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街中ダンジョン  作者: フィノ
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65話 討論会 前

「貴方の所は既に2人中位を確保している!なら、我々に彼女の身柄を渡し、国防に務めるのが必定!今や世界各国がスィーパーを兵として確保している中、我々の切り札はなにもない!」


 陸将大井からのジャブが黒岩に飛ぶが、黒岩は涼しい顔を崩さない。これは効いてない?国外に目を向けるのは、専守防衛を掲げる自衛隊としては当然の見解、スィーパーの兵士の軍団とか相手にしたくない。叫んだりする分、モンスターよりやりづらい。


「国防結構!しかし、先ずは国内からだ!住む人々が不安な中、国外に目を向けてなんとする!そちらとて中位は2人確保しているではないか!ならば、その二人に教練させればよろしい!講習会で至ったのだ、ノウハウはあるだろう?」


 おっと!ここで黒岩のカウンター!警察は橘と赤峰、自衛隊は兵藤と小田、イーブンである。あえて言うなら、俺の手駒の宮藤と卓がいるので、第4勢力で名乗りを上げると更にカオスな事になる。実際、バランスを考えるとどこもどっこい。警察の切り札は橘だろうが、余りにも危なすぎる。


「元締めの私達からすれば、このままクロエさんに教導官となってもらい両方の組織に中位を増やし国内外に対する牽制及びゲートに対する優位性を確保したい。ゲートは夢の産物だ、食料にしろエネルギーにしろ、我が国が輸入に頼っていた分野を一手に解決できる。」


 松田が口を開くが、いいとこ取りをしようと俺の方に話を振るがスルー、ここはスルーであります!下手に口を挟むと生徒のお代わりが届きかねない。黒岩ではないが、中位が更に誕生すればその分教導のノウハウは蓄えられる。なので、そんなに厄介事を押し付けられても困る。せめて、地元ならまだ融通は出来るが・・・。


「またそれか!ゲートその物は移動できる。この情報によりゲートその物を通貨として、外交を行う国も出始めている。アレからは武器や設計図もでるのだぞ!それで武装でもされてみろ!我々以外、自衛隊以外対処する組織はない!」


 大井が叫ぶ。ゲート格差とでも言えばいいのか、前に考えた事が現実的になりつつある。出土品に関税でも掛ければ、自分の腹は痛まなくとも資金から資源から、果ては武器まで揃う。指輪に収納してしまえばそれまでの現状だが、逆にそこさえクリア出来ればスタンピードのデメリットを考えても十分にツリが来る。そんな中で他国に目を向けるかと問われれば、人材、詰まりは人を確保しようと仕掛けてくる可能性は0ではない。おっ、まんじゅう美味しいな。アイスコーヒーと割と合う。


「それは先の話でしょう?大井さん。そもそも、他のゲート開通前に彼女を確保したのは我々警察だ、その点を考慮してもらいたい。我々がいなければ、彼女は更に過酷な道を歩んだでしょうなぁ。」


 黒岩が占有権を主張した!・・・、物ではないので辞めてほしい。まぁ、免許証の件は助かった。先行開通させはしたが、本開通までの間に色々準備したのは警察組織。特に千代田が頑張ったように思う。彼が交渉役として立ってくれたおかげで、スタンピードの対応失敗は免れた。


「それを言うなら、なぜ上がった情報をゲート突入前に精査しなかったんですか?杜撰な情報管理で無ければ、我が国は更に優位な立場に立てたでしょうに。黒岩さん、今更確保云々を言い出すのはナンセンスですよ。」


 ここで余裕の松田の嫌味!松田の嫌味が黒岩を急襲した!確かに、橘は上は誤情報とすると言っていた。それを考えると、確かにナンセンスである。まぁ、だからこそ行動を起こして今、このテーブルに着いている訳だが・・・。


「ほう、なら政府は、松田さん達は慌てて(・・・)彼女に役職を付けたようですが?貴方がたも焦れたのでしょう?ヒロイックで愛らしい彼女がなにか仕出かす前に、首輪を付けて良くも悪くも飼い殺す算段だったんでしょう?見え見えの手だ、貴方がたは彼女をマスコットにでもするおつもりですかな?」


