656話 ほう! 挿絵あり
夏バテや熱中症には気をつけましょう
斎藤が目的を果たし松田は今判明している事実を話し合うと連絡している。とかげの尻尾切りの様に明るみに出たとしてもそれに対する声明も用意しているだろう。現状としては手詰まりかな?チクチクと嫌がらせの様にやり合う事は出来ても表立って何かをするには材料が足りない。
仮に圧縮装置の話をしたとしてもスペース・デブリ対策で圧縮した物を地球へ大気圏突入させて燃やす計画だったと言われればそれまでだし、そうでなくとも不要な人工衛星を除去する為の策だと言われれば内情を知らない限り信じてしまう。
その為のデータはゲート出現前に直径10メートル未満なら概ね燃え尽きると出されているし、仮に他国の人工衛星を圧縮したとしても機能不全があれば一発でバレるだろう。何かをしてそれに対して正当性を主張する。
屁理屈だろうと理屈だろうと要はどれだけ納得させられるかの違いでしかなく、そこに納得出来る根拠を持って来られれば批判もし難い。なにせS・Y・S初離陸時からスペース・デブリどうする?と言う話は出続けているし、この宇宙ステーションにはデブリが当たったと言う実績もあるのだから・・・。
タバコをプカリ。物を知るのは楽しい半面、面倒事を抱え込みやすい。無知なら透明な湧き水を見て美味しそうだと何も考えずに飲める。しかし、多少でもモノを知っていれば水源地に動物の糞尿や死体がないかやピロリ菌はいないか?或いは鉱物に有害な物は含まれていないかと考えるし、煮沸や濾過しても安全性を考えてしまう。まぁ、死にそうな程の脱水状態ならそれでも飲むのだが・・・。飯食って寝てるフェリエットが羨ましい。
「松田さん、ちょっとチャンさんの所へ行ってきます。」
「えっ?それは・・・。既に会談は済んだはずですよね?アチラ側が拒否する可能性もあるので会う理由を聞いても?」
「ビジネスの成果、そう言えば分かります。少なくともそれで中国は多少大人しくなるし、上手く行けばロシアも静かになるでしょう。」
「ビジネス・・・、何を渡す気ですか?あまり変なものだと困りますよ?大方箱を開けて出て来た物なんでし・・・、不死薬?」
「ええ。私には不用品。でも、それに価値を見出す国がある。それともあまりオススメはしませんが松田さん飲みます?」
「オススメしないなら・・・、しかし・・・、オススメしない理由を伺っても?」
「至極単純に私が薬の効果を知らないからです。あぁ、不死薬と言うのは間違いありませんよ?前に鑑定されてますしこの薬はそれと同じ物です。しかし、私は不死薬なんて物は要求してないし不死の何たるかを知らない。そもそも彼奴等人の老化とかを理解出来てない節があるんですよ。」
「それは交渉時の一幕としてありましたね。外見的老化を言い換えてに進化にし、それをソーツは受け入れたと。いえ、この場合職ですか?」
「多分職ですが交渉相手はソーツですし、その時点で私はまだ職に完全に就いていない。人は日夜劣化して行く。それは老化ですが人ではなく機械なら新たな整備して新たなパーツを付ければそれは進化ですし、肉体があるかないか定かでは無い相手に取っても、物理的な干渉を脱却出来ない不変状態であると言う事は常に不自由を強制される枷となるし、人が仮に滅びた後に覇権生物が虫やら鳥類なら私は異物になる。進化の方向性なんてモノはその時の環境でいくらでも変わるんですよ。現に人はスィーパーになり進化したとも言える。そんな中でこの薬を私は飲む気にはなれませんね。まぁ、私が既に死を脱却しているので何を言っても『お前は死なないからそう言うだけだろう!』と言われておしまいですが。」
「そんなモノを売ったんですか?かなり詐欺に近い様な気もしますが・・・。」
「詐欺も何もあくまで私の予想ですからね。ただ、不老やら寿命の薬があると言う事は全部探してまとめて飲むのが前提なんじゃありません?好きな外見を選択する為の若返りに、そこで外見を固定する為の不老、そして最後に不死を飲めばその時好きな自分のまま生きられるとか。」
