64話 会議開始 挿絵あり
「終わったから帰って刻印お願い。」
入ってきた3人に声をかけるが、固まって動かない。静寂の中シャッターを切る音が木霊する。ホットパンツにロングブーツという姿がおかしかっただろうか?確かに、活発な印象を受けるズボンに、ロングブーツは合わないかもしれない。帰りはスニーカーに履き替えて帰るか。
「えっと、なにかしました?」
「いや、何もしてないけど?靴もできたし帰ったら遥、刻印お願い。」
「えっ、あっ、はい。クロエ、本当に何もしてない?何というか、目が離せないんだけど・・・。」
あるとすれば魔女か、魔性の女・・・。これを使った?でいいのか分からないが、手伝ってあげるというからには、なにかしたのだろう。感覚的に人の注目を集めるとかそんな感じかな?
『魔女、終了だ。』
『あら、もういいの?3人しかいないじゃない?』
『写真と言って画像を残すものがある。』
『ふ~ん。分かったわ。』
魔女が多分やめた?という表現でいいか分からないが、何となく身体に纏わりついていた煙が無くなったように思う。元々身体は変化を受け付けないので、犬よろしく皮を被ったようなものだろう。写真を見せてもらえば詳細は分かる。辰樹もシャッターを切るのをやめたようだし、見せてもらおう。
「辰樹さん、写真見せてもらえますか?」
「はい・・・、元から美しい人だとは思ってましたけど、魔法か何かですか・・・?途中から無心でシャッター切ってましたよ・・・。」
「まぁ、無理言ってたまに講習者の武器も見てもらうんです。お礼ですよ、お礼。」
そう言って、辰樹からカメラを借りて写真をみる。ポーズは足を計測したときと同じ様な感じだが、ちゃんと革靴を履いてるし、宣伝にはいいだろう。ただ、服がかなり薄着だが別に下着ではないし、パンツなんかも写っていない。ならまぁ、これを宣伝に使ってもらっても構わないだろう。
「大丈夫でしたら宣伝に使って下さい。」
「辰樹、何の話?て、言うかなんで写真なんて撮ってたの?」
事のあらましを3人に話、望田から勝手に決めていいのか?と言われたが、あくまで任意での話。ここに鍛冶師と装飾師が居て、メンテナンスを手伝ってくれると言うだけなので、それ程大事にはならないだろう。そもそも、彼等は企業に属しているので、ある程度優先はしてくれるかも知れないが、専属でしてくれる訳では無いのだし。
その後会計をしてホテルへ帰る。望田は3足、遥は色々弄りたいからと4足購入。俺はブーツで手一杯だったのでブーツのみ。履き心地もいいので、スリッパとか今度買おうかな。
「ねぇ、お父さん。靴屋での魔法、外じゃあんまり使わないでね?絶対痴漢とかイタズラとか誘拐とかされるから。」
後ろの席で静かにしていた遥が口を開く。多分、魔女の手伝いのせいだろうが、娘までそんな事を言い出すなら控えた方がいいのだろう。事故とは言え一度誘拐は経験済みである。あの時は警官だったが、コレが誰とも知らぬ者だったら本当に事案である。俺としても簡単に誘拐されたくないし、されても無傷で帰って来る自信はあるが、進んでされたいものではない。
「分かった、あまりしないよ。してもあまり意味はないしね。」
自分で言ったが、意味がない事はないな。あれは魔法ではなく魔女の効果。『魔性の女』とは聞かされたが、コイツも賢者よろしく複数の名前を持っているのだろう。なら、多分魔女もEXTRA職。狙いは当たったが、問題は使いこなせるかと言うところ。賢者だけでも相手にしてヒーヒーしているのに、そこに魔女が加わればキャパオーバーもいいところ。
