表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街中ダンジョン  作者: フィノ
78/849

63話 靴 挿絵あり

遅れました、短いです

「お願いしたいのはオーダーメイドのロングブーツ。編み上げタイプの物をお願いしたいのですが・・・。」


 夫婦漫才をしているが、話さない事には前へ進まない。要望を伝えると、辰樹と芽衣はピタリと話すのを止めて俺の方を見る。何かあるのだろうか?材料がないとか?遥が言った事を考えると、普通の皮でも十分使えるものが作れると思うのだが。


「えっと、うちらでいいんですか?クロエさんならもっとこう、政府とか専属のスーパー鍛冶師とかスーパー装飾師とかいると思うんですが。」


 辰樹が『えっ!本当にうちらでいいの?』と言うような顔で聞いてかるが、残念な事にどこもかしこも人材不足で専属なんて夢のまた夢、彼等のように企業にでも属して要請を蹴っていない限り、政府にいいように使われている。


「残念な事に装飾師はいますが、鍛冶師はいないんですよ。作れるなら一足お願いできますか?」


「もちろん喜んで。じゃあ、座って靴と靴下脱いで下さい。」


挿絵(By みてみん)


 辰樹がそう言うので、椅子に座って靴を脱いで足を差し出す。オーダーメイドで靴を作ったことなどないので知らないが、採寸でもするのだろうか?前に量販店で足のバランスを計測した時は、あまりよろしくなかったが・・・。


「ほぅ・・・、すげぇバランスいい・・・、芽衣の足も良かったけど、この足はそそる・・・、おっと、ヨダレが。後で足型取りますね。写真も撮りますから、しばしそのままで。」


 人の顔を見ず辰樹が、足に向かって話している。靴を作るので間違ってはいないのだろうが、なんだかこそばゆい。しかし、彼は足フェチなのだろう、今にも頬ずりしそうなほど近くで足や脹脛を触りながら見ているが、臭くなかっただろうか?ちゃんと毎日洗っているが、今の今まで履きっぱなし。体臭はさんざん嗅がれたが、流石に足の匂いは嗅がれた事ない。


「このバカがすいません・・・、腕は確かなんです、腕は・・・。装飾師がいるなら、私の出番は無さそうですね。」


 そう言って残念なモノを見るように、辰樹を見た芽衣が口を開く。彼女の口振りからして、ここで刻印しているのは芽衣なのだろう。遥より腕はいいようだが、刻印してもらうなら娘の方がいいな。その方が、メンテナンスを考えると楽だし。


「えぇと、芽衣さんが装飾師?なら、話聞かせてもらえませんか?私は遥と言ってクロエの所で駆け出し装飾師をしてます。」


「貴女がクロエさんお抱えの装飾師?いいわよ、靴が出来るまで話しましょう!装飾師は殆ど見ないから意見交換会ね。辰樹!クロエさんに変な事しないようにね!」


 そう言って芽衣は遥を連れて店に戻っていった。店員が居なかったように見えたので、流石に無人ではまずいと思ったのだろう。さて、辰樹と残された訳だがさっきまでとは裏腹に、真剣な眼差しで脚を見ている。


「色とかの要望ってあります?」


「黒の編み上げブーツ、高さは膝下くらい。優先事項はデザインより頑丈さ。モンスターを何度か蹴っ飛ばせる程度は欲しい。」


「実用性優先ですね。うんうん、靴はそうでなくっちゃ。履いて使って、ボロボロになるまで履き潰して。また新調して、パートナーだから飾るなんて勿体ないですもんね。」




 どうやら辰樹はデザインよりも実用性のある、履ける靴を作る方が好きなようだ。ここに来てハイヒールなんて頼む気はないし、俺としても実用性最優先、脚を揉んだり膝下まで撫で回したりしながら話している。手付きがソフトタッチの時もあってくすぐったい。


「それで、どれくらいで作れるんですか?」


「刻印しないならすぐですよ?鍛冶師様々で、寸法とイメージさえできればすぐ作れます。改造で補強しますけど、精錬があるんで爪先に鉄板入れるのも楽ですよ。」


「早いもんですね。なら、踵にも鉄板仕込んでください。踵落としは多分しますから。」


 足全体を揉んでいたが今度は離れて、木枠と何だかドロッとしたものを準備しだした。多分シリコンだろう。


「これで型取れば、次来た時のメンテナンスとかも楽になります。一応聞きますけど、ご贔屓にしてもらえます?」


「履いてからとしか。命を預けるかも知れない物なので、気軽にハイとは言えないですよ。」


「了解です。まぁ、準備しちゃったんで型取っときますね。」


 そう言われて型枠が準備され、足を入れるとシリコンが流し込まれてヒヤリとする。固まるのにどれくらいかかるのだろうか?割と時間がかかったような気がするが。


「大丈夫ですよ。精錬すると硬化時間も変えられるので、大体30分も有れば型取りできます。さてと、靴作り出しますけどお茶とかいります?」


「お茶はいいですけど、タバコか煙はいいですか?」


「タバコは臭いつくんでやめてください。煙?ベープですか?アレならまぁ、そこまで付かないんでいいですよ。」


 そう言われたのでキセルでプカリ。刻印は遥に任せればいいし、靴は今日中にどうにかなりそうだ。夕食の時間が遅れるが、どの道今の状態から動けないので、お腹が空いたなら先に食べてもらおう。遥にLINEを入れて、辰樹の仕事を見る。彼が取り出した武器は斎藤と同じ物。ソレを様々な形状に変化させながら靴を作り上げていく。


