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街中ダンジョン  作者: フィノ
72/839

58話 地方の様子

忙しくて遅れました

挿絵(By みてみん)


「ワレワレワ、ドナタ?」


「朝から記憶喪失は止めてね?」


 扇風機に向かって叫ぶ。何故か扇風機を見るとやってしまう習性だが、誰がやりだしたんだろう?小さい頃にはもうやっていたが・・・。昨晩は妻とイチャイチャしながら風呂に入って、その後まぁ色々した。子供達は割りと遅くまで帰ってこなかったので、遥にはかなり気を使わせてしまったのだろう。


 久々の夫婦水入らずのゆっくりした時間、こそばゆいがありがたい。きょうも今日とて暑いので、窓を開けてつけた扇風機に叫んでいた。さて、今日は何をしようかな?差し当たっては建設予定地と、地元のゲートを見ておきたいというのはある。千代田から貰った資料によると、当初元うちの会社の敷地内にあったゲートは空輸で移設して、本部長舎建設予定地近くにあるらしい。


 昨日見られればよかったのだが、帰ってきたのが夜ということもあり見る事はできなかった。一応、1人ではウロウロする方法は有るので、それで見て回れば問題はないと思う。今日の予定はそんな感じでいいかな。向こうに帰るのを考えても一週間近く休暇はあるのだ、1日にそれほど詰め込まなくてもいいだろう。


 起きた時間は遅くはなかったが、那由多も遥も結城くんや千尋ちゃんも家にはいない。夏休みとは言え、それぞれに予定はある。那由多と千尋ちゃんは部活だろうし、結城くんは多分家に帰ったのだろう。遥はツーリングかな、夢現にエンジンの音を聞いた気がする。


「今日どこか行く?」


「ゲート下見して、後は那由多の応援とか?」


 洗濯物を干し終えた妻が、後ろから抱きつきながら話しかけてくる。ソワソワしているので、どこか行きたい所でもあるのだろうか?久々に帰ってきたとはいえ、早々目新しい施設とかはないと思うが?


「なら、私がゲート周辺を案内してしんぜよう。割りとあの辺り変わったのよ?」


 東京でもゲート周辺は露店が出たり、新しい店舗が出店したりと色々と様変わりしたし、地方でもその流れがあるのか。出土品なんかも気になるし、案内してくれるのならお願いしよう。久々に妻と二人でデートか、子供達が大きくなってからもよく買い物とかは一緒に行っていたが、この姿になってから2人きりでデートと言うのは初めてかも知れない。昨日の甘い余韻もあるので、少し期待してしまう。


「お願いします。着替えたら行こうか。」


挿絵(By みてみん)


 千代田から貰った服に着替える。黒の肩出しTシャツにハーフパンツ。髪は結ぶのも面倒なので、適当にヘッドバンドでまとめて準備完了。正確な位置が分からないので、運転は妻に任せて町並みを見る。1月そこいらで早々変わるものではないが、街は変わらずともそこに住む人は変わる・・・?


「莉菜、俺の目は悪くなったのかな?なんかでっかい俺の垂れ幕が駅に垂れ下がってるんだが・・・。」


 ゴスロリ服姿の垂れ幕の下には『ゲート初開通の地』と『ファーストちゃん生誕の街』の文字が書かれている。間違ってはいないが、誰がこんなものを許可した・・・。少なくとも、俺はこんなものの要請を許可した覚えはないのだが!?


「可愛いでしょ?街興しに協力してくれって、頼み込まれて許可したのよ。他にもねんどろいどとか、ぬいぐるみもあるわよ。これで家計も潤うわ。」


「いや、ここまで大々的にやると狙われるんじゃ・・・。」


 いくらなんでも大々的すぎると思うの・・・。ここまですると、俺を探ろうとする海外勢力とか、拐おうとする組織とか、そもそも家族に危害が及ぶ可能性が跳ね上がる。給料自体は妻が下ろせるので問題ないはずなのだが・・・。


「・・・、私もそれは考えたわよ・・・。でも、こうも考えられない?隠しているから探ろうとする訳で、隠しもしていないならそもそもちょっかいかけづらいと。私達は人の少ない郊外に住んでるけど、それでも人の目はあるの。なら、ここ(・・)にいるって大っぴらにした方が、襲うにしても攫うにしてもやり辛いのよ?」


