537話 根回しは十分 挿絵あり
「もしもし莉菜?」
「もしもし司?もう夜だけどまだ仕事終わらなさそう?香織も今日は定時に帰るって聞いてたのに帰ってこないからトラブルを心配してたわよ?」
「そのトラブルがあったっぽいからこれからゲートを進むよ。」
「えっ!?大丈夫なの?また何か変な事に巻き込まれてない?いやよ?また宇宙に行って今度は帰ってこなくなるとか。」
「それは大丈夫だと思いたい・・・。」
思いたいけどどうなんだ?ガーディアンって外に出る機能があったよな?確かそれは停止させたけどソーツが弄ってどうなってるやら。それに停止させたとは言え機能そのものがなくなったわけでもないし・・・。
「ちゃんと帰ってきてよ?司が強いのは知ってるけど、いくら強くても無理なものは無理なんだからね?」
「分かってるよ。それは今回はと言うか、今回も1人で進むわけじゃない。時間はかかるかもしれないけど必ず帰る。まぁ、もしかしたら行ってすぐに帰れるかもしれないしね。カオリにもトラブル対応でギルドを開けるって伝えておいてほしい。業務的には急を要するものはなかったはずだ。」
「わかったわ、無茶しないでね。」
先ずは1人目。これで家とギルドは大丈夫かな?後から再度PC漁って面倒な業務は潰せるだけ潰そう。流石に電話と言うか言伝1つで押し付けるのも悪いし、職員採用の件も2次試験をやる課はやるからなぁ。そんな事を考えながら次は夏目へ。流石に出ないと言う事はないが多少準備時間は必要かも。なにせ食料やらが足りないと肉の補てんが出来ないし。
「もしもし夏目さん?」
「もしもしクロエですか。出発準備なら出来てますよ?」
「おぉ!もしかして電話来るって思ってました?」
「いえ、スィーパーならゲートを出たらすぐにまた潜れる様に準備しますからね。かなりの量の馬も用意しましたし、残る問題はギルドが立ち上がったばかりなので副長だけでは処理能力的に多少問題があるくらいでしょうか?」
「ふむ・・・、ならフットワークの軽い人にお願いしましょう。どうせあの人にも連絡取らないといけないですからね。合流は統合基地でしましょう、ではまた。」
「ええ、買い忘れがないか確認しながら待つとします。ところでフットワークの軽い人とは?」
「増田さんですよ。あの人なら東京ギルドで雄二を手伝った経験もありますからね。多少の事ではびくともしません。それに、必要なら橘さんとかも呼ぶでしょうし。」
ありがたい事に夏目は行く準備を完了していた。いや、スィーパーなら指輪に物が詰め込める分行こうと思えば24時間365日何時でも潜れるのか。隙と言うならゲート退出後とか?流石に補給しないと消耗品は足りなくなるが、最悪食うだけ飲むだけならセーフスペースの乗り物でも草でも水箱でもいい。
長期滞在準備と言えば聞こえはいいが、ターザンよろしく腰蓑か全裸が許容出来るなら実質外に出る必要はない。捨てるのは羞恥心だがそもそも稀にしか人には出会わないし、奥に行けば行くほどその確率も下がり続ける。家の中で裸族の人はゲートの中を家と思えば割と大丈夫なのだろうか?開放感は半端ないと思うが・・・。いや、すでにそれだと新しい部族的な?或いは仙人とか?