 器用なもので型枠など取らず皮をカットしたりゴムを塊から靴底に形成したりしている。多分、足を揉んだり触ったりしてイメージを固めてしまっているのだろう。一点の迷いもなく作業する姿は軽い感じの話し方とは違い、没頭する職人の背中を見せる。なにか話でもしようかと思ったが、邪魔になるといけないので、キセルをプカプカしながらスマホをイジる。


 気になるのはモンスターを持ち出した国の事だが、北の方は完全に黙り。声明1つ出そうとしてない。米国の方も火消しの為か、我が国でモンスターが持ち出された可能性はないと声高らかに叫んでいる。千代田の話では米国と北だったが、証拠がない以上突けないのだろう。日本お得意の遺憾砲は発射されていない。


 まぁ、ガーディアンの事は配信で流したので、アレとガチンコする気概があるならまたやるだろうし、見落としがあってモンスターが外にいる状態で配信を見たなら、早々に処分するか逆に本当に来るかを検証している所だろう。どたらにせよ、持ち出した理由が分からないのでこれ以上調べようがない。


 地元に帰って地域別とでも言えばいいのか、出土品にムラがあったので翻訳アプリ何かを使いながら、海外のオークションサイトを覗いてみると、大まかな傾向はやはりあるらしい。資源と武器はほぼ平等に出ているようだが、それ以外の出土品なんかは結構ばらつきがある。欧州の方は薬が若干少ないようだが、機械類は豊富に出ているようで、昨日の今日で出土品の最新モデルなんて銘打ったものがある。東側諸国では大体同等量出ているようだが、若干薬が多め。その薬も回復薬ではなく寿命に関するものが多い。


 流石始皇帝の居た東側諸国、永遠で人を釣っているようだ。少なくとも、今回不死薬が出てしまったので、次は不老か若返り。考えるなら、不老が先に出るだろう。わざわざこれ1本で解決という形ではなく3本に分けたからには理由がある。その理由を考えるなら、掃除をさせる為に奥へ誘うこと。俺自身は興味もないので鑑定結果の詳細は聞いていないが、飲み方に順番があるんじゃなかろうか・・・。まぁそれは、飲んだ人間が自分から言いふらさない限り知った事ではない。


 販売されている武器を眺めるが、灰色や透明な物はない。多分、この色は中位やEXTRAの目印なんじゃなかろうか?形は色々有るが、何が使いやすいかは別。清水なら日本刀だろうし、赤峰だと最初のメリケンサックよりはグローブタイプ。魔法職は杖よろしく分解ロッドがでる。ただ、たまに流れてくる動画で魔法詠唱しながら、ガンナーの武器で2丁拳銃しながらガン=カタしているものがある。架空の近接格闘術だったはずだが、きちんと成立しているあたり、魔法使いが頑張ったのか、架空の格闘術の完成度が思いの外高かったのかは分からない。


 ただ、見ているとやってみたくなる。魔法使いは杖と誰が決めた?ショットガンでもグレネードでも何なら火炎放射器でも、好きなモノを使うといい。個人的にはP229にサプレッサー付けてやりたいなぁ。P90をピンクに塗って、走り回るのもありかもしれない。寿命の話もしてしまったので、後は変わらない外見を多少は楽しむとしよう。


 セス氏の動画では、到頭ゲートに居着いてしまったようだ。本人は元気に走り回ってモンスターを倒しては、たまに退出して調味料と足りない生活用品を買い込んでるようだ。タイトリングも『ゲートに住むならこれがいるベスト10』となっている。そして、この動画から思わぬ情報が流れてきた。単語を拾って聞いた限りだが、視聴者の質問に答える場面で家以外消えるんじゃないのか?の、質問に『鍛冶師と装飾師に頼め。鉄板とかを改造してもらって装飾師に固定してもらえば今の所消えない。』との話が出た。ありがとうソーツ、言語を日本語にしたおかげで、職の名前は日本語で誰も彼も話しているよ。


 因みに堂々の1位はトイレペーパー。水や草でと言う事も出来なくはないが、そこまでやってしまうと原始人に逆戻りである。彼は友人のケンに色々助けてもらいながら、ここからは何処まで生活できるかに挑む事も考えているらしい。最初の配信では死にそうになっていたのに・・・。


