638話 降下 挿絵あり
色々なゴタゴタはあったものの研究は進み、その分お客様扱いである俺は暇になる。そんな中でようやく降下実験の許可が降りた。本来ならもっと早く行われるはずだったのだが、呼びかけに対して何時反応があるか分からないと言う国の意見を尊重しての待機だったが流石にもう来ないだろうと言う決断が下された。
因みに中露の人は暇過ぎてボードゲームをやり込みまくっていたな。藤の嫁達が代わる代わる監視していたので宇宙ステーションの破棄も出来ず、今後の流れは地球での検証となるだろう。そんな中でS・Y・Sからの通信に出ていた田辺がある時から出なくなって他のオペレーターが専属する様になった。
流れから察するに日本側でやらかしたのは田辺かな?何を何処まで話したかは知らないが、田辺はブラックホールエンジンの事を知っているし功名心も強そうだったので何かしらの取引をしていたか、気持ちがはやって無理やり開発路線を取ろうとしたのかも。何にせよその辺りは俺の領分ではない。
S・Y・S側としてはゲート内地続きが実証されたので次の入場者としてエマが入り、俺の倍以上の日数はかかったものの米国統合基地にも到着した。通信途絶期間が長かったので一時期捜索と言う話にもなったのだが、そもそも捜索そのものが難しいんだよなぁ〜。どこかでキャンプしていればまだ追い付ける可能性もあるが、ずっと移動していたならどの地点で追い付けるかは分からない。
実際馬上で飯も食えるしトイレと言う生理現象を行わなくてもいいようなスィーパーなら、ぶっ続けで馬を走らせているとも考えられるし、エマもトイレ行かない人に該当するのでそれな拍車をかける。汚い話だが陸自でトイレ行く時に遊び心から地雷埋設に行くって隠語で言うのよね・・・。踏めばガチに地雷並の衝撃を精神的に受けるので間違いではないが、そんな言葉遊びからイメージを得たエマは排泄物もトラップとして捉えている。
話は逸れたが到着日数の事を受けて様々な意見が交わされた。俺の時はどうやって何をイメージして馬を操ったとか、言う話になり語りかけて壊れるまで走らせたと言ったらドン引きされた・・・。仕方ないだろう?コチラとしては無事で代わり映えしない工程なのに通信途絶で不安を煽り続ける事になる。
最初の1人が最速で無事を知らせると言うのは安全性の面から見ても、バックアップする方からしても喜ばしい事で、通路の安全さえ確認出来てしまえば次の人員はそこそこ気軽に入れる。まぁ、エマに他の事を思い浮かべず目的地を入念にイメージした方がいいと言ったが、予定よりも日数が経ち迷子では?と言う不安が出たと言っていた。
次にS・Y・Sからの統合基地到着実験をするなら電波塔を待たせて工事しながらになるだろうな。ゲート内の統合基地は今も無作為に増築され範囲を拡大し中継基地から1つの街と言えるほどに縦にも横にも広がりを見せている。都市構造と言うには洗練されておらず、田舎と言うには近未来的でチグハグな感じは否めない。それに、他国の統合基地も目視出来ないのでやはり広さは分からない。地理的な話をするなら日本から韓国なんかは目視出来るので強力なライトなら見えるのでは?と灯台なんかも建築されたがその光も見えないとなるとねぇ・・・。
その他で言えば有精卵は無事に孵って鶏が不自由なく草やら餌を啄むし、サツマイモなんかも順調に育った。生活空間としては大丈夫なレベルで宇宙線も6.0ミリシーベルトを超えた記録はないし本当にコロニーとして成立するだろう。割と見ものなのは余剰水の処理で、水箱からどんどん水が出せるのでS・Y・S内に循環させても排水が溜まる事がある。
圧縮装置での圧縮も行われたし、指輪への容器毎収納も実施されたが最終手段の緊急排水も試された。噴射口を温めながら水を噴射しての放出だったがゆっくりと凍り大きな氷塊になっていたな。何度か試されたが移動しながらの噴射排水が1番安定していると結果が出た。
他で言えば斎藤達の時もやっていたが、JAXA経由で公募された実験をやったりもした。残念な事に暇人である俺は毎回演者である。まぁ、殆どは研究者やらなので暇人な俺の方が異物と言えば異物何だけどね・・・。ただ内容的にはかなり濃いぞ?そもそもS・Y・Sに乗る研究者はその分野でも選ばれるだけの実力者である。
