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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 104 とある巻き込まれた帰還者の話@2 挿絵あり

「ミミ、ここの近くってぇとどこになる?」


「火星軌道周辺?それともノン軌道コロニー?ギルドはどこにでもあるけど美味しいもの食べたいなら酪農支援全般コロニーがな?」


「ミミちゃん美味しいモノは後回し。高槻ファウンデーションは?あそこなら面白いものも見れるし、クロエちゃんいる確率はそこそこ高いよ?」


「そら確率は高いんだろうけどなぁ〜・・・、ギルドにアクセスするか。今は引退期じゃないよな?」


「引退期?そんな物があるのかそのクロエって人には。」


「そりゃあ毎日仕事してたらやる気なくすだろ?交渉季には引退期でも顔を出すらしいけど、それ以外だと引退期なら『われ一般人ぞ!』って言って逃げるらしい。それもどのコロニーにでもフリーパスで。後・・・、スィーパーじゃないならいいか。」


「?」


「慣わしと言うか昔からと言うか・・・、下位のスィーパーは他人行儀にファーストさんって呼ぶの。中位に至ればクロエさん。仲良ければいいし、本人もなんとも思ってないけど礼儀に厳しい人でもあるからそうなんじゃないかな?まっ!私は会った時からクロエちゃんって呼んでるけどね!」


「そりゃぁお前さんが出会った時に上位だったからだろ?あ〜、やっぱ上位に至りてぇなぁ〜。」


「ダーリンは中位の先にどう踏み出すかだからね〜。で、そう言えばあんたなんて名前?」


「えっと・・・榊、榊 真司です。」


 全く分からない。下位とか上位とかそもそもスィーパーってなに?クロエと言う人は気難しいのかそれとも自由人なのかもよくわからない。季節で引退するならそのまま引退してても問題ないんじゃないかな?


「勝手に引退して逃げる人にわざわざ探してまで会う必要性はあるのか?」


「あ〜、言っとくがグランドマスター業務は過酷でクロエさん以外が出来る期間は短いし、何より彼女が色々とツテやコネで円滑化してる部分もある。」


「確かに引退して何年か経つと途端にギルドもコロニーもスィーパーもギスギスし出す時期が出て来るよね。こう・・・、気が抜けると言うか構って欲しくなるというか・・・。なんかとっても不思議なんだけどさ。まぁ、本人の職が職だから当然かな?」


「歴史上唯一だからな。Extra自体は生まれたらしいけど・・・、その辺りは先生じゃないとわからねぇな。いや、先生か。」


「林君?まだ歴史研究してるの?まぁ本業でもあるんだろうけど彼も好きだよねぇ。研究って言うよりもある意味探偵業みたいなもんなんだろうけどさ。」


 歴史研究が探偵業?確かに歴史に隠された真実を追うなら間違いはないと思うけどまるっきりの探偵業かと言われたら違うと思う。いや、しかし・・・。さっきの西暦とゲート?とか言う分からない単語を考えると・・・、でもそんな未来に・・・。


「とりま頭痛は?」


「頭痛・・・、今は特に。頭痛薬を飲ませてくれたのか?それに顔の痛みもなくなってる。」


「回復薬知らない?ダーリンがスキャンするって言うからミミちゃんがしたけど外傷を言うなら2度と3度の火傷。宇宙線汚染に一部脳へのダメージに他は・・・、そう言えばこの船刻印はあるけどコーティングは?」


「ないな・・・、一気にヤバくなる事はないが、ほら。榊は取り敢えず定期的にエナドリ飲んどけ。それでチャラに出来る。そうなると行き先は1番近い所がいいが、既にさっきのコロニーからは結構離れたからなぁ・・・。」


「地球か高槻ファウンデーションか月だぁ〜よ。ファウンデーションはギルド経由で申請して許可がいるけど、リリがいるならどうにか?」


「どうにかかなぁ〜。私達はいいけど榊がどう判定されるかは分かんない。まぁ、最悪ギルドに直接行ければどうにかなるとは思うけど・・・。」


「その〜・・・、ギルドって警察みたいな?」


 異世界を旅した時もギルドと言うか戦う者を支援する組織は有った。あの世界では武装戦線と言い戦う人間を集める事がメインの組織で、そこに属していれば死後も戦士の列に加わる事が出来た。そう、戦士の列。俺は戦死の列と・・・、自身を削り寿命を削りそれでも、その世界を守ると言う志を持った人達の生き方は刹那的だとしても素直に尊いと思った。


 例え死後が明るいとは限らず、世界がカビにまみれ終わりを迎えるかもしれないけど、それでも抗うと決めて立ち上がりその身を捧げて生きる彼等の為に俺もあの剣を振るったのだ。そう、振るって振るい続けて勝ち女神と・・・。女神と何か話した様な・・・。そう言えばミミもリリもジョーンズも日本人では無いけどなんで日本語話してるんだろ?


