576話 何を求めるのか？ 挿絵あり
「戻ったでござる。」
「随分話し込んでたみたいだけど、斎藤さんから渡すものはそんなに話し込むようなものだったの？まさかエイリアン発見したとか？米国でも月でサンタクロースを見たなんて話もあるし。」
戻った藤は4、5時間は神志那と話していたな。非常に嫌な話を考えると本当に月の裏側まで行ってエイリアンの痕跡を見つけたとか？月って地球の周りを公転する時に自転するから何時も同じ面しか見えない。そして、月の裏側は常に暗黒で相当寒いと聞くし、人類はまだそこに到達していない。
つまり極々低温下でしか生きられないか、それとも月の中で生活するエイリアンがいた場合、人類は中々発見出来ないだろうし、仮にUFOを持っていたとしても行き先は火星だろう。何せ火星の方が地球よりも寒く月の重力の倍あるとは言え地球よりはまだ低い。
「そんなモノは見つけてないでござるよ。長引いたのは試作機の改修点をまとめた資料を神志那殿に渡したら、そのままメンサ会議が開催されて根掘り葉掘り聞かれていたからでござる。」
「改修点なんてあるんですか？」
「うむ・・・。望田殿、そもそもラボが飛んで直ぐに宇宙に出た理由を覚えているでござるか？」
「それは・・・、クロエを宙に安全に上げるため？」
「そうでござる。そして、上げるだけではどの国も納得しないだろうと、大型スクリーンを取り付けようと言う話に・・・。」
「ヘイ！その改修案ちょっと待ちな！何が悲しくて私が宇宙の晒し者にならないといけないんですか！ただ行って適当に宇宙服で飛べばいいでしょうが！？」
言うに事欠いて大型スクリーンて・・・。確かに歴史を紐解けばボトルメールの様に人類を書いた金属プレートを宇宙に放出したり、アレシボ・メッセージの様に電波を送りつけたりしているがプレートの方は見つけてもらうのが大変と言うか、砂漠の中で塩の結晶を見つけるくらいの確率でしか見つけてもらえないだろうし、メッセージの方はそもそも目標到達までに約2万5000年かかる。
そしてそれに対する返信があるかも分からなければ、宇宙的怪文書を送られたと抗議に来る可能性もある。そもそもね、自分の星がここにあると他人に教えて何がしたいのだろう？スケールダウンして考えると、全く知らない人にいきなり電話かけて『俺こんなヤツだからよろしく！』と話した末にご丁寧に住所まで教えると言う、ちょっと正気を疑う事をやっている。
人の考える知的生命体は理想像で、本当の知的生命体の姿や性格は分からない。例えば自分達より下は価値なしと言う者達もいるだろうし、姿が気持ち悪いから滅ぼそうなんて奴もいるかも。だってあのドックで見た宇宙人達は実体がなかったにしても人とは相当にかけ離れていたし・・・。なにより知的と寛容は違うんだよなぁ〜。
自分達をひたすらに高める事を前提に進化して来た種がいたとして、その種が他の種を認めるのか？絶対に勝てないと思わせる様な存在なら認めるかもしれないが、同等と思う存在なら技術や自己を高める為に戦争仕掛けてきてもおかしくない。まぁ、その戦争のやり方が舌戦の可能性もあるし、文字通り宇宙戦争の可能性もあるのだが・・・。
「しかしクロエ殿。宇宙では音は響かぬし電波では相手が受け取れるかも分からぬ。一度でケリを付けるとすれば、出向いて姿を大きく見せるのが最も効率的でござるよ？」
「そうでござるが、会議では正規ルート案を推したでござるが？」
「情緒が乱れて口調が移ってますよ。年1交渉として祭壇はまだ見つけられてないですし、今回これだけやっても無理となれば実績として成立するんじゃないですか？」
「それはそうだけど、もうちょっとこう・・・。やめよう、下手に考えて案を出して採用でもされたら面倒だ。」
「なにか案があるのでござるか？」
「ナニモナイヨー。」
代案があるかって？手っ取り早くその辺の宇宙人捕まえてパシらせるとか？少なくとも見えない宇宙人はいた。でも、神志那や俺はそれを見る事ができたし、輸送機のコアやガーディアンのコアからコードを読み解いている。つまり、コードを理解出来る対象になら話せない事もない。まぁ、話すと言うかイメージを送り合うと言うのが正しいのかもしれないが・・・。
ただこれを話すと自爆になるので話さない。仮に神志那が藤にそれを伝えたとしても俺には出来ないと言い張る！だって、年越して多分今年の分の交渉が可能なんだろうけど、会って話しても世間話くらいしかできないし、それも無駄と言われて直ぐに帰るだろうしさ。
「話されぬならしかたない。なにはともあれ来ないと言う証明も必要でござろう？」
「必要だけどその前に宇宙に慣れないとなぁ〜。パワードスーツと違って私のは本当に服だし。」
魔女がモンスター素材とかを嫌がったので魔法糸なんかは使ったが、他は全て人が作った物を使っている。なので、既存のパワードスーツにも機動性や安全性は負けるし、飛行ユニットも搭載されていないので飛ぶなら自力となる。まぁ、その為に魔法があるとも言えるのだが・・・。
「何処かで練習するでござるか？種子島に宇宙開発用シミュレーターを作る案やR・U・Rにも宇宙活動モードを作ろうかと言う話も出ているでござるが。」
