604話 そこまでやるか? 挿絵あり
「さぁ、私は早退しましたがこの量のパンを誰が焼くか?いい魔法カードもないでしょう?エッグベネディクトにシュトーレンと焼き上げられれば高得点、失敗すればクビですクビ。」
「私も早退しましょうかね?今回は手持ちが悪くて焼ける気がしない。」
「山口は残るよナ?高得点だゾ?後1回のミスは許されル。」
「ルール的には全員クビにしても勝ちですし、魔法カードでサイコロをイジって焼き上げて高得点を狙っても・・・。二箱混ぜて魔法カードを減らしてるから全体的に運要素と判断力が問われますね。でも、サイコロ振って欲しい数が出る確率は1/6でもゾロ目指示とかいくつ以上と言う指示を考えていくと・・・。」
さぁ焼くか早退するかのチキンレース。やってるのは店長になったり財閥になったり国を起こしたりするパン屋のボードゲームシリーズだが、今やってるのは原点回帰して主人公がバイト時代のもの。2回パン焼きを失敗すればクビと言う名の脱落で全員クビなら残った人が勝利、逆にパンを焼かれてしまうと焼いたパンに対して得点が貰える。ただし、場に出ている全てのパンを焼き上げなければ得点はゼロである。
そんなブラックルールのゲームを2箱使ってパンは倍なのに、サイコロいじれる魔法カードを減らしているものだからかなりシビアだ。場外乱闘と言うかこのゲームは特定の魔法カードを封じたり得点渡してサイコロ振り直してもらったりと戦略性も高い。
「ヘルプ報酬欲しいから早退でもいいですよ山口さん。」
「私もヘルプしますよお2人とも。」
「逃げるな山口、お前なら焼けル!」
「確率論で言うと出来るんですけど、魔法のメモと言う指示が・・・。どの魔法カード封じられても運要素が増して・・・、でも得点的にはこれを全て焼き上げればほぼ勝利が確定したと言っても過言ではなく・・・。」
山口が唸っているが何でゲームをしているかと何も起きていないから。宇宙に出ているのだが今の所動きもなく、実験としても準備段階で取り急ぐものもない。NASA側にしろ日本側にしろ今回のメインは宇宙での俺の呼びかけと言う事で大規模な物は少なく、今やってるのは無人機による米国式飛行ユニットの宇宙飛行実験。
そちらの方は藤が嫁達でサポートしつつ見守っているのでフォローも出来るし、エマの飛行実験はこの実験が終わってから。なので暇を持て余してゲームをしている。まぁ、これも飛行ユニットによるコロニー初体験の俺達からすれば立派な実験で、無重力下にいるのにちゃんと重力が発生していると一発で分る。
因みに無重力体験したければ今なら宇宙空間への出入り口付近で体験出来て、そこでならぷかぷか浮いていられるし、生活用水も水箱からいくらでも補給出来るので飲料水の確保で頭を悩ませる事もない。この水箱と言うのはかなり大切で酸素を作るのにも使われているので保管場所はトップシークレット。
昔なら太陽光パネルとかも必要だったがそれは予備電力扱いで保管してある。宇宙で風呂に入れるのは中々いいな。全面ガラス張りなので外から丸見えになるが、今の所宇宙遊泳する奴もいないし開放感は半端ない。
割り当てられた個室にもシャワーやらベッドはあるし、住むなら何1つ問題はないと思う。強いて言うならコンビはないから小腹が空いたらそれまで。食料備蓄は潤沢だが食えばなくなるし、補給船はないので誰かに取りに行ってもらうか運んでもらうかしかない。そのうち宇宙Uber Eats とか言う商売も出てくるのだろうか?
今回はゲートも搭載しているがそちらはまだ試していない。外見だけ考えるなら地球で見たものと変わらないので使えるとは思う。ただ、使えたとして統合基地までどれくらいかかるのだろう?行ければ宇宙開発は更に加速度的に進みゲートの価値が爆発的に上がる。上がるがコロニーが何らかの事故で崩壊してゲートが外宇宙にでも飛んで行ったらと思うと怖い所でもある。
交渉できたならゲートを地球に戻す様にソーツに頼むかな?流石に掃除するのにその掃除して欲しい場所に行けないと言うのはアチラとしても困るだろう。ただ、探しに行けと言われたり交渉権返還するならいいと言われたら諦めようか・・・。
「私も早退しま〜す。」
「ネ、ネバーギブアップ!焼き上げれば大量得点ダ!」
「焼く前にメモを見る。」
「・・・、サイコロをひっくり返す魔法禁止・・・。」
「6が出ても1には出来なくなったね。」
サイコロを振りヘルプでサイコロを振ってもらい、魔法カードで出目を弄くるがエマはクビになり退場。山口も次でクビとなり橘と一騎打ちにもつれ込むも焼くパンがなくなり得点差で橘の勝利。山口と橘の会話もはずんだしぼちぼち打ち解けたんじゃないかな?
