54話オールスター後からの 挿絵有り
清水が死なずにすみました
「とう!」
軽い叫びとは裏腹に、その蹴りは炎の落雷を思わせる。止まったガーディアンを直上から、ライダーキックよろしくなフォームで蹴り落とす。流石ヒーロー、自身よりはるかに大きいモンスターをその蹴りで地面に叩きつける。
「倒せ!ソイツは外に出る!!!」
「なら、相手をしましょう。さぁ、仕事の時間だ。伝承しよう。君達は古強者!自分と歩む勇猛果敢な影法師。手に手に武器を持ち、歩みを止めぬ兵たちよ。共にゆこう。その歩みは明日へと続き帰路へつく!」
宮藤が炎の兵達を作り上げ、ガーディアンへ群がりその姿を削る。しかし、額の青い光が輝き兵達の存在を否定して消していく。アンチマジック!相対した敵で初めて起こされる事象。しかし、無効化だろうとアンチだろうと、絶対はないのだ。だから紡ごう。秋葉原とは違い、今は信頼できる者達がいる!
「賢者は歌う・・・、どれほど堅牢なモノとて、朽ち果てぬモノは無いのだと。何時の姿は削られた。即ち、滅びの姿は存在す。如何に強大とて汝の滅びは内包される。止まり朽ちて思い出せ!無垢なる姿は原初の1!!これを維持する、頼んだ!」
青い光は姿を消し、消えた兵達も再び燃え上がり進軍を開始する。その兵の中に兵藤が見える。暑さはないのか、涼し気な顔だが、ガーディアンを見つめる目は射殺さんばかりに見据えられ、差し出された手には水が集まる。
「流石にまだ弱点は発見させてもらえないか、しかし、追尾と対応があるんでね?溢れろ溢れろ生命の泉!人の歩みは止まらず、再建の時は必ずくる。その場にお前はいない。お前は邪魔だ、否定する。枯れ果てろ!」
それは、水分の強制脱水による圧縮。ガーディアン周辺の水分を強制的に集めて枯渇させその渇きで、ガーディアンに圧をかける。魔法は通った。なら、倒せない道理はない。しかし、ガーディアンとて馬鹿ではない。モンスターと違い、これには明確な仕事がある。卓の炎を纏った拳がガーディアンに瞬着して破壊をもたらし、殴り飛ばされた先にいる赤峰が殴り返してガーディアン内部を軋ませる。
「仕上げにはちょうどいい、20階層はおもしろそうだ!」
「雄二、あまり先行するな!」
「でも、ここは騒ぎましょう景子!」
「な!小田が清水に靡いた!」
「夏目さん今は攻撃!私の笛は守りを響かせる!防人は防衛を任されてるんです!」
「よし、なら私は大ちゃんを援護しちゃる!」
最後尾の雄二チームが追いつき、先頭の雄二と清水が飛び出て無数の切り傷を付け、井口が投擲した槍がガーディアンに食い込む。最後は夏目がガーディアンに取り付き、新武器のレーザーカッターを這わせる、装甲を削り他のメンバーもガンナーがレーザーを撃つレンズを狙い撃ち、スクリプターがダメージを再現させ漸くこちらを敵として認定したガーディアンのうねるレーザーカッターを小田が結合させてまとめていく。
しかしまずい。仕事を邪魔されたガーディアンが、こちらを敵と認識した。今までは一方的に攻撃していたが、こちらを攻撃仕出した!レーザーカッターに太さはいらない。蜘蛛の糸ほど細くても人は切れる。ランニングで鍛えたおかげで、面で追ってくるレーザーカッターは回避出来ているが、これが点攻撃による射撃なら予備動作もないので回避が難しくなる。
「レーザーって光ですよね、なら屈折させます!散れ!氷華!兵藤さん手伝って!」
「任せろ!大気覆う水よ!広がり覆い傘となれ。」
加納の融解しながらレーザーを屈折、或いは減衰させ、それに兵藤の水膜が重なり更に減衰させる。しかし、切れ味は弱まってもバツグン、回避しているが数人の手足がズレて血が吹き出す。
「カヴァーリングーー!お前ら早く治せ!卓行けよ!裕子ー大丈夫かー?」
襲うレーザーを赤峰がその身体で受け止め、自らの後ろへは行かさぬとその手でレーザーを掴み束ねて握りつぶし、叫びによっては湾曲させる。その横で犬が足りない部分をフォローに走り回る。
「悪い赤峰!少し頼む!治癒師結合はよ!」
「任せろ!即死じゃなきゃ繋いで治してやるよ!仕上げに回復薬飲めよ!神経結合が早くなる!」
治癒師が離れた腕を結合し、負傷した仲間も回復薬を飲んですぐさま戦線に復帰する。誰も彼もここで死ぬ気はない。こんな所で終わる気はないと、身体を、能力を振り絞って戦う。外にモンスターが居なければこんな事態にはならなかった、今もいるかいないかの判別はつかない。なら、ここから出す訳にはいかない!