 おっと!ここで黒岩が嫌味に噛み付いた!千代田は俺を飼い殺そうという動きがあると言っていた。そして、俺はその首輪をマスコミの前で名乗った。飼い殺されるつもりはないが、色々動きやすくはある。良くも悪くも、俺の見た目は14歳の少女のソレ。何かしらの肩書でもないと、無鉄砲な子供としてただただ批判を浴び続ける可能性もある。それに、この役職に付いたおかげで、家族への守りはそれなりに固くなった。


「はん!警察とてチヨダが暴走したでしょうに。聞いてますよ?彼女を拉致(・・)したと。その節はどうもありがとう、貴方がたのおかげで彼女が名乗りを上げてくれた。」


 憮然と松田が正面から受け止めた!躱しもせず真正面から受け止めてからの反撃です!これは痛い!痛烈です!拉致?ファーストを?まさか(笑)の中起こった事件。マスコミ対応も完璧で本当にあの事件は、ゲート武器の密売と言う形で落ち着いている。仮に、あの時大人しく捕まったままだったら、ファーストって弱いんじゃね?説が独り歩きして、更に面倒な事になっていただろう。


「漁夫の利か・・・、我々はゲート内で活動する拠点さえ作る手はずがある。クロエさん、前は部下が失礼した。航空機でも戦車でも、必要なモノはすべて提供しよう。一度は同じ釜の飯を食った仲です、もう一度国防を担いませんか?」


 ここで大井お祖父ちゃんのプレゼントと志作戦だ!志はどうでもいいが、防衛装備庁が付いてくるならちょっと心揺れる。簡単に言うと装備庁は、武器開発と試験評価を行っている。仲間?にできればゲート内での武器運用は更に飛躍する。それに、流出した設計図に使えるものがあれば、開発してくれるかもしれない。


 現状、秋葉原で流出した設計図はほぼ警察預かりらしいので、開発は進んでいないし、そもそも鍛冶師と装飾師がドックタグ作成に忙しいので武器まで手が回っていない。鋳物師はよ!はよ来い鋳物師!


「経歴や武器を出すのは卑怯だぞ大井!クロエさんは特別特定害獣対策本部 本部長としてここにいる。ならば、自衛官として振る舞う訳がないでしょう?」


 黒岩が俺の方をちらりと見ながら話す。澄まし顔でアイスコーヒーを啜る。よし、少し心が揺れたのはバレてないはず。実際、自衛隊はやめたので未練はないしな。


「まぁまぁ黒岩さん、その呼び名は我々が付けて与えたものです。それを認めるならば、彼女は我々に一任して頂けると思っても構いませんね?」


 ここで松田が蛇の様に狡猾に噛み付いた!解説の賢者さんこの発言どう思われます?


『君も暇だね・・・。うちの子だからこそよそに嫁にはやらんっていう父親?的なものじゃない?かわいいかわいい君なんだ、自慢の娘でしょ?』


 コイツ!心を読んでる!まぁ、同じ体の中にいるので、多少は思考が漏れるか。漏れた所でコイツ等は何も言わないし。ここまでで既に1時間以上話し込んでいる。主に3人が。俺はコーヒー飲んでまんじゅう食べてタバコ吸ってる。下手に話すと揚げ足取られそうだし、観戦してる方が面白い。


「良い訳あるか!トップが腰抜けで遺憾砲しか撃たんから、我々現場が苦労している。同じ公務員といえど、自衛隊と警察は少なくない血を流した。」


 首相への腰抜け発言!仮にも自国のトップを堂々と腰抜け呼ばわりしたーー!!流石は秘密会談!黒岩も腹を据えかねていたという事か!?更にそれに大井が追撃ー!!


「全くだ!聞けばマスコミ対応でてんてこ舞い、国外からの参加者もクロエさんが蹴っていたのに、ゴリ押ししたそうじゃないですか。弱腰外交ここに極まれり!貴方がたは国民を何だと思ってる。体のいい駒ではないんですよ、我々は。」


 松田はダブルパンチでグロッキーか!いや!ニャリと口を歪めて笑った?その目にはまだ闘志が宿っています!起死回生の一撃が出るか!


