676話 煩い人々 挿絵あり
ラボの威光は届かず種子島には行けなかった。まぁ、仕方ない。私の専門は言語学であり宇宙の宇の字とも・・・、離れてはいない。人が宇宙に出るに辺り生活圏を広げるなら他の知的生命体との邂逅は確実であり、今更宇宙人はいないと言う学者や評論家はモグリ以外だろう。
その出会いは如何なるものか?過去の人類ならアレシボ・メッセージやパイオニア探査機の金属板等で人類がここにいると言うメッセージを送り続けてきた。それが実ったが実らないかは知らないがソーツと呼ばれる宇宙人は現れて恩恵と混乱を持ってきた。
まぁ、行き詰まって閉塞感のある地球にはいい刺激なのではないか?内から出る刺激が少なくなるなら他に刺激を求め、本来なら月次に火星と歩みを進めるのだろうが、色々すっ飛ばして外宇宙へ行った方もいる。
国際会議で改造されたと本人が語ったが、そんな事は私にはどうでもよく、更に言えばスタンピードもどうでもいい。知りたいのは言語であり言葉だ。それはモンスターが稀に話すものでもあり、今回のメッセージについてもだ。古くは古代バビロニア、その時代には統一言語が存在しバベルの塔を建設したがために言語は別れたと言う。
あくまで神話の話だが嘆かわしい。今も統一言語が残っていたなら言語学は更に発展していただろう。ただ、なくなったはずの統一言語は現代に蘇る兆しを見せた。他でもない日本語と言う形で。
ゲート内の言語が日本語なら、それを知り理解しなければ取り残される。返り咲き持て囃された言語学者は多い。英国、中国、ロシア語等々世界に言語は多く使用する文字もまた多い。仮にも世界を旅したいなら英国と中国は話せないと厳しいだろう、過去ならば。
今なら日本語さえマスター出来れば概ねどこの国に行っても知識人と話せるし、マスターしていない学者は遅れている。遅れているのだが、そもそも日本語と言うものは難解で話すにしろ書くにしろ行間を読めと言われる事もあれば、ルビを振る時に明らかに違うものを振っても許可される。
流石に設計図に行間を読めと言う指示はないが、漢字、平仮名、カタカナ、ローマ字を理解し且つ、何故それがそれで表記してあるかは理解する必要がある。まぁ、日本語は横に置こう。コレはあくまで比喩表現で本当に置けるものではないが、別の事へ話題を変えると言う意味だ。
「人員選定という話だがアミット、どうする?」
「ギルドでR・U・Rを借りて勝者を・・・。」
友人のアミットは茶を飲みながら口を開くが、肉体言語はラボ外もメジャーになったのだろうか?スカウトされてラボに行き、それから籠もってしまったので外には多少疎い。まぁ、暴力は対話ツールとして間違ってはいない。
己の主張を通すと言う一点に置いて、他者を従わせるなら文句を挟ませない様にするに限る。別に再起不能まで追い込まなくてもいいし、順位付け格付けと言う面では勝敗を明確にすれば文句は出ない。陰口?出させる前に次にその取組に協力すればいい。
「間違ってる!そんな論理は間違ってる!我々の知的渇望を妨げようとした言葉が聞こえた!」
「カラオケでマイク使って叫ぶな!そっちはなんでタンバリンを?」
「音とは波長であり振動、人類が言語を認識するには先ずはその振動と波長を理解する必要がある。なら、こうして煩いと言うイメージを込めてタンバリンを鳴らせばそれは届くだろう?」
確かにそのイメージは届いた。なら、返信するなら黙らせないといけない。不協和音例えば主音に対して、減5度や増4度、長2度、長7度が不協和音になりやすいが、煩いと言うイメージならば黙らせるに限る。
「煩いならビール瓶で殴って黙られせらばいい。主義主張を通すならそれだけの実力をラボでは求められる。」
「確かに煩いと言うイメージは届いたと言うか、素直に煩い。アミット先生、騒がしくなるからカラオケルームで会議しようとしたのはいいですが、マイクを離さない奴が煩い。それとデューラー先生、それは野蛮だ。」
「最短の解決策はシンプル且つ野蛮なものだ。言語対話で解決出来ないなら別の言語で語る必要がある。」
「僕もガンダーラ歌いながら踊りたい気はするけど、流石にそれをすると収拾がつかないな。あっ、そこの唐揚げ取って。てめぇ、レモンかけんなや!アルじゃないけどビール瓶で殴るぞ!」
「甘酢とタルタルは許されるのに・・・。」
「それは別の料理だからだよ。名前と言うラベルが変わればそれは別物。マヨは許すけどレモンはダメ。寧ろ大分の唐揚げは何もつけないのがいい。さて、飛び入り参加したアルは面識があるから来た方がいいだろう。人は見ず知らずの人には身構える。時点で名前の出た僕かな?」