擬似不死者の夏目曰く、不老を飲んだら代謝はなくなるらしい。その代わりテロメアは擦り減るらしく突然死ぬ可能性もあるし、当然事故で心臓が止まれば多分死ぬ。あくまで不老なので間違ってはいないし不死ではないので死は残っている。まぁ、その夏目は肉壁なので好き勝手寿命を延ばしているわけだが・・・。
「揃えられない限りは扱いづらく、他の薬といつ巡り合うかは分からないですか。揃えられる確率ってどんな感じだと思います?」
「う〜ん・・・、自己消費した人もいると仮定しても相当少ないんじゃありません?今回見つけたのは中層の箱からだと思いますし、そもそもこれを売ると言う発想をソーツが持つかどうか・・・。」
効率性と報酬と言う点を考えるならこれは拾得者が飲むものである。そうでなくとも全体主義を考えるなら、そこに行けるスィーパーが飲み効率的な掃除をしてスタンピードを食い止める楔とするのが最適だろう。ところがどっこい人はそうじゃない。永遠の命は夢だと言うけれど、その永遠が過酷なら人は死を選ぶ、欲する者は持つ者で、持たざる者は糧とする。
そもそもソーツに貨幣やらの概念があるかは不明だが、報酬が分かり取り引きが出来るならそれに準ずる事は分かるのだろう。いや、進化の過程で経験したのだろうか?なんにせよやる気を出させる方法として物で釣るのは常套手段だし、釣られた人類は軋轢を産みつつも戦争せずにゲートに潜っている。
「相手の欲するものが今支払っている労働だとすると、それ以上に支払うモノも分からなくなりますからね・・・。どの様なビジネスかは置いておくとして、外に話が漏れない様にして下さいよ?そうでなければ批判が飛んでくる。なにせ不死薬を欲しがる国は多いですからね。」
「ふむ・・・、ちょっとチャンさんと交渉してきましょう。」
報酬の上乗せをする気はないが経過観察の文言を入れるか。飲んだ人物を公表しろとか誰に飲ませたか教えろなんて話はしないが、飲んだ後どう言った状態になっていったかの推移はしりたい。かなり気長な話になるが、多分チャンは断らないだろう。
それに俺の予想が外れて本当に不死者として歳食いながら歩き回る生乾きのミイラルートもある。いや、それって乾燥したら折れるしあり得るのか?まぁ、寿命の薬は取引されてるしそれを飲めば済む話だし、死なないなら自力で取ってくればいいよ。取り敢えずクソ痛くてもショック死はしないし。
そんな松田としてチャンのコンテナへ。販売時の連絡先をこうも早く使うとは思わなかったが、それはチャンも同様で呆気に取られていた。まぁ、それでも支払いをどうしましょう?と言うあたり支払えない事はないなだろう。
「チャンは中でお待ちです。今回は中へどうぞ。」
「中へ?直接対面は避けると思っていましたが?」
「欲する物は直接見なければ気がすまない、彼はそう言う気質です。貴女が拒否しないのであればどうぞ。」
そうチンに言われてコンテナの中へ。直接対面と言いつつ2重扉でその扉の前に椅子が置かれてるのでここで話せと言う事だろう。まぁ、鹿児島に連れて行っても話すだけで物を渡すのはこうなるから仕方ないか。
「先に疑問があるのでお聞きしても?」
「元から持っていたか否かを問うならさっき箱から出土したとしか言えません。多分、中層の箱ですよ出たのはね。」
「嫌らしい人だ。最後の部分は聞きたくなかったですが・・・、貴女の所有する箱を買い取る事は?」
「拒否します。薬以外触らないと言われても信用がないですし、箱を売れば設計図が出た時に逆手に取られても困る。欲しいなら自国でそこへ行かれてください。掃除も捗るしスタンピード抑止にもなっていい事ばかりですよ?」
聞きたくないと言いつつ笑顔なのは概ねどの辺りから出るか分かれば後は計画を立てるだけだからだろ?闇雲に探すよりもその辺りから出たと言う話が広まれば、相対的に流出する金も減るし今度は雇先の減ったスィーパーは鍛え出す。
そうでなくとも宮藤の所に来ていた報酬がモチベーションみたいなスィーパーからすれば、闇雲に探せと言われるよりもこの辺りを探せと言われた方がまだやる気も出る。まぁ、それで上層がおざなりになるかと言われれば新人が日夜生まれている関係上、おざなりにはならず仕事として中層を目指すと言う話が持ち上がってくる。