しかも、俺のイメージの魔女と、習得した魔女はかなり違う。鍋も混ぜないなら、多分・・・、毒りんごも出してくれない。なら、何ができるのかといえば、言わないので分からない。戦闘時は賢者では無く、魔女が出るので戦闘方面に長けているのかもしれないが、魔女と戦闘はあまり繋がらない。
賢者は言った。賢者に内包した俺のイメージは複数有ると。なら、魔女に内包した俺のイメージとは?ここまでかけ離れたイメージはした覚えはないが、それでも成立しているのなら無意識下で何かしらのイメージをしたのだろう。
「したら大勢を扇動出来そうですね。もしかして、配信の時その魔法使ってました?元がいいだけに、相乗効果半端ないんですから。危うく抱き締めて持ち帰って飾るところでしたよ・・・。後で辰樹さんから写真もらおうかな・・・。」
「望田さん、写真貰うなら私にも!家族に送ります。」
女性2人がキャッキャと話しているが、わざわざ写真など貰わずとも、いるといえば撮らせてあげるのに。まぁ、ソレを言い出すと、着せ替え人形にされそうなので口には出さないが・・・。そんな話をしながら車は走りホテルへ。夕食やシャワーを浴びてゆっくり一服して次の日。朝から靴屋の事を話、20階層へ向かって訓練を行う。休みもあったので、ボチボチアイドリングがてらにゲート内を全力疾走したり、モンスターを集団ないし少人数で狩ったりと思い思いの訓練を行う。
俺の方も早速昨日の手に入れたブーツを履いて試運転。遥は芽衣と話してインスピレーションが湧いたのか、刻める刻印が1つ増えていた。話を聞いてみたが、刻印するなら漠然と刻むより事細かに、それこそ美術品を装飾する様に華かに緻密に刻んだ方が、効果も上がるし、それぞれの刻印が相乗して助け合う為に、出来る刻印も増えるそうだ。
例えば、オート防御、部位防御、カウンター防御、急所防御の様に刻むと防御力も上がるし、効果も相乗して心臓を自動で守った上で、相手を吹っ飛ばすなんて事もしてくれるらしい。まぁ、彫る対象のイメージもあるので、遥曰く『練習有るのみ。』らしい。今回ブーツに彫ってもらったのは頑丈さ一辺倒。爪先と踵を補強してもらったので、更にそれを補強した形だ。
「クロエさんどっか行くんですか?」
「朝話した靴屋でブーツを買ってね。それを試そうかと。雄二君も来るかい?」
「お供します。しかし、クロエさんも接近戦するんですね。何時も魔法なんで苦手なのかと思ってました。」
雄二がそう言うが、近接戦なんてやった事はない。精々息子の空手を見たり、自衛隊時代に少しかじった程度。一応、キセルは伸びるので叩く事は出来る。身体も強化出来るので、動けない事はない。ただ、経験はほぼ0。やりたいとは思わないが、ブーツの慣らしも有るので興味本位なだけ。
「苦手というか初めて。配信で殴ってたけど、喧嘩とかもした事ない。」
「あ〜、それで気合い入れてドレスなんすね。何時もの女教師スタイルじゃ無いんで、皆戦々恐々としてたんすよ。また変な事になるんじゃないかって・・・。」
雄二が手の平をポンと叩きながら話すが、ゴスロリ着るだけで戦々恐々とは・・・。これからは衣類にも気を付けないといけないのだろうか?毎度おかしな事があってはたまらない。魔女は着る度喜んでいるが、踵落とししたいと言ったら大人しくなった。どうやら魔女は近接戦はお嫌いらしい。逆に賢者は人を蹴っ飛ばしたせいか、殴る蹴るには割と反応する。賢者繋がりでパンクラチオンとかできるんだろうか?
