610話 誰のせい?
(気持ち・・・、悪い・・・。)
(当然と言えば当然だけどアレは君の嫌悪感だからね。どの種にも言えるけど、知らないものは嫌悪出来ない。でも、裏を返せば知っているものなら嫌悪出来るし、それを煮詰めれば発狂もする。取り敢えず踏み潰しておこ・・・。)
(あー・・・、うー・・・。)
賢者が踏み出す前に不快だったそれが消えた。それこそもう、サウナから上がって水風呂入ったくらい綺麗サッパリ爽快感と言うかととのった感じがする。いや、フラットに戻ったと言う方が正しいのか?不快でなければ精神としてもゆらぎはないだらうし、逆に言えば高揚してないのに落ちる事もない。
(君の子は中々いい子だ。出たくないから消してしまった。)
(そうか・・・、ありがとうアブザ。それで?お怒りの魔女様は本体とやらと連絡ついた?)
一方通行と言うかこの魔女は端末なので当然今の事態は見ているだろうし、逆を言えば魔女がいるからこの事態が引き起こされたわけで・・・。端的に言えば本体がさっさと打開策と言うか奉公する者を引き取って欲しい。
(・・・、・・・、腹立たしい事に爆笑してるわよ!奉公する者は取り敢えず目を逸らして引き上げた白に使いに出して、無闇矢鱈とこの白に関わるなと言ったらしいわ。)
(それって青山からも奉公する者が消える?)
(消えるわけないじゃない。奉公する者の精神は分割したけど、それで足りなくなったエネルギーをガーディアンから喰らって寧ろピンピンしてるわよ。後何千何万何億にでも分割すれば希薄になるかもしれないけどねぇ。)
奉公する者も肉体ない系宇宙人?まぁ、魔女の中を彷徨くなら精神体なのだろう。と、言うかそんなに大量の奉公する者に囲まれたら俺なら禿げる。ただでさえ最近まともになった風な青山でもウザいのに、それが増えるとか円形脱毛症まっしぐらだろ・・・。帰ったら青山とは奉公する者交えて話す、もう隠し事とかないよな?
この前も車が汚れそうだったので先に洗車してワックス掛けて、いつでも乗れる様に点検しました!とか言ってたし・・・。ピカピカの車は嬉しいし、点検してくれるのもありがたいが、お前車の知識とか持ってるのか?まぁ、スィーパーである以上本を読めばどんどん知識は付くのだが・・・。
(何にせよ奉公する者の本体が乗り込んでくる事はないよな?)
(無いけど元々壊して回る様な者がスタートよ?何をすれば嫌がり、何をすれば不快と思い、何をすれば恐怖するのか?バタフライエフェクトだったかしら?どこかで石を投げた。それが幾重にも分岐してこの宇宙ステーションを壊して中国とロシアに降り注いだ。最初の一投は見れてもそんな先の事には私達は興味がない。)
魔女が首を竦めるが外宇宙のどこかで石投げて、それがこの宇宙ステーションになにか影響をもたらす確率を答えよ。回答としては無関係であったとしても偶然の出来事だろう。いや、魔女やら賢者なら、その確率もどの角度でどの速度でどの方向に投げればいいのかもわかるかしれないが、少なくとも人には無理だ。まぁ、敵意バリバリで襲う発言しているので偶然でもなんでもないのだが・・・。
更に憎たらしい事に俺の方としては状況が好転した。少なくともロシアからは政府を通じた連絡しかないし、中国の方も今回の件で宇宙人呼び込もう路線は凍結するだろう。まぁ、逃げ場としてS・Y・Sのデータ寄越せコールはあるかもしれないが、それはもう政府とラボの問題で俺が口を出す事ではない。
ただリュウ達にはなんと回答しようか・・・。どストレート回答は流石にまずい。しかし、オブラートに包み過ぎてもまたまずい。勘違いさせない、後からこの映像を見た人がいたとして誤解を生ませない、そして何より特定の国を目の敵ににしている状況もよろしくない。
でも、ガッツリとそう言うイメージ送って来てるんだよなぁ〜・・・。無言の俺に対してリュウもキリロフもソワソワしてるし、こう・・・、なにかいい案はないか?
