608話 来るなよ?絶対に来るなよ? 挿絵あり
さて、宇宙に飛び出して概ねの位置も分る。ひたすらの静寂と闇がある世界は寂しさと暇が混在する。まぁ、地球が見えているので完全な闇はなく時折飛来するデブリは相対的な速度を考えると直撃すればヤバい。
残念と言うか嫌な話をすれば役目を終えた衛星は地球で燃え尽きる事を前提としていたので、デブリは少ないはずなのだがそれは前提であって残り少ない燃料に引火すれば四方に飛び散り、重力から逃げられなければ衛星軌道上をほぼ永遠に飛ぶ羽目となる。
宇宙ゴミ問題はやはり面倒な点で宇宙に出るなら先に排除するべきものだろう。ただ、大気圏焼却はコレからはやれないな。下手にやると燃え残って晴れ時々鉄の雨なんて言う笑えない天気予報を聞く羽目になる。そのうち宇宙清掃業者とかも出てくる?
いや、飛行ユニットが完成した国が仕事としてスィーパーに依頼してきそうだな・・・。どの国にも言える事だが既存の仕事に人員を割く割合も減り新しい働き口と言うモノは探されている。割と日本は顕著で一人当たりに支払う賃金が跳ね上がる変わりに雇う人自体は少なくなっているとか。まぁ、スィーパーの能力を考えるとコンビニに何人も置くよりも、シフト組んで薬出した方が安い。
高槻製薬としても肉体的な疲れを薬でチャラと言う話は推奨していないのだが、非合法でもないのでやる所はやるしゲートに入る事を嫌う人は職取りしてからそれ以降入らない人もいる。何にせよ働けなくて死ぬと言う人はいないし、若返りなんかを買う為にスィーパーとバイトを掛け持ちする人も・・・。
ゲート産の回復薬とか寿命の薬は安全資産として今から買い漁る人も多いし、人が全員不老と不死でも飲まない限り値崩れはしないだろう。
望遠鏡で覗いた宇宙ステーションは近づくとやはり大きく、しかし外観的な損傷は殆ど見えない。まぁ、デブリが衝突したであろう部分はあるよ?ただ、内部が剥き出しになっているわけでもなく、変化と言えば凹んでいる程度だろうか?
軌道がズレていると言うのは本当なのか船外活動する人が見えるが、エアー噴射だけなの様なので実際に意味があるのかもズレているのかも分けらない。まぁ、酸素供給装置が壊れているらしいので危機的な状況ではあるのだろうが・・・。
仮に亀裂でも入っているならなにか液体でもぶっ掛ければ酸素漏れも確認出来るのだろうが、宇宙空間における水とは氷か蒸気なので液体としては存在しない。まぁ、温度と大気圧があれば問題ないし斎藤はその辺りの研究も始めているらしい。
『こちらクロエ、カートリッジを持ってきた。内部への侵入を許可されたし。』
『救助感謝する。まさかファーストが直接来るとは思わなかったが歓迎する。内部にも酸素は残っていない、宇宙服?はそのまま脱がないで欲しい。』
近くまでバイクで走り静止してバイクを収納してから通信。来る前に通信出来る様にして来たので連絡は容易だな。チャンネル変えてラボとのオンリー通信も出来るが魔術師がいるなら傍受も怖いので、今回はオープンチャンネルと行こう。バイクにもカメラは付いているし、ヘルメットにもカメラはあるし相手も下手な事はしないだろう。
内部は当然無重力なのでプカプカ浮かぶが、パワードスーツ運用を前提としていたのか割と広い。大型宇宙ステーションと言っていたが事故を考えると大型化せざる負えない理由というものも見えてくる。流石にゴテゴテした装備はないが船外活動前提なのか人よりは大きいな。
『あちらにすぐ戻り今後の方針を共有するのでカートリッジをすぐに受け渡します。壊れた酸素供給装置と患者は?』
『こちらへ。』