そんな人達に声をかけて手伝って貰ったので視聴率はかなり高い。まぁ、ガチの無重力室とか宇宙空間で実験するので想像と理論でしか示されなかったものが実証されるとあれば気になる人は気になるだろう。因みに最大級の実験と言うかブラックナイト衛星ってなに?と言う質問に対してS・Y・Sで観測しに行ったのはオカルトマニアからの反響が大きかったな。
その座標に行ったが探しても物はなく、船外活動中に船体から外れてしまった熱ブランケットである事がほぼ確定とされ、大気圏で燃え尽きたと言う話で終わったし、アニメ好きからはロンギヌスの槍を月に刺そうなんて言う、実験でもなんでもない話が来ていたが流石にそれは却下とされた。藤は悲しそうにしていたが、既に月に国旗置いてきたから諦めろ。
「長かった宇宙生活もいよいよおしまいですね。」
「確かに長かったナ。予定を大幅に超えてしまっているガ、状況的に仕方ないだろうし補給も安定しているから恐怖感もなイ。本来の宇宙ステーションでの生活や遅れを考えると物資や酸素の不足は恐怖となるだろウ。」
「記念品の瓶は結構頑張って作ったでござるな。クロエ殿をモチーフとして丸い瓶が光っている様なモノにしたり。」
「私としてはもう少し宇宙にいてもいいですね〜。いくら理論でそうだろうと言われても実際には違う事も多かったですし、証明出来るモノを証明して実証していくのは職を使うにしてもいい事づくめです。ラボから試して欲しいと言われた不凍液ダイラタンシーとかも宇宙で何時間かは凍らずに済みましたし。」
「過冷却状態に突入して橘さんが回収する時に凍るけどいいかって聞いたのは中々でしたね。」
「本当に指先で突付いただけで氷塊ですからね。ただ、あれってS・Y・S2号機を作る時に行き来する通路として使うんでしょう?」
「ええ!流体は宇宙だと表面張力により物体に張り付くように覆う。S・Y・Sは球体なのでより張り付きやすいですし、アンカーケーブルで互いを固定して水中を進むと言う方式を取る予定です。なにせ細い通路とか下手すると折れちゃいますからね。パワードスーツで単体移動すると言うのも考慮されてますけど、それに不慣れな人やクロエさんみたいに宇宙服の人は泳ぐ様に来た方が負担は少ないですよ。」
ガチに宇宙で遊泳か〜。魔法で単体飛行と言うかバイク無しでの飛行も出来たのでそこまで気にするものではないが、例えば子供がS・Y・Sに住む様になって何らかの事態で移動しなければならないならいいのかな?宇宙船は着港するよりも指輪に入れてコロニー内に入ってこいとかも言っていたし、そもそも建設するにしてもコロニーの大きさ問題もある。ただ、S・Y・S記念に年末にはスノードームとか売れそうだな。
「さてと。そろそろ最後のミッション、降下実験の開始と行きましょうか。」
「了解でござる。コチラは何時でもいいのでクロエ殿が準備よければGOと伝えてほしいでござるな。後を追う様に拙者達もS・Y・Sで追従するでござる。」
『地球側も準備は大丈夫です。到着後はゆっくりと休んで下さい。また、地球に到着したら中露側の方は日本側に従う様にと両国からも指示が来ています。』
「それは私とエマから伝えました。流石にみすみす開放は出来ないですからね。」
そんな話を聞きつつ通路を通って宇宙へ。S・Y・Sから距離を置いて飛行ユニットが干渉しない所でバイクを取り出し降下開始。基本は電子制御なのでコチラとしては乗っているだけで速度調整はしてくれる。成功して死亡者が減ればいいな。その為にわざわざこんな実験やってるんだし。
順調に降下は進みその姿はリアルタイムでS・Y・Sから地球へ伝えられているし、普通に互いの声もインカムで聞こえているのだが天使みたいってなんだ天使みたいって。確かに魔女デザインは目立つがそう言うのはよしてくれ。それに、バイクで飛んでくる天使とか嫌だろ?
『状況は順調。特に人体が地球に引かれる様な感覚もないですね。』
『それは残念な様な寂しい様な・・・。』
『仕方ないでしょう?人は大地がないと寂しいかもしれませんが地球は人がいなくても寂しいとは思いません。永遠の片想いが相手を傷付けるだけなら、別れはサラッと済ませた方が良い。』