 まぁ、言いたい事は分かる。お宝を盗むのと人を攫うのでは訳が違う。お宝ならセキュリティで対応して、それをパズルの様に開錠すれば盗む事はできる。しかし、人は叫ぶし喚くし抵抗もする。それに、現時点では恨まれる覚えもないので、攫う理由は人質無いし引き抜き材料。詰まり、絶対に傷付けてはいけないのだ。その上で、影から公安や警備会社が見守っているので、ただの強盗如きではまず、家に入る事すら難しい。


 それと、誰が、何で?とは聞かないが、うちの周りは農業用地で宅地にするには結構面倒な手続きをしないといけないし、市がそれを認める確率も低い。なにせ、農業をやってくれと土地を残しているのだ。それを宅地にされたら、食料自給率はだだ下がり。そんな辺鄙な所なのに、いつの間にか宅地になって区画整備が始まっていた・・・。


「それはまぁ、そうかもしれないが・・・。」


「なに、どうしたの?」


「・・・、恥ずかしいじゃないか・・・。」


「ちょ!貴方!顔を赤らめて上目遣いとか・・・、誘ってるの?」


「誘われて街に来てるんだよなァ。」


 そんな馬鹿話をしながら車をパーキングに停めて、駅から海の方へ帽子とサングラスを掛けて歩く。距離は割とあるが、駅前商店街にはスィーパー用品店や出土品を取り扱う店。珍しい所では、武器カスタマーサポートと銘打たれた鍛冶師の店や、着飾ろう装飾店なんて名前の店もある。人口密集地ではあるのだが、それでも東京と比べると少ない。ただ、地方の方が余っ程ファンタジーしている。向こうは人が多いし、首都なので街を見て政策をやるというよりは国全体を見てやる為、どうしても政府の要請優先になってしまう。秋葉原のスタンピードもそれに拍車をかけているのだろう。


 しかし、地方は逆にゲートに対する大きな政策もないので、割とのびのびとやっている感じだ。珍味ゲート馬鍋とか、ドッグタグに装飾承ります。肉体刻印は別途相談とか。ゲート行くなら調合師の回復薬ののぼりとか。こんな感じにのびのびと生産職が生産できると、成り手も増えてくるんだろうな。東京と違う感じで、見て歩くだけでも飽きない。


「司、あれ食べない?」


「ん?ゲートわらび餅の黒蜜あえかき氷?旨いのか、アレ?」


「若い子には人気みたいよ?」


 そう言われて見ていると、女子高生2人組がかき氷を買って美味しそうに食べていた。ゲートで兵藤と食べた時は味がしなくて食べたい物では無かったが、調味料があれば変わるのだろうか?


「暑いし休憩がてら食べようか。おいさん2つ下さいな。」


「あいよ!嬢ちゃん可愛いから、サービスでわらび多めにしとくよ。」


 山程わらび餅の乗ったかき氷を妻とテラス席で食べる。黒蜜はほろ苦く、かき氷とよく合う。普通に調理してもこんな感じになるのだろうか?なるのなら、次からは調味料は必需品になるな。それを考えると、馬鍋は馬を出汁昆布の代わりだと考えると、美味しく食べられる?


「流石料理人ね~、美味しいわ。」


「・・・、えっ!もしかしてさっきのおじさん、S職なの?」


「そうよ?この前テレビでやってたし間違いないと思うわ。」


 保護の対象とか言われているS職が、露店でかき氷売りかぁ。まぁ、職に就いてもやりたいことがあるなら、素直にやっても間違いではないよな。保護と言えど身近に危険もなく、そもそも本人が居るのが確認できれば問題はないのだし。そんな事を考えながら人の間を抜け、着いたのはゲート前付近。


 祭りの櫓があるかのように人々は集まり、ゲートに入っていく。辺りには補助を申し出るものや、それを斡旋している人がいる。夏休みと言う事もあり若い人達が多く、中にはこの暑い中を学ランで突入する人もいた。今日は特に入る気はないので、下見だけ。危険は無いとは言えないが、やはり魅力はあるもんなぁ。ゲートの近くには、初めてのゲート入門なる本が置いてあったので1冊買ってみると、内容は5階層までの出現モンスターや今ある職の考察、武器の扱い等様々な事が書いてあり、割と本当に実用的だ。


