626話 内部紹介 挿絵あり
保管していると言うがそのまま死蔵してくれるのだろうか?構造は分かっても現物は飛んで行ったのでないし、斎藤や藤に聞く限りだと外観的な修理は出来てもそれ以外は不明だとか。ただパイプやら燃料やらは分かっているし、そのパイプの中も純水が入っていた事は知っている。流石に共同調査してラボにだけそのデータがあるとは思えないが・・・。
開発に着手したとは聞いていないがどうなんだろう?田辺と言う人はブラックホール・エンジンも作りたさそうにしてるし、今の地位以上に行く為の出世欲から功績を欲しているとも考えられる。まぁ、地位や出世なんてものは肩書でしかなく確かに出来る事や人を集めると言う面ではよく働くのだが、追い求め出すときりがないんだよなぁ・・・。
確かにいい暮らしはしたいし、美味しいものも食べたい。仕事を割り振るだけで仕上がって評価を下すだけと言うのはとても楽で、そこに行くまでに苦難はあろうとも余程の失敗でもしなければその地位は揺がず、日々盤石な体制を取れる様にしていけばいい。但し、それはその組織内の地位であって一歩外に出た時にあの人偉いから媚び売ろうとはならない。
まぁ、知名度なんてものがある関係上メディアへの露出が多ければそれだけ認知されるし、下手をすると議員よりアイドルの方が地位はなくともありがたがられる。多分、米不足とかになったら政治家よりも農家主導で解決しろと声は出てくるだろうし、取りまとめを誰にする?と聞かれたら米作ってるアイドルがいいとも言われるだろう。
「何故今更あの失われた飛行物体の事を?貴女は乗船して一緒に飛んで行った側の方でしょう?様々なスィーパーに似た様な物体がないかと聞き取り調査は行いましたよ。当然外観的なモノは伏せましたが、内部の映像は貴女が配信しどの国も知ってはいる。それともS・Y・Sでそれの飛行が確認出来ましたか?宇宙人がいると分かっているなら、今更UFOを隠した所で意味はないでしょう?」
そう言われると弱いが探りへのリスポンスとしては上々。まぁ、内部構造と言ってもカメラでの撮影だけなのでほぼ薄暗い通路と宇宙の映像ばかりで構造的なモノは余り撮影されていない。ある意味透過したのってソーツのパクリ嫌いから来ているのかも。外観にしろ構造にしろ真似られるのを嫌うしな彼奴等。その最たるモノがモンスターである。
「ちょっと気になっただけですよ。あの配信を知らない人は少ない。こうしてS・Y・Sで宇宙にいると輸送機を真似て作ったんじゃないかと言う、問い合わせが多くて大変なんじゃないかと思いまして。何にせよ面会もゲート内侵入も待機指示ならコチラとしては待ちに徹します。S・Y・S内部紹介配信は前回と同様にしても構わないんですよね?前回はやっている実験の紹介がメインでしたが、今回は居住区なんかをしてくれと言われましたが。」
「居住区配信はどうぞ。宇宙に住まうとする時の新しいスタンダードモデルとなるでしょう。JAXAとしてもその辺りには力を入れたので存分に宣伝して下さい。」
「分かりました、撮影後は一度JAXAにデータを送って精査してから放送してもらいましょう。では、」
通信を切ったが特に前進はなしか。まぁ、面会謝絶ではないのでリュウ達とは会おうと思えば何時でも会える。藤の嫁達が世話役として付いているが、今の所大人しく飯食ったり風呂入ったりしているらしい。暇だと言う話も聞いたのでボードゲームやらを貸したから、多少は気が紛れるだろう。
「居住区の配信をわざわざ宇宙でする必要はあったのカ?地球で撮影してこう住むとすれば全く持って問題がないと思うのだガ。」
「その話はあったけど、やっぱり宇宙と聞くと最初に思い浮かべるのは無重力だし、住むにしてもトイレどうしてるの?だったり寝ると浮かない?と言う地球との生活様式の違いだからね。前回も斎藤さん達はスタスタ歩いてたけど、実は特殊な靴なんじゃないかとか言われてたし。」
「確かにその疑問は大きかった。私も宇宙行きが決まるまでは生活し難いと言うイメージがありましたけど、蓋を開けたら端の見える地球と言う感じですからね。」
「橘さん的にはここに長期間住んでも問題なさそうですね。エマが住んだ感じは?」
「戦地よりは快適で馴染まないと言えばゴミ箱が無い事カ。基本的に私物は指輪へ全て入れてしまイ、居住区と言いつつ基本的には寝たりシャワーを浴びるだけのプライベートルームだ。ふム、飛行ユニットの不調は早急に知らせろと言われたガ、故障すれば引力が弱まったりするのだろウ?」