 口を開いた後に辺りを見回すとどこの表記も日本語だ。一部英語の部分もあるけど大部分は慣れ親しんだ漢字やカタカナ、ローマ字で表記されている。ジョーンズの名字・・・、でいいと思う如月も多分日本語の如月だろう。もしかすると完全に黒人の見た目でありながらハーフとか?


 でも、容姿や年齢を言うと怒りそうだしミミの耳と尻尾は作り物ではなく本物の様に動いているし・・・。えっ?今更ながらに思うけどミミって何者?人間っぽいけどあからさまに獣の要素が入ってるんだけど!?


「警察・・・、まぁ、警察と言えば警察だが・・・。ギルドの全容なんてそれこそ職員くらいしか知らないんじゃないか?なぁリリ。」


「後から後から業務が増えたからねぇ〜。私が生まれた時は既に統合政府とかと提携してたよ。まぁ『ギルドは絶対にトップにはしない。やめた後にトップにするならしていいけど、そうしたら私は戻らない。』って論争しまくってたからねぇ。」


「俺はギルドが統合政府の代わりになってもいいと思うんだがなぁ〜。」


「それはダメだよジョーンズ。ギルドが働きすぎると不真面目な人が増える。確かにギルドトップ説は昔からあるけど、政治に暴力が付け加えられると面倒になる。」


「そんなもんかミミ。まぁ、取り敢えず大規模支援組織とでも覚えとけ。困ったらギルド。何かあったらギルド。犯罪者でもない限りギルドは色々助けてくれる。その代わり犯罪者には断罪以外ない。」


「断罪って、そんな一方的に罪を判断できないだろ?」


「いや、ギルドでの犯罪判断は絶対だ。特に執行官が協力要請してくるならスィーパーは出来るだけ協力する。」


 洗脳?罪を簡単に判断して処断する方法がある?凄むジョーンズに頷く2人・・・。犯罪って何をしたら犯罪?盗みや暴力は犯罪だと思うけど何をしたらどれだけヤバい?そもそも執行官ってどんな人?溢れる疑問が渦巻く中『ぐぅ~』と腹の虫がなく。どんなに危機的だろうと、どんなに不可思議な状況だろうと人は何か食わないとやっていけない。そうだ、取り敢えず助けてもらった彼等に俺としても礼をしないと。


「腹減ったか?」


「私はいくら丼の途中だった!今から食わねば!」


「それは好きにしろ。行き先は一旦保留にするとして取り敢えずコレでいいか。」


「ありがとう。いや、かなりこの言葉を言うのが遅れた。危機的な状況から助けてくれてこんなによくしてくれて本当にありがとう。少ないけどコレを・・・。」


 どこから出したか分からないけど、ジョーンズが俺にくれたのはホカホカ湯気が立ち上る丼ぶり。礼をしようと腰のポーチから取り出したのは宝石で、多分ダイヤの原石だろう物は50カラットは超えていると思う。どれほどの価値になるかは正直分からないけど、そんなに安くは・・・。


「うん?コレか・・・。榊、これマジで出してる?」


 リリがひょいと差し出した宝石をつまみ上げてまじまじと見る。何の石かは鑑定でもしないと分からないと思うけど、少なくとも水晶ではないと思う。ただ、原石なのでカットもされていないし、仮にここが未来なら天然資源そのものが少ない可能性もあるしダイヤを見た事ないとか?


「多分ダイヤだと思うけど、この大きさならかなりの値段になるだろ?」


「いや、ね。私ってば鍛冶師の上位でダイヤって分かるんだけどさ、コレ価値を言うとゼロよ?不純物は多いし天然モノを喜ぶのは物好きだけど、土星のベルトを採掘すれば出てくるしツアーで子供が砂遊びする感覚のモノだよ?ダイヤなら・・・。」


「・・・、え?」


「ホイ、コレね。今だとただの石なんだけど見た事ないとは言わないよね?そうなると本当に何者?」


 片手に持たれるのはどこまでも透明なキューブ。もしかしてダイヤ?いや、大きさといい重さといい片手で持てる物じゃ・・・。でも、宇宙船とか言ってたからここが宇宙だとすると無重力なら・・・いや、そもそも俺浮いてなくない?外の景色は宇宙と言われたら確かに宇宙だけど、俺浮いてなくない!?


