623話 レゴリス
私が軽んじられている。JAXA管制室でマイクを使いファーストと話すが、NASA側は誰も動じずここに来ている警察と自衛隊側からの2名も口を開かない。本来ならJAXAとは宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行う機関だがこうも軽んじられれば頭にくる。前回もそうだ!S・Y・Sの情報は私には回って来ず理事長は知っているかもしれないが、開示されない情報も多数ある。
確かに私も危ない橋は渡った。内部派閥と言うなら私はこれから何処と技術協力や提携を行っていくと言うなら中国側だった。ただそれは目覚ましい宇宙技術発展やIT技術を見てからの判断で先見の明と言うものだ。誰だっていつ何処で技術革新があるかなんて分からない。例えば薬がそうだ。今日なかったな薬が明日認可を受けて風邪薬の特効薬として売られるかもしれないし、不死の病だって研究されればいづれは克服される。
ファーストの所へエンジンの話を持って行くにあたり当時は様々な議論を交わした。日本政府としてはこのエンジンを行く行くは作りたいと考えていたが、時期尚早であるとされ死蔵すると言われていた。しかし、設計図は丁寧なのだ。それこそ技術論にしろ人が理解出来る物品にしろ先に作れば今の栄華を約束され先の栄華を掴める!確かに危険な代物だが報酬として渡されるなら人が作れないわけがない。
美しくも小憎たらしい娘だ。権力を欲さずとも権力を手に入れ実績を勝手に積み重い言葉で話す。別にファーストが指示したわけでもないのだろうが、宇宙での戦闘シーンの放送が何故許される!ペイント弾だとしてもどう考えても危ないだろう!
「対宇宙人用の戦力。元々米国は宇宙軍構想があって、それは地球から離れた国が軍事バランスを崩し、戦に繋がらない様に相互監視すると言う目的があったんだったか大井さん。」
「昔はな。今は本当に宇宙からの脅威に対して何か準備をしていると示すパフォーマンスと言う意味合いが強い。コレを見せられてもソーツに対して勝てるとは誰も思っちゃいない・・・。いや、いなかったか?クロエさんが首相達に何か盛大に暴露話をしたみたいだぞ?」
「相変わらず変なタイミングで求められるなあの人は。何もなければ何も話さずに済んだんだろうが、話すだけの事があってそれを話すのを良しとしてんだろ?後から、俺達も何を言われるか怖いな・・・。」
「お2人・・・、黒岩警視監と大井陸将は何か聞き及んでいる事が?」
国防の要2人がボソボソと話しているが、ハッキリ言えばJAXAにこの2人が来ているのも気に食わない。戦争も犯罪者逮捕も他でやれ。ここは技術発展や研究の場であって軍事転用されるものは後から漁れ。
「宇宙開発については何も。我々はあくまでここの警備班の長として来てますからね田辺理事。」
「自衛隊側としても同意する。ただ、今のペイント弾でのやり取りは両国の技術アピールもあると聞いている。パワードスーツは日本が本部長選出戦の折に売り出し、来た国は概ね買っていった。それが他国で発展した物がエマ大佐の外部ユニットで宇宙用にも転用出来ると言う事を示している。」
話しかけた2人は素っ気なく返すがS・Y・Sが飛び立つ前にファーストと話し込んでいたのを知っている。ただ、その話の内容は私には知らされず事は起こった。起こったがそれはS・Y・Sと4カ国協議で決着は尽き終息した。多分上手くいったのだろうS・Y・Sへ乗り込めたのだし。
そもそもの話、私にはS・Y・Sの事を聞かれても困る。国主導の宇宙計画なら私にも当然情報は回ってくるが、アレはあくまで一企業と国が提携して運用する物で構造や技術的なモノを聞かされても従来の物しか知らない私が理解出来るとは到底思えない。だから話すのは離陸日時等の時が経てば誰でも手に入れられるものを先に話すだけ。それで相手が何をするかは私は知らない。
「おぉ〜、エマの動きが変わった。付属ユニットってそんなにタスクを割くものなんですか山口さん。」
「基本は電子制御ですけど流石に1から構築するのは無理だったので車の自動運転システムを簡略化した様な物ですね。エマさんを駐車場と登録しておいて特定の距離で追従させたり、停止すればマニュアルモードで運転したり。大元は救命艇兼作業用目的なのでこう言った方式だと盾にするとか体当りするくらいしかないですね。でも、それも今回は御法度で運動性能を試験する為にエアーガンをどれだけ避けられるかのスコア方式しか出来ませんよ。」
画面の向こう、真空の世界で2人は動きエマ大佐側の動きが変わる。一回り大きくなったと言うか、装甲を構築した?宇宙でも職は使えるのでやろうと思えば確かに出来る。そして、エマの装甲は本人を邪魔しない。考え方としてはパワードスーツアシスト装甲とか?
飛行ユニットは電子制御なので橘の様にはいかないのだろうが、緩慢だった動きは鋭くなり月面を飛行しながら射撃戦を行い橘の的から脱却しつつある。月の表面は細かく砕けた砂が多くあり宇宙服に付着しやすいのだが、それが舞い上がる様子もなく画像はクリア。
『ちッ、弾切れダ。』
『割といい運動データは取れたでしょう?そちらの機器に不備は?』
『システムオールグリーン。バッテリーの電力消費も思ったより少なイ。それにユニットに戻れば再充電も可能ダ。橘の方は聴くまでもないナ?』
『ええ、飛行ユニットを使った反射やペイント弾のスイングバイも出来ましたからね。』
『やはりカ。やけに弾が多いと感じだが本当に多かったのだナ。技術が発展するたびに橘は手がつけられなっていク。』
「お二人とも問題がなければ帰投してください。戻ったら付属ユニットは解析チームに回してデータを検証しますね。」
『『了解!』』
「橘さん達が戻って来るとして直ぐには合流出来ないですよね?」
「レゴリスが付着しているので一旦パワードスーツも付属ユニットも洗浄ですね。とても小さく帯電もしやすいですし、砂と言っても隕石等の衝突で出来たものが多く吸い込んで有害なら放射線の問題もありますね。まぁ、スィーパーにはそこまで有害でもなければ回復薬で排泄されるのも確認されてます。でも、それを蔑ろにしていいものでもないんですよね。」
「スィーパーでない者が住むなら注意しないといけない部分でござるな。S・Y・Sの作り的には炭素繊維強化プラスチックの殻層で宇宙線を防護しているでござる。」
「鉛とかタングステン使わないあたり斎藤さんらしい発想ですね。取り敢えず1つ目の実験は成功に終わったわけですけど、残りの実験ってまだGOサイン出ないですよね?」
「どちらも中々出せない状況と言えばそれまででござるが・・・、通るならゲート侵入でござらんか?逐次モニタリングしているがゲートに変化は見られないでござるし。」
「ゲートの数値とかって大きさとか厚みとかは分かっても、あれを形成する力場とかは不明なんですよね。表面は確かにある様に見えているのに両面から入れますし。推論としてはディラックの海なんじゃないかとか、ワームホールなんじゃないかとかシュヴァルツシルト面とか色々言われてますけどね。」
「やはり既存のセンサーとかでは分からない代物だと?」
「人が転送装置を作れたら分かるかもしれないですけどね。感覚的なイメージとしては私達がゲートに入れば別の所に行けるわけですし。クロエさん達が輸送機で宇宙に言った配信を観る限りだと、本当はゲートを形成するリングも必要ないかもしれないのかなぁ〜。でも、形成するエネルギーを供給する物は必要で・・・、着眼点は色々あるんですよね。」




