629話 突っ走れ!
(融和路線と聞いたが、その融和を行う前にデータをよこせと?俺達はここにいさせてもらって、飯を食わせてもらって、S・Y・Sと言う今最高の技術の塊の中で過ごさせてもらってるんだぞ?ロシアは降りる。共同任務に就いたから義理として聞いた事は話さないが・・・。)
「何かお飲み物でも必要ですか?」
「いや、大丈夫だ。悪いね綺麗なお嬢さん。」
「俺もいい。お茶もジュースも十分に飲ませてもらっている。」
ロシアは降りる。なら、俺も降りるか。国益と言う話を真面目に考えるなら今動くのはダメだろう。軍人として命令があれば従うのは道理だとして、その命令がおかしければ意見具申する権利もある。なら、大人しくするのが得策で今見た事を後で話せばいい。ただ、やったと言うポーズは必要か。
「ところでアジサイさん。1つ聞きたいんだが俺達はどこまでの自由なら許される?そこそこ長くここにいるんだが。」
「自由とは?衣食住足りて礼節を重んじる。自由で有りたいなら羽ばたきますか?幸い無重力はすぐそこで肉の重みからは解き放たれますが。」
「いや、生身で宇宙遊泳して生き残る自信はない。」
流暢に話す。日本で行われた大会で至った藤の嫁と言われる人形だが、話す姿も動く姿も人にしか見えずあえて残している様な指の関節が人でないと知らせる。大元の職は造形師であの大会以降、人気職の1つでありながら中々出ないモノとも言われているがSよりはまだ出る方か?
人が長く生きるにあたり肉体の劣化は避けられない。今でこそ若返りも出来るが、それでも老いる。不死となれば老いからも逃げられるのだろうか?スレイシスと言う最初に不死薬を飲んだ人物は変化なく遊び回っていると聞いた。聞いたがまだ目に見えて老いる年月は経っていない。
嫌な予想を払拭する様に不老も欲していると聞くが、いつ出るとも分からない薬を探すよりも身体を乗り換える方面での研究に予算を割いた。俺は聞き齧った話でしかないが台湾からある物を奪取し、それによって完全なる独立を認めたとも・・・。アチラにもまだスパイはいるが、どう運用されているやら。
送り出したリーは俺の管理を離れとある部隊が選任して任務にあたっていると聞くし、まだ見つかったとの知らせは聞いていないのでファーストの周りに上手く溶け込めているのだろう。プランナーとしての職は俺に警告する。よくない結末があると。そして、今の状態のままなら少なくとも死にはしないと。
俺は鑑定師ではないが職の関係上、居座れば概要も見えて来る。少ないながらも飛行ユニットの概要は光ディスク状の物体でそれはモンスターから回収出来、ラボで開発したのはそれに方向性を持たせたりする部分。つまり、開示された通りに作るなら数多のモンスターを狩り素材を集め理解出来る人間を育成するしかない。だからこそ現物が欲しいのだろう。
出土品のフライボード国でも研究しているが、アレも中々売りに出ない。憎たらしいが先に日本が買い回ったせいというのもあるし、単純に便利だから手放さないと言うのもある。流石の我が国もスィーパー達に対して面と向かって寄越せとは言えない。そんな事をすれば傾国は免れないだろう。傾国の美女・・・、貂蝉か。色々な傾国の美女がいるとして取り入るのではなく知性で嵌めてくる美女なら彼女だろう。少なくとも妲己ではない。
「ならここにいてください。衣食住は提供していますし、それ以上のものは宇宙にはありません。」
「確かに宇宙で地べたに座って飯が食えるならそれは贅沢だ。ただ、ゲームにも飽きて読み物なんかは欲しいんだが・・・、こう、学術書的な物が。」
「それについては旦那様に聞いておきましょう。歓迎していないとは言えお客様です。中国の方なら三国志に出てくる陳琳の檄文などいかがでしょう?読んだ曹操は非難されているのに感嘆したと言われてますし。」
50人のスィーパー軍人が1人の女主人に逆らえない。滑稽だが逆らえば放り出される。俺達がここに居る事は明白だとしても問題を起こし対処したと言われればそれまでで、早着替えで予備のパワードスーツを着るにしても下手すれば着る前に宇宙に放り出される。と、言うか取り付く島もない。寧ろ人形を口説くとは・・・?