「スタンピードはどの国でも起こり得る、ならば国際的な枠組みで協力体制を取るのは当然でしょう?来るのは同盟国の人間ですよ?貴方がたとて、日米合同演習は何度も行っているではないですか?それに、我が国が遺憾の意さえ示さなくなれば、恐れられなくなる。昔と今では状況が違うんですよ、状況が。」


 松田は俺の方をじっと見ながら話す。よし、まんじゅう食べよう。そろそろ一箱食べ終わりそうだが、まぁいい。状況ね・・・、懐古的だがどの国も武を示していない。その中で、うちの国だけが大々的と言っていいか分からないが、スタンピードに対処して、モンスターを眼の前で倒して見せて、ビルを消した。


 つまり、それだけ他国より先にいるのだ。コレが示した力が火の玉1個飛ばすだけなら誰も恐れない。寧ろ、ショボくて興味を示さないまである。しかし、秋葉原であった戦いも示された力も予想を超えていたはず。なら、国として取る対応はイケイケドンドンではなく足場固め。武は示したが、誰も戦争したいわけでも、ましてや覇権を取るなどという事もしたくない。上の人間はそれを望むかも知れないが、少なくとも俺はそれに今の所手を貸す気はない。


「それとこれとは話が別だ。軍ではない我々は国際派遣や武器使用でさえ法に縛られている。その中で彼の国には鉾であり盾になってもらわないと困る。そのサポート練習は必要だろう?それとも、何かしらの代案があるとでも?」


「派遣などされなくて、いいではありませんか。今までは国外の脅威があった。いや、それしか(・・・・)なかった。これからは違うんですよ大井さん。貴方がたが先ず目を向けるのはゲートだ。法で縛られて使えない力も国内なら使える。だからこそ、クロエさんを欲しいのでしょ?」


 大井脱落かな。完全に揚げ足を取られた状態だが、話に乗った方が悪い。国際派遣などの話をすれば、目先が国外に向いていると取られるのは当然で、俺は外国など行きたくない。そこで既に足は上がり、サポート練習の所で振り下ろされ、代案を聞いた時点で負け。ここで松田が話に詰まったなら、大井に分があったが松田は最初から話をそこに、持っていくように話していたのだろう。


 仮にここで大井が頷いて、自衛隊を鍛えるから身柄を寄越せと言っても、今度は黒岩と松田がタッグを組んで反撃する。黒岩は市民を守る警察の意義を説き、松田は国内なら貴方がたの所でなくてもいいでしょうの一言。大井は苦虫を噛み潰したように顔を顰めたが、鼻を鳴らしコーヒーを飲んでいる。本人も引き際と捉えたらしい。さて、残りの2人はどちらが先に先制するかな。


「松田さん、国内()我々に任せてもらえないだろうか?警察は市民の味方、彼女もゲート犯罪を許さないと明言している。なら、我々組織の一部として置いていただきたい。」


 ど直球を黒岩が投げた!さて、松田はどう返すかな?確かに国内を守るなら警察で目も多ければ信頼も厚い。それを上手く返さなければ、松田はかなり追い詰められる。


「駄目ですね。それでは全く持って足りない。そもそも、彼女一人を得て貴方がたはどう運用するつもりですか?首都防衛の要にする?スィーパー犯罪の切り札にする?全く持って足りません。国内が重要だが、国外を蔑ろにしていい訳では無い。」


 真正面から一刀両断!鮮やかなほどの斬れ味だな。しかし、刃に錆は残った、黒岩は国内()といったのだ。なら、彼の取り分はそこに限定するから寄越せと言う事。警官のポリシーか知らないが、ゲート犯罪対策に噛ませろと。


 松田もこれは振り払えないだろうな。観戦してばかりだが、そろそろ話し合いは終盤かな。大井と黒岩がいて松田に対抗できたようなものだが、片翼がやられれば双翼の鳥は落ちる。自衛隊側は取り分の提示をする前に落とされたので、さぞ悔しいだろうな。


「ええ、外交は任せましょう。しかし、スィーパー含め渡航者には警察からの、厳しい検査があると思っていただきたい。聞いた話では、海外の犯罪者は指輪を皮膚の下に埋める者や、イチモツに付けたヤツもいるという。」


「水際対策までして頂けるなら、それは嬉しいことです。」


 どうやら松田もここで引くらしい。いや、深追いすれば自分の首が飛ぶか。流石に黒岩が寄越せといった分を否定すれば警察組織の根幹が揺るぎかねない。なら、ここが互いの引き時。しかしまぁ。