戦闘力と知性は同等が基本だが、そこに羞恥心は必要ないんだよなぁ・・・。例えばフリーザ様は服を着てない。初期の頃は戦闘服を着ていたが最終形態は真っ裸である。しかし、そこに羞恥心はない。人として生きるなら必要だと思うが、別の目的があるならそれさえも捨てられるのだろうか?少なくとも俺は捨てられないな。
「もしもし増田さん?ご無沙汰してます。クロエです、今大丈夫ですか?」
「もしもし、大丈夫と言えば大丈夫ですがどうされました?何か緊急事態ですか?」
「人をトラブルメーカーみたいに言わないでもらえます?まぁ、そのトラブルがやってきたんですが・・・。」
「そのトラブルとは?」
「私も全容は把握出来ていませんがゲート絡みで終わったと思っていたモノが爆縮しそうだと言う報告を受けまして・・・、端的に言えばガーディアンがゲート内でヤバくなってるらしいです。」
「それは・・・、被害想定は不明であると?」
「不明です。最悪を想定するなら1つ目はスタンピードの即時発生。2つ目は祭壇捜索の無期限延期、3つ目は地球崩壊ですね。」
「は?いや、えっ!地球崩壊ですか?」
「最悪を想定した場合そうなります。ゲートがゲート内で壊れた場合、そのエネルギーを放出する手段としてゲートから外に出す可能性があります。言ってしまえばスタンピードはゲート内にモンスターが溜まって容量オーバーを迎えたから外に出す。推測で話すならゲート内のエネルギー容量が増せばそれを放出する為に・・・。」
「そのエネルギー物体を外に出す、と?止める手立ては?」
「あるそうなので今から止めに向かいます。逼迫した感じはそこまでしないですが、かと言って悠長に構える訳にもいかない。映像に残せない極秘ミッションとなりますが、行くのは私、夏目さん、青山です。そのミッション中に夏目さん所のギルドの面倒を見ておいて下さい。」
「地球が終わるかもしれないのにですか?」
「地球が終わるかもしれないからですよ。ひっそりと事が終われば何事もない日々が続きます。その日々を送る為に今出来る事は日常を続ける事です。定時連絡は行います。」
「分かりましたし・・・、久々に胃の痛い話ですね・・・。この話は他国と共有しても?」
「いえ、私の秘密は暴露されたでしょう?連絡するまでは待って欲しい。」
他国と情報共有したとしてどうなるのか?中層を越えた先にあるだろうガーディアンまでたどり着くにはそれだけの実力が必要になるし、出来る事と言えばモンスターを倒しつつ日常を送ってもらうくらい。独り善がりと思われようと、みんなで力を合わせればどうにかなると言う問題でもない。スィーパーとは全体主義であると同時に超絶実力主義の個人主義者。
協力は出来ても実力が足りなければ置いていかれる。そして、実力があるからこそ他者を教育も出来る。青山の到達階層はまだ中層にも入っていないが、それを差し引いても最速で進む必要があるな・・・。あまり使いたくないが扇動する者も惹きつける者も魔性の女も、それこそ産み出す者も使って・・・、足りなければ更に魔女を理解して進むとしよう。
「奉公する者・・・、兵は拙速を尊ぶ。私が先行するからついてこい。」
「いえいえ、それはあんまりです。吾が行く道を切り開き・・・。」
「遅い、戯言が多い、奉公すると言うなら判断に従え。今はお前が持ってきた有用な言伝を元に最速を目指す。すぐに爆縮する訳でないにしても時間は有限だ。青山の身体には物理的な限界もある。」
「・・・、従いましょうぞ。」
御託も戯言もいらない。長々と話すから背後を取られる。それが敵意のない行動だとしても後ろを取った事実は変わらない。奉公する者としては苦虫を噛み潰した様な顔で返してくるが、ガーディアンがどうなってるかは分からないんだよな・・・。
少なくともガーディアンに指示を出さなければこんな事にはならなかった。奉公する者が青山でなければ話は舞い込まなかった。まぁ、その場合青山じゃない誰かが知らない間に止めに行って死んでいたかもしれないし、ゲートが変調をきたした後に対応する事になったかもしれない。なんにせよ話は来たしやる事は決まった。取り敢えずは見に行く、そして考える。そうでなければ何も始まらない。
(賢者、時間想定は可能か?製作者としての意見が欲しい。)
(う〜ん・・・、多分不時着していると考えて周囲のゴミがどれだけ攻勢に出てるかだね。階層的には良くも悪くもいきなり壊される事はないし、急激に変化することもないと思う。ただし、セーフスペースでクリスタルを発見した事があっただろう?修復機能が停止している関係上、アレを代用エネルギーとして取り込んでる可能性もある。)
(修復機能が止まったのにエネルギーが必要なのか?使えない兵装が増えればそれだけ他にエネルギーが回せそうなものだが。)
(アレには自己回復、自己生成、自己保全機能がある。壊れるまで通常兵器で戦うとして、壊れたら新たな物を生成するエネルギーは必要だろう?自己の保全として壊れるまで戦う。戦う為には戦う兵器を生成する必要がある。回復出来ない分、それを補う何かをね。)
(それって普通のガーディアンより強くなってない?)
