577話 彼女の動き 挿絵あり
藤は数日大分に留まり明日帰るそうだ。半分は本当に観光でとり天やらオススメを聞いては食べに行き温泉に入ると言うガチ観光で、宇宙帰りを満喫していた。実際、宇宙で何食ってたと聞くと、地上と変わらないと言うかゲートから離れても指輪が正常に使えるかも兼ねて割と豪勢に食ってたらしい。
俺としても盲点だったと言うかソーツが作ったものだから大丈夫だと考えていたが、斎藤達宇宙実験チームとしては指輪はゲート内活動を効率化する為の装備であり、ゲートから離れればその効力も失われるのでは？と言う意見もあったとか。
ただ、宇宙でも指輪は正常に使え予備食料として積み込まれていた保存食や宇宙食には手を付けずにすみ、そのかわり各人が持ち込んだ旨い物を交換したりしながら楽しんだとか。まぁ、日々実験と観察ばかりの日々の中で娯楽と言えるのは食事くらいか。宇宙遊泳も娯楽と言えば娯楽なのだろうが、パワードスーツに慣れていないと操作をミスした時に砲弾化するので、浦城達以外はやめていたのだとか。
飛行ユニットは斥力と引力により飛行するのだが、仮にシステムが故障すると引力の場合はどこまでも加速する事になるし、斥力の場合は反発してどこにもたどり着けなくなってしまう。特に試作機に帰還する時が難しいらしく、何通りかの帰還方法があるにしても試作機側の斥力に反発しないだけの引力をシステム的に計算させて、ワイヤー巻取り式で帰還させたり、試作機に多大な危険がある完全飛行ユニットOFF状態でのパワードスーツの帰還も試したとか。
確かに飛行ユニットって試作機のバリア装置でもあるから、完全OFF状態にすると試作機に何かが飛来して来ても迎撃装備はなく、パワードスーツに飛来物を除去してもらうか帰還中の人を吹き飛ばしてでも飛行ユニットを展開するしかない。まぁ、出入り口付近の飛行ユニットのオンオフでその辺りも対処出来るらしいが、何がどこから飛んでくるかは分からないんだよな。なにせ宇宙は360°接地面はなく常に浮遊している状態が正常なんだし・・・。
「父さん醤油取って。」
「ほいよ。目玉焼き丼か？」
「そうそう、半熟目玉焼きを御飯に乗せて醤油を少々・・・。」
「フェリエット！そのウィンナーは私のです！フェリエットは既に3本食べてるです！」
「昨日の宿題の手間賃を忘れてるなぁ〜、朝のおかず1つで手を打ったなぁ〜。」
「ぐぬぬ・・・、み、味噌汁とかどうです？全部ウィンナーを待って行くのは流石に私を可哀想だと思わないですか？」
「汁はなぁ〜・・・。そう言えば、ソフィアは藤とか言う兄ちゃんと今日は遊ぶのかなぁ〜？」
「師匠と遊ぶですよ！フェリエットも来るですか？」
「う〜ん・・・、旨いものが食えそうな予感がするから行こうかなぁ〜？」
「あらあら、藤さんはソフィアの2人目のお兄ちゃんみたいね。」
「藤師匠は心の師匠ですよお母さん。」
「父さん、藤さんって暇してるのか？昨日も鍛冶課でバイトしてる時にひょっこり顔出してパワードスーツとか見てたけど。」
「暇してると言うか休暇扱いだな。なにせ宇宙から帰って来たばかりだから、すぐに仕事と言う気にもならんだろう。まぁ、種子島の斎藤さん達はやれ改修工事だ正式版ロールアウトだとかでバタバタしてると聞いてる。」
「ラボの人達も大変ね。でも、そんなに早く作らないといけないものなの？」
「違うよ莉菜。早く作らないといけないんじゃなくて、早く作りたいんだよ。元々斎藤さんは宇宙開発に興味のあるただの大学教授だった。でも、その夢を叶えたから先が見たくなったんだよ、多分。今ならJAXAもNASAも全面的に協力してくれるしね。」
「夢を叶えるか・・・。結城の奴は専属になったら加奈子と世界を旅したいとか言ってたし・・・、ギルド的になにか専属って認定あるのか？」
「いや、専属に認定なんてない。そもそも専属スィーパーって言うのは企業に属さずスィーパーのみで食ってる人達の事だからな。ただ、その中でギルドに何かしら貢献してる人はマスターから直接オーダーを出したりする。例としては青山だな。後は夏目の所の不知火さんとか？」
夏目と両思いらしい不知火 凪夏。夏目が他の娘と一晩を共にしようとも自分の所に帰ってくればそれでいいらしい。おおらかと言うか、束縛しない主義と言うか・・・。まぁ、夏目のギルド自体は安定しているし、ゲート関係に置ける男女問題で女性側の受け皿としても有名になりつつある。
どこまで行っても男と女と言う様に、混成パーティーでの問題発生理由の大半は男女のそれで、姫クラッシャーがいる様に王クラッシャーもいる。そして更に質が悪いのが寄生クラッシャー。スィーパーは男女共に戦えるし、女性の方が強いなんて事も多々ある。そんな強い女性に近寄ってヒモになり、そのヒモが更にヒモを呼ぶなんて事もあれば、勝手にカード使って借金するなんて事も。
男女共にあり得る事象だが、夏目の所は特に女性側救済に力を入れており、実働的に動くのが不知火となっている。まぁ、動いた末に女性側に非があればさっさと女性側を警察やら夏目やらが裁くし、男性側に非があれば当然同じ様に裁く。要は女性が声を上げやすい窓口的な所と言えるだろうか？
「マスターオーダーか、そこまで結城の奴は考えてんのかな？」