「大ちゃん大丈夫!私も負けてらんないね!」
井口が大量の槍を投げ、清水と望田がレーザーを捌き、小田が仲間を癒やす中、想いを託された卓が迸る炎を更に吹き上がらせて、巨大なガーディアンに向かい瞬着するのではなくひた走る。そうか、彼の横には相棒がいるもんな。
「任された!心を燃やせ!仲間との熱い絆を感じ取れ!!僕は共に歩む仲間がそこにいる!」
「その想いを伝達させましょう・・・、その想いを。敵は強大です。でも、彼の心は折れない。なら、仲間が折れる訳にはいかない。」
卓と共に進む炎の兵が更に火の粉を散らし、青白く輝き出す。ウィル・オ・ウィスプ・・・、そうか、安らぎを忘れ戦う彼らは危険な所を楽しげに歩くのか。
無数のレーザーは卓を貫くが、その穴は炎によって塞がれ傷ひとつなく兵と突き進む。彼自身が炎であり断てぬ絆があるのなら、彼は何度でも仲間を守る為に立ち上がるのだろう。仲間を傷付けられた純粋な怒りは、彼の想いを増幅させ彼の思い描くヒーローを作り上げていく!
「よぉ、相棒。俺も一緒行くわ。この道が正しいのかは分からないけど、お前と歩むならまぁ、多分間違いじゃねぇ!」
共に歩む雄二は卓程早くない。しかし、不思議とその足は卓から離れる事なく、寄り添うように進んでいく。彼は至っていなくてちっぽけだけど、それでも彼の歩みは追い求めるように相棒と呼ぶ彼に並び立つ。
「あぁ、お前が並ぶなら共に歩もう!モンスターよ!外は僕達の世界だ!好き勝手はさせない!」
「全くだ!俺達は俺達の世界を歩む!」
卓の拳がガーディアンにめり込み、内部から炎が吹き上がり雄二の剣が炎をまとい、外からその姿を斬り刻む。軽口を言い合うような炎の兵はその隙間から中に入り込み、その炎でガーディアンを溶かし落とす。
「響け防衛の音!彼方は既にリミットを迎えてるはず!」
望田の笛からけたたましいアラーム音が鳴り響き、ガーディアンの崩壊が加速していく。押し切れる!このまま攻撃を続ければ間違いなく押し切れる!防御膜は無効化し、こちらの攻撃は尽く通りダメージを重ね、姿を崩壊させている!
『・・・、君は僕の事を知りたいかい?』
「こんな時になんだ!?」
『大切な事だよ。君は僕を知る事を望むかい?』
「・・・、必要なのだろ?言え!」
『いいだろう。こうして意志を持つのはいつぶりか。遠い昔のその先、語られもせず忘れ去られた僕達・・・。EXTRA職、賢者。道理に通じた者、魔法を定めた者、未だ真理悟に至らぬ者、見識ある者。愚者を笑う者、師となる者。他にもあるけど、これは君が賢者に内包したイメージだ。余りにも懐かしいんで、君に本当の意味で力を貸そう。』
「は?今までは?」
『手慰み程度の力で僕を評価されては困るなぁ。このままだとみんな・・・、死ぬよ?』
死ぬ?これだけ押しておいて負ける?あり得るのかそんな事が?ガーディアンの姿は見るも無惨、両手と思しきものは断たれ、内部から炎が吹き上がり、地面に縫い止めたせいで浮くことも叶わずタコ殴りにあっている。そんな中で全滅する?
『根本が違うんだよ。そもそもあれは失敗した時にゴミを始末する装置。役目があるなら、それに愚直にひた歩く。外にまだゴミがあるかは知らないけど、その確認を邪魔するなら君達も排除しにかかる。』
舐めるな、気を抜くなと言う事か。モンスターを始末する装置なら、当然中層だろうと下層だろうと、いるモノに対して攻撃して倒す手段がそこにはある。あれがまだおとなしいのは、俺達が完全に敵認定されていないから・・・?