私は後3回変身を残している!ではないが、壊されて新しく作ってまた壊されたは新しく作ってを繰り返してるんだよな?輸送機の様なコアがあるかは知らないが、仮にアレと似た様な物があればどんどん攻撃的になっていく様な・・・。ヤバい、爆縮もヤバいけどガーディアンに近寄れるかがヤバい。
(強くても僕がいる。ガーディアンの停止は僕が責任を持とう。なに、魔女が出ない分僕が遊ぶさ。)
(割とこの星の命運がかかってるんだけど大丈夫か?)
(さぁ?でもどこの白もそうだけど滅びは一瞬でなにが原因か知る暇もない。君達の世界の創作物みたいに限界が来て大地が割れてなんで言う過程を踏めるのは本当に寿命が来た時だけどね。大体はそれを迎える前に外に出るか出る前に滅ぶかだけど。)
(悪いが滅んでもらっては困る。未来永劫とは言わないが少なくとも後100年くらいは平穏な明日が欲しい。)
(そんな一瞬でよければまぁ、どうにか?外に出る手段もあるし石が飛んできたくらいならやりようはあるでしょ?)
確かNASAがやって論文も出してたな、衛星をぶつけて小惑星の軌道をずらすの。小惑星に取り付いて穴掘るよりは安全だが、地上からしようとすればどれだけリスクがあるか・・・。確かその時は衛星だけで爆弾は積んでいなかったと思うが、当たる角度の問題だな。端っこに当たればスピンして別方向に飛んでいくだろうし、距離があればあるだけ1度でも角度が変われば大きくそれる。問題は発見するまでの距離だな。
どんなに大きくても発見出来なければ意味はないし、デッドラインを超えての発見なら取れる手段はかぎられてくる。そう考えると宇宙開発も悪い事ばかりではないか。そんな事を思いながら統合基地へ向かい夏目と合流して早着替えでゴスロリ着て青山の最高到達階層へ。着たくもないが一応コレが最高ランクの防御力なんだよね・・・。モンスターに破かれたりするけどさ。
武術家を探しに行かせたのが吉と出たのか48階層が最高到達階層で、そこから夏目にも伝えた様に最高速度でひた走る。青山も夏目も速くない訳では無いが、こう言う時こそバイトに手伝わせよう。ただ、奉公する者がバイトを見る目が何処か恨みがましいし、バイトはバイトで更に縮こまっている様な・・・。
「これは楽ですね。ただ、楽過ぎて何1つ得るものもないと言う・・・。」
「吾は道をちゃんと示しているぞ?みょうちくりんな作りで無駄が多いが原生生物の程度を考えれば仕方ないか。」
「え〜と、青山でいいかい?みょうちくりんとは?一応私も賢者と言う存在がいる事は知っているけど、それと似た様なモノだよね?」
「比べるにはおこがましく、似た様なモノかと言われれば尺度が違いすぎる。吾は賢者よりも格段に下である。」
「それって認めてしまっていいのかい?上に上がれなくなると思うけど。」
「事実を受け止められぬ程の馬鹿ではない。そもそも原生生物は・・・、夏目とか言ったか?事実を認めずになにを認める?感情とか言うノイズはエネルギーとしてはいいが、それに振り回されては愚かであろう?」
「それでも人は感情で動くものだよ。事実だけを追い求めたらそれは機械と変わらないと私は思うが?」
「なぜ事実を追い求める?事実は勝手にやって来て抗うすべはない。例えばクロエがいると言う事実を否定してもクロエは前を走っている。嘆かわしい・・・、吾が先を走り道を作り奉公したいがコレの身体はクロエには敵わない。だから、吾はコレの背に乗り質問に回答している。」
「その嘆かわしいと思うのは感情じゃないの?」
「そうだが?そしてエネルギーでありそれを示す形である。認める事と否定する事は違うぞ?下であると言う事実と何かをしたいと言う事実は同じではない。それがイコールなら下位は中位へ至れないだろう?弱い自分を認め進む先を目指し、エネルギーを爆発させて高みへ飛ぶ。その高みがどれだけの高さでどれだけのエネルギーが必要かは本人しか分からん。」
「なんと言うか・・・、思ったよりもまとも?」
「吾はまともだ!まともでないならあの御方に奉公する事が出来ないであろう!」
(クロエ、これはまともか?)
