59話 地方視察 挿絵あり
発覚した名前問題で修整中の為、短いです。
現時点で修正は43話あたりです
「千尋ちゃん、息子をお願いね?」
「はい、・・・、はい?」
「私もこの人も貴女なら、いいと思ってるからね?」
「ちょ!莉菜さん!?クロエさんも何か言ってください!?」
妻が俺の横で千尋ちゃんに親の公認許可を進呈している。まぁ、俺からしても昔から知っている娘なので、任せるなら彼女がいい。ここは1つ老婆心ながら黒江家の系譜というモノを教えてあげよう。思えばそう、祖父と祖母もそうだった・・・。
「千尋ちゃん、黒江家の男は押しに弱い。父も祖父もそうだった。欲しいなら押せ押せだよ。私も君とならいいと思ってる。愚息だが良ければ押してみてくれ。」
そう言われた千尋ちゃんは顔を赤らめている。よかった、どうやら満更ではないらしい。今までは日本という国は安全だったが、どの国にも言える事だがスタンピードの脅威が平等に降り掛かった。それはつまり、より死が身近になったという事。アナウンスはある、発生までの猶予もある。しかし、勝てる保証はない。
少なくとも、俺は犬に苦戦した。あの傷は常人なら即死だ。あの時点では、身体の性能に助けられ職の二人にも助けられた。つまり、俺1人では手に余る敵だった。それが、次スタンピードが起これば多分また出てくる。賢者と特訓もしたし今でもあちらで特訓する事はある。それでも、モンスターは脅威なのだ・・・。
ゲートがある以上、モンスターの脅威は無くならない。なら、対策は1つ、鍛えるしかないのだ、自身を仲間を職を。他の結論があるなら、それを採用してもいいが俺にはそれしか思いつかない。しかし、鍛えても人は永遠ではない。薬はあるが、発見もされていない。なら、今から先の世代を見詰める事も必要だろう。
家族が徒に害されるのは容認できないし、されればそれは怒る。それが他人からであろうと、モンスターからであろうと。しかし、自らそこへ赴くというのなら、止めはしてもそれを振り切るのなら・・・、見守ってサポートに回るのも親としては必要だろう。ただただ宝物のように閉じ込めて、鍵をかけておく訳にはいかないのだから。
「えっと・・・、はい。」
消え入りそうな声で千尋ちゃんが答える。最終的には那由多次第で、どう転ぶかは分からない。もしかすれば、他に好きな子がいるかも知れないし、ただ気恥ずかしくて言わないだけかもしれない。ただ、願わくは上手く行ってくれるといいな。話が一段落すると、遠巻きに那由多を囲んで話していた男女の集団が近寄ってきた。
「クロエさん、握手してください。いい香り・・・、脳に染み渡るわぁ・・・。」
「うわぁ〜、本物だ、えっ!?こんなちっちゃかったの?持ち帰っていいの?抱きしめ・・・、クソっ、私はなんで今汗だくなんだ!」
「那由多の奴・・・、家庭内ハーレムか?えっ?今一緒に住んでるんだよな?遊びに行ったらいる時は会える?」
「押忍!自分はぁ!那由多君の親友で!大田です!サインお願いします。」
「ばっ!同じ部活仲間だろうに・・・、あっ、オレは友人の相澤です、お見知りおきを!あっ、ジュース受け取りますね!」
「おい!殺意が湧く前に聞く、嬉し恥ずかしハプニングとか無かっただろうな?お風呂で鉢合わせてとか、お兄ちゃん一緒に温泉入ろうイベントとかぁ!」
「まて!寒田、逆だ。クロエさんは既婚者?だ。なら、僕達よりも歳上・・・、お姉さんと家族風呂はいる?イベントだ。」
「なっ!ロリィな歳上お姉さんに誘われて家族風呂・・・、しかもあんな美少女?美女?おい、那由多ぁ・・・!ちょっと人生変わらないか?変わったらガムをやろう。」
「黙れ男子!お姉さまなのよ、そこは女の子がスールを申し出て、受け入れてもらう場面なの!」
「あれだけ綺麗なんだし、那由多君の初恋はクロエさんで決まりかぁ・・・、羨ましい!」
「おい!そろそろ放せ。クロエとは遠縁だから、あんまり会ってない!」
もみくちゃにされないものの、様々な声が上がる。嫌な話だが、褒められ慣れたので気恥ずかしさはだいぶ抜けた。・・・、あれ?大人の方が子供よりアグレッシブな様な・・・?夏目とか汗とか関係なく抱き着いたりしてくるよな?