問題としては熟年チームが新人を嫌う事だろうが、上層でも若返りやらは出るし全くの無駄にはならない。危惧するなら実力に見合わない人が強行軍で奥を目指す事だが、それはもう本人が命と報酬を天秤にかけた上での決断なので俺が口を挟む事じゃない。
誰かを助ける為に命を差し出す事と、何かを得る為に命を懸ける事は同じ事だろう。それが人か物かの違いでしかなくの人の命よりも物の方が大事と言う奴は山程いる。寧ろ、そうでなければ保険金殺人なんかは起きない。
「日本人が勤勉だったと言う事にしておきましょう。ではその薬をお借りしても?この中には判定機もありますし。」
「どうぞ好きな様に検分して下さい。違う物なら出直すとしましょう。ただし、検分後は一度返してくださいね。」
「本物ならそのまま報酬を支払う形でいいのでは?」
「その報酬についてですよ。はっきり言うと金銭と言うモノの魅力は酷く低い。これを見つけるにあたり一財産と言うには多い金貨も出ました。」
「それは約束を反故にすると言う話ですか?いきなりテープルをひっくり返されても困る。」
「いえいえ、売るのは売りますよ。単純に報酬+アルファが欲しいと言う話です。特段難しい物でもない。」
「ふむ・・・、聞いてから判断しましょう。」
「欲しいのは飲んだ人の・・・、不死者の経過観察資料です。飲んだ個人については伏せてもらって結構ですが、こうして明確に私が売って飲んだ人がいると言うならその後も気になる。」
「誰かも分からない者を貴女が気にすると?それこそまさかですね。はっきり言われたらどうです?検体が欲しいと。」
プロパガンダの国の重鎮、流石に口先三寸は無理か。まぁ無理なら無理で構わない。半分は好奇心だし半分は長い生のうちどこかで交わる事のあるかもしれない人間を知っておきたいだけと言う話でもある。う〜ん、もう少し粘ってみる?と、言うか割と俺は人を気にするタイプなんだが・・・。いや、知らん奴はどうでもいいからそうとも言えるのか?
「検体・・・、今更欲しがりませんよそんなもの。何年も生きている、それは若返りの薬を飲んでいるからで話が済む。それに、飲んだ人が増えればそれだけ話は広がりやすい。単純にその後に興味が湧いただけですよ。それに、思考ダイブトレースシステムなんて物を台湾から奪うあたり何か予備策が必要だと考えてるんじゃありません?」
サイ曰く実用化は出来ておらずにトレースが限界のシステム。佐沼達との共同開発に入りどこまで発展したかは知らないが中国はそれを奪い去っている。当初は量産型スィーパーでも作るのだろうと考えていたが、それよりも別の使い道がある。
例えば不死者が動けなくなった時に自身の思考を読み取らせ動かす、いわば予備ボディである。そこには職はないが自由に動ける身体はあるし、本体でない以上暗殺の危険を考えなくてもいい。もしかして、既に不死者に対する肉体的破壊実験とかもうやったのだろうか?いや、ないな。死にたくないと言う人間が身体差し出して実験しろなんて言わない。そうなると最初に飲んだ奴はかなり剛毅だな。確か撃たれてたし。
「それを貴女が知ってどうするおつもりで?不死殺しを考えるなんて言わないでしょう?赤の他人ですし、広がる事実から読み解くのも一興でしょう?賢者としては。」
「どちらかと言えば・・・、医学の基礎は魔術である。これですが、そこで質問です。チャンさんがそれを・・・、不死薬を飲むとする。その後に頭から中心を通り2つに切断して、半身同士を増殖させてプラナリアの様にクローン体を作り2人になったとして・・・、どちらが本物ですか?」
「それは・・・。左右の脳の違いで・・・。いや、記憶が共有されるなら・・・。」
「更にいいましょうか?病気によりコールドスリープ状態の人は約300人、脳だけ保存されてる人もロシアのクリオルス社にはいましたね。その人達は人としてまだアイディンティティが持てる。なにせ生き返ったとしても自分は1人で新しい肉体を得たとするなら増えてはいない。しかし、先程言った様に切断した半身を増殖させてクローンとした場合は・・・、さて本物はどちらで仲良く出来ますか?」
