605話 始まった
「橘さんあれ鑑定出来ます?」
「鑑定するまでもないので言いますけど、作りとしては従来の宇宙ステーションです。なので当然分解します。」
「それって壊れたら地球に散弾ブッパする様なものですよね?落ちたとして燃え尽きます?」
「1つ1つのセクターが全長約30m。大小はあれど爆散でもしない限り確実に地表に到達する。宇宙で大型の破片を回収するとしたなら大気圏へ入る前に全回収は厳しく、地上からの援護を想定しても全ての落下起点を算出する前に星は降る。流石に現地にいるスィーパーに任せるのも酷でしょう。確かにビームを避けられる程、人は早く動ける。しかし、それを無作為にやれば街は崩壊し下手すれば落下以上の被害が出る。」
「指輪への収納は?それが1番現実的でしょう?」
「可能でしょうね。ただ、それを実行した場合あのステーションの中にいる人達を回収しなかればならない。」
思考を回せ、解を導き出せ・・・。
宇宙ステーションが機能不全に陥ったなら修理すればいい。それは当然で修理出来るならお互いに良かったねで済む。ただ、あのステーションの建造方法やらを知る者はウチにはいない。
落下すると言われれば宇宙ステーションその物は回収出来る。癪だがほぼ無傷で相手に返す事になるだろう。或いは相手が自ら回収する可能性が高い。『機能不全に陥り制御不能だったが回収し、人員もS・Y・Sに救助依頼を出し全員無事。』損失はなく願った通りの結果を得られる。
相手として困る事はなんだ?
宇宙ステーションが制御不能でも俺達が助けず見殺しにする?意味がない。何人いるかは別として尊い犠牲を礎に技術開示を迫るだろう。寧ろ、何故見殺しにしたと声を上げる。
今すぐにこの場所を離れる。駄目だ、その速度が出せるなら間に合うだろうと言われる。S・Y・S程の大きさなら十分に地上からも観測出来るだろうし、不用意に移動すれば他の人工衛星を巻き込む恐れもある。
先手を打って通信を試みる。『ニィハオ!機器的な不調はないか?ウォッカ飲んでご機嫌か?』『エマージェンシー!助けてS・Y・S!』・・・、割とありだな。外装がと言うか機器トラブルだけなら資材搬入でもまだ直せそう?まぁ、なんの機器かにもよるが宇宙缶詰を主張されればS・Y・Sに入れるしかない。まぁ、地球に向けて散弾を撃つよりはいい。
宇宙ステーションの緊急脱出システムを使わせる。駄目だ、これはない。そもそも宇宙ステーションの緊急脱出とは近くの宇宙ステーションに避難して救助を待つか備え付けのポッド、この場合乗ってきた宇宙船で脱出する事になるが、会社が倒産したのにその倒産した会社の部品を使ったポッドに乗せるのか?と言う話になる。
最善で言うなら・・・、牽引か!宇宙ステーションごとS・Y・Sで牽引してしまえばこちらに乗船させる事なく且つ宇宙ステーションでの待機を言える。酸素がない?悪いが水箱はあるしシステムも貸与出来る。衝撃で崩壊する?ラボからいいもの貰って来たし無重力と言う事は重量をかなり無視出来る。ついでに言えば藤もいる!
