531話 有益な情報
不本意ながら、誠に不本意いながら・・・、人の欲求と言うのは中々に抗えない。1人の人間が生きるとして三大欲求には何時もお世話になっている。まぁ、お世話にならないと死滅してしまうから仕方ないと言えば仕方ないのだが・・・。それはさておき青山である。望田の言う事はどこを取っても否定しづらい。
現状で言うなら役に立ちたいと言う気持ちを変に捻じ曲げるよりも、方向性を持たせて有効活用すると言うなら一緒にゲートを旅するのが得策だろう。ただ、そのゲートの中でモンスターを狩らせて見守るだけと言うのはなんと言うか申し訳ない。
・・・、魔女が奉公する者を邪魔とか面倒と言うのはもしかして自身の取り分が減るのを嫌うから?今まで魔女と付き合って来て思ったが魔女はどちらかと言えば自分で動きたいタイプである。まぁ、暇で暇で仕方ないと言うならゴロゴロするよりは動き回る方が確かに面白みはある。そして、何か面白いものを見つけたとして横から『俺がやってやるよ!』と横取りされたら確かに面倒だ。
例えるならあれかな?BBQする時に火起こししてて横から掻っ攫われたり、自分の好きな焼き加減で肉焼いてる時に『それもういいから!焼き過ぎて固くなるから!』と言われても皿に入れられるとか?俺は柔らかい肉より硬い肉かレアな肉が好きなのでただ柔らかい肉を出されてもあまり好まない。そんな青山を一旦解放してデスクワークを再開しながら考えるが、流石に青山を中層に特攻させるのはなしにしてもどの辺りを旅するかだな。
ネット調べでは上層や中層と言う言葉はそれなりに定着して50階層を超える事を目標に掲げる国は多い。コレはスィーパーと国の思惑が合致しているとも取れる状態で、国としては更なる素材や出土品の獲得。特に話題の不老と不死の不死が出土したのが49階層と言うちょうど上層と中層の狭間である。狭間と言う事は少なくとも45階層を超えて中層に入れば獲得率が上昇するのでは?と国際会議で表面上は興味なさそうだった国も・・・、厳密には権力者とブルジョアが動いている様だ。
因みに不死を見つけたのはケニア人で、今はケニアのゲートから入れば多少なりとも発見確率が上がるのでは?と言う験担ぎ組でかなり賑わっているらしい。そして、不死を発見した人はその薬をどうしたかと言うとオークションに流すと宣言し値を釣り上げる気満々なご様子。賢明な判断だと思うよ?
少なくともここでスィーパーを引退しても遊んで暮らせるだろうし、面白半分で初期の入札は多いだろうし、何よりチームで潜っていたとしても十分に山分け出来るだけの金にはなるだろう。死なないと言う事は裏を返せばその後も生きる為に何らかの方法で働く必要が出てくる。多少若返りを飲んだとしても死ぬ事が出来るならその憂いもなく笑っていられる。
まぁ、その辺りは個人の考えなので何とも言えないが、少なくとも売ると言った本人は強奪や襲撃、勝手な交渉を嫌がりゲートに潜んでいる様だ。実際潜伏するのにゲート内セーフスペースは都合がいい。どの階層のセーフスペースでも野宿しても風邪は引かないし、引きこもって外部からの接触を抑えられれば裏切り者も産みづらい。
「不死出たんですね。また中国辺りが動きそうな・・・。」
「うちに関わらないなら好きにすればいいよ。少なくとも中層付近まで行けるスィーパー相手に普通の襲撃者を差し向けても返り討ちに合うだけだし、ゲートに潜伏してるならどこにいるか見つけるのはかなり難しい。」
「セーフスペース虱潰し作戦はかなり厳しいですからね。余程明確な目標でもないと馬とかも連れて行ってくれないですし。ワンチャンあるとすれば不死薬の持ち主の所に連れてけとかですかね?」
「それも厳しいんじゃない?普通指輪に入れてるし下手に奪い合って薬の瓶を叩き割られたり本人が飲んでも事だしね。国が動いて司法取引なんて話にでもなれば荒れそうだけど・・・、それはもう裏の世界の話だよ。」
そう、裏の世界の話。実際俺も身柄欲しさに家族ごと移住しないかとも言われた事があるし、妻になれば税金等を一切免除して暮らして良いと言う話もあったし、何より酷かったのはゲートを進む見返りに全ての法的処罰を無くし一般人としての権利を渡すと言うのもあった。
