閑話 132 作成群体
その銀河はとある星が栄華を極めた上で滅び様としていた。いや、語弊がある。銀河誕生を数十億年から1000億年以上前とした時、我々が発生したのは約10億年前。その中である種は絶滅しある種は旅立ち、残った我々も宛を探しに銀河を出る。誠に残念な事に移住の申し出は全て断られた。
我々が居着くに良い条件の別の銀河から始め、物理的な入れ物である身体を改造しなければ居着けない星までコンタクトを取ったが、我々を受け入れる場所はなかった。仕方のない事だ。我々は過去より栄華を極める為に他を踏み台にし、あらゆる物を作り売り捌いてきた。下等な者も上等な者にも。
兵器も生命も移動手段に食べ物さえも。娯楽を寄こせと言われれば代価を貰い作り出し、新しい星が欲しいと言われれば代価を貰い作った。まぁ、売り捌いた後の事は願った者達が片を付ければいい。全てが順風満帆ではない。現に我々は概念的なモノは扱えても身体からは離れられなかった。
それが過去にされた選択なのか、それとも我々の精神が耐えられないのかは分からない。精神体としてある種にそうなる方法を聞けば、脱却し進化しろとしか言われない。その方法が分からない我々は挫折しつつも物理的な干渉を受ける邪魔な檻から抜け出せずにいる。いや、一時は抜け出せるが長時間そうしていれば自己を自己とする感覚が薄れてしまう。
そんな我々が得た代価の中に奇妙なプレートがあった。全てで13枚、光も返さない様な漆黒のソレは我々の技術とは全く異なるモノで、時間を費やし全力で解読すればいくつかの事象が判明した。
この13枚全ての内容は同じである。曰く暇、だと。コレを差し出した民にコンタクトを取ろうとしたが既に不和により滅びてしまっていて分からない。同じ民から受け取った他の代価から検証して行けばその民達が知る昔話の遺物らしい。
遥か遠くに崇めるに値する者あり、名を呼んではいけない、志しなく出会ってはいけない、されど暇をさせるな。させればよくない事が起こる。願いある者は申し出よ、差し出す代価で叶えられる。それは近くに遠くに視ているぞ。
戯言の夢もな語り、我々と同等と思っていたが何かを崇める様な精神構造は最後まで理解出来なかったか。願えば叶うのならその願いだけを残して後はいらないのではないか?ただ今にして思う。我々よりも後に発生し同等だと思った者達はどうやってそこへだどり着いたのかと。
「総主、プレートが起動しました。」
「分かった。なら星図に照らし合わせ進ませろ。住まう場所は終わりを迎え残る我々は流浪の者となった。ならばここに用はない。」
10万kmの移動船。新たな住処として建造し既にそれのテストも運用も済ませている。それに同胞と乗り込み銀河を出る。この船を新たな住処にとは言わない。可能なだけの材料はあるがそれは有限で我々が何かを作れば枯渇してしまう。最善は移動しながら作る事だろう。
それに全員にリンクして決議し全会一致で進む先をこのプレートの指し示す方向にするとなっている。元々我々を受け入れる住処はなく、身体無き者達は我々より高等で話を聞くだけで限界だ。代価は支払う。動かせる身が欲しいと言われて作るが、何が正解か分からない。過去を思っている様な素振りを見せ、それに準ずるモノを作るが気に食わないらしい。
大量に作ればゴミも増えるのだが、作品として完成させていればそれを自らの手で壊すのも嫌な気分になる。引き渡したのだ、壊すなら勝手に壊して欲しい。我々は少なくとも処理する者ではない。
星を渡り銀河を渡り途中、何者かが暴れまわり星を壊すと言う環境破壊行為を目にして逃げ出す。この船の武装で撃退出来るのか?対話出来るのか、或いはするのか?の決議を行ったが近付かないと言う方針となった。星図で見れば行き先はその現場の先だが、わざわざ接触する必要もない。
こうして目的地を目指して旅をしているが、その間にも出会った者達から作成依頼を受けたり、或いは利用しようと言う者とは袂分かち滅ぼしたりしてきている。勝利は無意味だが争いと言う過程には意味がある。如何にして無駄な勝利を得るのか?その思考が何かを作るきっかけになる。
