567話 何点と言われても 挿絵あり
杖を持って外に出ようとするが、このまま地面に刺していいものかは悩む。ギルドの立っている場所は人工埋め立て地なので、これが思った通りのモノなら土地に穴が空いて海水が入って倒壊するかも。流石に制限はされてると思うが・・・。
いや、英国で作った金属探知機とは違い筒状じゃないからその辺りも考慮してる?未知の物を考察して試してみるのにはワクワクするが、流石にギルドやら土地が壊れても問題だよな。仕方ない。口頭での答え合わせといこう。
「立ったと思ったら座り直してどうしました?」
「これを地面に刺して発動させたとして、モグラの巣穴が山程出来るのは立地的に駄目だと思いなおした。」
「ここ埋め立て地だからにゃあ。地表付近はいいけどあんまり深くやると液状化してなくなっちゃうね。基礎とか刻印とか固定化のおかげで一晩でなくなる事はないけど。」
「そんなヤワな作りじゃないですよ。特に人工島を作るって話が出た時に何よりも地盤の固さ最優先で作る事を約束してもらいましたからね。魔術師:土に海底を均してもらい、箱素材を鍛冶師に加工してもらって海底からここまでの高さの塔を作ってもらい、更にその表面を固定処理や刻印で劣化を防いだりしてもらいましたからね。そのおかげで工事そのもの早く終わったとは言え、準備期間が長引きました。」
ギルドのしたは海底まで約20m。そこに長さ40m縦横1kmの巨大な棒を差し込み海面から約高さ5mの位置にギルド本部が来る様に設計されている。海底の方はスキーのストックの様にズレ防止策も取られているし、その海底から湧き出した温泉がギルドの地下では楽しまれているし、有志の作った人工島ビーチも今は収納されているがそこそこの大きさとなっている。
ただ人工島を年中出しておいて欲しいと言う要望もあるので、そのうち鍛冶課にでもお願いして正式な物を設置しようかな?ちなみに地上部分に土を入れたのはスタンピード対策の為。流石に魔術師:土が土無くして戦うのは厳しいと意見が上がった。
この経験を活かして人工島を作る所は建設されたので、ギルドのメンテナンスと言う部分ではほぼ同じ手順で実施出来るし、今年予定されている劣化検査をすると言う話も望田が後を聞いた限りでは劣化のれの字も見当たらず、貝なんかが付着してるくらいとか。
「そのヤワじゃない作りを突破しそうなんですか?この杖って。」
「それは試さないと分からないけど中位が作った杖だからね。サイラスさんが土魔術が得意ならどんなイメージを組んでるか分からないよ。」
キセルをプカリ。視界を変えて杖を視たりしてみる。賢者曰く色々な方向から見る視点が足りないらしいので煙を吹き掛けながら更に視る。別に形があるからと言って本質は法を破った妄想や空想。なら、そこの糸口が掴めれば自ずと結果は見えてくる。
鷲の装飾で空をイメージして力強く勇猛に空を舞うさまを空想させるなら、今の止まっている状態はその羽根を休めていると言う所だろう。杖として成立しているが、その柄の先は根の様に視える。つまり、コレは木にとまった鳥とその止まり木。そして、持続性を持たせるなら鳥に餌を与え木に肥料を持たせる。
ふむ・・・、ならコレに込められた魔法の形状変化は1つとしてカウントしなくていいな。それに、鷲だと思ってたけど実はこの細工って鷹なのかも。鷲と鷹って分類学上は同じタカ目タカ科で、明確な区別はないらしいし、身体の大きい種類が「鷲」で小さい種類を「鷹」と呼ぶらしい。
「風、土、複合の3つの魔法か。」
「空を飛ぶ魔法と、何かの土魔法と・・・、複合ですか?」
「多分ね。杖って継続性とかの要素を取り入れたりするからどこかで循環システム入れたり、元に戻る様なイメージを入れたりするんだよ。使い捨てならそこまで凝らなくてもいいけど、そうじゃないなら何かを渡す代わりに何かを得るとかね。私やサイラスさんが使う魔法よりも、杖を使った魔法の方が余っ程RPGしてるなぁ〜。ほら、羽ばたいて獲物を探せ。」
そう言うと鷹の細工が羽ばたき部屋の中を飛んで回り、杖を差し出すと元の位置に戻って来る。色々と混ぜ込んでそうでもあるけど、そろそろサイラスから電話がかかってくるかな?