そんな事を考えながら雄二を連れて、手頃なモンスター探し。流石に小骨に特攻をかけるほど驕っていないが、階層のせいもあり弱い小骨の方が多い。危なくなったら魔法で叩き潰せばいいが、それだと何時近接戦が出来るかも分からない。無理してまでする必要があるかといえば、多分無いのだろうが動けるに越した事はない。
「おっ!アレとかどうっすか?」
雄二が指差した先には、サッカーボールくらいのパチンコ玉が10匹。打撃が効くかは微妙だし、そもそもブーツは武器ではないので倒せるかも分からない。倒すなら刻印でのゴリ押しになるが、まぁ、モノは試しだやって見るとしよう。
「ちょっとサッカーしてくる。」
「了解っす。危なくなったら援護します。」
雄二の言葉を聞きながら、身体強化してモンスターの方へ滑るように駆け出す。寧ろ、低空で飛びながら地面を蹴っているので、どんどん加速する。しかし、10体もいらない。キセルを取り出し伸ばして1匹目を上から下へ殴る。不意打ち?だったがグニョンと凹み真っ二つにはならない。そのままキセルに巻き付こうとへばり付いたので、横に薙いで振り払う。飛んでいった一匹目は他の玉に当たり、カーンッと甲高い音を響かせるがそれで死ぬ事は無いようだ。他の玉も動き出したので、更にキセルで叩くがどれも変化はするものの、倒すには至らない。
うぅむ、ダメージ0ではないと思うんだが・・・。ボールもビームや無数の針になって、串刺しにしようとしてくるのでそれを躱しながらプカリと一吸い煙を吐く。次は吐いた煙をキセルにまとわり付かせて、メイスの様にして殴りつけると今度は倒せた。ちょっと面白くなったのだが、メイスからバットに形を変えてボールを叩くと倒せないものの、野球よろしくホームラン出来る。
そうやって、煙をメイスやバットや槍や剣に変えながらボールを倒していき、漸く最後の一匹。武術を演るというよりは、ダンスを踊るというようなイメージでやっていたが、途中から魔女が面白がってリズムを刻み出したので、それに合わせるように攻撃すると思った以上に身体が動いた。身体が小さく細い分、強化しても、そこまで力が上がらないので、遠心力何かを使った方がやはり効率がいいようだ。
「さて、ラスト一匹。蹴っ飛ばされてくれよ?」
残った一匹に駆け出して、眼の前で飛んで一回転して踵落とし。足を串刺しにしようと伸ばした針は、刻印の防御で潰されてひしゃげて行き、ボール本体に到達した踵は、勢いが止まる事なく振り抜かれてボールを砕く。モンスターもクリスタルになったので、復活することはないだろう。爪先を地面でトントンとしてみるが、靴に歪みもなく壊れたような印象もない。
「お疲れ様です、割と動けるんすね?」
「強化はお手の物、今日は靴の試しだからね。普通は魔法ばかりだよ。」
「まぁ、クロエさんには魔法のほうが似合いますよ。しかし、その靴便利っすね。」
「朝言ったように街の靴屋でね。素材持ち込めば、何かしらの改造とかもしてくれるんじゃないかな?」
「うっし、ちょっと探してから戻ります!」
「分かった、バイトついていけ。」
そう言って駆けていく雄二にバイトをついていかせる。早々危ない事にはならないだろうし、そろそろ素材集めもしないといけないのは本当。モンスターは武器は良く持って来たりして回収出来るが、補強材や植物は持って来てくれない。一部の動画では箱を分解して、ラウンドシールドにしているものもあったが、防御力は盾師の盾に及ばす、利点は簡単には変形できるくらい。動画の主は片手剣と盾で、グラディエータースタイルを目指したようだが最終的には盾師の盾を買っていた。
ただ、薬を作るにも糸を作るにも素材は必要なので、セーフスペースで乱獲するか、先の階層に自生してるものを回収するかしかない。ソーツめ、35階層までの間にもう1つくらいセーフスペースを置いてもいいものを・・・。そんな事を考えながら、ほかのメンバーに助言をして訓練を重ねていく。
何度か強いモンスターの襲撃はあったものの、休暇を明けての一週間は、毎日ゲートと駐屯地での20階層以降のモンスターや、攻撃してくる地形への理解を深めていく。35階層以降がどうなっているかは分からない。他の配信者もボチボチ20階層当たりのモノが増えてきているが、20階層を越えたものはない。それが、赴いたが死んでしまっているのか、実力不足を考えて退出しているのかは分からない。