「そう言えば、莉菜は最初以外ゲートに入った?」


「ううん、私は戦いとかあんまりね。」


「そうか、俺もその方が安心だよ。」


「子供達は隠れてコソコソ入ってるみたいだから、心配なんだけどね。でも、これがある以上、遅かれ早かれ付き合わないとだしね。」


「まぁ・・・、な。」


 無くせない以上付き合うしかない、そして、付き合う人間は指定できない。家族だから入れない、危険だから遠ざけるというのは、余りにも虫が良すぎる。だから、出来る事は鍛える事、信じること、そして、成長してもらうこと・・・。


「おい!攻略者だぞ!」


「マジかよ!15階層までパーティーで行って帰ってきた奴らか!」


「リーダー小泉だっけ?」


「そうそう、金髪優男。割といいやつだぞ、すげーナルシストだけど。パーティー名は何だったかな・・・、とり天?」


「蒼天だバカ。」


 声が上がるので、その方を見ると金髪男を先頭に後ろに4人、計5人の男女が、手を振りながらゲートに歩いて向かっていた。背が低いのであまり良く見えないが、どうやら彼等はこの街で凄腕のスィーパーらしい。東京ではそんな噂聞かなかったが、聞かなかっただけで、もしかすればそういった人はいるのかもしれない。浅草の虎とか、お台場の龍とか?


「莉菜、あの人達有名なのか?」


「ん〜、一応?テレビとかで偶に見るけど、ローカル番組だし本人達はゲートに潜る方を優先してるみたい。」


 話している間に彼等はゲートに入っていった。15階層か、そこまで行けるなら実力は有るんだろうな。まぁ、モンスターを倒しているのか、トレジャーハントメインなのかは分からないので、過信は禁物だが。


 その後露店を見て回り割と面白そうなものがあったので、金ならぬ金貨に物を言わせて買い漁って指輪に収納。出土品の内容に大きな違いは無いものの、小さな違いは有るようだ。東京の方では全体的に満遍なく物が出ていたような気がするが、こちらでは薬より武器やアイテム関係がよく出ているようだ。15階層が最高到達地点だとしても、向こうでは見た事ないようなアイテムがある。


 真贋がどうも怪しいと思ったが、街に鑑定師が居るのでその人にちゃんと鑑定してもらっているらしい。鑑定書が付属され、警察の印鑑も押してある。これで偽造なら警察からしょっ引かれるだろう。アイテムの説明書は後で確認するとして、名前からして面白そうなものは多いし。ただ、資源等目録に沿わない名前を、勝手につけているのだろう。VR発生装置やらAR発生装置なんて名前がある。


 そして、ここまでで魔法の検証は済んだと思っていいだろう。まいど騒がれるのも面倒になり、しかし、魔女のせいで注目されなくなることはない。なので、煙をまとって軽くベールをかけるようにした。前々から考えていた事なのだが、モンスターや人間を前後不覚にする事は出来る。なら、それと似たようなモノを薄くすれば認識阻害染みた事が出来るのでは?色々試してみた。最初の結果は散々だった。自分は大丈夫なものの他の人が急に方向転換したり、その場でターンを決めたりする。


 何もないと思って突っ込んでくるのでぶつかったり、勘のいい人は殴ってきたり。夏目はこの時人の尻に顔を埋めてたな・・・、幸せそうな顔だったが、清水が殴って連れて行った。赤峰は感覚が鋭くなるので常時それで!とか言ってたし。それで、どうにかこうにか完成したのが、顔のみを薄い煙のベールで覆うというもの。当然、声でバレる。体型でも親しければバレる。ただ、顔だけが解りづらいというか、初対面だと印象に残らない。そんな魔法。因みに、一度居ると認識されると全く無意味である。


「ああいう人達がいるから、変わったアイテムなんかも見つかるんだよ。生活の為か、他の目的かは知らないけど、潜ってくれるのはありがたい。」


 ゲートの周りと建設予定地は見れたので、手を繋いでノンビリと車に戻る。途中で何着かコスプレじみた服を妻が買っていたが、サイズ的に俺に着せるものだろう・・・。うん、諦めた。妻が楽しくて、今が楽しいなら、今この時はそれでいい。