「それも含めて一旦ギルドにアクセスするさ。礼は要らんからそれを食ってろ。後は頼んだぞリリ。」


「あ、あぁ・・・。」


 ジョーンズとミミが出ていきリリが残る。キューブはまた消えたが宝石が無価値?ポーチの中には金や他の宝石もそこそこの量が入っている。しかし、その宝石達の中から選んだ小粒とは言えダイヤモンドが無価値?いや、確かにあの大きなキューブが全てダイヤだとすると・・・、まて、アレを・・・、あの大きさのダイヤを誰でも持ってる・・・、のか?そもそもどこからあれを取り出した?俺の持つポーチと似た様な物がある?でも、どこかに手を入れている様には・・・。


 考えるのは取り敢えず丼ぶりの中身を食べてからにしよう。さっきからいい香りもするし、異世界の飯が不味かったから食事には飢えてる。何度ポテチやカレー、コーラを夢想して枕を濡らしたか・・・。ジャガイモでもあれば何か変わったかもしれないけど、似た見た目の物はあっても味は全然違う。そもそもあの異世界と言うか、異世界で日本人の味覚に合うものがある方が異常だろう。


「!?うっま!なにこれうっま!はぁ?何だよコレ!旨過ぎるだろ!」


「そりゃぁ馬丼だからね。私は見飽きたし食べ飽きたかなぁ〜・・・。」


「旨丼?たひかひ旨ひ!」


 ビビるぞ!飛ぶぞ!肉が旨い!この肉が食感もいいし香りもいい、食べる度に肉汁と旨味が溢れ後から後から米が進む!ズルいぞ推定未来人!こんな旨い物食った事ないぞ!それを食べ飽きたとか、ブルジョアか!ジョーンズもリリもミミもブルジョアか!そもそも宇宙船が本当だとするなら個人所有するなんてブルジョアだろ!金持ち喧嘩せずとか言うけど、金持ちだから優しくしてくれるのか?いや、金持ちでも助けてもらったお礼はしないといけないんだけどさ・・・。


「・・・、ねえ?榊の思う未来の食事ってどんなの?」


「うあ?未来の食事?それは・・・、もっとこう・・・、錠剤とかゼリー飲料的なのとか、シリアルバー的な物とか・・・。確か映画とかだと1つのプレートにドロドロの何かが数種類入ったやつとかも合った様な・・・。」


「何その映画。映画?それって体験するやつよね?」


「体験?映画は映画館とかDVDとかサブスクとか配信で見るだろ?」


「配信は知ってるんだ。」


「知ってるも何もかなりメジャーだろ?」


「いや・・・、今配信って言ったらクロエちゃんがやる奴だけかな?それこそ昔から・・・、約1000年前からの放送でデータ移行すると何かまずいらしくて、そのままずっと専用みたいに流してるけど・・・。」


「・・・、人気配信者とかは?」


「人気配信者・・・?あっ!それ歴史で習った!大昔の人が色々試行錯誤しながらゲートを攻略したりイメージを構築したりするテキスト映像でしょ!データの移行の変遷が多くてかなり失われたものもあるらしいし、サルベージ作業も大変らしいけど歴史的価値はあるから探す人は多いかな?今でも魔術師が電子の海を泳いで探してるし。」


「魔術師・・・。」


 魔術師ってなに?魔法あるの?何が出来るの?そりゃぁ俺だって・・・、俺だってね、カビと戦う中で火や水は操った。でもそれはあくまで杖を使って間接的に増幅したりするのがメインで何も無いところから現象を引き起こすなんて出来ないし、出来たとしても基点に用いる小さな物だけ。それだって杖無しで使えば割と疲れる。


 もしかして、元の所に返すといいつつ何処か別の世界に送られたとか?そもそも荒野から宇宙って時点で変遷甚だしいし、目の前の人も人間に見えるだけの別種族とか?本当はミミみたいに動物の耳と尻尾が生えてるのを隠してるとも・・・。でも地球って言葉は使ってるしな・・・。


