閑話 105話 とある巻き込まれた帰還者の話@3
「先達の言うように地球は青かった!!」
頭の痛い話だがジョーンズの叫びが聞こえる。えっ?ここって推定未来だけどそのセリフ残ってるの?と、言うかわざわざ館内通信?を通して叫ばないで欲しい。今リリとシリアスやってるんだからさ・・・。
「俺は・・・、地球人で地球育ち。とある事情であの荒野にいたけど、それを話して信じてもらえるかは・・・。」
「あっ、別に言いたくないなら言わなくていいよ。犯罪者として登録してあるなら別だけどギルドのデータベースに榊の名前はなかったし、ミミが見ても指輪はないみたいだしね。謝りはしないけどこれ返しとく。」
ズイッとリリが差し出したのは俺のポーチ。みんな憧れのアイテムボックスだけど、こうも簡単に返されるとなんだが複雑な気分になる。複雑な気分になるけど一応確認はしておかないとまずいよな?藪蛇の可能性もあるし俺の事を特に詮索もせずに言いたくないなら言わなくていと言われたけど、それはカマかけでこのポーチの事を自分から話す様に仕向けられて・・・。
「そのポーチも出土品?指輪ないならそこそこいいものなんだろうけど、そんなもの使うよりさっさとゲートに入った方・・・、そっかまだ歳が足りないから職には付けないのか・・・。どうも600年以上前の事となると感覚が希薄になるのよねぇ〜。」
「えっ、いや・・・、その・・・、年齢は本当に600歳を超えてるのか?その、俺の感覚としては人は100歳くらいまでしか生きられないはずなんどけど・・・。」
「それは正解でもあるし間違いでもあるよ?自然主義と言うかナチュラリストとかは寿命延ばす薬は使わずに自然な生死を尊重して長くても150歳くらいで死ぬし、逆にやりたい事がある人は薬で寿命を延ばす。不老とか不死の薬もあるけど上手く使わないと悲劇しかないらしいから、人気ではあるけど買ってから踏ん切りつかない人はそこそこいるみたい。」
「寿命が買える・・・、まさか原材料が人って事はないだろうな!」
カビと戦う中で侵された人が犯した禁忌。腐り落ちる前の早い段階でその部分を切除し他者からその部分を貰う。言ってしまえば移植手術だがその移植するモノは生命エネルギーと言うか、寿命と言うかエナジーと言うか・・・、そんな不確定なモノも出来ていた。特にカビを嫌った者達が儀式として長を生かすために行っていたと記憶している。
俺が見た時は先代の長から次の長への移植だった。この時はカビに侵された訳ではなく、知識の引き継ぎとして脳の半分を取り替えた後に少ないであろう寿命を渡し先代は息を引き取った。そして、彼等は言ったのだ。長を生き残らせる為なら私達は命を差し出すと。
それが彼等の宗教としてあるものだから俺は口出し出来なかったが、回りがそういった時の新たな長の顔は忘れられない。そして、リリは寿命を買うと言った。なら、その寿命の材料は何だ?何をどう考えても人か・・・、他の動物しか思い浮かばない。他の動物ならいいと言うわけではないけど、セオリーを考えると人は人の寿命しかもらえないんじゃないか?
