606話 世論は敵か味方か?
「重力に引かれるのは仕方ないとして、先程展望室から望遠鏡使って目視で確認しましたがあのまま牽引するのは不可能ですか?サイズ的な問題を言うならこちらの方が大きい上、推進力としても勝っている。慣性の問題も人員を割いて対応すれば大丈夫だと考えますが。」
一度今の軌道を離脱させて再度定位置に戻す。地球からの距離計算は大丈夫だとして定位置に戻せるかは微妙。ただ、廃棄予定の人工衛星なのでゴネると言うか迎えが来るまで保たないと言われればそれまで。しかし、現実的に宇宙ステーションはそこに健在で酸素供給と修理さえ可能なら迎えと技術者の派遣を待たせてもいいとは思うが・・・。
「人命優先と言う辺り回収しないと面倒にならないカ?出入り口にキャンプでもさせれば面倒はないと思うガ。」
「その前に衛星軌道上での人員乗り換えが問題ですね。命綱を切り離してなんの制御もなしに宇宙遊泳すれば最悪地球に落ちますよ。今の所状況から考えればアチラのパワードスーツもも飛べるのでしょうが、燃料推進ではなくエアー推進なら・・・。」
「カートリッジを使ってるから酸素が残り少ないかもしれないし、ロシア式酸素供給装置ならあの回りには水素が大量にあるか・・・。」
普通宇宙でも水素は燃えない。太陽なんかは核融合しているので燃えてい様に見えるし水素がヘリウムに変化しているので燃えるで間違いない。問題なのは船外活動して水素が放出されているであろう宇宙ステーションの周囲で酸素噴射推進で活動している事。水素だけなら爆発しないが酸素が混ざると宇宙でも爆発する。濃度の問題はあるだろうが、わざわざ有人で制御すると言う辺り放出量は計算済みだろ。
「既存の宇宙船は近寄らせない方がいいでござるな。ロケットエンジンの内部で燃焼しておるとは言え燃え移る可能性もあるでござるし。」
さてどうしよう?ここで情報共有してアチラの目論見を話しておこうか。エマとしては出入り口でのキャンプは容認する様な姿勢を示しているし、藤と山口も人員を回収する方向だと思う。俺としても見殺しはない。不測の事態なら回収後一度地球に戻ると言う事も当然の流れだしその間大人しくしていてくれればそれで済む。
寧ろ廃棄する予定の宇宙ステーションを摂取してしまおうか?どうせ捨てる物ならダメとは言い出しづらいだろう。だが、宇宙開発技術者そのものの漏洩を嫌うと言う俺達と同じ考えはあるだろうしなぁ・・・。
「先ずはアチラの宇宙ステーションと連絡を取ってみません?現状把握が憶測ばかりでは間違いも起こる。」
「橘さんの言う事に賛成ですね。地球を経由してもいいしコチラから人材派遣を行ってもいい。流石に近寄ったら爆発するなんて事は言わないでしょう?」
「流石にそれはないですね。いくら酸素と水素があっても飛行方式が飛行ユニットを使用しているなら火器使用はなく爆発の恐れはないです。ただ情報開示までの時間話考えると残り少ない酸素でやりくりしているかも知らません。カートリッジ1つで600リットルの酸素を精製したとしても船外活動や呼吸量の増加を考えたとして1人1日2つ・・・、指輪があれば割と余裕?でも、そのカートリッジそのモノを推進剤として使っていたら量が増加して・・・。」
「山口さんストップ!今は目の前の事に集中しましょう。通信自体はここから可能ですよね?」
「それは大丈夫でござるな。ISSからの通信でも往復0.5秒、今の高度ならその程度でござるが・・・。」
「ござるが?」
「軌道がズレているならもう少しかかるかもしれぬ。」
「0.5秒が3秒に増えた所で大丈夫でしょう。今すぐ大気圏突入するわけでもなしに。」
「ならば通信から始めよウ。」
山口と藤に通信準備を任せてエマに情報開示。話を聞いたエマはブチ切れているが、キレたところで確定した機能不全が解消するわけでもない。割と斜め45度からデブリでもぶち当たれば昔のテレビよろしく直らないだろうか?
