625話 宇宙開発
「すり替えではないけど・・・、なら米国に持ってく?」
「えッ・・・、いヤ・・・、ちょっとそれハ・・・。」
「エマさんそこで及び腰にったら負けですよ負け。」
「なら橘さん勝ちにいきます?行くなら渡しますけど。」
「持ってブレインクラッシュは勘弁願いたい。そもそもロシアにコアを渡したら物凄く勘ぐられますよ?その辺も狙いと言えば狙いなんでしょうが。」
「勘ぐられるなんて私は悲しい。ただただ誰もがこの変換器の在り処を知り、誰が守っていて悪用すればどこが黙っていないか明確で、でも目が離せないものを渡すと言う優しさなのに。まぁ、弄くり回すにしてもかなり難しんですけどね、コレ。」
「さも当然のように弄くり回す発言・・・、それもまたどちらかの?」
「大元は賢者が作った物ですね。ただ、ソーツに渡したっきりなので今何処にあるかは知らないそうです。なので弄くれと言われたら弄くれない事もないですが、そもそもコアですよ?コレ単体では動く事も何かをする事も出来ない。・・・、日本には置いときたくないなぁ・・・。」
輸送機はソーツが作った物だがその墜落機のデータをJAXAは持っている。流石に完全再現は無理だとしても斎藤と藤は修理に乗り出して輸送機は飛び立った。なら、そこから作って行きそうなんだよなぁ・・・。別に作って爆発する訳でもないと思うが、付け焼き刃で作るのも怖い。ゼロから作り扱いもマスターしているならいいが、輸送機と違ってこのコアって戦闘用だし。なんにせよ聞かれるまでは保留がいいのかな?
後から人類の発展が遅れたとか批判されても困るが、現状扱えるだけのモノがないのも事実。科学や技術的な発展を感じ取るのは一般化して来たタイミングで初めてインターネットシステムが作られた時、それは軍事用で一般人には理解出来なかった。それを理解して一般人が使うまでに約30年、そしてそのインターネットは人が作ったと言うアドバンテージがある。
それに引き換えコアは賢者やソーツが作った未知の物体で、話しかけてもオウム返ししかしないが、その話しかける言葉も特殊ならズレがあれば正確には返ってこないし、今地球でメッセージ受信出来た人から証言を集めているらしいが、その結果もどう出るかは分からない。要するに早すぎる完成品なんだよね・・・。
「日本に置いておきたくなイ?誰かが盗みに来るのカ?そんなに簡単に盗める物でもなけれバ、見せびらかしていた訳でもないのだろウ?」
「コレがある事を知っているのはここにいる人以外だと2人、そしてその2人はコレに興味がない。逆に嫌なのは輸送機のデータ持ってるJAXA。斎藤さん達と共同で輸送機の調査してたから内部構造的なモノはある程度把握してるんじゃないかな?まぁ、作ってそこにコレをセットしても動き出すとは思えないけど。」
「輸送機は動いたのにコレは動かない?何か理由が?」
「簡単には言えば輸送機はひき逃げにあって助けを求めた。コレは使命を果たして解体されて役目を終えた。だから語り部には成れても自ら動こうとはしないし動けない。」
まぁ、賢者が解体し分解して再接続は拒否で再起の権限は俺にある。全てフル稼働とかの指示をコアに出せばまたガーディアンとして成り立てるかも知れないが、今の所その要請は来ていないし来ても拒否の方向である。
「つまり私達が思うよりもずっと使い道がないと?」
「言語変換器としてなら使えますけど、それにもコードが必要でそのコードを勉強する方法は開示してません。ラボの言語学者、アルヴィー・デューラーと話しましたけど取っ掛かりもつかめてませんでしたよ。まぁ、ほとぼりが冷めるまでは死蔵しておきましょう。」
「それがいイ、それでいイ。」
受け取り拒否したエマが頷いているがここでコレの存在を暴露しないと、駅前留学感覚で日本に宇宙言語留学しようとする輩が増えそうな・・・。ただでさえ魔女と賢者の人格と言うか存在を暴露したのだから、聞いた4カ国としては根掘り葉掘り分からない事を聞いてきそう。魔女と賢者との仲は良好で普通に話すが、本人達が拒否する部分は深く聞かない。確かに上位者として権限を持って聞けば無理やり口を割らせる事も出来るかも知れないが、その無理やりをすれば関係性は崩れる。