「元々モンスターの素材で職使って加工してるから、何を持って壊れたとするかは難しい判断らしいよ?まぁ、その辺りも撮影で話そうか。私は取り敢えず撮影に当たって藤君から誰かを借りる様話をつけるとして、エマと橘さんは月から帰ってきたばかりだし休んでね。」
「・・・、休むのが難しいと感じる日が来るとは思いませんでしたねエマ。」
「そうだな橘・・・、行く前にエナドリ飲んで帰ってきてからもエナドリと回復薬を飲んだから全く持って疲れていなイ。1人では画面も寂しいだろうし私は付き合おウ。橘ハ?」
「米国の隊長だけ働かせて私が休んでたら体面が悪い。参加しますよ。取り敢えず着るものはスーツとかでいいですかね?」
「いいんじゃないですか?私も適当な服ですし。」
そんな話をしながらコントロールルームを出て撮影準備を行う。機材としてはハンディカメラで撮影するだけだし、生配信と言うわけでもないのでミスも怖くない。藤から撮影用に嫁も借りれたし衣装に文句言う奴もいないので大丈夫。撮影開始場所は話し合った結果展望室からとなった。
「地球の皆さんお久しぶりです。今回はS・Y・S居住区周辺についての映像となります。今回は橘隊長とエマ隊長にも参加してもらい、展望室からのスタートとなります。」
「紹介された橘です。月面でムーンサルトを決めるのは容易ですが、下手にやるとそのまま回転し続けるので良い子はやるなら飛行ユニットに慣れてからやる様に!」
「同じく紹介されたエマだ。割と宇宙は暇で研究者でもなければ何かしらの暇潰し道具の持ち込みを推奨すル。あト、月面にも人工衛星の破片があったかラ、下手に宇宙に出ようとすればデブリに直撃されるかもナ。」
「はい、そう言う訳で勝手に地球離脱した場合、イカロスやハンプティダンプティ同様、地表へ真っ逆さまの可能性があります。さて、ここは何処かと言うと展望室です。バックを見てもらえば分かりますが、壁を隔てた外は宇宙なので星明かりと太陽がよく見えますね。大型望遠鏡は搭載してませんがそこそこ精度のいい望遠鏡は何台か設置されています。他で言うと黒点や太陽フレアなんかも観察されてますね。後、壁にはガイガーカウンターなんかも取り付けられてます。」
「鳴ったらヤバいヤツだナ。スィーパーの宇宙適性は高くすぐにどうこうと言う事はないガ、人が住むにあたりスィーパーでない子供の事を考えると注意して見る機材だナ。橘隊長今は幾つダ?」
「計測結果は約6.0マイクロシーベルト。分かりやすく言うと1日平均で地球で暮らしていて受ける放射線量より0.4少ない。S・Y・Sが正常に運用出来ていると言う事ですね。因みに、S・Y・Sの中に上下はありません。引力による引き付け・・・、この場合飛行ユニットが重力を生み出しているので私達が立っている地面の反対側にもまた、誰かが立っているかもしれない。」
「橘さんが冗談を・・・、展望室は最上部にあるので中心地までは一定方向に引力が発生していますよ。逆にS・Y・Sの中心地なら反対側は逆さまに立った人がいるかも知れませんね。反対側へはメビウスの輪の様な通路を使って行くので割と違和感なく行けます。では、居住区に移動しましょう。」
スタスタ歩きながら時折会う学者に挨拶を交わす。見る人が見ればスゲぇ先生がいると思うのだろうが、今は無邪気に笑いながらタブレットを操作したりメモを取ったりしている。走り書きだろうがなんだろうが考え付いた事をすぐに書き留められるし、宇宙と言う場に長期で行ける学者は少なかったがS・Y・Sのおかげで研究は捗っているな。
撮影にはいれなかったが自分で持ち込んだ望遠鏡使って観測してる先生もいたし、よく分からない観測機を使って火星方面を調査している先生もいた。当初パワードスーツ着て月に行きたいと言う学者も多数いたが、流石に人数が増えればそれだけリスクも出てくるし、ないとは思うが飛び跳ねて喜んでそのままロケットになられても困る。
体重を60kgと想定して月だと10kg。その軽さなら十分に月から宇宙へ飛び立てる。流石にそうならない準備はしていると思うが、探しに行くにしても限界はあるので仮に許可が出て月に行かせるにしても2〜3人単位だろう。
「ここが居住区となります。歩いてきたのはほぼ通路でしたが、他の所は研究区画や農業畜産区画となっていて面白みのある所は少ないですね。基本的に今のS・Y・S内で出たゴミは指輪に収納し地球に帰ってから各自ゲート内で廃棄する事となります。街並みと言うモノは確かにこの中にも存在しますし、中心地にはゲートが置かれてますね。ただ、街はあっても商人やらはいないので閑散としていますよ。」