『それで正解。でも、そろそろしびれを切らす。』
「モンスター!お前自身を制御・・・、がっ!」
腕を差し込んだ夏目が、大きく震え意識をなくし、モンスターによりかかる。その夏目を回収しようと走る仲間の前で、ガーディアンの姿が元に戻る。差し込まれた夏目の腕は巻き込まれて切断された。
「なっ!そりゃありか!」
「早く夏目を回収!動き出したらどうしょうもなくなる!」
「雄二、お前が近い!頼むぞ!」
「おう!任せろ!夏目さん死ぬなよ!」
夏目を回収した雄二を援護する為に、誰も彼もが攻撃を放つが、その攻撃は当たる前に歪められ、或いは霧散する。何故だ!魔法は成立している!なぜダメージが入らない?
「賢者、やれるんだよな?沈黙してる魔女じゃなくてお前が。」
『やれるとも。外にゴミがいなければ問題ないけど、君は出したくないのだろ?なら、眠らせよう。君は気合を入れる事。』
賢者へ主導権を渡す。賢者が言った事は職の説明なのか?一切説明のなかった職だが狙いは当たった。自らをEXTRAと名乗りを上げた。なら、信じて見定めよう。賢者と銘打たれた職の力を。気合を入れろか、当然だ。ここまで来て、失敗する気はない。外にモンスターがいなければ帰る、ならいた場合は被害関係なくそこを壊滅させるのだろう。手段は分からない、方法も知らない。
ただ、犬さえ倒せる性能があるのなら、それこそ慈悲も何もなくコイツはやってのける。人がいようがいるまいが関係ない、それがこのガーディアンの仕事なのだから。
「危ないから下がってほしい!」
賢者の叫びに、何か大事をやるのだろうと仲間達が引く。楔を外されたガーディアンは自らの仕事の為浮かび上がり、虹色に蠢く腹を晒しながら、退出ゲートを目指して浮かび上がる。このままでいいのか?その考えが出る前に口が開かれた。
「初めに思考して言葉が生まれた・・・、それによって加速した妄想は固められ、空想を産んだ・・・。」
紡ぐ言葉を置き去りに、ガーディアンが加速しだす。退出ゲートは目前に迫る。このままでは外に出てしまう!賢者に任せたのは間違いなのか?プカリと吐かれた煙はガーディアンに結びついたが、それは、ガーディアンを引き止めるには余りにも細い!
「思いを操作して、形が出来た・・・。君に罪はない。ただ、君は邪魔なんだ・・・。法を破ろう。助ける者、君が出るほど弱くない。一度の崩壊は君の定義を崩した、眠れ!」
朗々と紡がれた言葉は道理。結びついた煙は内部に入り込み、何かと拮抗しだす。これはイメージ?脳みそさえなくなった、身体の中に叩き付けられるのは、何とも分からぬイメージの本流、頭が割れる程痛むが、それが巻き戻り、更にまた痛みを引き起こし、目の前が暗くなろうとも、また叩きつけられて呼び覚まされる。何か話している?聞く度に頭が痛い。
頭が割れていないのが不思議だ・・・。いや、割れた側から巻き戻っているのかもしれない。不明なイメージが叩きつけられては消える。そんな中、ふと、魔女に頭を撫でられたような気がした。
『気をしっかり持ちなさい?』
「'mt't'mxgu/9t56tp」
「@'mwm3t'wtp64swiMgmtkt/u8!!!!」
「mXg'j'm8t:m"8tm"jg@wn6rj,+€(558・^・!!」
「u8t.xauu6tj8jt6t5k・・・,ujj6vj」
叩きつけられるイメージが減り、ガーディアンの輝きがなくなりだす。終わったのか?多少マシにはなったが頭が痛い。無いはずの胃から吐き戻したくなる。何かがせり上がる、これは何だ・・・?飛ぶのも辛い・・・、ガーディアンが退出ゲートではない何処かへ行くのが見えるが、それどころではない。墜落するように落ち、地面に四つん這いになり、ムカつきを吐き出したい。何とは言わず、身体を裏返して中に有るものを全てさらけ出してまっさらにしたい。気持ち悪い・・・、背中をさすられているような感覚があるが、一向に良くなる気がしない・・・。
『いいこ、いいこ、我慢しなさい?』
「うごっ、おぇ・・・、ごぼっ・・・。」
『それは、だめだ。それだけはしてはいけないよ。』
「な・・・、ぜ・・・。」
『今は眠れ。その時話そう。』
視界がぼやけ、何もかもが曖昧になる。何かの声が聞こえるが、それも何か判断が付かない。あぁ、意識が手放される・・・。上下も左右も分からない。落ち込んだ意識は深い闇の中に落ち、どことも知らぬ場所に向う。1人なのだろうか?何かに引かれるような気はするが、何なのか分からない。
「はい、席につく。」
「?」
頭が回らずボンヤリする。気持ち悪さと頭痛は無い・・・、と思う。寧ろ、身体の感覚もない・・・。何に声をかけられたのだろう?なにか感じ取れるのだろうか?目がないなら、他の感覚でどうにかするしかないのだが・・・。
「君は僕の目を要求しただろ?なら、見える。」
「目を?」
「言われただろ?職を流用して視力を戻すと。」
「それは・・・。」
思い出されるのはソーツとの会話。メラニン色素を捧げて目が見えなくなった時の事。確かに、ソーツは職業を流用して視力を回復すると言っていた。その目に何か関係があるのだろうか?身体さえ曖昧なのに、その事に意味がある?