最後のは早い話が殺人しょうが無罪で自由に生きていい。その代わりゲートに潜って多少指定した出土品を融通して欲しいと言う話だったが、何が悲しくて今も一般人の俺が変な縛りプレーを強いられにゃならん。これが死刑囚とかなら一考の余地があるかもしれないが、残念な事に俺はスタートはそのへんのおっさんだよ。
「しかし、今回いくらくらいになると思います?」
「取引例を最低価格にすればいくらで。オークションに出品する方もお金が欲しいから最低価格をコレにしたって言えば他の人は反論出来ないしね。」
「そう考えると取引自体の混乱は少ないですね。買った人はコレで人を超越したーーー!!って叫ぶと思います?」
「叫んでもいいけど最終到達地点は労働者だよ?別に死なないからと言って腹が空かないわけでも眠らないわけでも、それこそ疲れないわけでもない。スレイシスさんだっけ?あの人の映画DVD買ってメイキングシーン見たけどまぁ不便そうよ?」
「そんなに不便そうなんですか?私見てませんけど貸してもらえます?」
「いいよ〜。職には就いてないみたいだから常人の不死者って括りになるんだろうけど、すぐに疲れるしそれを意識的に無視して動けば倒れるし、銃で撃たれて死なない代わりに血が抜ければ白くもなるし痛みもある。不思議なのは大量出血しても覚醒状態は続いてるみたいだから直ぐに治せと喚いてた。」
死相とでも言えばいいのか、顔面蒼白で瞳孔も開いて撃たれたのが心臓だからか相当に血も出ていたが元気に喚いていた。回復薬でも職でも回復するし、種類選ばず輸血も出来る。ある意味ゾンビっぽいが本人的には笑顔で映画撮影をしていたのでいいのだろう。
むしろ、これって映画撮影と言う名の不死薬摂取者人体実験だったりして・・・。まぁ、死なないと言うだけで権力者としてはかなりストレスから解放されるんじゃないかな?何にせよ不死が出たなら次は不老となるのだろうが、夏目が不老を探し当てたのもこの辺りの階層なんじゃなかろうか?
詳しい話を聞けばガーディアンに持っていかれた腕を操作して持ってきたと言う力技だが、夏目の感覚としてもやはり中層付近で見つけたと言う感覚が強い様だし間違いはないだろう。いや、もしかして・・・。
「もしもし、夏目さん?」
「はい、貴女の夏目ですがどうしました?なにかギルドで問題でもでましたか?」
「いえ、こちらは順調にですけど聞きたい事があって。ガーディアンってどの辺りに墜落したか知りません?」
「ガーディアンですか・・・、流石に目はなかったので感覚だけと成りますが60階層付近だと思います。探しに行かれるんですか?それなら私もお供しますが。」
「ふむ・・・。」
変わり映えしない白い密林だが空から見れば何かしらの目印とかあるかな?何時も単独で潜っている様だし来てくれると言うならありがたい。問題はまだ誰もそこまで歩みを進めていない事か。ガーディアン確保はそこまで急ぎでもないが回収出来るなら回収しておきたいんだよなぁ〜。アレ回復とかしてたし。ボスが回復とかゲームでもイラッとするが、普通に回復と言うか修復出来る機能があるなら母艦だろうと兵器だろうと搭載するから仕方ない。
そもそもこれから宇宙に上がる予定のラボとかに修復装置が積めるなら積みたいし、輸送機を見る限りかなり高性能だと思う。ガーディアンが同一方式かは知らないが、少なくとも賢者が作ったガーディアンなら例え持ち出すにしてもソーツの重大なエラーに抵触することはないだろう。
「お願いできますか?」
「いいですよ。ただ、感覚でしかとらえていないので確実には分かりません。」
「目印的なものとかありました?どこもかしこも木ばかりですけど。」
「強いて言うなら大樹はあったと思います。配信で見た木よりなお太くガーディアンはその木に多分激突してたと思います。結構衝撃があったような気がしましたから。」
「おぉ~、有益な情報ですね。なら、取り敢えず大樹を探せば墜落したか爆散したガーディアンの破片ないしパーツが見つけられそうですね。」