(クロエに橘、入れるしかない状況になったとしてどこまで侵入を許ス?国連経由なら地球ではもう報道されていると思うガ?)
(それが面倒なところなんだよね・・・。お得意のプロパガンダやら情報操作で自国の物を悪く言おうと全てプラスに働く。宇宙開発にトラブルは付きもの、だから不備のないシステムの情報開示を求める。既存品は不備がある、今回はたまたまS・Y・Sが飛行していたから助かった。だから、宇宙開発の救助システムとしてS・Y・Sの量産販売を望む。或いは・・・、避難先と目されるS・Y・S内部での生活データを開示しろ等々。才ある者が愚者を演じると手が付けられない。)
(同感です。流石にS・Y・S外部に取り付かれたまま運べば世論もうるさいし、宇宙ステーションに入れて運ぶと言っても接続部の強度がー!と言い出しそうですね。そう言えばここに来る前に考え込んだましたけどなにか案は出ましたか?)
(1番嫌がる案なら牽引ですね。S・Y・S同士を大規模往来する際は両者をケーブルで接続した後にゆっくりと巻き取り両者の飛行ユニットによりセロ反発空間を作ると聞いています。ただ、これは構想段階の話なのでそのシステムがあるかどうか・・・。)
現状1基しかないS・Y・Sなのでケーブルがあったとしても搭載しているかどうか・・・。船外活動自体は問題ではない。宇宙も進むバイクもあるし、橘とエマのバワート゚スーツもある。なんならラボからのお願い品も藤の嫁もいるから手は足りる。
嫌なのは強度が足りないと言う話で、下手に牽引しようとすれば接続部が壊れるかもしれない事。ただスペースデブリ直撃しても大丈夫なら簡単に壊れるとは思わない。
「音声通信が開通したでござる。もうすぐ声が届くでござるよ!」
「了解藤くん。ちょっと探して欲しい物があるんだけど・・・。」
とりあえず藤にはケーブルがあるかないかを確認してもらうついでに斎藤にも連絡を取ってもらう。ケーブルの強度不足も心配だしそもそも積んでない可能性も・・・。種子島ではS・Y・Sって台座に載せられてたのよね。
『コチラ中露宇宙ステーション。指揮者のリュウ上尉と・・・。』
『ロシアのキリロフ大尉だ。飛んでいてくれて助かった、至急救援を頼む。等宇宙ステーションは120時間ほど前に機能不全に陥り酸素供給が停止。その後修理や船外活動、ステーションの軌道維持の為にカートリッジも消費してしまった。』
『両国搭乗員の中には酸素欠乏症の症状が出ている者もある。回復薬をしようにも根本的な解決にはならず、こうして恥を忍んで救援要請を行っている。酸素だ・・・、酸素がない。』
『搭乗員全員既にパワードスーツ型宇宙服を着想しS・Y・Sが接近してくれれば宇宙遊泳してでも乗り移る覚悟がある。そちらへの搭乗方法を早急に教えて欲しい。既に数名筋力低下や酷い者は嘔吐している。幸い意識はあるがまずい状況だ。』
よく練ってある。音声と共に映し出されたのはパワードスーツを着た2人。コレが両国の指揮官だとして、本命はやはり人の盾か。確かに回復薬は色々と身体機能を整えてくれるが酸素は産んでくれない。仮に本当に酸素欠乏症でヤバい状態だとして、そこで回復薬を使ったとしても回復と昏睡を繰り返すハメになる。
そして何より面倒なのはコレが国連経由で着た救援要請で、地上にも宇宙ステーションの状況を連絡しているだろう事。宇宙ステーションの落下なんてはっきり言えば危機ではない。人員を外に出して指輪に収納してしまえばいいし、話に出た欠陥も最初からそう仕組まれていれば文句の矛先は倒産した会社。
寧ろここで救援しないとした場合も助かる命を何故助けないと出だすだろう。それを両国だけで処理出来るならまだいいが、相手は既に情報開示までして世論を見方につける気まんまん・・・。
「コチラS・Y・S隊長の橘。一旦カートリッジをそちらに渡し機器トラブル状況を確認する。」