 そう言えば、うちのチャンネルにも色々コメントが付くらしい。公式チャンネルではあるのだが、今まで管理のかの字もせずに放ったらかし。よくよく考えれば、橘からカードをもらった時点で、管理をしなければならないモノだったのかもしれないが、忙しさにかまけてほぼ投げっぱなし。考えてみると、自分で自分の配信は見た事がない。・・・、見るにしても勇気がいるな・・・。よし、今は横に置いておこう。


 世界的な動きといえば、仕事しない国連が動き出したようだ。元々は国際的な法案を作っているという話だったが、漸くそれに目処が立ったそうな。法律的にはそもそも、越権行為になるのでその国に任せるしかないのだが、大きな枠組みとしてスィーパー達の処遇的なものが決まった。


 国外渡航の際は両国に出国申請がいるとか、自国外で能力を使ってのテロ行為を働いた場合は死刑になるとか。それには流石に驚いた。国外で死刑のある国は少ない。それの流れを断ち切った形で人権団体が騒ぎそうだが、助ける相手がワンマンアーミーのテロリストなので手に負えない。まぁ、誰がどうやっての部分がすっぽり抜けているが、それはまぁ、その国に頑張ってもらおう。呼ぶなよ?こっち見んな!


「そろそろ出来ますよ。なんの香りか知らないですけど、いい匂いですね。お香とかですか?」


「さぁ?武器なんで、そもそもプカプカ吸っていいのかも知りません。」


 ナチュラルにキセルだったので吸っていたが。それって他人が吸って大丈夫なものなのだろうか?橘が前になら吸わせろと言ったのを断ったが、もし吸っていたら・・・。よそう、魔法使うのに扱いやすい煙というだけで十分だ。


「シリコン型の方はいいみたいですね。靴も出来たので、履いてみてください。」


 割とゴツい真っ黒ロングブーツは、履いてみると怖いほどにピッタリとフィットする。履き着心地も悪くなく、爪先と踵には鉄か鉛が入っているのだろう。内側からでは分からないが、手で叩いてみると硬い感触がある。


「改造でアジャストと疲れ防止なんかは付けてます。後は刻印すれば好きな機能がつけれますね。材料が良ければもっと色々出来るんでしょうけど、中々材料売ってないんですよね・・・。」


 ここでも深刻な材料問題が・・・。糸はできたし、材料集めツアーでも開こうか・・・。いい加減あれがないコレがないはどうにかしないといけない。オークションで売ってないこともないが、べらぼうに高くて手が出しづらいしな・・・。


「履き心地は問題ないです。寧ろ、怖いくらいフィットしていますよ。料金はどれくらいですか?お恥ずかしながら、相場が分からない。」


「あー、金貨100枚とか?芽衣が経理もしてるんで俺はいくらでもいいんですよ。あっ、宣伝写真とか取らせてもらっていいですか?何なら、ファーストさん御用達とか入れたりして・・・。」


 困っている印象はないが、そんなに経営がヤバいのだろうか?履き心地も悪くないし、居ない鍛冶師に恩が売れるならその程度は安い。現状、斎藤は他の事で忙しそうだし、辰樹も暇ではないだろうが会いには来やすい。


「いいですよ。材料とかも有れば持ってくるので、武器関係もいじってもらえませんか?無理なものは無理と言って構いませんので。」


「えっ!ファーストさんの武器メンテなんて・・・。」


「いや、政府主催の講習会メンバーの物です。衣類はどうにかなったのですが、靴や装備品となるとね・・・。鍛冶師と装飾師は政府が連れて行ったので、こちらには回ってきませんでしたよ・・・。」


「それはまた・・・、できるかわかりませんが、暇なときならいいですよ。靴作りが優先になりますけど。」


「構いません。私達もゲートに入るのでいつもいる訳ではありませんから。」


 こちらから手を差し出すと、辰樹も俺の手を取ってくれた。これで交渉成立でいいだろう。むろん、各人に金は払ってもらうし、本人に行きつけがあるならそちらを優先していい。必要なのはメンテナンスする場所が有るという事実。壊れたら探せばいいが、いつもあるとは限らない、なら予備も含めて命を賭ける道具の整備は十分にしてもらおう。


「じゃあ、写真撮るんで笑ってください。」


挿絵(By みてみん)


 そう言われて笑顔を作る。取り敢えずニコニコしておけばいいか。


『人を呼べばいいの?』


『魔女か、靴のお礼もあるし商売だな。』


『なら、手伝ってあげる。』


挿絵(By みてみん)


 漂っていた煙は消えたが、なにかしたのだろうか?辰樹が凄い勢いでシャッターを連写している。


「クロエさんそろそろ終わりました?」


 芽衣の声がするので振り返る。遥と望田も一緒に来たようだ。辰樹はシャッターを相変わらず切りっぱなしだが、あれだけ撮ればいいものはあるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、ブックマークお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