「遅ればせながら聞くけど、貴方の職はなんですか?」


「職・・・、一応学生とか?無職と言われたらそれまでだけど義務教育中は身分的に学生で合ってると思う。」


「いや、学生とかはどうでもいいんだけど職よ職。待って・・・、榊って何歳?」


「多分15歳・・・、かな?」


 異世界で何年も過ごしたけど少なくとも今は15歳くらいだと思う。でもそうなると保護者とかはどうしよう?先ずは生きてるかどうかと言うか、スマホ使えない時点で違和感が・・・。流石にあの荒野ならエリア外と言う話もありそうだけど・・・。


「15歳・・・。えっと、同行者とかは?流石に48階層付近に1人では・・・、ギルティタウンの産まれの住人だとしても流石にギルドが警告しないわけはないし・・・。」


 リリがブツブツ考え込むけど罪の町?物騒な名前だけどそんな街があるのか?そんな名前を付けられたら住人はさぞ迷惑だろう。そう思いながらスマホを取り出して覗き込むけど相変わらず圏外。操作してもほとんどのアプリは使えないから無用の長物と言いたいけど・・・。


「懐かしい・・・。」


「ん?何その板。」


「スマホだよな知らない?電話とかインターネットとか出来るやつ。」


「あー、ガジェット端末?見た事ない型だけど使えるの?」


「いや、写真しかし見れない。」


「ふ〜ん・・・、かなり不便そうだね。手に持って使うとか戦闘中扱えないでしょう?必要なら私の使う?」


「借りていいものなのか?」


「初期化してるから別にいいよ。この前最新型買っちゃったからいるならあげる。はい。」


 相変わらず手品の様に手元に何かが出てくる。ガジェット端末って多分何らかの通信機器だよな?渡されたのは10円玉くらいのプレート。えっ・・・、使うってどうするのコレ?見つめているとリリは残念なモノを見る様に使い方を教えてくれる。コレは皮膚に吸い付くらしく好きな所に貼るかコンタクトの様目に入れればいいらしい。流石にデカすぎると思ったが、目に入れると思って近づければ透明になり瞳に貼り付く。


「うわ・・・、コレって・・・どう検索とかすれば・・・。」


「先に言うけど、生体認証と虹彩認証されたから初期化しない限りコレでのアクセスログは持ち主である榊が全ての責を追う。普通にしてれば特に問題ないと思うけど、変な事はしない様に。あっ、変な事って言うのは犯罪ね?風俗とかの体験は好きにして。取り敢えず考えればその通り動いてくれるから。今はフルダイブしてないからいいけど、フルダイブする時は先に注意を読んでよね?」


「あ、あぁ・・・。」


 片方の目を通して見えるのはどこまでも枝分かれしながら続いてゆく道。そこに多数の店や上に浮かぶ検索バーがあり、そこにないはずの光景を脳がリアルと錯覚する。試しにスマホと入力したら検索結果は出たもののかなり昔に製造は中止されていた。なら、地球と入力するとライブ映像に切り替わり見たい地点を思い浮かべると・・・、俺の家はなくなっていた。


 むしろ多くの木々や植物が建物を侵食する様に生え、人や動物の耳の生えた人・・・、格好も様々でジョーンズの様にサイバースーツを着た人もいれば、リリの様にTシャツの人もいるしとんがり帽子で箒に跨り空を飛ぶ人もいれば、忍者の様に建物を走りながら飛び移る人も・・・。顔は処理されているのかぼやけて分からない。


 しかし、はっきりと映る人はいる。不思議に思っていると自立型ロホだと頭にデータが入ってくる。えっと・・・、地球は退化したのか?日本の首都東京、住んでいたのは都心部じゃなかったにしてもこんなに緑はなかった。西暦や過去を検索していくけど何がどうしてこうなった?探すキーワードはなんだ?漠然と考えても結果は出ないのか特に反応しない。


「おい喜べ榊。お前さんついてるかも知れんぞ?」


「うわぁぁぁ!」


「リリ、なんだコイツ?俺の事見て驚きやがったからスキンヘッドにしてから宇宙に放り出していいよな?」


「インターネットは知ってたみたいだけど、バーチャルネットが初めでだからだったんじゃない?」


「はぁ?田舎者通り越して化石だろそんなの。えっ、スキャンしたけどコイツゴーレム系?それとも人形系?先生から聞いたことあっけど昔死にたくない奴はフリーズドライ処理で寝た奴もいたって言うけどそれ?」


「流石にスキャンで人判定なら人でしょ?それよりも何か分かったの?」


「いい知らせと悪い知らせがあってだな。悪い知らせは引退期だからグラマスはいない。代わりにフェムがギルドマスター補佐してるけど、フェムもいい性格してるから多分居場所は教えてくんねぇ。」