「皮膚の下はともかく、イチモツに付けた方は何がしたかったんでしょうね・・・。」


 ナニに輪っか嵌めるってことだよな?確かに指輪はある程度広がるし、嵌められない事もないだろう。指を動かしても違和感ないし、曲げ伸ばしも自由。しかし、指輪に収納するなら指輪をある程度は、対象に向けないといけないのだ。なので、単純にそんな所に付けたら不便極まりない。


「クロエ、女性の口からイチモツ等と言ってはいけません。変な想像をする輩がいる。」


 言葉を拾うように松田がこちらを向いて話してくる。さて、女性として扱われている訳だが、軽くジャブから行ってみよう。交渉するにも何かを引き出すにしても、手探りから始めないといけない。


「おや?私の事を知った上でそう扱うと?」


「当然です、黒江 司は女性である。それは既に戸籍が示している。なら、眼の前の貴女は中身がどうであろうと、私の目には女性に映る。現に法も変わったでしょう?」


 欲しいものは渡してますよアピールか。確かにこれで俺と莉菜は夫婦でいられる。認められなくとも一緒に居るつもりだが、そこにはやはり世間の目というものがある。法律1つでそこまで好奇の目が減るとは思わないが、しかし、世間的に認められた権利であるというのは重要な所。なので、女性扱いで通した方が彼としては遣りやすい。 


「なるほど、愛らしい私をマスコットにして外交の要兼、国際派遣要員にしたいと?」


 どこでどう運用したいか?国内は当然だが彼の話しぶりから考えると、国際的な枠組みも視野に入れているようだ。国外に派遣する為に英語覚えろとか、今の状態では無理だ。そもそも行きたいとも思わない。仮にこれがスタンピードの規模が想定より遥かに大きいとかなら話は変わってくるが、ただ外国に行って現地で教育してこいなんて話なら、受ける訳にはいかない。その点はしっかり聞いておかないと。


「まさか、本部長自ら国外においそれと出られては困る。私達の願いは1つ、交渉の席の早期確保。欲しい利権はそれのみです。警察だろうと、自衛隊だろうと他の一切を渡しても、それだけは渡せない。」


 交渉権の確保・・・、ゲートをイジれる素敵な権利。しかし、材料も場所も不明なのでイマイチ重要性に疑問が残る権利。まぁ、元は俺が寄越せと言ったので貰ったが、交渉するなら不便な所とかを無くせというくらいだろうな。幸いな事にまだ重大なエラーというのは出てないし。


「ほぅ、そこまでして何を交渉しようと?先に言いますが、交渉材料も交渉場所も不明。その中で、どんな青写真が?」


「全ては言えませんよ。ただ、我々は利権等ではなく貴女が欲しい。」


 愛の告白の様に聞こえるが、早い話身柄確保して手元に置いておきたいと言う事。同性婚が認められてなければ、国外で出来る国に居住するなんて選択肢もあったが、それも法はすでに変えられた。無理に国外に出る理由はない。なら、こちらのして欲しい事を伝えよう。


「先ずこれからの話ですが、ゲートに入るのはギルドの認定試験と実地研修した者に限り、中では完全自己責任。これを徹底してください。これはギルドが稼働しきってからで構いません。」


「その点については、ライセンス制度を考えていました。そのライセンスを扱う場所を、ギルドにするということですね?」


「それで問題ありません。少なくとも、すでに多くのスィーパーになったものは別として、これから先も無作為に死んでもらっては困る。その為の試験です。」


 イメージとしては免許センターの様に出来ればいい。ファンタジー世界にいきなりぶち込まれる訳ではなく、あくまで現代社会からファンタジーに走るのだ、なら、訓練くらい受けてもらわないと無理がある。


「次に本部職員は別として、スィーパーは官民一体としていただきたい。その中で起こる犯罪については、ギルドと警察、この両方でタッグを組んで行う方向で行きましょう。」


 黒岩の方を見ると彼も頷く。スィーパーを捕まえるなら何が何でも腕っぷし。仮にスィーパーなりたてほやほやのベテラン刑事の追う相手が、上位スィーパーだった場合話にならない。寧ろ、被害出まくりで目も当てられない。


 これは譲れない一線。国・・・と、いうか公務員だけでゲートを独占するのは流石に不味いのだ。

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[一言] 力(武力)こそパワー(権力)! ゲート独占により公務員という上級国民が支配する世界にするのだ!
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