656話 あそこの考えは読めない 挿絵あり
斎藤がデータチェックと言うか記憶媒体を取り外そうと分解しているが、先行調査で持ち去っても・・・、大丈夫か。そもそも宇宙人と対話して呼び込もうとした事実を米国は知っている。中露としても既に知られた後で足掻こうとしないし、どちらかと言えば保管してもらうとか廃棄してもらう方がいいのかな?
宇宙でリュウ達が受信した時点で見たら気持ち悪くなるしぶっ倒れる様な物なので研究目的に使うにも使いづらいし、何より対話可能も言うかメッセージの送り方は俺が示した。まぁ、それにはコアが必要な訳だが、研究するならこちらから送った時の映像を使えばいい話である。つまり、中露側としてはこのデータが無価値とは言わないまでも優先度的には低い。
それは多分、宇宙でステーションが廃棄出来ずに地球に降ろされても最小限のダメージに留めると言う工作か、はたまた俺の行動そのモノがイレギュラーだったのか?まぁ、イレギュラーだっただろうな。当初の呼びかけ方式ってS・Y・Sそのモノを光らせるわけでもなかったし。
『記憶媒体は回収出来ました。解析は佐沼さん達に任せるでいいですか?松田さんに預けてもいいですけど、何が仕込まれてるか分からないので必ずネット接続されてないPC等で解析してくださいね?』
「そちらは奏江本部長含めラボでの解析と言う話で片が付いてます。ただ、バックアップはNASA含め衆目の中でやるので博士が出て来たら一旦預かりましょう。」
『了解しました。さて、待ちに待った探検再開です!NASA側の方も外部調査を開始して下さい!』
斎藤が号令を出し外部調査も始まる様だ。鑑定師を連れてきているとエマが言っていたので橘とのダブル鑑定で齟齬が無ければこのステーションは丸裸になるだろう。そんな思いをよそに斎藤が動き出す。やはりと言うかここの望遠鏡とかには興味ないか。まぁ、見た感じ目新しいと言うほどの物はないし。
『そもそもこの宇宙ステーションはなんでこんな形なのか?突貫工事で作ったとしたも、もっといい形があると思いません?』
「まぁ、縦横前後と細長く作る必要はありませんね。立方体でも長方形でもいいわけですし。」
『そうです!例えば円筒形にして回転させる事により遠心力で擬似重力を生み出すとか、無重力であるのは割り切ってしまって生活スペースを確保する様なビル型にするとか。言い方は悪いですがこの形は壊れやすいんですよ。それに、確率は低くとも何かが当たればスピンする。確かデブリも当たったんでしたよね?』
「ええ、そう聞いています。外観調査でどの程度の物かは分かると思いますよ?」
『職様々、貫通せずに耐えたのはいいデータになるでしょう。それはさておき僕が考えるにこのステーションは開発途中で用済みになったから別目的に移行したんじゃないかと考えています。』
「ふむ・・・。」
「なるほど。」
確かにステーションの建設が加速したのは飛行ユニット開示前。テレビで船外活動の映像が流れたのも確かラボが飛ぶ前。つまり、当初の目的は日米より先にコロニーを完成させてスタンピード時の逃げ場にしたかったとか?中露共に永遠を目指す。その目的はいいとしてそれ以前の問題、即ち死なない為の宇宙シェルターにでもしたかったとか?
作り的に言えば端から端に向かうのに接続ブロックを経由していかないといけないのだが、仮にこのステーションの完成形と言うがチャンの入っている様なシェルターだとした場合、7家族つまりチャイナセブンはここに逃げるのが確定してたとか?確か中国って党の序列が政府の序列よりも上位に位置するはずだし、中央にトップがいて監視していれば逃げた後もいざこざは起きにくい。なにせ他の誰かと話をする為にはトップの前を横切る必要がある。
最悪トップがここで話せと言えば話すしかないだろうし、反乱の目も詰みやすい。そうなるとわざわざ接続形式を取っていたのは反乱を予見したら宇宙に捨てる為?わざわざステーション全体にケロシンを行き渡らせる意味が分からなかったが、パージ=射出なら見せしめにも・・・。
しかし、それはS・Y・Sやら飛行ユニットの登場によりよりよい逃げ場が現れて必要性は欠けた。ならと言う事で機材詰め込んだ研究施設件呼び込み施設として改造したが、その初実験でババ引いて使用を断念した。そんなシナリオならまぁ、あるのかな?
『僕としてはジャイロ式コロニー案だったんじゃないかと思うんですよね。』
「ジャイロ式コロニー?」
『オニール・シリンダー、平たく言うとガンダムのコロニー型です。ただ、アレの難点としては長い分旋回のしづらさや正面ではなく横からの衝撃に弱くて折れるかもしれないですよね。そこでこのステーションの各頂点を経由する様に円を書き、その中を空洞にして高速移動物体を走らせる。そうするとリング内に遠心力が発生しステーション全体に外側に向かう重力が発生する。つまり、中央に頭を向ける形で歩行が出来る・・・、と思いますよ?詳しくはどの程度加速させないといけないか・・・。』
「それって大型ハドロン衝突型加速器とかLIGOの重力波検出で分かるんじゃありません?」
「LIGOと言うと米国の施設ですか。確か宇宙由来の重力波の直接観測を行うとか言う。」
『関係悪化でLIGOからはデータが貰えなかったから自作しようとしたとも考えられますね。なんにせよ完成形を見る前に地球に降りたのでこの形で完成とするしかありません。と、ここの辺りからが研究区画みたいですね。』
斎藤が言う様に水耕栽培施設っぽい物やら鳥の卵、他にも有精卵や培養実験と書かれたケースの中には多くの試験管が並んでいたりする。元々クローン作ろうとか言う国だし培養実験して食肉確保を目指したとか?クローン豚とかも作ってたし。
いくつかの試験管は抜き取られた様で空の部分もある。ラベリングされていないので何を培養しようとしていたかは分からないな。1番嫌なのは俺のクローンをここで作ろうとしてたとか?残念な事に唾も何も採取出来ないので培養しても割り箸なら木が出来るし、鳥の骨ならその鳥が出来るんじゃないかな?
