554話 種子島へ その5 挿絵あり
スマホがバキバキになった為、短いです
「今回の飛行に関してはJAXAとラボが共同で主導しNASAが管制システムを構築してと両国が最大限に協力した結果としての成果です。我々は共に歩み開発を続け今後更なる行動を・・・。」
「田辺理事質問です!更なる行動とは!?あの試作機・・・、略名S・Y・Sは今後どう活動するのですか!配布された資料によれば今後宇宙空間における各種実験に移行するとありますが!」
「・・・、言葉を遮るのは辞めていただきたい。しかし、気になる方は多い。更なる行動とは宇宙空間における長期間の日常的な生活実験、具体的には飛行ユニットを使用しての疑似重力発生による生活様式の確立等があります。よろしいですか?宇宙空間では無重力で生活をする。これが終わり宇宙空間でも地球上と同じ生活が出来るかもしれないのです。ご存じとは思いますが、宇宙飛行士は長期間宇宙ステーションにいればどんなに訓練しても筋力量は低下し地球に戻れば立つ事さえ不可能になっていく。しかし、今回の実験でそのリスクが軽減ないし無効化されれば真の意味で宇宙での生活の一歩が歩みだされます。」
記者会見で多数のカメラから眩しいフラッシュが焚かれる中、田辺はドヤ顔で語っている。まぁ、成果としては誇るほどのものであり、自身が成した事ではないとは言えこうして会見を任されているなら主導者の1人として見られる事だろう。
まぁ、見られたからと言って試作機に何が搭載されてどこまで行動を起こすかは知らされていないし、話せる範囲としてもマスコミに配布された資料以上の事は口外しないとしてある。そもそも配布した資料も大きさや電気で動いている等のある程度想像出来る範囲の資料以外は、JAXAとNASAの協力体制に重きを置きラボとの協力体制については殆ど記述されていない。
実際ラボ側としても外部作業は組み立てぐらいでそれ以外の機器は既存の物を多用しているし、どちらかと言えば今回は物品よりも理論的な部分の調査が多いとも言える。
「ファースト氏が立ち会われていると言う事は宇宙へ行く計画があると言う事ですか?先に行われた国際会議では交渉の場はゲート内としていました。しかし、こうしてこの場に来られたと言う事は地球外交渉に意欲的である事の表れだと取れますが!」
田辺がチラリと俺の方を見る。仲が良い悪いで言えばあまりよろしくないが、毛嫌いされる程までに嫌われてもいない。仮に嫉妬すると言うなら情報量問題とか?理事である田辺が知らない事を俺が知っている可能性も大いにあるし。まぁ、立場とすれば俺と田辺では俺の方が上なので致し方なし。ただ、省庁を跨いていると言われればそれまでか。
「地球外交渉と言う事ですが、それに意欲を示す気はありません。私がここにいるのはあくまでS・Y・Sや飛行ユニット等に詳しい者としての立場からです。今回の会見に同席しているのも必要時に補足をする為であって、それ以外に他意はないです。」
「なら試作機について質問です。今後この技術を発展させ居住空間として整備して販売する計画はありますか?」
「今回が初飛行なのでまだ何も確定する事はありません。ただ、今回の実験次第ではそれも可能ですし、何よりも持続可能な生活様式のモデルケースとしても十分に検証を重ねる事が出来るでしょう。人類は様々な苦難に直面しそれを乗り越えてきました。それでは今S・Y・Sに搭乗している斎藤博士達と連絡を取ってみましょう。」
意気揚々と田辺が言っているが大丈夫なのだろうか?確かに状況連絡は大事だがあちらかではなくこちら側のアクションと言うのが気にる。まぁ、何かに没頭してたら塩対応かな?
『拙者の嫁達が宙を舞う・・・、絶景でござるなぁ〜。』
映し出されたのは天を仰ぐ藤の姿。音声はクリアながらどう見ても望遠カメラで撮影されている映像で、証拠に試作機の外殻が映り込んでいる。一定距離を意識してか特にカメラのブレはなく、クリアな映像ながらも背後からはBGMにでもしているのか、はたまたメイン動力等を担う藤のテンションを上げる為かアニソンが流れているな。
『でもなんかこっちに向けてカメラ構えてないかい?困るよ藤くん、一応記録映像としてこれも残すし。』
『そうは言われても斎藤殿、何か連絡があればカメラは好きに回していいと言ったでござる。だからこちらに向けているなら連絡があったのではござらんか?』
『連絡?ラグを考慮するなら数分は間を置くはずだよ?急に連絡よこして何か言えと言われても準備してないし、何より彼女達は外にいるからね。音声通信するなら先ずは制御ルームに連絡が来てからじゃないと。』
『そう言えば制御ルームには誰がいるんでござるか?米国チームも喜び勇んで各セクションに走っていったでござるが。』
『えっ?藤くんのbotは?』
『拙者は嫁達でいっぱいいっぱいでござるよ。流石に成層圏で目隠し制御するのは難しいでござる。特に飛行ユニットを直接搭載している分、内側にいる拙者と外にいる嫁達とは一定の距離を取る必要があるでござるし。』
『・・・、もしかして一方的に記録用音声拾われてない?』
『なぬ!なら、この熱いアニソンも世界に放送されているのでござるか!月は・・・、月は出ているか?』
『月どころか成層圏だから雲もなくて水星も見えるよ。なんなら木星帰りのスィーパーとかになってみる?』
『どう考えても拙者は宇宙ネズミ辺りが限界でござるな。』
『止まるんじゃねーぞっと、それよりも管制室に向かおう。』
ぐだぐだと言うかなんというか、余裕のある撮影風景に見えるが既にそこは成層圏。宇宙に近い所でされる漫才風の何かは非現実的で撮影している藤の嫁達も顔は剥き出しなので、より非現実感が出て来て下手したら映画の撮影と思われるかも。
「大変お見苦しい映像を・・・。」
「いいじゃないですか田辺理事。それだけ安定した飛行を実現しつつ何の憂いもないと言う事なんですから。」