「クロエちゃんは捕まらずか・・・、いい知らせって?」


「先生がクロエちゃんに会ったってよ。ちょうど交渉季で地球にいるらしい。昔海で出会ってから交渉季には行くようにしてて出会ったんだとよ。上手くすれば地球のギルド本部で会えるかもしれん。」


「地球・・・、あんなに荒廃してるのに大丈夫なのか?」


「荒廃?あぁ、緑化プロジェクトか?ありゃただ草木が生えてるだけだ。普通に人は住んでる。まぁ、役人やらギルド職員が多いけどな。悪いが既に地球に向かってる。ギルド職員に情報提供を求められて榊の事はある程度話したが、直接来て欲しいそうだからな。」


「地球かぁ〜、最寄りのギルドじゃダメだったの?或いはセーフスペース内でもいいんだけど。」


「スキャンデータも送ったら現地に来てほしいだとよ。まぁ、送料って言うか送り賃として宿や報酬もいい額提示されたし、先生にも久々に会えるしいいだろ?」


「林君か・・・、確か最後に直接会ったのは船買った時だっけ?」


「そう、確か100年くらい前か?」


 ぽんと出る年月にめまいを覚える。100年来の友人となれば親友の域を超えているのでは?ただ、その数字をイマイチ信じる事が出来ない。そもそも人って90くらいで死ぬはずなのだ。それを飛び越えた数字を出されても俄に信じられない。そうか、違和感の正体はコレでもあるのか。本来死ぬはずの時を超えて話すと言う違和感。いや、そもそも寿命どうなってるの?


「今どんな姿してるのかなぁ〜?前はそこそこ若かったでしょう?」


「メタバースロビーで話す時は20代くらいだが、外見は60代くらいらしい。サーフィンとか言うのにもハマってるらしいぞ?」


「ふ〜ん、私はベタベタするのが苦手だから地球は苦手なのよね〜。一応完全空調システムとかもあるけど、コロニーとゲートと宇宙にいるだけだと海水とかはねぇ・・・。まぁ、天然地球産は美味しいらしいしご飯に期待かな?」


「お供するよリリ〜、ミミにもご馳走を!」


「するのはいいけど仕事として大気圏内の安全運転ね。」


「システムオールグリーン!変な音は聞こえないよ!」


「ならちったぁゆっくりするか。どれくらいで着く?」


「通常運行なら約1年半、マイクロゲートドライブ使うなら2日、時差が出る超光速ドライブなら私達は半日。ただ、超光速ドライブだとモロに時差食らうから船外時間だと1年半くらいは進むかな?」


「超光速ドライブはやめとけ外とのズレが激しすぎてあんなもん誰も使いたがらん。マイクロゲートで頼む。」


「マイクロゲート?」


「ブラックホールエンジン理論から産まれた移動手段だよ。普通加速して光速に近づけば近づくほど外の時間は遅くなるけど、マイクロゲートは加速するんじゃなくて突っ切るの。初めてそれを体験した人はクロエちゃん達だけど配信アーカイブ見ると体験した事もよく分かってなかったみたいなんだよね〜。本当はゲート内セーフスペース移動が楽なんだけど、ゲートは入ったら入った所にしか出れないからな仕方ない。」


「なら何で超光速ドライブなんてものがあるんだ?」


「単純に人の活動範囲外に行く時用だ。宇宙には目印も座標もない所なんてゴロゴロしてる。開拓に乗り出す奴等は家族単位でコロニーに乗り込んで目印としてそこに住み、マイクロゲートの経由地となる。考えてみろ、火星やら冥王星が目印になるなんて思ったら大間違いだ。あれは動いてるからな。」


 さも当然の様にミミが語りジョーンズが話すけど。はっきり言って頭が追いつかない・・・。ミミが俺の事をバカと言ったけど、多分俺は本当にバカなんだろう。人と話している内容が理解出来ないし・・・。と、言うかこの人達が超絶頭がいいわけじゃないよな?