 車を走らせ妻とどこへ行くか話し合う。時間も昼時なので軽く昼食を食べて、息子の所へ差し入れしようと言う話になった。応援してほしいと言っていたので、流石にチアはしたくないが、声をかけるぐらいならいいだろう。


「今日の予定とかわかる?」


「多分、ロードワークよ?職に就いちゃった子は、今の所あんまりスポーツとかさせてもらえないのよね。高校生でフルマラソン1時間とか世界記録超えてるでしょ?」


「それは確かに超えてるな・・・、赤峰さんとかならそれよりさらに早く走れるけど・・・。」


 そんな話をしながらグラウンドへ向かう。汗はかかないがクソ暑い。妻は日傘を指しているが、汗が頬を伝っている。冷たいものを買い込んできて良かった。この暑さは熱中症とかが心配だ。あれも軽く見ていると命の危険がある。昔ほど水飲むなとは言わないし、寧ろ言うなら抗議殺到。俺も抗議する。


 グラウンドを歩き、息子を探していると先に千尋ちゃんに出会った。同じ空手部なのでちょうどいい。


「お疲れ様千尋ちゃん、今大丈夫?」


「お疲れ様です、おじ・・・、なんと呼びましょう?」


「クロエで。あんまり親しいと、変に質問攻めに合うでしょ?」


「私といる時点で、あんまり意味のないアリバイ工作だけどね。」


 妻はそう言うが、息子は俺の事を親戚だと学校では言っているのだ。なら、それは尊重した方がいいだろう。ここにいる時点で、息子が大変だろうという抗議は受け付けない。だって、息子の成長を見たいしね。


「分かりました。今は、武道場の方で筋トレしているので案内しますよ、ついてきてください。」


「わかった、ありがとう。ホイ、これは差し入れ。」


「ありがとうございます、冷たいものは嬉しいですね。」


 キンキンに冷えたスポーツドリンクを千尋ちゃんに投げて渡し、武道場に案内してもらう。中は窓全開だが、エアコンもないので熱がこもって暑いし、筋トレをしているし男共で汗臭さが半端ない。まぁ、仕方のない事である。女子空手部も一緒にトレーニングしているようだが、こちらは早めの休憩か汗を拭いたり、スポーツドリンクを飲んでいる。


「うっし!腕立て終わったもんから休憩!水分取れよ、取りすぎても悪いから適度に!」


「押忍!」


 ちょうどいいタイミングで来たようだ。立ち上がった息子と目が合う。妻と俺を見ている。唇に人差し指を当てているので、静かにしてくれということだろう。まぁ、差し入れしに来ただけだし、ここは静かに・・・。


「那由多、莉菜さんとクロエさんが差し入れを持ってきてくれたぞ。」


(那由多のやつ・・・、千尋さんとあんなに親しく・・・、)


(スカしたイケメンめ!)


(確か、お母さんも美人だったよな・・・。)


(姉さんもな・・・、あいつ闇討ち・・・、クロエさん?)


(クロエさんと申したか?)


「押忍!千尋先輩、クロエさんと言うのはあの!あの!クロエさんですか!?」


「うむ、那由多の親戚(・・)のクロエさんだ。皆、騒がないように。差し入れを持ってきてくれた。」


 千尋ちゃんが男らしく声を上げて宣言した。まぁ、バレてもいいのでどうでもいいが、うちの家系は押しの強い女性に弱いらしい・・・。俺の父さんも寡黙というか、母さんがマシンガントークでグイグイ来るので、寡黙にならざるを得なかったというか・・・。


「那由多!親友だよな、紹介しろ。」


「ここは先輩を立てるものだ、那由多後でジュースを奢ってやろう。」


「ちょっと!汗臭い男子は全員・・・じゃなくて那由多君残してどっか行きなさいよ!」


 やいのやいの騒ぎ、息子は肩を落としながらうなだれている。強く生きろ・・・、お父さんはお前と千尋ちゃんを応援してるぞ・・・。

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