サラッと主張するが流れればまた、主張は確固となり反論が遅ければ突っぱねられる。言語とは速度も要する。口伝は広がり神話となりて地域に根付く。情報伝達と言う話でもそうで、遅い敵襲の知らせに意味はなく今襲われてるならばすぐに声を上げで助けを求めるべきだろう。
「美味しい所を持っていくならビーフステーキ注文するぞ!」
「宗教論争は止めてくれ。まぁ、異国の地で神様も見てないから好きに食べるといい。僕は食べないけどね。ところでアル、僕達は誰もファーストさんとの面識がない。そんな中で面識のある君がコンタクトを取ってきたから迎え入れたけど、彼女はどういった感じだい?」
「ふむ・・・、抽象的表現で漠然として且つ、本質を知ろうと言う言葉だが・・・。印象と言う事を話すなら話の通じる異端だな。言語学とは人間の言語を科学的に研究する学問で言語の構造、機能、歴史、社会的な使われ方、そして言語と他の分野との関係などを探求するとしてある。しかし、それは言い換えるなら人の扱ってきたモノを発掘し再度適応させ関連付けて行く学問とも言える。現に新たな言語は日夜生まれマシン言語なんかは我々でも解読するのには苦労するし、暗号文なんかは解読書がなければ読み取るのに膨大な時間を要する。」
「それは分かってるけど人となりはまともなんだろう?君みたいな変人ではなく。寧ろ君と話して離れない人間がまともかと言われると悩むけど。」
私は常識人だ。ただ。その主張は自身の評価であり対外的に変人の評価を受けるなら受け入れるしかない。言語で論理的に反論出来ないなら特にだ。コレばかりは肉体言語では解決出来ない。
「まとも・・・、理知的な会話が可能と言う事をまともと言うならまともだろう。ただ、我々が99%の努力する民とするなら彼女は1%の閃きの民だ。なにせお姫様抱っこで研究室へ連れて行き彼女の娘に蹴りを貰ったが、その結果テレパシー実験をしてもらえた。」
「・・・、ラボでは一体何をしてるんだい?」
アミットが怪訝な顔で私を見るが、たまにしか顔を出さないなら確保して話を聞くべきだろう。時間は・・・、寿命と言うものは買えるが終わりは・・・、それも買えるが中々出ない上に高い。なら、自身の時間をどう使うかになってくる。
「研究に肉体言語は必要・・・、すまない。ラボ外では犯罪だな。しかし、ラボ内てはよく見る光景だ。自身の研究と他者の研究を比べ論争で決着を付ける時間も惜しいなら拳で語る。シンプルだろう?それに、怪我すれば検体として介護コース。中々返してもらえないけどね。」
腕が折れようと肋骨にヒビが入ろうと、なんなら臓器が破裂しても回復薬研究者達が現れて新薬を投与してくれる。そして、元気になれば返してもらえると思いきや今度は経過観察として時間を取られる。流石にそれには従う。従わない場合見捨てられはしないものの雑な薬を投与されて痛みが長引いく。
更に言えば施設の破壊はご法度。よくて謹慎悪ければ解雇。あくまで肉体言語による対話なので関係ないモノを傷付けてはいけない。あそこを解雇されても国へ帰れば雇先はあるだろうが、あそこ程設備や自由が約束されてもいない。
「君がラボに呼ばれて大丈夫かと思ってたけど周りも変人らしい。しかしテレパシー実験とは?今回のメッセージ受信とリングするのかい?」
「あれは・・・、ファースト氏が外宇宙から帰った後の話だな。コアと呼ばれるモノの声を聞けるのは概ね中位か最適化を受けた者としてあった。しかし、言語としてある以上我々でも受信出来ないと言う話はない。要は耳と目と脳が独立して受信するが故に結び付きがなく理解出来ないのではないかと考えていた。」
「仮説としては理解出来るけど、どちらかと言えば言語学と言うよりは脳科学的な見解に聞こえるね。でも、確かに五感で受信するとするならそれも・・・。」
「いや、六感も必要だ。情報の入口としては五感でいいかもしれないが、受け皿も入れるなら六感がいる。先程のテレパシー実験で何をしたのか?ラボにいた語学研究者全員に対しファースト氏はテレパシーを送った。その上で個別指定も可能だった。実際私はその個別でメッセージを送られた本人だ。内容は図画と色彩だったが、私だけ色が違った。」
「言語学からスピリチュアル系に話が変わってしまった。僕としては何かしらの周波数的なモノや人には見えない光の中にある色でやり取りしていると考えていた。例えば赤、緑、青の3原色。それを元に人は約100万色を識別出来るとされている。しかし、配信でシャコに触れたなら視える色はそれ以上で組み合わせも無限にある。」