そんな区画をずんずん進んでいき最奥の部屋に到達。斎藤のカメラ越しだが特に気になるモノはないな。まぁ、一目見て何か理解できるのは橘くらいだろう。それでも使いこなすだけなので結果は夢想するしかないのだろうが・・・。
「他の所も調べるのは調べるとしてここが大穴ですかね?」
「カメラ越しで見る限りはそうでしょう。全ての通路を渡ったわけではないですけど途中の施設を見る限りはこのブロックに集約しているみたいですよ。」
『ではご開帳〜。』
最奥の部屋には色々な機器が置いてある。その中央に机があるもののその上には何もなく、本棚っぽいモノもあるが中身は空。持ち去られたと考えるのが妥当だろうな。研究者と入れ替わりにリュウ達がステーションに来て呼びかけをする。その間に集めたデータを使い国内で研究する。まるでイタチごっこだが、ここにない以上調査続行も厳しいか。
「斎藤博士、なにか分かります?」
『う〜ん・・・、松田さんは簡単なブラックホールの作り方って知ってます?』
「簡単なブラックホールの作り方?」
『ええ、先ずは地球を1つ用意してそれをビー玉くらいまで圧縮すればブラックホールの完成です。』
「用意する物が簡単じゃないですよ博士。」
『いえいえ、地球はあるんです。僕達が住んでるじゃないですか。ないのは方法です。いえ、でしたの方が正解ですね。圧縮装置、研究され設計図から作られた物ですけど、例えばそれを大型化して宇宙から地球に向ければ・・・。』
「ブラックホールが出来上がると?いやいや、地球をブラックホールにしてなにがしたいんですか?住む土地を永遠の闇にしてなんになると・・・。」
『さぁ?でもスタンピードの最終兵器として売り出したり、場合によっては交渉材料になるんじゃありません?地球がなくなるからコロニー増やして脱出しようとかこのエネルギーを使っていいから願いを叶えてくれとか。使う対象は別に地球じゃなくてもいいわけですし。まぁ、この大きさだと精々人工衛星くらいが限界でしょう。それに、圧縮装置でブラックホールが作れるとも思いませんけどね。』
斎藤が機器を見ながら話しているが、中々ヘビーな事を言う。前にペンタゴンで神の杖はないと資料で読んだが、それよりも尚たちの悪い物が出て来た。問題は何に対して使うかで考えるなら丸腰で宇宙人を呼び込みたくなかったとか?或いは・・・、ゲートかクリスタル?
いや、作ってどうするそんなモノ。待て、否定から入るのはよくない。使い方を考えろ。病的にまで死にたくないとする。なら敵・・・、自身にそぐわない者は排除する。それでいっときは安心でも人は仲違いする。些細な事でも小さな意見の食い違いでも。なら、見方も敵となり排除する対象となる。なら、先手を打って倒す?いや、それはただの無限地獄だ。
何億何十億と倒すのは手間でその過程で自身が倒される可能性もあるし、不死薬を飲んだ者同士なら終わりがない。それこそそこに肉体があろうとなかろうと同じステージにいるなら言い合いは出来る・・・、と思う。なら、それを回避するとするなら?完全な個人領の作成?いや、もっと言うなら神か!
ゲートは端が分からないほど広い。なら、人の手でゲートと同じ様な物を作りそれを不死薬を飲んだ者が好きに開拓する。人なんてクローンで増やせばいいし、家畜も同じ様に増やせばいい。
必要なのは絶対者である自身だが、その絶対の部分は職の有無でいいし何か不備があれば他の神を招集するなり金で雇うなりすればいい。当然その別のスィーパーは表に出さないのだろうが・・・。うへっ、またくだらないモノに目が眩んでるな。
何をどこまで管理して成そうとしているのかは知らないし、それが上手く行くとも限らない。いや、上手くいかなかったら捨てるか、上手くいくまで何度でもチャレンジすればいいのか。それこそ気に食わないならノアだけ残して水に流すなんて話もあるくらいだし自分の手にした世界なら傍若無人も許される。なにせそれを止める人がいないから。
考え方は真逆だな。俺は人の中で生きたいと思ってるし人の顔じゃなくてつむじを見て過ごしたいとも思わない。しかし、その逆で絶対者になりたいと願う人もいる。
「松田さんこの事実ってどう扱います?」
「一度米国とも情報共有してから考えましょう。現時点でどれ程の危険性を孕んでいるか検討も付きません。斎藤博士、確認しますけど危険性はないんですよね?」
『現時点ではないですよ。それに装置そのものも未完成ですからね。』
「未完成?」
『設計図通りに作るならこんなにゴテゴテしてないはずです。勝手に改造していじくり回しているとも言えますけど、下手に設計図通り作った物を弄くると安定しないんですよ。取り敢えず、僕の見解としてはこれは人が作れるものです。』