(言うなバイト・・・。多分私が話せば頭の痛い事態になる。いいか?コイツの外面の良さと言うか対外的な評価が高い理由は主人をよく見せようと言う行動だ。素晴らしい下僕がいたとして、それが仕える主人はさらに素晴らしいと思うだろ?だからこそ、主人以外には分をわきまえる。)
分をわきまえるが多分平気で不利益と感じたら切り捨てるし、一般論は話しても本心は語らない。語る相手は奉公する先の人物で清濁飲み込んだ上で何があろうと多分笑っている。それこそ、誰かに裏切りモノと言われようと魔女の為なら笑って受け入れるし、逆に魔女を褒めて取り入ろうとしても不利益だと感じたらぶち殺す。操縦が難しいな・・・。
少なくとも夏目は同行者でガーディアンの場所に詳しいと言う有用性があるから話すし、場合によっては守りもする。ただ、それはガーディアン発見までの有用性であって発見した後に夏目が危機的な状況になったとしても多分助けない。優先順位を付けるなら俺、自分、夏目だろう。
「しかし鬱陶しい!」
奉公する者が示す方向に高い土壁を作って一気に進むが、流石に壁に気付いたモンスターがちらほら乗り越えてきているし、飛んでいる奴は追走してきている。壁そのものは地を歩くモンスターの足止めにと後ろから折り畳む様に倒しているので生き埋めになっているが、本当なら全て潰してクリスタルを回収したい。でも、地中にクリスタルが残るとスタンピードの要因にもなりそうだしな・・・。
「かなり壁を乗り越えて来てるぞ?」
「見えてるさ、ちょいと派手にいく!」
キセルをプカリ。出す煙は赤。両脇からモンスターが飛び出してくる?後ろはどんどん倒壊してくる?ならばイメージするならこれしかないだろう。幸い後ろに付いてくる人達もいるんだし。
「進め!進め!戦火の道を!走れ!走れ!武勲を求め!我らが進軍するは最果ての地オケアノス!まだ見ぬ先へ!願いの場所へ!脇目も振らず、ただ一直線!」
数は出せるんだよ数は。流石にこの辺りでただの犬を出しても仕方ないが、チャリオットならどうだ!犬に引かれ爆走する火をまとったチャリオット。壁も走れば空のモンスターだって駆けて倒しに行く。なにせ求めさせたのは武勲だ。魔性の女として武勲を求めたのだ。なら、戦士はそれを拒否は出来ないだろう?
「おぉ・・・、クロエはちゃんとやれているな。」
「ちゃんとやれている?確かにすごい魔法ですけど・・・。」
「違う。これは児戯だ。Extraとはそれしか適性がない。故に説明も何も無い。研鑽せずして適性でExtraとなれば元から扱いも分かるだろうが、その両方がないExtraは何をしていいかも分からぬな。だが、クロエはそれを使えている。あの御方の・・・、吾が主の一端を使えている。」
「これで一端・・・。」
「うむ。十全に使えればこの程度のゴミなど視界に入っただけで狂うぞ?」