一応と言うか魔女の本体としては俺の方をよく見てると思うよ?末端もいるし何よりガーディアン解体の時に奉公する者を送ってきたり、今回も奉公する者が手出しする前に止めてくれたり。本当なら奉公する者が動く前に押さえつけて欲しいが、青山で手こずってる俺より更に大変で言葉が通じないと言うのだから厳しいのかな?得意技は入れ替えとか言ってたし。
「それデ、リュウ達に会いに行くのハ?」
「そっちはやろうかなと。藤くんと山口さんから地球にリュウ達の無事は伝えてるけど元気な映像は渡してない。更に言うならイメージ送信準備とかで音声も連れてきた頃に無事とのみ伝えたらしい。中露の方もそれで良しとしてるからいいけど、このまま帰投せずに実験続行ならまだ宇宙にいる事になるしね。」
「物資と言う面では潤沢になりましたからね。私もS・Y・Sで宇宙に行く前に過去の宇宙ステーションのデータを見ましたけど、50名受け入れろと言われた瞬間にさじを投げますよ。」
「それは同意するナ。重量制限や水の制限、食料だって宇宙食限定でここに来る前に食べたブリトーだって持ち込みを拒否されル。」
そんな話をしながら藤に連絡を取りJAXAとの回線を開いてもらう。タイムラグもなく何時でも通信出来ると言う事は、裏を返せば管理者やらの高官は交代制にするにしてもJAXAの近くにいるか、直ぐに連絡の取れる体制を構築しているのだろう。
『S・Y・S側からの通信は珍しい。前回もそうだったが地球側から再三連絡を入れないと中々繋がらなかった。それで、何か新たな発見が?』
「お疲れ様です田辺理事。基本的に研究を進める為に来ているのでトラブルでもない限り早々連絡する事はありませんよ。それに、定時連絡は逐次行っていると聞いてます。新たな発見は今の所ないですが、中露の宇宙ステーションから避難された方達の無事を知らせる為に映像通信を行おうかと。政治的問題もあると思うので先に連絡しないとまずいでしょう?」
「政治的問題?・・・、その件は追って連絡します。月面着陸実験は成功したとして残りの実験はゲート入りを優先する予定です。地球降下はどの道S・Y・Sが地球に帰ればデータとしては取れない事もない。その代わり宇宙でのゲート入りは今しか出来ない。その事を考えれば優先はそちらとなりますね。」
ゲートを優先するか、分からない話ではないし今しか出来ないと言うのも分かる。コレが成功すれば文字通り宇宙と地球を地続きに出来て、月面基地を作るとした時に最悪ゲートさえ設置出来れば大規模工事が出来る。今回鹿児島ギルドからゲートを借り受けて宇宙に上げたわけだが、計画発表前から日帰り以外の入所制限かけたりして外に出てら自動的に宇宙でS・Y・Sの中と言う事態も避けた。
退出ゲートを通れば入ったゲートの4km内に出る。人と重なり合わず出る所は概ね安全な所。それを考えると仮にスパイを潜り込ませるなら鹿児島ゲートに入れて未帰還者扱いで潜ませて、統合基地で情報得て退出ゲートを使うと言うのが1番スムーズだろう。まぁ、それが的確にスパイをする方法なら宇宙開発をする方法も地球でゲートに開拓者を入れて到着したらパワードスーツを着て外に出てもらい作業をして、またゲートに入って地上と変わらない生活をする。ある意味出稼ぎ労働者の様でもあるが、出稼ぎ先が宇宙と言うのはなんとも。
ただそれの確実性を示す為に誰かがゲートに入らなければならず、それの対象が俺である。まぁ、脱出アイテムは1つを宮藤に預けてもう1つは自分で持っているので逃げようと思えば直ぐに逃げられるからいい。
「やるのは構いませんが、そちらの状況次第ですね。S・Y・S側としてはこのまま待機を続けても宇宙人は来ないし何も起こらないと思います。と、そう言えば田辺理事。輸送機のデータは厳重保管していますよね?内部構造にしろ外見的なものにしろ。」
「まったくの未知の機構による飛行物体でしょう?当然保管しています。」