「おっ!電話だ。クロにゃん出ないと怒られるよ〜。」
「神志那さんが出ていいですよ。タイミング的に誰か分かりますし、ちょっとしたイタズラでもして返しましょう。」
微妙な疑いとして背中に取り憑かれたのって獲物と言うか餌と間違われた可能性がある。鷹やら鷲が運べる重さは個体差にもよるがチワワを攫ったと言う話も本当か嘘かある。流石に考えすぎだとは思うが、鷹の目ならこの部屋も見てた可能性もあるんだよね。
「うんじやま、もしも〜し。」
「おや?クロエさんがいると見ましたが別の方が出ましたか。」
「えーと、誰さん?」
「サイラスです。ミス・・・。」
「神志那だよ。魔法省長官さんか、クロにゃん知ってた?」
「鷹が飛んだ時に遠見の魔術師も入ってると予測してましたよ。さっきと言うか、背中に羽付けて飛ぶと目に入る風は暴力以外の何物でもないですからね。その目を使って見る方式なんでしょう。或いはゴーグルとか。」
神志那が電話をスピーカーモードにしてサイラスの声を部屋に流す。望田は初見なので挨拶を交わしているが、さて何のようかな?わざわざ杖の出来栄えを聞きに電話しに来るとも思えないけど、出来たから見て!と言うのもありえない話ではない。
「ノーヒントで動かしてしまうとは思いませんでしたが、呪文がわかりやすかったとか?」
「いえ?呪文は知りませんけどやろうとしているイメージから探りましたよ。形としてもそれに沿ったイメージだったので、妄想や空想から判断して動かす方向を読み解いていきました。園芸には良さそうな杖ですね。」
「そこまで言うって事は地面に刺しました?」
「渡した杖から作るなら種やら地中の虫を集めるものでしょう?そして、循環させるなら虫ではなく種。これって地中で集めた種を鳳仙花みたいに飛ばして、それを鷹か鷲の細工が集めて循環させる。どちらかと言えば飛行魔術はついでになんじゃありません?」
「成る程、でも最後までは読み解けなかったようですね。防犯装置も兼ねているので、地面に刺していれば杖を中心に家1軒分くらいは細工が守ってくれますよ。さて、出来としては何点くらいでしょう?」
本当に出来栄えを聞いてきたよ・・・。そもそも杖に満点の物ってないし、作って運用出来れば満点だと思う。しかしまぁ、英国に残して来た杖を見て見様見真似でここまで出来たなら満点なんじゃないかな?
「満点だと思いますよ?それとも、改良の余地を聞きたいなら話は別ですが。」
「なら、その別の話をお聞かせ願いたい。」
「では僭越ながら。1点目は見た目。魔法の使用方法を分かる魔術師なら魔法の簒奪も出来ます。杖に鳥の細工があればそれは飛ぶものだと思う。なので、変化球に絨毯とかでもいいのかと。」
最初の頃兵藤達をハンカチとかに乗せて飛ばしたな。今はなくても飛ばせるし、色々な映画やゲームで飛行魔法と言うものは出てくる。でもこの魔法って極悪だよな。相手が魔法使いなら対処出来るが、一般人や戦士だとEXTREME高い高いからの落下死はコンボとして成立するし、魔力で包む事が飛行魔法の肝だとするなら、その空間を展開していれば打撃に対してはかなり強い。
実際俺の体重をなくすなんて言う小技は飛行魔法から発展させたイメージだし、それの応用で相手の体重を無くして踏み込みなんかが全く出来ないなんて事も出来る。最近はそれをやるより力技が増えてしまったが、小手先の技も磨かないとな。
「確かに貴女が作った杖には分かりやすいシンボルと言うものがない。一見ただの黒い棒であり、又は魔法少女の杖の様でもある。その辺りの細工のイメージから作り直さないと防犯面が厳しいか・・・。」
「手っ取り早く済ませるなら鍛冶師や装飾師に頼むのをお勧めしますよ。お互いに根気のいる作業になるかもしれませんが、その先には互いの積み上がった経験がありますからね。次に2点目。この杖って名前つけてませんよね?別に魔法に付ける名前なんて何でもいいですが、杖には付けた方がいい。それは本人の中での命名でもいいですし『コレはこの名前!』と宣伝してもいい。でも形がある以上、名前がないと壊れやすくなる。」
「それは贈り物なのでクロエさんにつけてもらおうかと。昨年末のお礼もあるのでお好きな名をどうぞ。」
「残念な事に昨年は英国で会って以来会ってませんが、似た誰かさんのお詫びの品として受け取りましょう。では・・・、宿り木とでもしましょう。」
その生命力からリースにされたり神に恐れられたりと色々逸話のある宿り木だが、魔除け的な意味もあるのでこの名でいいだろう。ただ、遠見の魔法だけは潰しとくかな?私生活を見守られても面倒だし。その辺りの改良は後から勝手にやってみるとしよう。そう言えば、息子の事は出来るだけ視ない様にしてるけど大丈夫かな?
