528話 採用通知 挿絵あり
赤峰さんとこで赤ちゃん成分を補充し、仕事に勤しみ早10月後半。帰る時は中々赤ちゃんが離してくれなくて大変だった。俺も名残惜しかったが、赤ちゃんが髪を握って離さなかったり、ベッドに寝かせようとすると背中センサーが反応してグズる等々。まぁ、ずっといるわけにもいかないし、切のいい所で裕子に上手く抱っこしてもらい帰る事が出来た。
そんな赤ん坊とのお別れ後は日を置いて増田とテレビ会議を行い、映像を配信に載せるかの検討会。個人的にも思う所がないわけではないが、それと同時に中層の過酷さを伝えるにはいい材料だろう。当初は先に国家間で視聴してからなんて言う意見もあったのだが、それは却下となった。
理由としては行くのは人であって国ではないから。ゲート内は既に国としての枠組みはなく、ついでに言えば肌の色や人種によっての差別はない。寧ろ、誰々が嫌いとか言い出すと助力を受けるにしてもするにしてもかなり面倒な事になる。なので、個人単位での好き嫌いは別としてスィーパーと言う単位では仲良くやっている。
そんなスィーパー達が進む先を知らないと言うのはかなり問題が出るし、雄二のカメラに収められた巻き戻りの映像はかなり小さく、負傷しているのは分かるもののそれを気にせず動き回る俺の姿や俺視点での映像が収められているので、まずい部分のみトリミングして配信に載せられた。
見る人によっては作画ミスのアニメの様に思うかもしれない。特に近くで映されたものは洞窟内で髪が千切れたが、その後一瞬も間を置かずに元の長さに戻った奴とか。まぁ、髪なんた1日で数ミリ、職を使えば自由なので巻き戻りの証拠としては弱いかもしれないが、他の映像も検証すればすぐに分かるだろう。
そんな配信動画が話題を呼ぶ中でも人類は忙しなく石にした星、冥王星を再度冥王星人がいたら困るからと冥王星として名前を復活させたり、宇宙エレベータープロジェクトの離発着基地として種子島の発射台が大幅改修に動き出したり、職に就く獣人が少し増えたりとしている。
国際会議でフィンとフェリエットがお披露目され、その能力の中の指輪の中身が視えると言う部分を殊更先進国は気にしていた。まぁ、発展途上国が遅れていると言う訳では無いがベースとなる教育水準の問題なのか、それとも国民全体の教育水準の問題なのか職に就いた獣人3号は米国に誕生し、時を置かずしてロシアにも誕生した。
米国はいいとしてロシアと中国の関係は、この職に就いた獣人の誕生によりかなり冷え込んでいるという。元々ソフィアの件で配信動画を載せた時に『中国軍』と言う言葉を出したがロシアと言う言葉は一言も載せていない。そして、ロシアと中国が何をやっていたかと言う事もあの場にいた当事者ぐらいしか知らない。
なのでロシアが中国切りに乗り出している様だ。まぁ、中国としての夢である不老と不死の薬も交渉の場には載せられたし、ロシアとしても中国とは無関係を世間に広め他の国と仲良くしたいのだろう。実際シェンゲン協定の話は様々な国家間で話し合われていてイギリスとフランスは協定をまとめるとしているし、それだけではなくEU全体としてもパスポートを廃止する動きのようだ。
実際地続きの所はそうでもしないと管理が間に合わない所もあり現場としては助かった半面、身分証明としても注目されているのがドッグ・タグ。早い話がどこの国のスィーパーなのかを明確にして司法取引が必要なら行うし、そうでないならその国基準のスィーパーに対する法律で裁く必要があるから。
スィーパーの犯罪者を捕らえるのもスィーパーなら、日本ベースでギルド構築を行うなら組織としては警察や政府とタッグを組む事になる。そして、ギルドのスタンスは犯罪者を許さない。つまり、スィーパーとしてライセンスを取得しドッグ・タッグを発行されたら最後、悪さをすれば警察とギルドに目を付けられる。
高跳びして他国に行こうにもゲートに入るならこの先ギルドに出向く必要があるし、言語の壁は基本的に日本語が話せるので気にならない。つまり気軽に全世界指名手配をかけられるし、どこかの国で捕まればそのままその国で裁けてしまう。
そしてこの話の肝は自国で如何に有力者であろうと、海外で一切知られていなければマフィアのボスだろうと悪徳木っ端議員だろうとほぼノーリスクで裁ける点。元々ICPOなんて言う国際警察組織があったが取り締まるには限界もあった。しかし、ギルドが世界各国に出来た事で犯罪も巧妙化する代わりに取り締まりの機会も増える。
外で逃げる限界を感じたならゲートの中に逃げるのだろうが、一生ゲート内で過ごす覚悟をするくらいなら罪を償って外に出た方がマシだろうし、何より指名手配がかかればゲートの中には入れず、そのギルドの職員が買収でもされていない限りチェック時にバレる。
つまりゲートから受けられる恩恵はほぼ受けられず、逃走資金もかなり切り詰めて動く必要があり且つ、逃走先で自前での資金調達もかなり厳しいと言う苦難の道のりを歩む事になる。犯罪者よ怯えて眠れ。まぁ、そこまでしなくても犯罪者自身が多数の警察を振り払って逃げるのにはなりの無理があるだろう。仮に目を欺けるとすればそれはもう中位やら、先にいるスパイとかじゃない?