例えば先の銀河で知的生命体と邂逅したが欲しがったのは我々の技術で、差し出された代価はその生命体なりの攻撃だった。言うなれば交渉ではなく強奪目的の邂逅だったが、大型素粒子弾の一撃で片は付く。しかし、その一撃で終わらせては何も発展しないし相手も何も見せてくれない。
相手を待ち、相手の考えた兵器を読み取り、それから使えそうな技術を得て糧とする。我々は既に長く旅をしている。星図に照らし合わせてプレートの示す方向に進むが、このプレートを作った者は留まらず動いているのだろう。既に我々の発生した銀河を出てどれ程の時が経ったか。何者かとの邂逅がなければ我々の想像力も枯渇していく。
それが争いであれ提携であれ他の星の中は歪で我々が予期せぬモノもある。共に来た同胞もそれで死する時もあれば、融和し留まると言う者もある。留まるなら除名しリンクを切りその星の生物として身を作り替えればいい。我々は旅をするが留まると選択した者は他者だ。次に出会ったとしても互いに分からないだろう。
リンクが切れてしまえば我々と言うネットワークから弾き出され、完全に別の個体としてしか認識しない。再度のネットワーク加入はない。それは異物であり侵略者だ。我々は身から離れられず個としてあるが精神的には繋がっている。それが最も意見交換がしやすい。
私が総主と呼ばれているのは他の邂逅した者達から代表が欲しいと言われたからだ。別に誰が総主でもいい。誰かに話せばそれが全体共有されるが、身を持つ者としては多角情報としての代表がいる。
「総主、環境破壊者がロストしました。距離は3億光年先です。」
「ふむ・・・、気にしなくていいだろう。ああも飢えていれば何処かで反撃される。その反撃に勝てなかっただけだ。長引いたのか?」
「いえ、一瞬の様ですが流石に3億光年あればラグがでます。ロストと同時に全ての確認機は消失しました。」
「決議する。プレートは破壊者がロストしたであろう方向を示している。我々はそこに向かうか否か。」
「行けばいい!多少の時間は苦にならない。既に旅をしてどれほど経ったか!我々は未だ辿り着けず旅を続けている。ならば向かうしかない。」
「反対します。先ずは調査してから進みましょう。我々とても敵わない者もある。観測機を先行させては?」
「進む事を望みます。精神体がいた場合観測しきれない事態も想定されます。無人ドックを作りつつ安全を考慮して進みましょう。」
進む留まる、経過を見る等々の意見が出る。争点は行くか行かないかだが論争が始まればそれが経過を見るに値し、その間に観測機を先行させれば済む。ならばゆっくりと進めばいい。この論争も単純に枯渇しつつある作成物へのインスピレーションを得る手段なのだから・・・。
それに長引けば長引くほど多角的な意見も出る。同胞は多くその分時間を食う事は避けられないが、流浪の民と成り果て依頼しにくる者も少ない中ならばこう言う方法も取れる。
かつては多くの者と出会って依頼を受けて作ったが、最近は依頼も少ない。作成物に対しての満足度は高いはずだが、それで満足してしまっているから依頼もないのだろうか?揺らぎを持たせ多くの同胞が手掛けているが不良品はない。ただ、完成品もまたない。
最近は異空間システムを作りその中に作品を収めているが、あれもまたいつ満杯になるか・・・。2度と目にしたくなく、かと言って壊したくもない作品は死蔵され仄暗い場所で終わる時まで佇んでいるのだろう。かなり難解だったが精神生命体に話を聞きプレートの解析も進みエネルギーが取り出せる事がわかり、それを新たに作品に組み込もうかと言うプランもある。
ただ中にはこのプレートを見て関わるなと警告する者もある。確かに未知の物質だが存在し得ると言う事は誰かが作ったと言う事で、曲がりなりにも人工物なら・・・、暇と言うメッセージを送るだけの為にこの様な物を作る者なら出会いたい。
当初は宛のない旅の指針程度の物だったが、解析するに連れて全員が出会いたいと願う者となった。ならば行かないか訳にもいかない。それが寄り道や回り道をしても・・・。




