。日米中露もなにかしとるようじゃし忙しくなる前にイメージを固めるとするかの。」
テレポートの杖、エヴァには黙っとるが王室用に研究もしとるし一般化するにはリスキーじゃが・・・、世界に魔法が溢れれば或いは・・・。