ただ、ちょっと不安に思う事があるとすれば、中層の掃除をしていないので賢者の言うように、掃除が足りずまた何処かで溢れ出すのではないかと言う懸念。ネットを見てもニュースを見ても、何ならラジオや新聞もゲートの記事が載らない日はないが、それでも内容的にはどんな資源が出たとか、怪しい所ではゲートを崇める新興宗教の話なんかはある。一応、モンスター討伐ランキングとかもあるようだが、どれだけ倒したかは自己申告状態なので、本当にそれだけ討伐できているのかもわからない。
うぅむ、4者会談で話す内容が増えたな。ただ、何処に身柄を置くかについては色々考えたが政府だろうな。どの組織もメリットデメリットはある。警察なら国内犯罪を取り締まる為に、このまま助言役として各地方を行脚しなければならないだろうし、自衛隊なら、先ずは組織と自衛隊員から優先しろと言われるだろうし、政府なら、国際派遣が付きまとう。
俺としての優先は家族と住む場所の安全。それが確保出来れば、地元から離れない限りどれをこなしてもいい。子供ではないのだ、そこは割り切りも必要だろう。その割り切った上で譲れない一線がそこである。スィーパーも増えたので、俺1人に頼る場面は少ないと思うが、現状で助言役をしているので、放っておいてはくれない。
なら、その中で一番動きやすく且つ、各方面から文句が出にくい所となると政府になる。そして、出来ればその中の1つの省庁とでもなれば動きやすさも上がる。前にポッと出の組織が〜とも考えたが、それに目を瞑ってでもメリットデメリットを考えると、その立ち位置が一番動きやすい。まぁ、何にしてもどの組織が何を提示するかで変わる。ある意味出来レースかも知れないが、話し合うポーズは大事でそれもなしに決めるわけにも行かない。
「クロエさん、これって使えるんすかね?」
「お、空飛ぶダンゴムシ。そいつ硬いから防具にするにはいいと思うよ?どの道鍛冶師案件だな。」
「了解っす。それならもうちょっと倒してきます。殻は硬いけど、腹は軟いんすよね。」
そう言いながら雄二は走っていったが、あれももう少し下にいたように思う。下から追い出されて上がってきたか、それとも捨てられて降り積もったかは分からないが、最悪は想定した方がいいだろう。怖いのは、前回が10万規模で次も同じかどうかは分からない事。モンスターをクリスタルで管理しているのなら、俺達を指輪で確認して、中位が増えたならもっと対応出来るよね?と、前回より規模を増やされたらたまったものじゃない。
ただ、世界中にゲートがあって地球全体を掃除屋の星とみなしていた場合、規模は上がってもおかしくないんだよな・・・。薬さえ探し出して飲めば、失われない中位やこれから先、不死身の上位なんてのも出てきそうだし・・・。いや、そこまで行けば俺はお役御免で、悠々自適にひっそりとスィーパー活動ができる?
雄二がダンゴムシを倒しているので、それを手伝いながら訓練を見守りつつ過ごす。そんなこんなで10日程過ぎて、今日は4者会談の日。遥はメンバーの刻印やインナーのメンテナンスが有るので駐屯地へ。一緒に犬も向かわせたので大丈夫だろう。残念な事と言えば、靴屋である。身から出た錆とでも言えばいいのか、あの写真をポスターにして貼り出したせいで大盛況。一応、武器も見てくれはするのだが、本業の靴屋が既に計測だけで半年待ち。
それだけならいいのだが、ポスターの盗難被害が後を絶たないらしい。なので、あれ自体を売らせてくれと言われた・・・。許可するか迷ったが、これも回り回っての事。どうせ許可しなくてもこっそりオークションとかで売って、誰かが利益を上げるのだ。欲しい人分先に配ってから販売を許可した。因みに、いらないと言ったが売上の2%をくれるらしい。そして、ポスターを欲しい人は妻含めて講習会メンバー全員・・・。