『分からない訳ではないんですよね?』
『分かりすぎるほどに分かりますよ。・・・、端的に言えば未熟な者が他者に頼るなと言う事です。地球と言う星で人は暮し自らの手で闇を削り、こうして外に出で遠くを見渡す眼も手に入れた。そんな人間が何1つ危機的な状況ではないのに学びもせず、さも当然の様に助けを求めるさまを不快と言っています。それに、国名をだして訂正した様な事も言っていましたね?それで国名が割れたのか名出しで怒ってますよ。』
『なっ!それは地球としての危機ですか!?』
『やべぇ火遊びが大炎上だな・・・。だから嫌だったんだ!今まで外宇宙に信号やプレートは放出した!だが、それはあくまで人が解読出来るもので宇宙人が宇宙人に対して送ったメッセージじゃない!それを・・・、宇宙人がいると分かりきった上でソレに来いと言うモノを送信するなんて嫌だったんだ!何が来る!?あのデカい宇宙か!?それとも別の宇宙人か!?』
『落ち着けキリロフ!まだ地球に到達するまでに時間はあるはずだ!それまでの間に打開策を!ファースト!謝罪は!弁明の機会は!』
『それは・・・。』
『リュウ上尉、キリロフ大尉。両名に通信です・・・。』
『こんな時に誰からだ!』
『それぞれの指導者からです・・・。』
『『!?』』
俺の方を見るが俺もそれは知らん!寧ろNASAとJAXAにこの映像も流れてるから・・・、その前に緊急要請は国連経由だから当然情報共有もしているのだろう。リュウとキリロフは回線を繋いだのか声を漏らさず無言で浮いている。おかしいなぁ?国同士でもこんなに早く情報共有出来るのに青山は地球人で個人なのに話が通じない・・・。
でも一緒に昼食取る時は話すし、バイトを散歩させる為に家に来た時にも長々と笑い話やらジョークやらを言う。ちゃんと何か問題はないかとか、変な事態になってないかとか声掛けはしてるんだが・・・。
いや、魔女の言う様に俺に対して不快感を抱かせない事を奉公の一環と取るなら口を噤むのか。それこそもう、天使の様な悪魔の笑顔で不快な事を内に秘めてさっさと片付けようとする。多分、俺では青山から全てを聞き出す事は出来ないだろう。関係としては主と下僕とかなんだろうし、それを本人が無償の喜びとして捉えている。
なら、必要なのは心の内を吐露出来る友人?なんか増田の事は話し合いに呼ばれて以降いい人とか言ってたし、馬が合うのだろうか?それならそれで副操縦士的なポジションにも・・・。
『ファーストさん、先程の内容は真実だとしていいんですよね?』
『オブラートには包みましたが不快に思っているのは事実ですね。イメージの受け取り方はそれぞれなので一言一句同じかと言われれば疑問は残りますが、不安に思うなら他の人に見せればいい。』
『それを・・・、最悪を回避する方法とかある?このステーションが出来てからずっと映像は送信していた。そして帰ってきた返答はコレだ。どれくらいの時間が残ってるかは分からない。送受信時間から対象を割り出そうにも人の技術では限界があってウチでは無理だ。』
回避も何も魔女の本体が奉公する者を島流しにしたので事実上回避しているとは思う。思うのだが今度はそれの証明が求められる訳で・・・。流石に呼びかけて来なくなりましたでは『それはペテンにかけられたのでは?』と言う疑惑が浮上する。なんなら青山の事がバレればやってもないのに自作自演だとも・・・。
これならいっその事ソーツが来てくれた方がまだマシだ。まぁ、来たら来たで無理にゲート進まなくていいよね?と言う話が浮上してくるわけだが・・・。
(ちょっと魔女さん?おたくの下僕のせいで私は大変な目に合って頭痛が止まないんだけど?これで下手するとゲートを進む目的の1つが欠けるかもしれないんですけどぉ?この責任はどうさせるおつもりで?)
(その点に関しては監督不行き届きと言える点はなく、仮に寝返りを打った時にたまたま近くの物に手が当たり、その反動が広がって勝手にこの様な事態になったと言う他なく・・・。)
(魔女も昔の政治家?風な言い回しになってるよ。少なくとも眷属の不始末は魔女と言うか本体の責任だね。)
珍しく賢者が俺の肩を持っが、実際俺は何一つ悪くない。そもそも青山って俺からすればウザい奴と言うだけだし・・・。まぁ、それなりに付き合いもあるし友人枠ではあるのだが・・・。
(そもそも奉公する者が動いたのは犯人Xのせいでしょう?私も悪くないわよ!)
(でも、なんか動いたのを本体とやらは見てたんだろ?)
(勝手に動き回る者を見るより貴女を見るわよ!)