「さてね。ウチで手っ取り早くマスターオーダーを貰おうと思うなら青山と一緒に活動するのが早い。面倒な奴だが警察にも自衛隊にも顔は効くし、その辺りから指名されていればマスターとしても任せるに値すると判断出来る。」
結城君とリーの関係がどうなるかは不明だが、スパイとしてのリーを簡単に逃がす気はない。実質的な被害はないと思うがそれも増田からの報告次第だろう。なにせスパイが祖国にどんな情報を流していたか知るテストケースとしてはこれ以上のものはない。リー達の回収した情報や適当な指示を出してからの情報収集能力を見れば、おおよその潜伏スパイの数もどこにどれだけ工作員がいるかも見えてくる。そして、それを見て俺達としては更に誤情報を練ればいい。
「警察に自衛隊か、そんな人達と結城は肩を並べて仕事するんだな。」
「そう言うお前は自由登校開始時からギルド出勤状態になるけどな。最終モラトリアムは卒業1週間前からくらいか？」
「手続きとか教育が上手く進めばだけどな。なにせ法律とか鍛冶課に属する為の心構えとかを叩き込まれるらしい。」
「バイトじゃなくて職員だから、それだけ責任が重くなると言う事だ。」
他の所と違ってと言うと語弊があるが、少なくとも鍛冶課はパワードスーツやロボテックスーツ、或いは武器を直接扱う分スィーパーの命に直結する事が多い。だからこそ手抜きは許されないし、武器は簡単には壊れないがこれくらいでいいだろうと言う妥協も許されない。言わばプロとしての精神を養う教育だな。
「さてと、そろそろ結城達も来るし行くよ。ごちそうさま。」
息子がそう言いながら食器を流しに待って行き、娘達も一緒に登校の準備をする。そして少しして俺達も出勤。1月も下旬となるが世界的に加熱した宇宙熱は中々冷めないだろうな。
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「エマ大佐、前の約束を覚えているかい？」
「駐日大使の件ですか？覚えてますがまだ人数には至ってないでしょう？」
米国内がNASAと日本の試作機の話で持ち切りの中、私はアライルに呼ばれペンタゴンにいる。約束と切り出されたならこの話しかないだろう。ただ、当初10人を目安と言われた中位については私含め6人しか知らない。ただ、私が受け待つのは軍関係なので、民間から至る者があれば私が知らないのも仕方ないだろう。
「そうだね。ただ時は進み時代は動く。今回の試作機は日米共同としつつNASAの職員もほぼラボへは行けず、種子島で完成品を多少イジらせて貰ったに過ぎないんだよ。」
「そうだろうな。日本政府とラボの関係はあくまで国と一企業。そして、その企業の心臓であるラボは治外法権のゲート内にある。状況を考えれば国は高槻製薬に文句を言えず、仮に接収案などを出してへそを曲げられれば日本は大打撃を受ける。」
ラボのスタートとは人類初のスタンピード時に回復薬開発に成功した高槻医師が社長となり司と共に歩みだした。高槻医師が上手いと言うか、司が先見の明があったと言うか・・・、司が政府から報酬を貰った時に資金提供を申し出て立ち上げたのを考えると、日本政府も設立には一枚噛んでいるのではないかと言われている。
シナリオとしては司と言うゲートに詳しくダブルEXTRAと言う類稀な職を有する人物から情報と言うか、才能を十全に引き出せ技術革新を自由に行える場を与える為の隠れ蓑にしているのではないか？と。つまり、司=宇宙人説はそこそこ色々な国で囁かれているし、アライルからの話では国際会議後に開示された情報でプライドが高くキレる奴は多かったと聞く。
まぁ、そのキレる奴は国のトップ連中なので、もたらされた情報を闇に葬った所は多い。現時点だけで言えばスィーパーは増え報酬は支払われ、掃除はちゃんと行われている・・・と、思う。
「その通り。個人に勝てず1企業に勝てず、国とはなにかと問われれば解答に苦しむ状況だけど、その解答を出す暇なく世界は進むよ。なら、Let's Rock Roll！進むだけ進んで答えが見えた時に答えればいい。と、言う事で次にクロエが宇宙に行く時君にも行ってほしい。」
「実績作りか？共に宇宙に立ったからと言って何が起こるとも思えないが・・・。」
「それは別に構わないよ。我々が知りたいのは配信にあった見えない宇宙人に対してだよ。最適化されたらそれを感じ取れるのか？神志那と言う女性は中位に至り鑑定してソレが見えた。クロエは鑑定師ではないのにソレを感知した。なら、その他はどうだと思う？」
「それを私に試してこいと？バカンスとしてはご機嫌だな。しかし、米軍基地は大分にはないぞ？一番近い大使館も福岡だろう？」
「うん。そうだね。だからついでに大使見習いとしてギルドとの連携やら協力体制を視察するって事で1〜2ヶ月程度大分市内のホテルを取ってあるよ。シェンゲン協定様々、日本政府とは協定テストケースとして既に話は通してある。」
話が早い。と、言うか既に決定事項なのだろう。私としても司の側に行けるのは好ましい。そして、裏を読むならゲート内で米軍辺りを鍛えて貰えと言うのもあるのか？今の所自惚れと言われるかもしれないが、米国内でクロエと親密と言えるのは私か悔しいがウィルソンになる。なら、その伝手でどうにかお願い出来ないかとか言う含みも考えられるな。
「その命令、謹んで受けよう。」