自分が自分と仲良く出来るのか?例えばナルシストが考える様に鏡から本当に自分が出て来たとして、どこまで仲良く過ごせるのか?最初は喜ぶかもしれないが末永くはかなり難しいだろう。好きな自分を維持する為に互いの生活を見張り、食事を見張り、片方の自分が怠けて片方の自分が働けば憤り、違うストレス下で片方にニキビでも出来ようものなら烈火の様に怒る。
なにせ綺麗な自分が増えたのにそれが醜くなるなんて許されない。そうでなくとも、子供の様に培養して作るクローンではなくプラナリアの様に増える自我を持つクローンなら必ずどちらが本物なのか?と言う話になる。一般人はそこまで気にしなくてもいい。精々殴り合えば済む。しかし、権力者となれば話が変わる。
左脳派右脳派に別れる訳では無いが、意見が食い違えばその時点でどちらが正しいか証明しなければならないし、それで負けた方は勝った方に抑圧される。なにせ権力者として下すべき判断を間違ったのだ。一般人が間違うのとはわけが違う。
「その話と不死薬・・・、なにか関係が?」
「嫌ですねぇ、分かって聞いているのでしょう?無限に増えた自分が全員不死者である可能性もある。そして寸分違わぬ自分は自己の証明が出来ない。自分戦争を始めるにしても権力者故に飛び火してきても困るんです。」
クローンウォーズならぬ自分ウォーズ。兵士も自分なら指揮官も自分で自爆特攻するのも自分なら、それを迎撃するのもまた自分。はたから見ればどうしょうもなくくだらないが、それに巻き込まれる人もいるわけで・・・。考えただけでウンザリしてくるな。
「同じ顔の人間が死なずに増えたら、どうにかして殺して回る御積りか?」
「私は殺人者になる気はありませんが、貴方の国ではあるかもしれませんね。チャイナセブンと言いつつ全員チャンさんならそれは独裁体制であり皇帝へ進む道です。大丈夫です、貴方が死んでも変わりはいる。そして、不死者ならどんなに殺しても死なない。・・・、確かに関わらずに外から視るとしましょう。その方が面白そうだ。」
路線としては切り刻んでコンクリートに詰めて封印路線とか?肉体に精神が宿ると言うなら肉体があればそこに精神はある。多分地縛霊の様に肉体が楔にになって動けないかもしれない。逆に精神に肉体が宿ると言うなら浮遊霊にはなれるかも。なんにせよ何を持って不死とするかは不明なままである。
「・・・。貴女に情報を渡した場合、何故メリットが?」
「さぁ?メリットデメリットの話をした時点で渡す気なのでしょう?と、言っても心変わりして傍観者でもいい気がして来ました。売り付けて帰ると・・・。」
「情報を渡しましょう・・・。それで、仮に増えたらどうすれば?」
「幽霊が増えたとして問題があるかないかですね。一番いいのは増やさない事。仮に増えたら洗脳でもして別人としての人生を歩ませる事。それがダメたら・・・。」
「ダメなら?」
「指輪で判断してさっさとゲートに入れる事。指輪は腕が切断されても持ち主に戻って来る。同じ人が増えていれば誰に戻るかは分かりませんし、そんな事態を想定しているかも分からない。でも、本物か偽物かを考える指標にはチャンさん以外はなるでしょうね。」
「私以外?」
「ええ。種の割れた判断基準なんてクローンからすれば真っ先に自己を正当化する方法でしょう?なら、クローンを作れば必ず指輪を奪いに来る。何をしても、どんな手段を取っても必ず、ね。」
「私が不死薬を飲んでいるといつから気付いていた?」
「それこそ瓢箪から駒、棚からぼた餅ですよ。まぁ、あれだけ不死を願った国の権力者ならその線もあるとは思っていましたが。」
まぁ、クローンが誕生したとして職がどちらにあるかも分からないし、職のない方がゲートに入ったとして新たに職に就けるかも分からない。ソーツとしてはクローンだろうとなんだろうと掃除してくれるならいいのだろうが魔女達は拒否するかも。
なんにせよ情報はくれるみたいだしクローン作りにも一定の歯止めが出来たとして良しとしよう。