横の妻は息子の事を、ニコニコと眺めている。色々有るだろうが、楽しそうに学生生活が送れるならいいことだ。そのまま練習風景を眺め、たまには声援をおくる。結局最後まで組手はなく型ばかり、コレには流石に実践空手をしていた息子も不完全燃焼な気分になるだろう。赤峰とかいれば、組手させてあげられるんだろうけどなぁ。職が外でも使えるので、少しの油断で暴発する可能性がある。
特に格闘技なんかはイメージトレーニングなんかもするし、より明確に相手を倒す事を意識する。人相手にそれをやられると、やはり危ないと感じてしまう。
「おーい、那由多こっちだ。千尋ちゃんも」
制服に着替えた息子を呼んで帰る。千尋ちゃんの方は今日は泊まらず家に帰るようだ。息子が千尋ちゃんに手を振っているのが見えた。
「差し入れありがとう、まさか本当に来るとは思わなかった。これで明日からは大変だなぁ・・・。」
「まぁ、親戚って事もアピール出来たしいいだろう。弁当でも忘れたら届けてあげよう。」
「やめてくれ、変な混乱が起こる。」
「あら、いいじゃない?今をときめく世界のヒロインから、お弁当持ってきてもらうだなんて。」
「それでもだ。俺はひっそり暮らしたい・・・。」
いつかの俺のような台詞を吐きながら、息子は天を仰ぐ。まぁ、あまり関わっても迷惑がかかるか。久々に帰ってきてちょっとはしゃぎ過ぎたようだ。少し自重しよう。帰りすがら外を眺めていると、祭ばやしが聞こえてきた。忘れていたが、そんな時期か。
「お祭りもやるんだな・・・。莉菜、2人で行くか?那由多は友達と行くだろうし、遥は人混みあんまり好きじゃないし。」
「あら、いいわね。遥の昔の浴衣とか着せちゃおうかしら。」
「俺は帰ったらそのまま出るよ。行く約束もしたしな。」
そんな話をしながら家に着き、那由多はそのままシャワーを浴びて出ていった。お祭りなので出店で夕食を済ませるだろうと、多めにお小遣いを渡した。最近は出店の料金も上がっているので、多すぎる事はないだろう。妻とウロウロしている時に銀行で結構な額を下ろしておいてよかった。中々銀行にも行けないし、地方銀行を使っているので、下ろすのもコンビニで手数料を取られる。
なんだかんだでお金持ちになりはしたが、どうもそう言う小市民な所は抜けない。指輪に入っている武器やら薬を売れば相当な額になるし、そうでなくても金貨や億単位の報酬をもらったが、指輪に収納すれば数字どころか姿も見えないので、どうも実感がわかないのも要因の1つかもしれない。
妻には必要な分は使っていいと言っているが、通帳記入しても普段通りの額くらいしか減っていないので、妻も同じような感覚なのだろう。日もだいぶ傾き、夜の帳が降りた頃に遥は帰ってきて、お祭りの事を話したが昼の暑さとツーリングで疲れたので行かないと言われた。話を聞くと山を走り回って温泉浸かって、また走り回っていたらしい。
お土産に温泉の入浴剤をくれた。向こうに戻ったときに、いつでも温泉気分を味わえる様にということらしい。ありがたく受け取り指輪に出納する。
「はいっ!出来たわよ。うん、可愛い可愛い。」
「狐耳って、姫島の狐踊りじゃないんだから。そもそも、アレは、メイクで狐耳つけないし。」
「いいのいいの、元が白いんだから。他に狐要素を付けないとね。望田さんにも写真送っとこ。」
「うわぁ〜、懐かしいなぁ〜。お母さんよく取ってたね、その浴衣。私が確か小学生か中学生の時のヤツだよね?洋服と違って、和服はサイズそこまで気にしなくていいからいいし、胸もあんまり無いからバランスもいい。下着は薄いの付けてね?ライン出るから。」
藍色に朝顔の柄の付いた浴衣は、遥のお下がり・・・。昔これを着せてお祭りに連れて行ったのを思い出す。そして、時を経て俺がこれを着て行くのか・・・。センスのいい浴衣なので、古めかしさは感じないし、鏡を見た感じ全体的によくまとまっている。最後に、遥が簪を刺してくれて準備完了。
「それじゃあ行ってくる。」
「鍵は持っていくから戸締まりよろしくね〜。」
「はーい。遅くなってもいいからね。」
お祭り会場近くまでは車で乗り付けて、車を指輪に出納する。前までは駐車場に車がごった返して大変だったが、今年はそんなことない。全くゼロという訳では無いが、渋滞しだせば車を指輪に収納して歩く人が増え、そのおかげで車が減って渋滞がなくなり、そもそも指輪に車は収納できるので、駐車場に停める人はスィーパー以外の人となる。なので、警備員の仕事は無くならない。