「ん？既存のシミュレーターとなにか違うの？」
宇宙開発シミュレーター・・・。今までの流れと言うか宇宙適応訓練ならプールに放り込まれてスキューバーダイビング的な事をしたり、宇宙飛行士になる為に真っ白なパズルをやらされたり、後は英語とロシア語の語学訓練に心理支援プログラム等々、当然ミッションに適した訓練やらスペースシャトルその物への理解を深める事も求められる。
と、言うのが宇宙飛行士訓練なのだがその辺りはかなり変わるんだろうな。スタートからして対G訓練は不要になるし、言語としても必要ではあるのだろうが人が多いと言う事はそれだけ分業も出来る。なにより宇宙ステーションではなくコロニーなので、閉所による心理的負荷も小さい。言ってしまうとプライベート空間が確保出来ると言うのは緊張緩和しやすい。
知らない人間と言うか長く訓練で顔を突き合わせた人間なら、ある程度気心がしれているのかもしれないが、それでも閉所空間ならストレスが溜まりやすいしちょっとしたトラブルで喧嘩につながる。それをリセットする為にも1人の場所と言うのは重要だろう。その点、試作機はかなりの広さなのでスペースは確保出来る。そのうち高層ビルとかも作られるだろうな。屋上は外壁に接続して固定してしまってるかもしれないから、屋上から飛ぶと言うのは無理かもしれない。フィフス・エレメントごっこは出来ないか。
「メインは飛行ユニットによる宇宙飛行訓練でござるな。今回の浦城殿達のデータを元に作ると言う話でござるが、基本は1人で飛行してちゃんとコロニーに帰ってこれる様にする訓練でござるな。他のミッションとしても採掘や建設と言うモードも搭載するでござるし、スペースデブリ破壊ミッションも作るそうでござるよ。」
「なんだかSFで私胃もたれしてきました・・・。クロエは？」
「催眠学習とか言う怪しい洗脳教育より、まだ体感訓練の方がいいかな？やる事もゲーム風なら楽しめるし。」
R・U・Rって開発国の強みでゲーセンにもあるし、そのうち何回体感訓練してこの職種目指しましたとか言う子供が出てくるのだろうか?慣れ親しんでいれば上手く適応出来そうだし。なんにせよ俺も宇宙行きか・・・。
小さな頃の夢で宇宙飛行士と言うのは結構出てくるが、それも夢から日常に代わり家族でちょっとそこのコロニーへと言う流れになるのかも。そもそも試作機は宇宙エレベーター1号であり、そのまま宇宙開発の足がかりとなるのだろうから・・・。
「試作機からフィードバックした正式版ってどれくらいで作る予定？小耳に挟んだ話では試作機は藤君が貰うとか聞いたけど？」
「うむ・・・、貰うと言うか緊急措置と言うか・・・。正式版は時間がかかる故、今回の試作機は当面改修工事をしつつ運用するでござる。そして、緊急措置と言うのは人手的な意味で拙者の嫁達含めbotで大半を管理していたので、船長と言うか家長として試作機を家代わりに貰ったでござる。まぁ、当面は高槻製薬名義でござるが、アレを欲しいと言う問い合わせは相当な数でござるよ。なので、給料的な意味も含めての会社報酬でござる。」
「家長なら家の手入れはしないといけないけど・・・、人手的には大丈夫か。そもそも制作から携わってるし。しかし、問い合わせは仕方ないだろうね。アレがあれば複製してどんどんコロニー作れるだろうし。」
「うむ。これで当面の間、拙者は高槻製薬でタダ働きが確定したでござるな。まぁ、お金はゲートで稼げばよいし、こんな身体故どこに住もうと何のストレスもござらん。見方によれば巨大なフィギュアケースをローンで買った様なものでござるよ。それと、改修工事は試作機の損耗具合にもよるでござるが3月までには終わる予定でござる。」
「かなり早いですね。それだけ劣化がなかったって事ですか？」
「劣化がないと言うか、最大の問題は大きさに対するスペースデブリ衝突の危険でござったが、飛行ユニットによる斥力発生でデブリその物を吹き飛ばしたので大丈夫でござった。本来ならもっと早く地上と宇宙を行来出来るのでござるが、その吹き飛ばし角度を調整せぬと燃え尽きなかったデブリが地上に落ちる故な。」
その後も試作機の話を聞き、藤は適当なホテルに泊まると言って引き上げ俺と望田と妻も帰宅。しかし、欲しがる国が多かったか・・・。NASAは噛んでるからデータ持ってるだろうし、欲しがったのは政治的に対立組織とかがいる国とか？
良くわからないが、例えば敵対組織に対して気に食わないなら国を出ろと言ってコロニーを渡したとする。それで相手は納得するのだろうか？少なくとも今回のデータだけを聞くなら、多少の不便はあるものの住むには困らないだけの設備がある。
しかしセーフスペースがあるのにそこにも移らず、かなり少なくなったが打倒政府を掲げる組織もあると言う。そんな事を未だにやり取りする組織は一体なにがしたいのだろう？麻薬利権とかはとうに廃れ、海外では政府が回復薬と同時購入なら麻薬を売るなんて所もある。
実際、ウチでもモルヒネの話が出るくらいスィーパーにとって怪我は身近で、回復薬がない時に凌ぐならそういう物に頼るのも仕方ないのではと言わている。う〜ん・・・、今度は宇宙開発利権とか叫びだすのかねぇ？