「それは間違いないが種明かししてもらったら魔法で脳を刺激したらしい。そして私はその説明に納得した。確かに宇宙人がいて、それから直接メッセージを受け取るなら我々人類はまともに受信出来ない。なにせ初邂逅して相手の論理を我々が理解する下地がない。そんな中でどう対話するのかと考えたならどちらかのレベルに合わせる必要があり・・・。」
「合わせるなら下等な方が楽と言う訳か。確かに私達に外宇宙を理解しろと言われても無理だし、ゲートから出土する物を全て理解するのも無理だ。なるほど、確かにコレは言語学の領分で間違いない。超然的な者から超然的な司令が来るのではなく、伝えたいメッセージを自身の脳から浮き上がらせる。やはり懸念事項に引っかかって来るなぁ・・・。」
「そもそもアミット達は何故大分ギルドに詰めかけた?私にはさっぱり理解できん。」
「それは君がテレパシー実験なんかに参加してるからだよ。よし、今の話はみんな聞いていたね。今回は僕とアルで会談に臨もうと思う。色々とやっかみは出ると思うけど、それはここで吐き出して意見をまとめよう。」
アミットが音頭を取り連れて行けコールが鳴り響くが、我々はあくまで会談を承諾された立場だ。多人数で論争してもまとまらないなら人数を絞り意見をまとめるしかない。まぁ、数人と言う話もあったが議論の場に行く人間は少ない方がいい。その方がその場での疑問がぶつけやすい。
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ゲートから出てもバタバタだが、一応の平穏はあった。家に帰れば子供達は元気だったし妻とも仲良くしたし、バイトは犬小屋で餌を啄む小鳥を尻目にタブレットを尻尾で操作する。青山も約束を守りバイトにリードを付けて挨拶した後は引き摺って散歩に連れ出したし、その際もおかしな事はしていないと言う。いまいち信用ならないが、表面上は平穏である。
「ソフィア、学校はどうだ?3年生だから早くも進路の話とか出てくるけど。」
「進学予定ですけど何処がいいんでしょうか?普通科の普通ってなんです?フェリエットは一緒ですよね?」
「水産学科行って魚を取って食べたいなぁ〜。徒然草でも船の上に生涯を浮かべと言うなら、私は船乗りになってシーチキンを食べる人生でもいいなぁ〜。」
「でも、それだとシーチキンだけですよ?」
「遠洋漁業の外航船なら他の国のご馳走が食べられるなぁ〜。」
変な所で変な夢を語るフェリエットだが、国が許可しないだろうな。獣人スィーパーが増えればその限りとも言えないが、現時点では高校には獣人教育のデモストで行ける。しかし、その後はギルド職員扱いで国からのオーダーをこなしたりするのがメインとなるだろう。種子島での働きも大井や黒岩から真面目でよかったと聞いたし、報酬額もフェリエットが時間対価を考えたらアレでいいらしい。
実際フェリエットに種子島でなにしてた?と聞くとリュウ達を見る以外は、ほぼ食っちゃ寝しつつJAXA周辺を散歩して怪しいモノを指輪に入れてないか見て回ってたとか。なので本人曰く実労働時間は数時間でかなりフリーダムだったとか。
個人技能として指輪の中が見れると言うアドバンテージは非常に高いのだが、高すぎる金額を要求して高いから呼ばれないとするよりは、飯とそこそこの金額を貰って継続的な食い扶持を得る方が得だろう。まぁ、現時点では犯罪者の指輪の中身を空にする時に呼ばないと言う選択肢もないのだが・・・。
「フェリエットも高校に行く。獣人スィーパーはギルドや政府から呼ばれて欠席しても出席日数を減らさないらしいから、卒業資格だけでも取っておけ。」
「それって意味があるのかなぁ〜?」
「私はフェリエットと高校行きたいですよ?」
「ないよりはある方がお得だ。」
「そうよ。そこでしか出会わず疎遠になる人もいるけど、逆を言えばその時その場で会ったから長い付き合いになる人もいるのよ。だから、私立でも公立でも行くといいわ。」
「考えとくなぁ〜。」
「そう言えば那由多は?今朝は見かけなかったが。」
「千尋ちゃんとギルドまで走るんですって。仕事しだしてから身体を動かす機会が減ったから走るって言ってるけど・・・、早く千尋ちゃんに会いたいみたい。」
「ランニングデートか。」
余裕を持った速度だろうが走りながら話すって疲れそうだな。実際自衛隊時代にそれをやらされて疲れたし。でもまあ、ギルドには温泉もシャワーもあるし手荷物は指輪に入れれば気にならないし昔よりは楽だろう。
そんな朝を終えてギルドへ。今日の会談は大人しく終わるといいな。