「つまり、相手が引き金に指を掛けた時点で私達は降参するしかない状況ですよ。被害を出さないならね。」
「いえ、要は地球を人質にしているとあぐらかいてる奴に一泡吹かせればいいんでしょう?私達は相手の宇宙ステーションの構造を知らない。しかし、相手もまたS・Y・Sの構造理論を知らない。」
「何かあると?」
「斎藤さんって大元はカーボンナノチューブの研究者で、コレを作る前は地上とコレを繋ごうとしてたんですよ、宇宙エレベーター的に。そして、それを取りやめても決してなくしたわけじゃぁない。」
前に言っていた。コロニー同士を固定するのに強度を増したカーボンナノチューブのロープを使うと。なら、そのロープがあれば宇宙ステーションも牽引出来る。そして、爆散さえしなければゲートを使って資機材を取りに行けばいい。この作は相手も覆せないだろう。
「藤くんに至急連絡を。現状の何1つ不備のない宇宙ステーションを撮影してもらいましょ・・・。」
『エマージェンシー!エマージェンシー!中露宇宙ステーションより緊急要請!隊長以下クロエとエマはコントロールルームへ!』
「始まりましたか。」
「始まってしまいましたね。」
「何にせよ事が起こったらな粛々と対処しましょう。」
橘と走りコントロールルームに行くと藤や山口にエマも既に集まっていた。さて、アチラのシナリオはどれかな?機器トラブルだけならどうにかなるが・・・。
「最後ですか?何にせよ状況は?」
「うむ、状況としてはあまり良くないでござる。先程届いた状況によると今より約5日前より宇宙ステーションのバランスシステムが機能不全を起こし、それを乗員で修理しておったがパーツ不足とプログラムの不備により修理を断念。地球よりパーツの搬入を依頼したが、中露で宇宙開発用パーツを作っていた会社のパーツを再検査した際に強度不足やプログラムに重大な欠陥が判明し、会社CEOは責任を感じ全ての指示は自分がしたと手記を残し、関わった関係者の人員名簿含め全てのデータを破棄して自殺したでござる。その為変えのパーツがなく更にプログラムデータも破棄された為、中露としては人命を優先しS・Y・Sに避難救助要請を出してきたでござる。」
「強度不足?それは崩壊する恐れがある程の?」
「中露側としては宇宙ステーションは破棄する方向でござるな。プログラムは再度構築すればいいものの、強度不足はどうしようもないでござる。宇宙からあの大きさのステーションが大気圏突入すれば被害は甚大であるとして、指輪に収納後ゲート内廃棄をすると言っているでござるよ。」
「提案ですけど強度不足なら装飾師に固定処理してもらうのはどうです?今落ちていないならそれで延命して、その間にプログラムを更新すれば済む話では?と、言うか装飾師に固定処理して貰う前に宇宙に出したんですか?いくら何でもそれは浅はかすぎますよ。」
「中露側の話としては外装の固定処理はしたそうでござるが、装飾師の宇宙へのイメージが貧弱で想定した強度未満だそうでござるよ山口女史。本当かは分からぬがスペースデブリ貫通は防げたでござるが、軌道は緩やかに傾いているそうでござる。そして、地球に落ちるなら計算上の耐熱性ならかなりの量が燃え尽きないらしいでござるな。」
「クルーリストは?人数が分からない事には受け入れの是非が出せない。」
「50名で中露半々でござる。パワードスーツと酸素タンクの噴射を使って今まで人力でバランス制御をしておったが拙者達の到着を期に、宇宙ステーションの現状を国連を通じで世界各国に情報共有したとしておる。また、スペースデブリによる貫通はなかったものの酸素供給器装置にもエラーが発生し、酸素タンクの容量は残り少なくカートリッジの使用も視野に入れているとか。」
話を聞く限りだとエラーの全部盛りとか?とりあえず酸素もヤバい、宇宙ステーションも重力に引かれている、大気圏突入しても固定処理されているから燃え尽きない、そしてなりより宇宙ステーションを収納するなら人員の行き場がない。仮にISSへ避難させるにしても50名は入りきらない。
「修理したとして自力で衛星軌道に復帰するのは?酸素の供給も可能なら強度不足と言っても大気圏突入で燃え尽きないならすぐに壊れるわけでもない。緩やかに落ちているならまだ軌道修正出来るでしょう?山口さんの見解は?」
「不可能とは言えませんけど可能とも言えませんね。人力の部分が抜けたら加速度的に速度が増す可能性が高いです。無重力であると言う事は一度加速してしまうと歯止めが効かない状況で、酸素残量が少なくシステム面のエラーでバランサーが壊れているなら正常な軌道計算が出来ない可能性も・・・。安全面を考慮するなら一時的にでも人員を回収後、宇宙ステーションを指輪に入れ地球の重力圏を完全に離れてから修理が妥当です。」