いや!ミミの事を考えると他の動物から寿命を貰う事をよしとするなら亜人になる?ダメだ・・・、寝落ちしたせいでその辺りの情報はまだ調べられていない。
「材料なんて知らないけど報酬だから人じゃないんじゃない?原理としてはテロメアの延長だし、薬なくても長生きな人は長生きだよ?クロエちゃんは1100歳は超えてるし、高槻ファウンデーション代表の藤さんもそれくらいで他は夏目さんとかスレイシスさんとか。何にしても人生を楽しみたい人はその楽しむ分仕事しないといけないから、いくら寿命が延びても死ぬ時は死ぬんだけどね。と、言うか榊は地球出身なら寝る前に言ってよ。流石に2日間寝続けるとは思わないし。」
「それは・・・、ごめん。でも起こしてくれればいいだろ?」
「いや、エナドリ飲んで寝続けるって逆に起こしたらいけない事案と言うか・・・。」
『リリ〜、到着は日本でいいんだよね〜?』
「いいよ〜。面会手続きは済ましてる。」
リリが何も無い宙に向かい話す。多分誰かと話しているのだろうけど、どうやら面会手続きは済んでいるらしい。そして、あのエナドリと言う物は強壮薬的なモノも含まれているのかな?確かに飲んですぐに疲れは吹っ飛んだけど、精神的な疲れは抜けずに丸々寝込んでしまった。そう・・・、あの世界では安眠する事なんてなくて何時も座って眠り手元には剣と杖があった。その眠りさえも意識は常に研ぎ澄まして完全に堕ちる事はなかった様に思う。
堕ちてしまえば最後、何時カビに侵されるか分からない。安全な所と言われた街から旅をして次の街に着いた時に、その安全だったはずの街がなくなったと言う知らせを受けた事は少なくない。俺には出来る事は本当に少なくて、見える範囲でしか助ける事は出来ない。そう割り切るまでに青臭さは抜けて大人になったんだと思う。本当ならジョーンズ達に全てを話した上で助けを求めるのが正解かもしれないけど、それが本当かも分からない。彼等は多分いい人達なんだろが、そのいい人が誰にとってのいい人かはわからないのだから。
そして、俺の事を話せば大なり小なり面倒事にジョーンズ達を巻き込むことになる。それは強いとか弱いとかではなく彼等の目的と何も無い俺の行く先が交わるかも分からないから疫病神になるのはごめんだ。まぁ、現状巻き込んでしまっていると言えば巻き込んでしまっているわけだけど・・・。
窓の外に目を向けると、だんだんと光の中に降りていく光景が見える。俺の想像では高温の中を物凄いスピードで地球に落ちて行き、最後はパラシュートで海に不時着すると言う流れだと思っていたけど、その予想は外れただひたすらに静かで境界線の上を進んでいる様な気分だ。
「昔この光景を見て煉獄と言った人がいた。その人にどっちが天国でどっちが地獄か聞いたけど最後まで答えは聞けなかった。榊はどっちだと思う?」
「多分どちらも地獄でどちらも天国。俺はまだ何も知らないガキで、知った頃には罪にまみれてるかもしれないし、何かいい事をしているかもしれない。だからまだ答えは持ってない。」
「ふ〜ん・・・、若い割に変に達観してるね。そうそう、そのままギルド直行で。」
「えっ?離発着場所とかは!?」
「なに?遺跡に興味あるの?コロニーフルメンテでも地球に降りることはほぼないし、行ってもが台しかないよ?」
「いや、コレ宇宙船なんだろ?どこかに降りて陸路を進んだりとか・・・。」
「そんな非効率な事したいの?悪いけどこのまま飛行してギルド前まで行くよ。」
この人達にとって駐車スペースとか荷物とかの概念はどうなってるんだろ?あのダイヤにしてもそうだ。急に現れては消えた特大と言う言葉が可愛く思える代物は、いつの間にか消えていた。と、言う事はこの船も消せる?
そんな事を思いリリに聞くと黒い指輪はkm単位の物までは収納出来るらしいし。俺のポーチが可愛く見える高性能品、そんなものがあるなら俺のポーチはほぼ無価値な品だろう。久々の地球、日本は空から見た限りでは木々が生い茂りかなり緑が多い。ビルなんかにもツタが這っているけど不思議とボロボロと言う印象はない。
「アレがギルドだよ。」
「アレが・・・。」
操縦スペースには最後まで連れて行ってもらえなかったが、それは仕方ない。俺はストレンジャーでリリ達からすれば不審人物だ。見えたギルドは東京ドームの様に巨大で、降り立ってみればコスプレパーティー統一感のない服装と猫耳犬耳に尻尾・・・。
「何ほうけてんだ?いくぞ?」
「あ、あぁ。わかったジョーンズ・・・。その、ミミ聞いていいか?その耳と尻尾は・・・。」
「ん〜、猫人は猫だからあるよ?犬人は犬だからあるよ〜。獣人は隣人だから丁寧に扱うがいい。」