「どんなモノにも他者を認識する器官はある。それは、いうなれば形作るモノ。君が見ようとすれば、ソレは形作られる。僕を視ておくれ。」
老人の様な少年の様な声の姿を視る・・・。いや、イメージするのか。感覚的に賢者だと思う。その形とはなんだろう?人の形でいいよな?疲れ果てた子供?口調的には老人ではないような気がする。不機嫌では多分ない・・・、金髪とか?東洋で賢者だと仙人とかだと思うけど、どうも海外のイメージが強い。性別は男だよな?魔女が女のイメージが強すぎて、コイツを女だとは思えない。声も男っぽいし。僕と言うし。
「さぁさぁ、僕をどんどん形作ってくれ。君はソレを視ている。」
服は・・・、ローブじゃないな。安直すぎる。ぞろびくローブの子供なんてハロウィンの仮装じゃあるまいし。ただ、体型は分からない感じの服ではある。ピアスとかしてる?髪も後ろで結んでそうだけど、長くはないな。イメージを積み重ねて視ていく。違うイメージが浮かんだら、ソレは破棄してまた積み上げる。これは魔法の工程?
「これが僕の姿か。ああ、それだよ。幸か不幸か君は目を失ったけど、目を持つ職があった。それが僕だ。何時だったか見せてあげただろ?無いはずのものをあるように。」
「それは・・・、病院か!莉菜と話して幽霊だと思った、やけにリアルなアレか!」
「そう、アレ。あれが、最初の法を破った魔法。君は無意識にイメージしたんだよ。椅子があるなら誰か座ってる。病院なら老人だろうと。だから、君はあそこに行く度に幾度となくそれを思い描いて視た。職に就けて無かったから、君しか見えなかったけどね。」
コイツ、人の目を勝手に・・・、使ってないのか。元はコイツの目だと言うし・・・。席につけという言葉を思い出し、適当にテーブルと席を思い描く。場所は千代田と行く喫茶店、何もないのも落ち着かない。喧騒は聞こえない、あっても邪魔なだけだ。賢者が椅子に座ったので、俺も対面の席につく。姿は少女の姿。
昔の俺の姿は何も残っていない。多分、捧げた時点で剥奪されて、思い描くことさえ許されないのだろう。まぁ、未練はない。今の姿になったからこそ出来た事も多い。なら、過去の姿はいらないな。
「さて君、吐こうとしただろ?」
「あれだけムカついたら仕方ない。」
「あのねぇ君、君の中は空っぽなの。中身の無いモノが入ってるの。」
座った賢者が頭を掻くような仕草をしながら俺を睨む。中実の無いモノが、入ってるとは一体何だ?無いなら無いのではないだろうか?空っぽなのだから、吐いた所で何も出ませんでしたで済むと思うのだが・・・。
「中身のないもの?」
「そう、君は稼働し続ける為に中身を捧げて、終わりを捧げて、虚無を内包して動いてる。前にバカな事考えてるって、言ったの覚えてる?」
それは、何時だったかスィーパーなら俺の身体も割と普通なんじゃないかと考えた時。巻き戻りと中身の空っぽさえ、どうにか出来ればと思った事。まぁ、普通の人間は中身があるから動ける訳であって、無いなら平面になるんじゃないだろうか?