「取り敢えず今日はなんか疲れたし寝ようか。ダーリン約束忘れないでよ?」


「おう、ミミはどうする?」


「イクラ丼のお礼に参加するよ〜。あれは中々美味な一品でした。どこの水産コロニーの奴?」


「確か前に月周辺を回った時だったか?ほら、リゾートコロニーで遊びたいとか言って。」


「おお!確か5年くらい前の時の!地球行くなら帰り寄ろう!寄ってくれるなら色々サービスしてしんぜよう。」


 リリはロリでミミはグラマラス。そして両手に華のハゲ。いや、そもそも未来の倫理観って・・・。よ、よく考えろ俺!さっき自分はバカだと自覚した。なら、未来って合法的に一夫多妻が許される?実際ジョーンズがそうみたいだし・・・。


「OK、一応行くつもりだが榊の件次第だな。榊、取り敢えず飯はあっちの部屋にあるから好きに食ってくれ。」


「その・・・、俺が悪人だとは思わないのか?」


「お前が悪人だとして何が出来る?マイホームを爆破されれば流石にキレるが、爆破された所で俺たちゃどうにか対処出来る。まずい状況になるのはお前で、そのお前は逃げ場がない上に俺達に勝てない。」


「やけに自信満々に勝てないって言うな。」


「だってお前指輪持ってねぇーじゃん。ミミが見ても危ない物は持ってないし、あの杖と剣も触った感じ低級魔法杖と武器でもない剣だ。そんなもんでどうやって悪さする?」


「俺の負けだ、何も出来ない。寝室は覗かないと誓おう。」


「そうしろ。未成年のガキには刺激が強すぎる。」


 手をひらひらさせながらリリとミミを連れてジョーンズが部屋を出る。何も出来ない・・・、か。確かに俺はあの異世界で成し遂げた。でも、帰って来た俺は化け物を目の前に何も出来なかった。なら、その化け物を狩るジョーンズ達に勝てるとは思わない。しかし、爆破しても対処できるって何だよ・・・。到頭人は自在に宇宙遊泳出来る様になったのか?貰ったエナドリをゴクリと飲むと、疲れが吹っ飛びまた驚く。何で出来てるかは知らないが、ネットをするくらいには元気になった。


  挿絵(By みてみん)


 その後ネットを通じて自身がいない間の事を軽く調べる。かなり時間はかかったし、頻繁に出るクロエなる人物は『引退期の為、画像はOFFです』と姿を見る事は叶わない。まぁ、その人は後回しでいい。分岐点は2023年。つまり俺が異世界に行った後に事は起こった様でそこから格段に技術発展している。しかし、調べるにしても分からない事の連続で俺は何時しか眠りに付いた。


 コンコン・・・


「・・・、うん・・・。」


 コンコン・・・


「うん?うん!?!?!?」


『なにビビってる?買ったばかりなロボテックスーツのお披露目だぞ?』


「あっ、榊起きた?ダーリンったら朝からはしゃいじってもう。可愛い!」


 時間の感覚はないけど、一つだけ分かる事がある。ここは宇宙だと言った張本人が船の外からノックして覗き込んでたらビビるだろ!?しかも顔はフルフェイスで見えないし、俺の思ってるダボッとして宇宙服じゃなくてスタイリッシュな戦闘ロボみたいな奴とかさ!アレか!ガンダムとかか!


「昨晩はお楽しみでしたか?」


「2晩ともよ?夫婦は仲良くあるべき。特に専業スィーパーが結婚するならいつでもどこでもイチャイチャしとかないと損じゃない。じゃないと死んだ時にお互い心残りが出てくるし。」


「死んだってそんな・・・。」


「私は4回死別してるわよ?ジョーンズは2回だったかしら?ゲートを旅してたら仕方ないし、少なくとも榊は恵まれてるわね。貴方がどうして職に就いてないかは多分年齢のせいだと思うけど、それでも未成年を連れてあんな所に行けるはずがないの。原則として、外からゲートに入るならパーティーの一番下の人の階層からになる。初めて入った人は1階層スタート。そして、ギルティタウン出身者はそのセーフスペースから出ようとしない。


 外に出るならギルド職員にお願いするのが常だけど、今度は出たら自身の故郷が奥ならそこまで階層を自力で降りないといけないし、同行者無しで退出しようとすればランダムにどこかのゲート付近に飛ばされる。だから、よほどの事がない限り単身で職なしであんな所に貴方がいるわけないのよ。分かる?貴方は何者?」


「俺は・・・。」


「もうすぐ重力圏に入るよ〜。」


「俺はって言うかジョーンズは!外だろ!」


「船の上に乗って大気圏内に入るんだって。あの人高い所好きなのよね〜。だからあんなにはしゃいじゃってたんだけどね。」


「高い所ってレベルじゃねーぞ!」

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