まぁ、その中位も国としての発表はなくともギルドとしてのデータベースに名前が登録される予定ではある。予定ではあるがこの話はどこも乗り気ではない。と、言うのもどこでいつ誕生するか分からない中位の管理は難しく、更に言えば外見的な判断も出来ないので、中位本人が隠そうとすれば鑑定師に鑑定してもらうくらいしか分かる手立てはなく、その上で鑑定師が対人鑑定を苦手としていたら手の施しようがないから。
実際神志那は物品鑑定はかなり得意だが対人鑑定は苦手なままだし、あるデータは読み取れても本人が否定したり片方の職しかイメージしていない状態だと上手く読み取れない。元々鑑定師も物品使って戦う職なので人を駒の様に思っていなければ無理なのだろう。
「歯ブラシよし、着替えよし、カッパよし・・・。」
「肉が20kg、お弁当、お菓子、マタタビの種は持って行っていいのかなぁ〜?」
「種はやめとけ。それを口に入れると少し酔うだろ?」
「でもバスは暇だなぁ〜。ネズミの国はネズミ食べ放題なのかなぁ〜?不味いから要らんなぁ〜。」
「フェリエット、それは猫人ジョークです?荷物は指輪に一緒に入れてください。」
「スーパーツナを一袋貰ったから入れてやるなぁ〜。」
「写真お願いね?フェリエットは今食べてるけどいいの?」
「小腹飯だなぁ〜。」
10月予定の中学の修学旅行は東京、奈良、京都を回るそうだ。個人的には東京より北に行った事ないし、京都の竹林には憧れるのだが今だと外国人が押し寄せてゆっくりは見られないだろうし、行ったら行ったで人目がな・・・。フェリエットは国際会議で話した後一躍時の人となったが、学生として今も中学に通っている。
これについては紆余曲折あったものの獣人を学校に通わせる下地として、今時点での中退は今後にも影響を及ぼすと話がまとまったから。発生当初・・・、今も含めてだが個体成長薬で獣人となった個体は全員成人である。
しかし、新しい獣人ベイビーは未成年からスタートとなるので、ちゃんとした教育をどの国の獣人にも受ける権利があると表明する為だ。まぁ、表明しなくてもアプリで学習する獣人は多いし、雪国なんかは獣人を保護者代わりに子供達に付けて登校したり、そうでなくとも職に就いた獣人が必要だと感じている国は手厚く勉強させている。実際、学校に行っている獣人以外でも預けて遊ばせるよりは塾なんかに通わせると言う人もいるし、ゲートを旅するパートナーとして獣人を職に就かせたいと言う人もいる。
思惑はそれぞれにあるだろうが、獣人側としても事の良し悪しを人ベースで知れるいい機会だろう。国際会議後はフェリエットを一目見ようと学校やギルドに人が詰めかけたが、配信で教育の重要性に言及したので今の所大きな混乱もなく、あるとすれば塾経営者が頭を抱えるくらいとか?それでもフェリエットの学習はアプリベースで行ったので、教材と言う面では新開発する必要もない。
ただ開発者の神志那はアプリの問い合わせ対応で疲れて定吉君から介抱されていたが・・・、もうそのまま結婚しちゃえよ。定吉君の立ち位置としては神志那のパートナー件助手としてギルドでは認知されつつあるし、住まいを鑑定室としているし関係上ロビーで風呂上がりの神志那を待つ定吉君とかも見られる。
稼ぎは相当いい神志那だが賃貸借りると必ず遅刻すると駄々をこねるし、コチラとしても住み着いているので何かの際にはすぐにギルドの仕事関係で対応してもらえるから大助かりではある。あるのだが、手紙なんかの住所に大分ギルドを書かれると複雑でもあるんだよね・・・。
まぁ、生活力のある定吉君と稼ぎのある神志那ならどこへ行っても暮らしていけるのだろうが、定吉君は神志那に甘いからなぁ〜。まぁ、そんな神志那も定吉君を職に就けようと頑張っているのだが・・・。
「小腹も何も晩飯さっき食べただろ?」
「食べ物の誘惑には勝てないなぁ〜。」
「那由多お兄ちゃんはお土産何がいいです?木刀ですか?竹槍ですか?」
「フェリエットがいるからかさばらないにしてもそれ貰ってどうするんだよ・・・。無難に・・・、舞妓衣装のソフィアとフェリエットの写真とか?レンタル衣装代をお兄ちゃんが出してあげよう。」
「おぉ!お兄ちゃんは太っ腹です!お礼にセクシーな写真を送るです!」
「普通のでいい!」
ソフィアが息子に抱き着き胸をモニュモニュ変形させているが、とうの息子は一切身じろがせずに受け入れている。兄妹なので変な反応すればそれはそれで事なのだろうが、年頃と言う事を考えても息子の鋼メンタルは相当に鍛えられているのでは?