「今年も人が多いわね。はい、りんご飴」
「そうだな、この魔法が間に合ってよかった。」
カランコロンと下駄を鳴らしながら、りんご飴を一口。全くバレない訳では無いが確率はかなり低い。祭ばやしを聞きながら妻と連れ添って歩く。射的に金魚すくい、昔はカラーヒヨコなんてのもいたが、今は見かけない。晩飯も食べずに来たので、2人共それなりに腹は空いている。カップに入った唐揚げを食べながら歩いているが、たまには気づいた人が俺を2度見してくる。
「おい、どうした?」
「俺、今狐の妖精に会った・・・。」
「は?なんだそりゃ。化け物か?」
「違う。むちゃくちゃ綺麗だった・・・、どうしよう、探して会えたら何かが始まるかも・・・。」
悪いな、中学生だろう少年。ボーイミーツガールは始まらないんだよ。歳を取ると考えてしまう、後どれくらいこうして歩けるのかと。昔は家族で歩いた。遥を抱っこして歩き、泣いたらあやしてまた歩き、寝てしまったら家へ帰る。
そうしているうちに那由多が生まれ、子供のうちは一緒にお祭りに行っていたが、それもここ数年は連れ立っていく事は無くなっていた。親が歳を取れば、当然子供も歳を取るとそれぞれの付き合いというものもまたある。そんな事を考えていたら、そっと妻が手を繋いでくれた。昔は見下ろしていたが、今は見上げる立場。灯りに照らされた妻の顔は美しく、思わずドキリとしてしまう。
「ん?どうしたの?そんなに見つめて。」
「君がキレイだと思った・・・。」
「ふふ、ありがとう。来年もまた一緒に来ましょうね?」
「ああ、また来よう。君が何歳になっても、一緒に来よう。」
「帰りの運転は・・・、任せるわね?」
「ああ、分かった。」
夏の熱気に当てられたか、その日は遅くに帰り就寝。どこで何をしていたかは夫婦の秘密である。ただ、思うのはなんとなくお互いに慣れてきたように思う・・・。まぁ、何度でも痛みは有るのだが、それでも心が満たされるように感じる。
そんなこんなで休暇を楽しみ、一応実家にも顔を出したが母が驚きのあまり腰を抜かしてしまった。古風な父は愕然とはしていが『結婚して子供作って家も買った。なら、後はお前の人生だ。好きに生きるといい・・・。ここまで好きにされるとは、思わなかったがな・・・。』とのお言葉を頂いた。まぁ、疑われるよりはいいが、事前に妻がある程度話しておいてくれたのが、決め手になったらしい。
千尋ちゃんと那由多の仲は不明だが、お祭りには2人でいっていたらしい。会場では会わなかったが、これはデートだろう。後は押せ押せで千尋ちゃんには頑張って欲しい。温泉については、結果だけ言うと入った。妻がどうしてもというので、地元から離れて県をまたいで、出生地の温泉の大浴場に一緒に入った。流石にここまで来て、知り合いに会ったといえば、それはもう事故である。
妻とボケ〜っと入って身体を冷まして、サウナに入ってと繰り返していたら、結構な時間になっていた。久々に入ったサウナは気持ちよかったし、ととのったがととのいすぎて魔法のイメージが崩れたせいか、外で写真とサインを結構な人にねだられた。
カステラ県のゲートはカステラ市と俺の出生地にあり、最近新幹線も通ったので寂れていた商店街も一気に活気付き様変わりしていた。元々米軍基地が近くの市にあり、町自体も自衛隊の基地を多数抱えている街なので、なんだか街そのものがいつの間にか武装されたように感じる。
ゲートの周りを歩く人間も自衛官と外国人が多く、一般人は少ないように感じるが、それでも0ではなく時折、日本人と外国人の混成チームがゲートに入っていくのも見た。この街の面白い所は、寂れていた商店街を市が全て買い取って、ゲート市場にしてしまった事。元々店舗はあるので、露店形式ではなく市が主導して販売やら買い取りやらを斡旋している。
なので、市が独自に開発したアプリで出土品のリストが一目で分かり、買い手側は曖昧検索などの機能で割とすぐ欲しい物が見つかる。売り手側は、オークションで売るのか、指定額で売るのを選べ、取引も商店街に持っていけば宅配なんかのサービスもしてくれるのでかなり楽。
言ってしまえば商店街を販売所兼、集積所兼、鑑定所にした形だ。そして、驚くべき事が1つ、鑑定師はこの商店街に1人しかいないのだが、鑑定品はべらぼうに多い。ただ、それが捌ききれているのを不思議に思い、こっそりクロエ=ファーストの名前で視察を依頼して判明したのだが、出土品に判定機なる物があり、それを使って判定しているらしい。全てが全て判定出来る訳では無いらしいのだが、一度判定機に置いて対象を鑑定すると、判定機が物を記憶してくれるらしい。