「覚えてる、そこに問題があるのか?平面は嫌で形は膨らませてもらったけど・・・。」
「おおあり。君達は未熟だ、だから考えなしに選んだ。目の前の問題さえ解決出来ればと、その選択肢を選んで掛け合わせて斜め上に飛んでった。君が吐き出そうとしたのは終わり。一度吐き出せば、終わりなく終わりを吐き出すよ。何せ君は止まらないのだから。」
「終わりを吐き出す?」
「そう、あぁイメージで伝えたらどんなに楽か!無くなるんじゃないよ?ゲートどころか、何もかもご破算にして気付く気付かないは別にして、何もない事が延々と続く。」
「ブラックホールを吐き出すと?」
「違う!それは、観測出来る!観測する概念が無くなるの!何かあったと言う痕跡さえ残さない無が吐き出されるの!君は時間さえ捧げてしまったから、その後に続くものは何もなくなる。」
話を聞く限りだとビックバン前の世界?違うのは爆発しないからその後に発生するものが無いと?・・・、なんてもの人の身体に入れやがった!ゲート動力で動いているなら、縮退炉稼働かーと思うだけ・・・、いや、それでも十分やばいのだが、賢者の話を聞く限りだと、吐いただけで色々終わってしまう。
「まて!ならなんで吐き気なんてもよおさせた!」
「ソレは我慢すれば治まる。君が吐き気を感じたのは停止コードが逆流して、君自身が一時停止するという矛盾が発生したからだよ。時間も終わりもないのに、強制的に止まるのは死と変わらない。」
「いや、俺はバイトに頭とか齧られたんだが?」
「それとコードは違う。肉体的な損傷は問題じゃない。それはすぐに巻き戻る。コードは中身にダメージを与える。今回の件は必要だからやったんだよ。」
アホみたいに危ない綱渡りが必要だと?全て無くすより優先される事象?吐いただけで世界どころか何もなくなるんだぞ?返答次第ではコイツを殴らにゃ気が済まん。いくら子供の姿だろうとやっていいことと悪いことはある。
「1つは助けるモノの退出許可の剥奪。これで君の言うガーディアンだったかな?あれは他を含めて外に出ない。その代わり、誰かがゴミを連れ出したら君達で対処するしかなくなった、これは溢れるのと違う。方法さえあれば無作為にいくらでも連れ出せる。
もう一つはあの程度を軽くあしらえない君を鍛える為。僕や彼女は君には無いはずの職だ。だから、表面的には扱えるけど、内面的には全くだ。僕としても君があの程度で吐こうとするなんて想定外もいいところだよ。本来、君の仕事は掃除だ。全体は確かに稼働して掃除も表面的には出来てる。でも、まだ全然足りない。中層にも行ってない。魔法は僕の領分だ、鍛えてあげよう。奥に行けばああいう輩も居るからね。」
賢者がしたり顔で話しているが、殴っていいやつだよな?ガーディアンが外に出なくなったのは素直に嬉しい。モンスターを運び出した奴は見つけたらとりあえず殴る。それでも気がすまないが、先ずはコイツだ。警告もなしに世界を滅ぼそうとか、あのまま吐いていたらどうするつもりだったんだ!
「お前に安全管理の何たるかを教えてやんよ!」
「保険はあったさ!彼女はそれを担ってくれてる。それに言ったじゃないか!気合を入れる事と!かかっておいで!ここは内面、好きにするといい!」
椅子も机も邪魔だ。形作られた賢者を殴るのには不要!コイツは人の大切なモノを消失させるかも知れない危険な橋を渡らせた!保険?あるなら先にいえ!考えだしたら更に腹が立ってきた!
「さぁ、イメージの時間だ。僕を捉えて殴ってごらん?貧弱なイメージだとすぐに壊されるよ?」
手始めに鎖を思い浮かべて巻きつける。駄目だ、溶かされた。コイツは球体のモンスターを軽く溶かした、鎖ではだめだならなんだ?ガラスは脆すぎる。糸などもっての他!
「遅いなぁ、先ずは一撃。へ〜、蹴るってこんな感じなんだ。」
急に目の前に現れた賢者から腹を蹴られた。何がどうなっているか分からないが、ボールの様に吹っ飛ぶ。身体はくの字に折れて、どこまで飛ぶのか・・・、いや、違う。何も定義せずに蹴られて吹っ飛ぶイメージをしたから飛んでるんだ。
目が見えるなら、そこにはなにかある。手を伸ばして取っ手をイメージしてそれに捕まる。よし、掴まれた。子供が蹴ったのだ、こんなに飛ぶはずはない。速度が死んだなら、前に出られる。見ただけで魔法を発動させるが、賢者は肩に付いた埃でも払うかのように意に介さない。
「そうそう、その調子その調子。次は派手に行こう!」
何もない空間が弾けて、肩から腕を消し飛ばされる。違う、これはイメージだ。俺は巻き戻る。賢者が出来たのなら、俺にもできる。それこそ、今ダメージを受けたイメージを元に突き返す!駄目だ、甘い、賢者が何をイメージしているか知らないが、同じものの筈なのに、歯牙にもかけられず押しつぶされる。何が違う?今まで魔法は使った、中層のモンスターも倒した。なら、なぜこうも押し負ける?肩が弾け、膝が弾け、腹に穴が空き、それでもしかし巻き戻る。なら、まだやれる。