「那由多・・・、男としても大丈夫か?あまり自制すると羽目の外し方を分からなくなるぞ?」
「那由多は大丈夫よね〜、この前も千尋ちゃんと・・・。」
「母さんストップ!それ以上はいけない!」
「ふむ、大丈夫そうならそれ以上は突っ込まん。ソフィア、お父さんは八つ橋を所望する。フェリエットには風景写真だな。食べ物ばかり撮影するなよ?」
「はいです。」
「ぐじの泳いでる写真も風景写真だなぁ〜。」
「くじって泳ぐのかしら?」
「違うぞ莉菜。ぐじだ、一般的にはアカアマダイだったかな?京都の有名な魚だ。フェリエットは水中写真でも撮る気か?」
「なら、種子島で工事現場でも撮影してくるなぁ〜。」
タイムリーと言うかなんと言うか・・・、修学旅行のルートに種子島も含まれてるのか。いや、単純に鹿児島を通る?なんにせよ完成すれば世界的なニュースになるし修学の意味では未完成でもいい思い出にはなるだろう。完成後に訪れて『あの時は工事中だったよね〜』と、友達と話すのもいいだろうし、ソフィアとフェリエットは途中編入だったとしても結構学校には馴染めているようだしな。
友達の所に遊びに行くのも一緒な事が多いし、2人とも部活は結局入部しなかったものの色々な部活をかじっていると言うか、割と運動神経がいいので助っ人として試合には出ないものの数合わせとして呼ばれていたりする。まぁ、フェリエットは職に就いているので中学レベルの試合に出るとほぼぶっちぎりだし、相手になるのは16歳未満で職に就いた少数くらいしかいない。
その少数も試合や大会では公式記録に残せないので、16歳未満スィーパーは可哀想に思う。う〜ん、やはりR・U・Rでスポーツ大会とか開く?この前奏江と共にサーバーの保守点検をしたら割とリソースはあった。あったが同時に戦闘履歴も結構出てきた。
多分サイの言うシステムを組み込んだモノからだろうが、今の所危なげなく撃退している。って、あのリソースは国内ライフライン防衛アプリ用のやつか。処理速度的には問題ないだろうが流石にライフライン防衛よりも先にそちらに着手するわけにもいかないしな・・・。
藤もこちらを手伝えればもう少し早く構築出来そうではあるが、まだ杖の方にかかりきりだし、佐沼の方でも魔術師を募集して集まった人間をサーバー担当に割り振れるかは見極め中。松田からも数人オファーがあったからその人材も併せて教育し、人間的に問題がなければ奏江の所か俺の所で教育かな?
と、言っても俺としても奥に行かないといけないので、そこまで教育に割り振る時間はないから奏江メインの助言役程度か。出来れば年内に66階層にあるだろうセーフスペースにまではいきたい。前回の雄二達と潜った事を考えると不可能な数字ではないが、ゲートの捜索が面倒なんだよなぁ〜。いっその事先に青山鍛えるか?探索者ならゲートは見つけてくれそうだし、宮藤が恨み言言いつつ次は連れて行って欲しいと言っていた。
ついでに言えば監査に来た橘もフェムと旅したいと言っていたな。中層最初のセーフスペースまではそれぞれ安全マージンを考えつつ潜っているのだが、やはり猛攻に合うリスクを考えるとガンガン行こうぜ!とはならない。
「種子島ってやっぱり宇宙エレベーター出来るですか?お父さん。」
「その予定、喜べ那由多。お前の作った夏休みの工作が宇宙に行くかもしれんぞ?」
「夏休みの工作?そんな宿題なんて・・・、工作・・・、あのパーツ?」
「そう。ついでに言えば、来月頭に採用通知が行くはずだ。」
「それって!」
「おう。先に言うが私は何も部長には言ってない。採用に当たっての選考基準として部長が出したのは抜け駆けしてでもそれをやりたいと言う情熱。仕事として請け負った際に自身が全うするだけの根性。そして、チームとして活動出来るだけの対人能力。夏休みバイト組は全員採用で、夏休み明けからもバイトに来いって言われただろ?何事もなければそのままバイトから採用と言う運びになる様だ。」
高校の就活は7月から。そして、ギルドとしても職員採用の話は6月頃には各学校に出してある。そんな採用の話がある中で何を目指しどう動くか?大学生なら自分で全て決めたり教授に話しを聞いたりするだろう。高校生なら先生に話しを聞きに行くだろう。
しかし、今年初めてのギルド職員選考試験。俺は口出しせずに部長に選考をすべて任せた。そして、その中で藻掻いて動いた息子は他の人間同様、部長の目に叶い自力で合格した。それは誇っていいことだろう。