プランナーとして考えても流石に答えが出ない。俺も人形に成れば対等なのか?いや、対等の時点で勝ち目がない。なら藤を籠絡すればいいのかと問われればする手管がない。少なくともここにいてもここを出ても人に靡くとは考えづらいし、金銭で解決出来るかと言われれば無理だろう。
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代わり映えしない風景を置き去りに馬は足も動かさずに不気味に進むが、相変わらずスマホの電波範囲に入らない。現状のセーフスペースを考えれば各国共に統合基地作成に乗り出しているのでインターネットや通話エリアは拡大しているのだが、圏外を示す所はまだ多く、早急に通信網の整備を進めいてるのだが他の国の統合基地へ行く道すがらでもやはり圏外を示す時は示す。
多分徒歩で渡り歩けば何処がカバー範囲でないか分かるのだろうが、中々そんな奇特な人は現れず仮にしていたとしても本当に旅を楽しむか一人の時間を過ごしているのでスマホなんて見ていないだろう。確かに馬で進んだ方が速いし確実性も潤んだよなぁ・・・。
「昔の旅ならコンパスや羅針盤、足にするなら馬車や船。星を見ながら夜も進み目的地を目指す。旅人達は名もなき詩を歌い合い、口伝で見知らぬ土地の話を聞く。またいつか、その言葉はさようならの代わりで今生の別れを予見させる。また会えたなら乾杯しよう、アクアヴィーテは生命の水でウォッカならただの水。生きて再会できるなら酌み交わそう・・・。」
出鱈目な歌詞を適当に歌う。正に名もなき詩だがスマホを見ながら馬上で既に丸2日。エマの話なら米国から日本の統合基地へ初めて来た時は約8時間程度かかったと言う。なら、それよりも遠い月からのゲート入りだとすると倍では済まないのか?
しかし、明確なイメージがあればそれも短縮出来ると言う。確か前にウィルソンと統合基地で会った時は来るのに5時間と言っていたか?最新では更に短くなっていると思うが・・・。
「シルバー、私は急いでいるんだ。だからtaqgwmtg。」
「!?!?!?!?!・・・、!!!!!」
コードで命令したが多分成功したのだろう。風景を置き去りに走っていた馬は初めてその脚を動かし地を蹴った。ガクンと言う激しい衝撃は身体を揺さぶり置いていかれていた風景は地の黒と周囲の群青に空の細い白線だけとなる。
「悪いが使い潰させてもらうぞ?'g8't9'jq。」
最初の一度、多分それで記録が出来る。その記録を元に乗り手のイメージと組み合わせ人を運ぶ。だからこそ最初の1人は不安から時間もかかる。今でこそゲート内は地続きと証明されているがそれを立証する際の一人、エマは不安もあっただろう。そして、そのエマから経過時間を聞けばその程度はかかると思い同等の時間になり、そこから欲が出て速さを求めら。推測だが確認されている情報から考えれば当たらずも遠からずだろう。
ただかなり無理をさせている。擦り切れるまで走れとは言ったが、馬の身長が縮んでいっている様な・・・、うん。明らかに縮んでいっている。えっ!すり減って投げ出されたら俺も紅葉おろしコース?寧ろ今どこ走ってんの!?最初から額の目はバッキバキだったけど、もしかして今って更に間開いてる?
「tjpjul!」
ビビったわけじゃないんだからね!ただ・・・。
「どっかの国の通信エリアに入った?」
圏外だったスマホに初めて電波が1本立った。