「さてと、そろそろお開きにしましょうか。ボードゲームは買い込んでるので貸し出しが必要なら言ってください。」
「職ありならまだ勝てそうな気もするガ、中々難しいものだナ。後で貸してくれないカ?対人訓練にも使えそうダ。」
「共通の目的を持っにしても会話で御するにしても色々出来るからね。貸し出す時は簡単に説明するとしよう。今って衛星軌道上くらいですか?山口さん。」
「ええ、ISSと同程度の高度に達してますけど一気に離脱中ですよ。ここに留まると他の衛星と衝突したり逆にスペースデブリを吹き飛ばしていると衛星を壊したりしますからね。無人機のテストデータは良好で誘導範囲も想定内、問題はS・Y・Sが移動中なので帰還プログラムが使えない事ですが、それはこの後静止してから試す予定です。米国のプログラマーは悩んでましたね。既存の宇宙ステーションとは異なる帰還システムをどう構築するのか?レーザー誘導なのかそれとも特定距離で回収してもらうのか?サテライトビューの様に全周囲モニタリングしても飛行ユニットの作用範囲の計算をミスすれば自壊するのでは等々、今回の実験で壊れたら壊れたで新たなデータも・・・。」
相変わらずのマシンガントークに苦笑するが静止すればウチもラボからのお願いを試さないとな。米国無人機とやらの行動限界範囲がS・Y・Sからの電波が届く限界距離となるが、中継設備と言う名のレールを敷けば更に活動範囲は伸びるだろう。まぁ、磁気嵐とかで電波が途絶すればそれも使えなくなるし、有人機で巻き込まれれば最悪死ぬ。
「何にせよ今は暇を楽しみましょう。」
仕掛けてくるとすればこの高度だとは思う。流石に離脱後に助けに来いと言う厚かましい事は言わないと思いたい。言い出さないといいなぁ・・・。言うなよ?寧ろ今の実験風景眺めるだけで満足しろよ?そのうち開示されると思うから。
その点英国は上手いよなぁ〜。最新技術は高くともそれが確立されれば安くなる。多数が使用すればそれだけ問題点も洗い出せるし安定性も増す。単純に追わないと言うのではなく自分戴冠式で魔法を見せつけ、自分達は宇宙開発ではなく魔法と言う科学よりも分からない謎技術を専攻して別口でトップに立つ道を模索する。
後追いでも逆転出来るかもしれないが、リスクを犯してするよりも別分野をやって後から安定したら研究しだしても遅くはない。
「そう言えば橘さん。フェムが静かですけど置いてきました?」
「いえ?単純に里帰りですよ。宇宙から帰ってきたのでガタはないにしても見てもらえる時に見てもらうに限る。」
「ええ・・・、はい。今からエマさんと向かいますね!」
「どうかしたのか山口?」
「無人機が帰投したので行きましょう。エマさんの付属ユニットにもデータをフィールドバックしないといけませんからね!あぁ!宇宙でこんなにもスムーズにデータの引き継ぎや観測実験が出来るなんて思いもよらなかった。何かを作るにしてもスペースは十分だし・・・。」
「分かったから早く行くとしよウ!クロエ達はどうすル?ついてくるカ?」
「そうですね・・・。」
「展望室へ行きましょう。見に行きましたが中々いい眺めですよ。」
橘が言葉を遮ったがもしかして動き出した?エマには情報開示していないので分からないかもしれないが、地上で聞かされた話を考えるとその線が濃厚か。エマ達と別れ展望室へ。全周囲見えるが・・・。橘が無言で望遠鏡を渡して来て指を指す。見ろと言う事か。
「なんですあの巨大建造物・・・。」
「アレが中露の宇宙ステーションですよ。元の大きさから最近一気に増設されました。」
大型宇宙ステーションと聞いていて100m程度の物を想像していたが縦横500mくらいありそうな白い宇宙ステーションが・・・。えっ?大気圏で燃え尽きる隕石って1m以下だよな?まさか、アレが制御不能で落っこちるとかないよな?ただでさえ人工衛星の部品落下とかニュースになってるし、直径10mの隕石でも原爆くらいの威力がある。
流石に質量の違いはあるが、それでもあの大きさだと燃え尽きるかどうか・・・。いや、増設したと言うなら殆どはハリボテ?中身スカスカで燃え尽きる事を前提に落下させ、ここに人を送り込みつつさらなる技術開示を狙うとか?『古い技術では安全面で大きな危険性がある。今回の事故もその一環だ。だから大規模な技術開示をして欲しい。』センセーショナルな映像があればそれだけ人は動く。
当然国として批判は免れないが、それがどうしょうもない事故だったら?そう、例えば大量にスペースデブリが飛ぶ中でそれに接触したとか・・・。宇宙でそれを故意と断定するのは無理だ。だって破片は飛び散り方や燃え尽き方や遥か宇宙の彼方。お膳立ては宇宙ステーションのトラブルで回避不能・・・。
そもそも船外活動出来るだけの技術があるなら・・・、そうでなくとも槍師が槍を放出して手元で戻したら・・・。