なので、鑑定師は一度判定機の下で物品を鑑定すれば、次からの作業は判定機が、判定不能を出さない限りどんどん流れ作業になる。誤差は有るのかと聞いたら、0ではないが目を見張るほどのものはないとの事。実際ここでも使われて、今まで問題も出ていないので、かなり有用な出土品だ。
それとなく欲しいなぁ、買いたいなぁとねだったら、なんと1台くれた!それというのも、ここにはS鋳物師がいて、練習がてらに色々物を作ってくれているらしい。今回もらったのもその1つ。S職なので東京に居るかわからないし、ちゃんと読める人がいるかも微妙な職、Sに釣られてなる人が多いといいのだが・・・。
因みにこの街のゲート、大村ゲートの最高到達地点は20階層だという。驚いて絡繰りを聞くと、サバイバーが日夜忍びながら、トレジャーハントを繰り返しているらしい。個人的にはモンスターを掃除してほしいのだが、討伐数<お宝などいう図式が既に確立しつつあるので、流れはあまり変えられない。まぁ、それでも用心棒をやる人間がモンスターハントもしているので、全くの0討伐ではない。トレジャーハントランキングなるものが商店街掲げられ、個数で競っているそうだ。
この街の事は千代田に一報しておこう。鋳物師の事もそうだが、このアプリと販売方式は、ギルドがそのうち介入する可能性がある。特に、今は無作為に売買されている物品については、何らかの制限等も付ける可能性があるので、取り潰す事はないにしても、販売品の監視はした方が良いかもしれない。
そんなこんなで休暇も最終日。墓参りもできたし、お互いの両親にも会えて現状を伝えられた。これで、1つ心のわだかまりはなくなったと思う。墓場でした花火も綺麗だったし、爆竹もガンガン鳴らしたので満足だ。結局、那由多は部活で付いてこなかったし、遥もやることがあると言って動き回っていたので、墓参りや実家への挨拶は妻と2人きり。結局それで4日は取られた。
まぁ、妻は楽しそうにしていたし、毎晩愛も確かめ合えた。毎回攻められているので、たまにと俺の方から色々してみたが、妻の方が女性歴が長いので、多分勝てないのだろうなぁ・・・。疲れて眠りこけるまでやってはみたが。まぁ、勝ち負けでもないし、お互いが良ければ・・・、ね?
「もう行っちゃうのね・・・。」
「休暇だからな、また帰ってくるよ。」
「うん・・・、遥。司をお願いね?」
「任せといて、向こうでは色々サポートするから。」
「遥、本当に良かったのか?」
「いいよ、休学だしね。」
「姉ちゃん向こうであんま無茶するなよ?」
「那由多、私は私の出来ることしかしないよ、母さんをよろしくね。」
空港に着きもうそろそろ、東京に向かう飛行機の搭乗が開始される。長いようで短かった休暇も今日まで。帰り着いて、明日にはまた仕事が始まる。お土産も買ったし、収穫もあった。なら、あとはこの情報を活かすだけ。
「司、気をつけてね。」
「あぁ、大丈夫。」
別れの口付けを交わして飛行機に乗り込む。フライト自体は約1時間半、昼前に飛んだので東京に着くのは13時頃か。一応、スマホの確認は怠らなかったが、特に連絡はなかったので大丈夫だろう。しかし、遥である。搭乗して2人で席について口を開く。
「巻き込んでしまって済まない、少し手伝ってもらうだけのつもりだったんだが・・・。」
「いいよ。私はファッションデザイナーになりたいんであって、勉強したいわけじゃないの。お父さんの所なら、好きなように服が作れるし、ゲートファッションデザイナーなんて世界初じゃない?元々、私は今のファッション業界というか、ファッションショーが嫌いだったんだよね。」
「そうなのか?てっきり憧れのデザイナーとか、いるものだとばかり思ってた。」
「いるけど、イメージと違ったかな。私は実用的なモノの方が好きなんだけど、今のファッションショーは奇抜で、いつ着るかわからない服がランウェイを歩いてる。それは、私の思う所とは違うよ。」
「そうか・・・、自分で考えて決めたのなら、文句は言わないよ。ただ、卒業はちゃんとな。」
「私の成すべき事だからね。大丈夫。」
飛行機は飛び立ち、東京へ向かう。さて、明日からは何があるかな?エマさんが来るにはまだ時間がある。その間に、出来ることはやっておこう。