「街作りにも色々なプランがあったと聞くナ。当初は全て部屋単位で構築する構想もあったと聞ク。」
「閉塞感だけが残って精神衛生上よろしくないから却下されたけどね。」
「居住区もカプセルホテルの様な構造で作るなんて話もあったと聞きますね。風呂トイレ共同と言うのは何処か昔のアパートを思わせる。」
「長く住むにしても一間もない部屋は勘弁ですけどね。ここは私が今借りている部屋となります。特に散らかってないのでどうぞどうぞ。」
部屋に入るが特に散らかってないな。ベッドの横に山積みの本が合ったり、机に灰皿と吸い殻が合ったりするがそれは御愛嬌。シャワーは使うがトイレは使わないので綺麗なものだしユニットバス式だが基本的に風呂は大浴場の方を利用している。宇宙で水は貴重だったが水箱のおかげで潤沢に使えるし、使った水も浄化して農業やら畜産方面で使われている。何気に一番やばいのは水箱の大破や横転で止めどなく水が流れるので中が水没してしまう。緊急排水した場合、雪の様に結晶化した氷となるが移動しながら排水しないと排水口まで凍るらしい。
「作りは同じと聞きいていたが私の部屋と変わらないナ。強いて言うなら灰皿やらの小物の違いカ?」
「指輪があっても2極化するらしいですからね。私の場合部屋に服とかもかけてますし。何よりフェム様のドレッサーが・・・。」
「橘さん・・・、そこまでフェムに入れ込んで・・・。」
「誰か紹介しようカ?軍人ばかりだが兵藤なんかは馬が合って今でも電話で話したりしているゾ?」
「無いとうるさいんです。それを差し引いても摩耗チェックしろとか言ってきますからね。まぁ、全般的なパーソナルトレーナーだと思えばそれまでですよ。取り敢えず大人3人でも手狭と感じないくらいの広さはどの部屋にもありますね。いや、クロエは子供?」
「橘、レディに対して何を言うの?私は立派な大人です。そりゃツルペタストンのチビですけど一応胸もあります。」
「綺麗な身体だと思うがナ。生活スタイルとしてはスィーパーを前提としているガ、そうでない人も快適に住めル。近い未来家族で住むと言うなら大型コロニー建設と言う話になるだろうガ、現在の所この広さで全て同じ作りがS・Y・Sの居住区となル。今は窓を閉じているが開けば宇宙を見ながら寝る事も可能ダ。」
「私の部屋は窓なしでしたけどね。ただ、防音性はよくて音楽を流しても隣の部屋には響かない。緊急連絡は内線で飛んでくるか放送されるのでS・Y・Sの中にいる限りよっぽどの所にいない限りは聞き逃しはないでしょう。コレって質問とかも募集します?ちびっ子宇宙実験とか。」
「それするとJAXAの田辺理事が怒りそうなのでやめときましょう。居住区紹介と言っても住んでる所は地球と余り大差ないんですよね。そう言う風に作ったと聞いてますし。さて、次は・・・。」
居住区を見て街中と言う名の人の居ないスペースを見せて、中央にあるゲートも撮影はした。相変わらずゲートに変化はなく、観察している研究者や定点カメラもあるが正直なにが面白いかは分からない。この分だと早期にゲート入り実験は開始されそうかな?
それはそうと絵面だけだとパッとしないと言うか、お宅訪問街ブラロケの様な・・・。見る人が見れば面白いかもしれないが、何かしらの大発見があった訳でもなく、単純に中を撮影しただけとなる。本筋としてはそれで良いのだろうが・・・。
「宇宙にいると言うのにインパクトが足りない。撮れ高とかは要らないけど、何か宇宙らしい事って出来ませんかね?無重力区画で浮いてみるとかやります?私だと魔法使ってると言われて取り合ってもらえませんけど。」
「S・Y・Sの飛行は地球でも確認されているしメディアでも大々的に話されているだろウ?それを超えて宇宙らしい事をするのは難しいゾ?まァ、地球の様子はNASAとJAXA経由でしか分からないガ、藤に言えばアンテナ調整でテレビも見られるだろウ?」
「そのテレビで見ましたけどイメージ送信の話なら何か出てくるかもしれませんよ?感じ取れた人が口をそろえて『大丈夫』と感じたと言えば次はもっと的確に『ソーツ来て』にして送れとかね。4カ国が声明を出して、他の国が蚊帳の外に置かれた状況は面白くないと言えばそうでしょう?」
「ゔっ!来るなのイメージ受信した人いるのかな?」