「さて、贈り物の話はコレくらいにして獣人の話です。メールは読まれましたね?」
「ええ。しっかりと。」
ーside リー ー
「結城合わせろ!」
「いいよ!何体出す?」
「10体!千尋の方は無事か!」
「甘く見てもらっては困る!加奈子、まだ増えるか!」
「囲まれてきてます!ナビするので付いてきて!」
潜って1週間は過ぎた。初心者にとって振るいの様な15階層行きは順調と言えば順調で連戦で怪我をしても階層を戻り再度進むと言う事を何度か繰り返した。その間に技も冴えモンスターとの戦闘にも一定の余裕が生まれてくる。千尋が甘く見てもらっては困ると言ったが、確かにモンスターの斬撃を拳でいなしながら胸部を蹴り抜いたのを見れば甘くは見れない。まぁ、それでも動くモンスターには悍ましさと力強さと言う相反する感情を抱くが・・・。
対象と那由多も技は冴えると言うか、土人形に魔法で石の鎧を纏わせ囮や襲いかからせている隙に各個撃破したり、フルスイングのハンマーでまとめて叩き壊す時もあれば、こうして逃げる時は対象がモンスターの足止めを買って出て遮蔽物や落とし穴を盛大に作る。勿論、これはただ逃げているのではなく落とし穴の中では対象曰くミキサーの様にモンスターをすり潰しているらしい。
「もうすぐ包囲突破です!先行しますね!」
前のモンスターに向けて掃射。ガンナーではないので弾をばら撒くしかないがダメージは出せる。それに、いい拾い物もした。掃射で視界を奪い隠密で隠れて背後からグサリ。逃げ場を探すクリスタルを貫いてモンスターの外に出す。逆手持ちの湾曲したナイフ。ナックルガード付きで殴る事も出来る。
「ナイス加奈子!地面を動かすよ!全員バランス崩さないで!」
「高速で頼むぞ!後ろには俺が壁を作る!」
「那由多!ついでに何か硬いものを作ってくれ!殴って打ち付けて追い払う!って、そのビームは直撃させん!」
「千尋危ないって!これを使え!」
後ろの方でイチャイチャ・・・、ではなくモンスターの撃ったビームを千尋がいなし、その隙に那由多が何枚もの壁を作っていく。対象が地面を動かしているのは流砂のイメージらしいが、私達より後方には逆方向に流れる様に仕向けてあるので、モンスター達は一瞬それに興味を取られ、その隙に浮いているモンスターを千尋がその剛腕でエピパンの様な武器を殴って飛ばして撃ち落としていく。
中位としてやれるなら確実にその浮くモンスターも仕留められる。むしろ、逃げずに全て叩き潰せる。対象含め今のメンバーでもそれは可能なのだが、慎重に事を運んでいるので包囲されそうになればこうして逃げる事が多い。まぁ逃げてもモンスターは追ってくるので、ある程度の距離を稼いだら対象が地面を丸ごと隆起させると言うか、土砂崩れの様にモンスターを土に埋めるのだが・・・。
「このまま進もうか!方向こっちでいい?」
「ゲートは見つかりませんけど、この先はあんまりモンスターがいないみたいです。那由多君と千尋ちゃんは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。ただ、モンスターに切られて髪が短くなったから首元がすうすうする。」
「那由多がブチ切れて滅多打ちにした奴な。薬使えば飛びるんでない?」
「今はいい。髪の為だけに無駄遣いはしたくない。」
「それより後から千尋は武器見せろよ。毎回ビーム殴ったりしてるしそろそろメンテもしておきたい。何か改造して欲しければ聞くぞ?」
「司さんじゃないけど中々箱を開ける暇がな・・・。こう、何か遠距離攻撃も出来るような物が欲しいが。」
「必ずそれはどうにかしてやる。うちの遠距離攻撃って言えば加奈子のマシンガンと結城くらいだからな。それに、遠距離攻撃が出来れば千尋も少しは安全になるし。」
「那由多・・・。」
「そう言う那由多は千尋庇ってモンスターとの間に割り込んで右肩ぶち抜かれたりもしたけどね。」
「ビームで焼けるから血はそんなに出ないけど、ビジュアル的にはかなりやばいんですよね・・・。」
「薬で治したから大丈夫だぞ?まぁ、違和感も少しあったから何本か使ったけどさ。と、アレはゲートか?」
「そうかも、ここで止まるよ。」
対象が地面に手を付きその間に私達は周囲を警戒する。飛行型以外のモンスターの発見精度は高まり今ならその重さでおおよその数は分かるし、それに目視を合わせれば見逃しは少ない。
「ゲート付近にモンスターは感じ取れないから、次は飛行型を目視で確認っと。僕には見えないけど加奈子はなにか分かる?」
「私もゲートまでは安全だと思います。まぁ、高高度からモンスターが降ってこなければですけど。」
アレには参った。高速で降ってくるモンスターを感知した時は乱戦中で、まともに地面に着弾されればみんな仲良くふっとばされていただろう。それを迎撃する為にトロンプ・ルイユで塔を作り1人で迎撃すると急いで駆け上って灰色の帯を抜いた。
久々の帯はよく馴染み細く巻き付けモンスターを一撃で裁断し、その中でもハリボテのモンスターを出現させて生やした腕から掃射する。1人何役やればいいんだと叫びたくなるが、帯は別として武器なんかはその時その場に合えばいい。
モンスターが集まっていないと判断して私達は足早にゲートに向かい、ゲートに突入してから伏せる。年越しから三賀日が過ぎ私達の歩みは後半戦に突入している。今から旅するのは13階層。このペースなら新学期にも間に合うだろうし、私がスパイであるとバレずに済むだろう。