それとなく話を出して、サラッと話を流してなかった事にするつもりだったのだが、先に靴屋を訪れたメンバーがポスター売る発言で即座に買うと言いだして話が広まり、結局全員分に・・・。夏目よ・・・、初っ端買うと言って騒いだのは若干恨むぞ・・・。他のポーズをねだった事や衣装を提案した事も忘れないからな・・・。何がアラブの踊り子でスケスケ希望だ!着たとしても妻の前だけだ。
「ツカサ。そろそろ行きましょう。」
「そんな時間か、結局場所はどこ?当日迄伏せてあったけど。」
秘密会談だと赤坂の料亭とか?飯食って茶飲み話なら歓迎しないでもないが、そんなセキュリティの甘い場所じゃしないだろうな・・・。
「・・・、国会議事堂です。」
警備は固いだろうが、思いっ切り政府側のお膝元。警察と自衛隊は良くOKしたな・・・。まぁ、これで俺に決めろと言われても・・・、やっぱり料亭か?イメージならそこで話してどんちゃん騒ぎするイメージだが・・・。今日はパリッと黒いスーツも着たし、髪もポニーテールで凛々しい感じになっていると思うから、いきなり舐められる所から始まるとは思わない。思いはしないが、相手は狸と狐、化かし合いの大御所だ。沈黙は金と言う言葉もあるし、最初は見守るに限る。
「分かった、行こうか。」
望田の運転する車で国会議事堂へ。当然、メディアなんかは来ていないし、入るのは裏手からなので変に騒がれる事もない。寧ろ、これでメディアが押し掛けていたら、情報管理のずさんさを疑う。
「お待ちしてましたよ、他の方は会議室の中です。」
「出迎えありがとうございます。メンバーは?」
「警察からは黒岩警視監、自衛隊からは陸上幕僚長、大井陸将、そして、内閣府からは内閣官房副長官、松田氏お見えです。」
千代田が出迎えてくれて、中にいるそうそうたるメンバーを教えてくれたが、入りたくないな・・・。絶対面倒な事になる・・・。特別特定害獣対策本部 本部長が1人しか現状いないので仕方ないとはいえ、ここでの話が後に大きく関わってくる。まぁ、立ち位置と最終的に何処に落ち着くかは別として、民間のスィーパーの立ち位置を明確化させる方向で話を進めよう。
「それと、薬をいただけますか?金銭の取引が終了しました。」
「分かりました。」
そう言われて千代田に不死薬を渡す。これでこの薬は望んだ人の物。何を願って不死になるかは知らないが、楽しめるのなら長い人生を楽しんでもらおう。1億ドル払えるんだ、どこまでかは知らないが、早々生活に不自由はしないだろうし、研究に使うと言うのならそれもまたよし。ただ言えるのは、面倒事になる前に俺の手を離れてよかった。
「金銭は明日口座に振り込まれます。所得税等はこちらに任せておいて下さい。貴女の給料等に関しては色々と手を回さなければならない所もありますので。望田君、君はこの場で部屋全体の防御をお願いします。」
「了解です、千代田さん。」
「分かりました、カオリもお願いね。あまり待たせると悪い、そろそろ行きます。」
千代田に言葉を残し会議室の扉を開く。中は上等な椅子のある質素な会議室でここに大物達が勢ぞろいするとは思えない場所。多分、秘密会談なので防音や入った扉も分厚かったのでテロ何かを警戒しての為だろう。中央には丸テーブルが置かれ、既に3人は席についている。テーブルに灰皿、脇のテーブルにお茶と軽食が置かれているので、お茶汲み係は居ないらしい。
「お持たせしてすいません、本来なら私が先に来て待っているべきでした。」
そう言葉を発して席につく。若々しさのわの字も無いような集まりだが、誰も彼も目は相手を牽制するように見ている。進行役もいないので、誰から口を開くのか?そこからが始まりだが、白髪交じりの灰色スーツを着た男が口を開いた。
「先ずは面識のない私から。内閣官房副長官、松田と言います。先に言いますが元の貴女の事も含め、ここにいるメンバーは貴女の事を知っている。なので、お世辞やおべっかはありません。」
そう松田が話、ほかのメンバーもそれぞれに名乗る。さて、ここにいる俺は誰なのか?やれやれ、長い付き合いになりそうだこの名前とは。下手をすれば本名より長くなるかもしれない。ファーストレディのファースト。橘もよく考えたものだ。
「特別特定害獣対策本部 本部長 クロエ=ファースト。さぁ、会議を始めましょう。」