割と素直である。変にゴネるかと思ったがそんな事もなくカートリッジは備蓄して来た物の一部で200本を受け渡し、医務室へと向かう。すれ違う人を見るが顔は見えない。今までの宇宙服とは違い視覚拡張されたパワードスーツは後ろも見えるし慣れてしまえば着ている方が快適まであるからな。問題とすれば飲食や排泄と言った生理現象だがそれを克服出来たなら、このまま少し続けても大丈夫だろう。まぁ、それは日本の最新式でこいつらの着ている物は分からないか。
通された医務室にはベッドに固定された人が数名。無重力なのでこうでもしないと浮いて何処かへ行ってしまう。と、言うかS・Y・Sが地上と変わらない生活が出来るだけであって本来ならこれが自然なのだろう。流石にヘルメットを取れとは言えないが話せかければ反応は返してくる。
持ってきたカートリッジと交換してとりあえず様子見かな?これで患者については一応の目処がつく。
『ありがとう女神様・・・。』
『今は寝るといい。』
『我々からも国を代表して感謝を。宇宙での酸素は何物にも代え難い価値がある。単身で宇宙を進みこうして助けに来てくれる。彼ではないが我々も女神とお呼びした方が?』
『冗談は後です。一応の無事で冗談を言いたくなるのも分る。しかし、事態は全て解決したとは言い難い。酸素供給装置とこのステーションのコントロールルームは?宇宙でも職が使えるならプログラムもいじれる。』
『どうぞこちらです。』
本当にやけに素直だ。邪魔すると言うのはおかしな表現になるが、コントロールルームは言わばその国の技術の結晶が集まった所。そこにおいそれと俺を通してくれると?いや、考え方によってはこれから旧式になる物に価値はないと言う事か。
実際飛行ユニットの開発が済めば今回の様な事態が起る可能性は低く、仮に起るなら離陸時に飛行ユニットの不備による崩壊か或いは、宇宙で作った時に外圧と内圧の設定をミスって爆縮するとか?何なせよ研究するなら無人でやってもらいたい。
『しかしファーストさんはこの宇宙ステーションのシステムを弄る自信があると?我々の魔術師にもやらせてみましたがかなり難しいそうです。』
『見る前から分かる事はありません。しかし、修理して正常に戻ればS・Y・Sに乗せる理由もなくなる。確か強度不足も問題でしたね?流石に装飾師はいませんが、そちらに鍛冶師がいるなら材料を渡して補修してもらってもいい。救援と言うならなにも船を乗り移るばかりではなく、修理して正常に戻しても救援でしょう?』
『こんなボロ船にまだ滞在しろと?流石に俺もウォッカやイクラが恋しいんだが?そちらのS・Y・Sにゲートがあるなら酒なんか・・・。』
『よせキリロフ失礼だ。彼も場を和ませようとして必死なんだ。こうして救援が来るまでは全員地球に落ちる心構えもあった。』
『そちらの事情にはとやかく言いません。私が今やるべき事はこのステーションの全容を知りS・Y・Sと連携して修理し、貴方がたにここで仕事をしてもらうことです。この宇宙ステーションが中露の技術の結晶である様にS・Y・Sも技術の結晶なので簡単には搭乗させられませんからね。』
言葉を濁しても仕方ないので載せたくないと伝えよう。むしろ、この事態を引き起こしたのだってそっちだろ?俺としてはさっさとソーツ来ない説を立証して妻の所に帰りたいんだよ!
『・・・、仮の話をしたとして・・・、聞いてもらえますか?』
『ifの話に興味はありません。』
『宇宙人側からコンタクトがあったとしても?』
『・・・、はぁ?』
『我々では宇宙言語は分からない。しかし、ファーストさんなら分かる可能性がある。なら、こうして話を聞いてもらった方が早い。本人が来ている訳では無いですが、この宇宙ステーションに向け特定の波長で呼び掛けるような反応がありました。』




